異修羅 虚実侵界線
珪素
イベント:空を葬る恐想の眼
プロローグ
◆学校(白黒背景)
おそろしいものを見る。
二階の窓の外を、とても背の高い誰かが横切る。
道路の片隅では、何かの生き物の群れが団子のように絡まって死んでいる。
生け垣の向こうから、こちらをじっと見ている目がある。何個も。
夕方に校庭を見下ろすと、運動部の中には必ず全身が真っ赤な何かがいる。
夜が近づくと、いつも私だけが、おそろしいものを見ていた。
お母さんや同級生は、幽霊やお化けを本当のことのように言う人間は、きっと詐欺師か、おかしな人間なのだと言う。……私は笑って、そうだねと答える。
夜を怖がってはいけない。存在しないものを怖がってはいけない。もう子供ではないのだから。
けれど。あの日を境にして、私の世界は、おかしくなった。
私の世界も、私以外の人達も、化け物のようになってしまった。
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
何かが……とても大きな何かが、間違ってしまったのだ。正しい世界はもう永遠に戻ってこないのだろう。私はたった一人で、この狂った恐怖の中で死んでいく。
何もかもを恐れているのに、私は、心のどこかで思っている。
ああ、やっぱり――
◆廃墟・彼方
(射撃音・弓)
クウロ「
クウロ「手がかりになりそうなものも回収した。一旦この虚界から脱出する」
キュネー「その本が手がかりなの、クウロ?」
クウロ「ああ。それも、ただの本じゃない。文字が書かれた本だ」
キュネー「えっと、それって……文字を使う世界ってことだから……!」
クウロ「これだけでは確証とは言えないが……仮にそうだとしたら、俺達だけで深入りするのはまずい」
クウロ「それに、俺の天眼が……
クウロ「この虚界は"彼方"の分岐の可能性がある」
◆解析局・執務室
ロスクレイ「報告内容は以上の通りです。虚界規模は小規模と推定されるものの不可解な事象が多く、特にシェナ卿の解析を要請する、とのことです」
シェナ「状況はわかりました。急ぎ調査部隊を編成し、現地に向かうつもりですが……」
シェナ「クウロさんが現地で状況を見て不可解なんて表現を使うことがあるんでしょうか? 私とクウロさんが一つの虚界を同時に調査するなんて、はじめてかもしれません」
ロスクレイ「私も、こればかりは
シェナ「天眼。ただの全知の超感覚ではなく……そこから先の、未来の事象まで無意識に演算する才能ですよね」
シェナ「あのー……完全に私なんて必要ない能力な気も」
ロスクレイ「ふふ。しかしあなたを超えるクウロの天眼の予測が、あなたの力が必要だと指名しているわけですよね?」
シェナ「あっ、そうか。……あれ? じゃあクウロさんには見えないものが私には見えるってことまでクウロさんは見てて……???」
ロスクレイ「――信じるしかない、というのはそういうことです。常人の知覚からかけ離れすぎた、共感や理解が不可能な領域の話ですからね」
ロスクレイ「王国の古い言い回しですが……クウロの天眼や、あなたの算法のような才能は、魔眼、とも呼ばれています。通常の五感を凌駕した世界を認識する、再現不能の"魔なる眼"ということです」
シェナ「へえーっ……眼だけを指す言葉じゃないんですねえ」
ロスクレイ「戒心のクウロは現地で虚界の拡大状況を監視しています。調査部隊の編成が決まりましたら、私に直接で構いませんので報告してください。第六分岐の発生が確実視されている以上、あまり多くの戦力をそちらに割くことはできないかもしれませんが」
シェナ「そうですね。そもそもクウロさんとも合流できるわけですし……」
シェナ「でも"彼方"の分岐だって話が本当なら、比較的近代の“
ルメリー「待て待て待て! うおああああ!?」
シェナ「ルメリーさん!? どうしたんですか扉まで破壊して」
サイアノプ「ちょうど良いシェナ。そのままルメリーを捕まえていてくれ」
ロムゾ「ふむ。授業から逃げるのはいいがね、ルメリー。局長殿に迷惑をかけるのはよくない。見てみなさい。局長殿が椅子ごと倒れたままだ」
シェナ「あはは。大丈夫ですよこれくらい」
ロスクレイ「……」
サイアノプ「これは補習だな」
ルメリー「嫌だ! そうだシェナ、どこかに虚界でも発生してねーか!? その……今ならな、アタシが戦ってやる! こんないい話滅多にないぞ!」
シェナ「あるにはありますけど……」
ルメリー「ほらあるって! 解析局としてさあ! この世界のためにさあ!」
サイアノプ「そういう茶番はいい」
ロムゾ「まことにご迷惑をおかけしました」
ルメリー「や、やだーっ!」
シェナ「……あのー、実は本当にルノーグ鉄鋼都市近辺で虚界が発生していまして、これから調査部隊を編成する予定だったんです。戦力担当としてルメリーさんを起用してあげたいと思うんですけど……」
ロムゾ「ふうむ……命令には従いますが局長殿、子供のように甘やかしていては彼女のためにもなりませんよ。ルメリーが今何歳なのだと思いますか?」
シェナ「何歳なんですか?」
ルメリー「五さい……」
サイアノプ「愚劣が過ぎる」
シェナ「……あとは対多数戦闘、あと機動力を補う必要があるから……うん、決まりました。キヤズナおばあちゃんですね。扉も直してもらおうっと」
シェナ「それでは第二十九卿
ロスクレイ「……解析局の業務はいつもこうなのですか?」
シェナ「? はい、だいたいはこうです」
ロスクレイ「そうですか……」
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