第13話 二次元コンプレックスの俺と大事な親友ブレイ

 俺と、魔王と二人は着々とこの世を、支配する準備を整えていた。

 これで、もう嫌なリアルの世界に、居なくてすむと思うと楽になる。

 本当に、こんなどうしようもない現実が、終わりを告げるのか。

 どこか、寂しさもあるがそれよりも、苦痛のほうが強かったので、せいせいした。



 それから、空はより一層黒い雲に覆われていく、夜みたいに暗くなっていった、人々は闇のオーラに包まれて、意識がないのかノロノロとゾンビのように徘徊している。

 

「あはははは!! この世界から、我々の世界征服は始まるのだな」


「そうだ……それに、ろくでもない現実を見なくてすむんだよね」


「さよう……これで、この世界の勇者よ……貴様も、理想が叶うだろう」


 俺は、何か間違っていたように思えてはいたが、正直言ってもうどうでもよかった、だからそれを全力で無視する。

 その瞬間、教室のドアは開き、ブレイ達と現愛達が入ってきたのだが、息を切らしていて体がボロボロで、とてもじゃないが戦える状態じゃなかった。


「何を……しに来たんだよ」


「止めに……はぁ……はぁ……来たのよ!」


 現愛は、真剣な眼差しで俺を睨み、ブレイは剣を構っている。

 他の四人は、祈り始めて俺の魔の力を払おうと必死だ、それと共に力が抜けていきそうになる。


「やった! これで、平二を元に戻せる!」


「やめろぉぉぉぉ!!」


 俺が叫ぶと、四人はぶっ飛びしりもちをつく、魔の力がまた再び沸き上がり、黒いオーラがより増していく。


「これで、あはははは!! 嫌な、リアルは消えるんだ! これで……俺は、クソみたいな現実を見なくて……すむ」


 俺が、そう言うと現愛は歯を食い縛り、大きく口を開けて声を張り上げる。

 その顔は、血管が浮き出てはいたが、いつものようなただ単純に怒ってるわけではない、そのように俺には見えた。


「あんたは、本当にそれでいいの!! なにもかも、この現実で起きた思い出も。無くなっちゃうのよ!」


 俺は、正直言ってこの世界に未練など、みじんもないそれどころか清々しささえ感じる。

 だが、自分でも可笑しくらい何処か寂しさがめぐる、それも中二のあの時ように。


「うるせぇ! こんな残酷な世界、俺にはいらないんだよ! むしろ、いい気分なんだ! やっと、この最悪な現実が終わるんだ!」


 俺は、気分が高まっていた。

 やっと、この世界から解放されるのだと、嫌な過去を思い出すこともないのだと……。

 だけど、何故か涙が溢れてくる、嬉しいはずなのに悲しみが吹き出してきてしまう。


「あんた、泣いてるんじゃない……本当は、そんな事をしたくないじゃないの……」


「うるさい! 俺は、この世界を終わらすんだよ! リアルなんて、俺にはいらない!」


 その現愛の言葉に、俺は心が動かされそうになるが、所詮はリアル女が言ったことなので、結局すぐに元の状態に戻る。


「それに……お前に、俺の苦しみの何が分かるんだよ……誰からも、裏切られて一人も味方がいない。俺の気持ちがよ!!」


「……」


 現愛は、俺のその心の叫びに何も言えなくなったのか黙る、他の四人も悲しそうにしてはいたが、何も言えない。


「現愛! お前は……俺の、気持ちを最初裏切ったんだよ……なのに、今更好きとか振ったくせに、何を考えてるんだ! 俺は、あの時どんなに辛かったか……それに、他の連中もそうだ……ただ単に、助けて貰って惚れるとか……どんだけ、俺を都合のいい奴だと思ってんだ!! だから、こんな汚い連中しかいない世界、無くなってしまえばいいんだよ!」


 四人は、それを聞いて何も言い返すことは出来なかったのか、うつ向いて暗い表情で涙を流してすすり泣く。

 だが、現愛は諦めずに俺に問いかける。


「……うぅ……あんたは、それでいいの……本当に! それでいいの!!」


「だから! それでいいって、言ってるだろ!」


「たとえ、ブレイ達が不幸になっても!」


「……!!!」


 俺は、大事なことを忘れていた。

 ブレイ達は、俺を何時だって励ましてくれたじゃないか、それに一緒に戦ってくれていた。

 自分も、ずっと辛いのにだ。

 親など誰一人守ってくれる人がいない孤児だったブレイ、ずっと戦場で戦ってきた過去を持つマージン、そして親から魔力が高すぎると言った理由で愛情をもらえなかったマーシャ。

 彼らは、俺よりずっと不幸な人生だ、それを俺は知っている。

 ブレイ達は嫌なことがあっても諦めずに、現実に立ち向かってきたことを。

 俺は、ブレイ達のそんな姿を見て、勇気を貰ってここまでやってこれた、だけど……。


「だけど……俺が、魔王を倒すと……ブレイ達は、この世界から居なくなってしまう……うぅ……そんなの……嫌なんだよ……」


「平二……」


 ブレイは、魔王から聞いた俺の話を聞き、悲しそうにしていた。


「平二! 僕は、絶対にまた君のところに来ると約束する! だから、一緒に魔王を倒そう!」


「絶対だぞ! じゃなきゃ……俺は……うぅ……寂しくて悲しくてたまらなくなる」


「ああ! 絶対に、君を悲しませやしない!」


 俺が、そうブレイと会う約束をすると、体の周りのオーラは黄色に光輝く。


「なんだこれ!? また、闇に染まったのか俺は?」


「違うよ……君は、勇者の力が全部解放されたんだ!」


「ばかな! こんなことが起きるとは!」


 俺は、今まで勇者の力を全部引き出しきれてはいなかったらしい、それにこのイベントはゲームでもあったことを思い出した。  

 確か、本当の勇気の心が持ったものが、出せる力。


「「魔王! ダグネス・ローダス! お前の野望ここで、終わらせてもらう!!」」


「あはははは!! 何を言ってるのかと、思えば……それに、貴様ら勇者の相手をするのは我ではない! こやつだ!!」


 魔王は、そう言うと難波を出して、自分は姿をまたくらます。

 魔王の、声だけは辺りに響くが、その姿は全くない。


「そやつを、倒してあのメイドとやらを倒してみろ……そしたら、我は貴様らと戦ってやるわ」


 俺と、ブレイは難波の方に剣を構える。

 何故か、俺はブレイと一緒に戦っているこの瞬間が、滅茶苦茶楽しくなっていた。

 俺達、オタクにとっては、主人公と戦うというのは夢だからな。

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