第16話 悲しき運命の一族とそれを背負うお嬢様

 俺達は、学校の教室へと戻っては来たものの、そこには誰もいなかった。

 周りも、一応見渡してみるもひとっこ一人居ない。


「どうなってるんだよ……」


 俺達は、そんな状況に動揺していたのだが、一人の女は違ったようだ、顔も青ざめていて頭を抱えていて、目も泳いでいて普通じゃなかった。

 その女は、メイドの主人の落田天音、どうやらメイドが何故ここに居ないのか、知っているみたいだ。


「何か、知ってるのか!?」


「知ってますよ……この、姿を現さない時は……大抵、相手に酷い目に合わせるときですから……」


 天音は、体を震わせながらそう語る。

 それ程、恐ろしいのかと考えてはいたが、思い当たるところが実はいっぱいあった。

 それは、天音が暴漢に襲われそうになったところで、犯人を半殺しにして手を血に染めていた光景だ。

 しかも、その間は全く姿が見えなくて、犯人は何も分からずにドンドンと傷が増えていき、数分後には顔はボコボコになっていて、滅茶苦茶はれていて体中がボロボロだった。

 あんなものをしょっちゅう見ていて、今正気を保てないのは当たり前か、それはそうとして何故にメイドが主人に逆らってこういうことをするのか分からない。


「天音……お嬢様……何故、私がこのような事をしているのか分かりますか?」


 メイドの声が、教室中に響いていたが姿は全く見えない、その為更に恐怖は倍増して、いつ天音に襲いかかるかわからない。


「何で……こんなことをするのよ! 九寺……」


 天音は、体を震わせながらも何とかメイドの九寺と対話を試みようとするが、明らかに相手にはその意思は伝わっていなかった。


「それは、あなたがご存じではないでしょうか?」


「……はぁ……はぁ」


 更に、天音はどうきが可笑しくなってきたようで、息が上がり冷や汗を大量に流し始める。


「まさか! 一族との、関係でこういうことをしてるの!?」



「分かってる、じゃないですか……」


 どうやら、落田と九寺の一族には何か恨みをもたれることがあるみたいで、それを感じるような口調だ。


「仕方ないですね……お教えしましょう……私の一族と、お嬢様の一族の因縁を」


 そう、九寺は淡々とした話し方をしながら、自分達の歴史を語る。


「私の一族……九寺家と、お嬢様の一族……落田家は、代々メイドと主人の関係が昔からありました……ですが、落田家は私達九寺家を奴隷のごどき扱いをし。プライベートは、全くなくとてもじゃないですが。人として、扱ってはくれませんでした」


 九寺の、その話しはこの現代ではあり得ないと思うくらい、悲惨で聞いてるだけで気分が悪くなり吐きそうになるくらい、最悪で鬱々としていた。


「それだけでは、ありません。時には、ムチで叩かれて罰を与えたりなどの。動物を調教するように、暴力を振るう場合もあります……私達一族は、落田家に服従するように。産まれた時から決まっていたのです……運命で」


「そうね……確かに、落田家は代々ろくでもない一族だったわ……」


 天音は、漸く正気を取り戻したが、その顔は何処か罪を背負っているような、そんなふうに見える。

 

「まあ、それだけではないですけど……」


「え? 他にも何か、あるの……」


 天音は、そのことで九寺が怒っていると思っていたようで、意外そうな顔をして首を傾げている。


「あなたの……お父さんは、色んな人に恨まれていたわ……それも、権利を独占するために。様々な人を裏切って、切り捨てあたかも自分が作った製品のように誤魔化した場合もあったかしら」


 その九寺の話からは、落田家の闇の部分が見えてきた、しかも天音のおやじは自分の利益の為に、平然と人を見捨てて酷いことをしてる、最低な人間だったようだ。


「それだけじゃない!! 私の父は、落田の父親に盾としてつかわれて! 恨みを持った人間に殺されたのよ!!」


 九寺の、大切な人を失った悲しさと、それをどうにか出来ない一族の運命の悔しさが、涙を流している顔から伝わってくる。

 彼女は、何一つ悪くないのにこんなことがあるのかと、思うとこちらも何も責めることは出来ない。


「私の……お父さんを返してよ!! 返しなさいよ!!」


 九寺がそう言った瞬間、姿を現して天音に剣で斬りかかるのだが、ブレイがいつの間にかそれを防いでいた。


「ブレイ!? 何で、九寺がそこから攻撃してくると。分かったの?」


「それは……ぐぐぐ……マーシャに、透明な物を見える魔法をかけてもらったからね。だけど、長時間この魔法は持続しない」


 ブレイは、どうやらマーシャの魔法で透明な物を見えるように、してもらっていたようだが、制限時間があるみたいで長くは続かない。

 どうにか、魔法が解けるまでに何とかしなければならないが、何も思い付かない。

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