第二十話 混沌
――*―*―*―《 智太郎目線 》―*―*―*――
俺は、当主の前にいる。
先程の事を説明する為に。
「なんだ、尾白」
千里は以外に思うかも知れない。翔星は妖の血を引く智太郎の事をあまり良く思ってはいないようだが、利益主義者なので実力で今の座を勝ち取った俺を守り人としては高く評価している。
「お休みになっている千里様の代理で参りました。ご友人からの頼みを叶えたい、と」
「先程の訪問者か」
「はい。どうやら、弐混神社にご友人の探し人がいる様子」
はぁ、と珍しく翔星はため息をつく。
「青ノ鬼、か。最近千里は厄介事に巻き込まれる」
青ノ鬼の一派とは、妖狩りの最中に1度戦闘になったことがある。
こちらの狩人が、青ノ鬼の縄張りに入ってしまったからだ。
その場で誤解を解き、和解はしたものの、それ以来あまり良いとは言えない関係が続いてる。
「私から弐混神社に、伺いは立てておく」
「…反対をなさると思っていました」
「千里も次期当主だ。いつまでも籠の鳥でいる訳にはいかないだろう」
何かしら親子関係に変化があったらしい。
「探し人の名は、なんと言うのだ」
「大西綾人、と言うそうです」
一瞬翔星の動きが止まる。
「成程な」
「…何かご存知ですか」
「いや、憶測でしかないが…。あちらに同じ名字の者が居たはずだ」
「血縁者がいる、と」
「おそらく」
ただ大西綾人を探して連れて帰ればいい、という問題では無くなってきたようだ。
「千里を必ず守れ。それが条件だ」
「分かりました」
大西綾人に会えば、この違和感の原因も分かるだろう。
俺は一礼して、襖を閉めた。
―*―*―*―《 智太郎目線 end 》―*―*―*―
ようやく頭痛もちゃんと収まり、起き上がると丁度智太郎が帰ってきた所だった。
「父様は、なんて言ってた?」
「弐混神社に話しを通しておいてくれるそうだ」
「良かった…」
父様の事だから、きっと反対すると思っていた。
反対されても、どちらにしろ何とかしようと足掻くとは思うけど。
「それと、弐混神社には大西綾人の血縁者がいる可能性があるそうだ」
「まさか、血縁者が綾人さんを連れ去った? 記憶も消して居なくなってしまったのかな 」
完璧に存在を消して、綾人を連れ去ろうとしたのは何故か。
真っ当な理由なら、こんな手段を使う必要はない。
「妙な点はまだある。何故あの二人だけ記憶を残したのか、だ」
他の人間の記憶は完璧に消したというのに。
「結局二人の共通点は綾人さんが居なくなる前に話していたこと、くらいだったよね」
「共通点は分からない。記憶を消したいが出来なかった可能性もある。記憶を消したいってことは些細でも害をもたらす行為の1つでもある」
「そう考えると、二人を連れていくのはちょっと怖いね。二人は待っててもらう?」
「いや、一緒に行った方がいい。記憶を消されなかったのは何らかの護りを持っているからだ。」
「…二人に変わった所があるようには見えなかったけど」
美峰も、翔も普通の人間だったと思う。
今まで妖に関わったこともないような。
翔はむしろ自分から関わろうとする危うさはあったけども。
「二人は何に護られているのかな」
「良いモノとは限らないだろうな。どちらにしても俺達に気配を悟らせないのは…厄介だと思うが利用できるならすべきだ」
「もしそうならば、二人はきっと自覚は無いんだよね」
「で、無いならばこちらを欺く為だ」
美峰か翔どちらかか、あるいはどちらも?
「そうは、思いたくはないけど。…綾人さんを攫った人が記憶を消したのは、やっぱり痕跡を消したいからなんだよね」
「痕跡を消したいのは大西綾人の行方を誰かに知られたくないかもな。あくまで可能性の話だが」
それがあの二人のどちらかならば私達は、青ノ鬼が望まない存在を内部に招き入れてしまう?
「私達がしている事が本当に正しいのか…分からなくなってしまうね」
「もし、望まないのなら、弐混神社の方はこちらを断るだろう。どちらにしても明日には返事が来るはずだ。いずれにしても、関わる人間は用心すべきだ」
今はまだ漠然とした不安を抱えるしかない。
「そう言えば、話したい事があるんだろ」
智太郎に横目で視線を送られ、話を促される。
「過去夢を、視るようになったのは、やっぱり黒曜…鴉に会った時からだと思う」
黒曜の口付けを思い出し、俯き赤らんだ頬を隠す。
やはりあの口付けがきっかけ。
口付けは、間違いなく生力を渡す行為でもあるので、逆に力を与えられるのかもしれない。
「鴉が千里に過去を見せるのは、何が目的なのか知っているのか」
「何かを思い出して欲しい、みたい」
初代当主の過去夢の事は言えない。
桂花宮の秘密でもある。
「大西綾人の記憶が関係あるのか? 鴉にとってイレギュラーな出来事かもしれない」
「分からない、けど。最後に見たのは明らかに過去の綾人じゃなかった。こちらに気づいていた気がする」
「いずれにしても、弐混神社に行くことになれば、分かるだろう」
誰の目的が本当なのか、分からない。
弐混神社には、名前通り混沌の思惑が待ち受けているような気がしてならなかった。
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