魔界妻の独占

一陽吉

アイの巣

 ──また侵入者が来たようね。






「ここだな」


「一階建てだけど、森の中にしちゃけっこうでかいわね」


「そうでゲス」


「百年前に英雄が住んでた家、つうかこれ屋敷とかって言うんじゃねえの?」


「たしかにね。二人だけで住むには大きすぎると思うわ」


「魔竜を倒した英雄と、仲間だった女魔導士でゲスからね。お金はあったんでゲしょ」


「だろうな。そしてここに、その英雄が使っていた伝説級の武器や防具があるってわけだ」


「パートナーの魔法具もね」


「二人の間に子どもはいなかったでゲス。金銀財宝もあると思うでゲス」






 ──やはりそれが目当てか。


 リーダー格の男は二十歳ぐらいの剣士。

 装備は並で、まだまだ下位にある冒険者のようだ。


 女も二十歳ぐらい。

 魔導士だろうが、随分と露出の多い魔導服を着ている。


 もう一人の男は三十をこえた年だな。

 大きな背負い袋が背中にあるから、荷物持ちなのだろう。


 はっきりと行動に出たならば、いままでどおり、きっちりと対応する。






「じゃあゴンデ、その窓を破れよ」


「お……、俺がゲスか?」


「罠がないのは分かったんだ。さっさとやんな!」


「ゲス……」


「ようし。先に入れ」


「ゲ……」


「ああ?」


「ゲス」


「なんか……、普通だな」


「そうね。ただ、百年経っているはずなのにほこりもなくきれいなのは、ある意味、異常だけど」


「これも、呪いでゲスかね」


「呪いっていやあ、男は帰らず、女は廃人になるっていうやつだろう。たぶん、英雄を神聖化するための宣伝だと思うけど」


「一番可能性があるのは魔法ね。でも、その痕跡はなかった。そもそも魔法が仕掛けられてあるなら維持するための魔力が必要になる。百年も出し続けるなんて考えられないわ」


「でも、気にはしてるんでゲしょ?」


「火のない所に煙は立たないって言うしな」


「それにパートナーの魔導士は新魔法を開発していたとも聞く。わたしも知らない何かがあるのかも」


「まあ、ここまで来たら考えても仕方ねえ。いいもん見つけて、さっさと帰るのが一番だ」


「そうね」


「そうそう。使えそうな物があったらもらう。売れそうな物は売る。それでいいんでゲス」






 ──窓を壊して入ったわね。


 あなたたちは私たちの空間を乱した。


 一線を越えてしまった。


 なぜ、噂されているか、いま教えてあげる。






「この皿、金で模様が描かれてるでゲス」


「て、おい、ゴンデ。その手……」


「え?」


「消えてる」


「消え、で、でへへへへへへへ、ひゃ、ひゃー、ひゃ~~~~~!」


「……」


「……」


「ゴンデ……、消えた、けど……」


「気持ちよさそうに笑ってた……」


「あれ、痛くねえのかよ」


「指先からこぼれるようにして消えていった。崩壊魔法の一種だけど、快楽を感じてるなんて聞いたことがない」


「でも、なんで男は帰ってこなかったのか、分かったな。ああやってからだ」


「そのようね。そして、女が廃人っていうのはおそらく……」


「……」


「……」


「アンナ、脱出だ。物は取らず、この情報を売っ……」


「ジョー?」


「ひ、ひひひひひひい、ははははははは、はー、はははっ!」


「くっ」






 ──残りの仲間も駄目と見るや、迷わず窓から飛び出したわね。


 見事な判断だわ。


 だけど、逃がすつもりはないの。






「異空間!? へ、蛇の大群が、私の身体に……」






 ──気持ちいいでしょう?


 私、女が快楽でもだえるのを見るのが大好きなの。


 男はどうでもいいから殺すけど、まともにやったら血が飛んだりして部屋が汚れるし、悲鳴は私たちの家に似合わない。


 だから、現役の頃によくやった『崩壊』と『快楽』の混合魔法を使うの。


 魔法を受けて死にそうになっていながら、快感で笑ってる仲間に戸惑う敵の姿はいつ見ても面白いわね。


 またここへ侵入者が来るだろうけど、冒険時代からの思い出がつまった武器や道具を渡すつもりはないし、実体のない幽魔ゆうまとなった私を倒すことなんてできやしない。


 いつまでもこの家を守っていく。


 そう。


 二人の愛も思い出も永遠。


 それは死んで骨になっても変わらない。


 いまはもう私だけの英雄。


 ねえ、旦那様。

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