第9話 鬼の教師の過去とオタクの嫌な日々
尾張の迫力と、闇の力に押し潰されそうになっている俺は、その重力に負けそうになり、立っているのがやっとだ。
「平二! 大丈夫?」
「ああ……なんとかな」
ブレイは、そう言いながら平気そうに立ってはいたものの、本心は大丈夫には思えない。
何とか、前を見てみると黒いオーラから、既に魔物が誕生していた。
魔物は、高圧的なおぞましい姿をしており、この重みを発生しているんじゃないかと思える。
「グハハハ……無駄だ、人間。この女の心は、既にお前ら生徒とやらの。恨みで、闇に染まっている!」
そうだ、俺とブレイには尾張の心を開くことはできない、それどころかまた彼女の闇を増幅してしまう。
そう、もうダメかと思った瞬間。
「諦めるな! 何か、出来ることがあるはずだ!」
ブレイは、そんな俺を励ましてくれた。
だが、もうやれることは思い付かない。
「そんなこと言ったって……どうすればいいんだよ!」
「そうだね……だったら、君が今までやってきたように。何があったのか聞こうじゃないか」
俺は、とりあえずブレイの提案にのって、尾張が何故生徒に厳しくしてるのか聞くことにした。
「尾張先生! 何故、俺に厳しくしてきたんですか!? その先生と何があったんですか!」
尾張は、俺の真っ直ぐな姿勢に押されたのか、自分の過去を話し始める。
「そうね……私は、新人の頃とある問題児の生徒の面倒を見ることになったのよ……それで、先輩の鑑先生に相談していたの……」
尾張は、暗い表情をしながら淡々と話をする。
とてもじゃないが、まともな精神状態ではない、それが目の下クマからうかがえる。
「それでね……先輩の先生は、私のクラスのもめ事に親身になってくれたわ……だけど、ある不良生徒が学校の運動場にいた。他校の生徒と喧嘩をし始めたの……それから、より激しくなって。遂には、武器までも使い始めたの……その鉄パイプで、殴りかかろうとした時……先輩の鑑先生は、体をはって防いだの。頭に当たってしまったけど……」
尾張は、どうやら最初は生徒と普通に心から向き合って、解決しようとした人物であったのだろう。
「それで、鑑先生は。頭に血を流しながら倒れたわ。私は、パニックになりながらも。何とか、助けようと色々やってみたわ……だけど、それもむなしく。先輩の先生は、救急車が着く前に……息を引き取ったの……うぅ……その、不良生徒のせいでね!!」
俺は、甘く見ていたのかもしれない。
どうやら、今までやってきたように、これは話し合って解決できるとは思えない。
「あなたたち生徒は、すぐにだらけて問題行動を起こす。だから、私がちゃんと教育してやらないといけないの!! 分かる!?」
「そんなの……分からない!」
俺は、つい否定したかった。
それは、別に自分がイライラしたとか、尾張の説教が腹立ったからとかではない。
鑑先生の、気持ちに気付けない尾張にだ!
「何で……尾張先生……あんたは、その人の気持ちを分かってやれないんだよ……」
「気持ち!? 気持ちって、何よ!」
「その先生は、必死に生徒の事を守りたかったんだよ……そして、尾張先生!! あんたのことも、助けたかったんだ……」
尾張は、手で頭を抱えながら下を向き、もがき苦しむ。
「そんなわけないわ……だって! だって! あんな、どうしようない生徒……」
「あんたも、気付いてんじゃないのか……たとえ、問題児だとしても。その先生にとっては、大切な生徒だったってことに……それに、あんたもその生徒を大切だったってことに」
尾張は、図星をつかれたのか驚いた表情でこちらをじっと見る。
「……うぅ……そうだわ……あの頃は、生徒と分かりあおうとしていた。今と違って」
尾張は、涙で顔をグシャグシャしながら過去の自分のことを語る。
それは、まさしく情熱にあふれていた、希望に満ちていた時代のことを。
「私は、新人の頃は生徒たちを信じていた。たとえ、その子達がどうしようない不良でも……だけど、あの出来事でそれも忘れていたのかもしれない……」
尾張は、新人の頃の自分と今を比べてふける。
それは、何処か大切な気持ちを無くしてしまい、懐かしい思い出が蘇る、そんな感じに。
「だけど……もう、やり直すのには遅いの……あなた達、高校生には分からないでしょうけど。この歳になると、やり直すことも出来ないの……たとえば、結婚とかもそう……私くらいの、アラサーになると大抵出来ないのよ……あはは……」
尾張の顔は、正気を失っていて目に光がなく、今までやってきたことが全て無意味だったのかと、そう感じてるようだ。
「尾張先生!! 俺は、正直その生徒が羨ましいと感じるよ! だって、俺はそこまで親身に自分の事を考えてくれる人は居なかったから」
「嘘よ……そんなの……」
「嘘じゃない! 確かに、空回りして鬼のようになっていたかもしれない……だけど、生徒の事を思っていたのは今も変わらないはずだ!」
尾張は、それでも俺の言葉を否定し続けている。
「そんなこと……あるはずない! 私は、あなたに酷いことをしたわ。それなのに、何でそんなことが言えるの!?」
「それは、この学校に不良がいないと言うことと。後、いじめとかも少ない。それに、先生はとても美しいじゃないか! 滅茶苦茶、男子生徒には評判いいですよ!」
俺は、内心に何を言ってるのか分からなかった。
でも、こうするしかほかない、それに嘘をついてるわけでもなく紛れもない事実だ。
「だったら、私は誰かと付き合えるの!? 今でも!」
「あー!! 付き合えるに決まってる! それに、俺ももう少し早く先生と出会ってれば。好きになっていたかもしれないし!」
尾張は、穏やかな表情へと変わり、それと同時に体の重みも抜けて、その間にブレイは魔物を斬っていた。
「おのれぇぇぇ!! 勇者ども!!」
そして、尾張の闇のオーラ的なものは消えて、幸せそうに微笑み、魔物は既に姿さえもなくなっていた。
だが、その明るい笑顔からはとてつもない嫌な予感がした。
「確か、さっき好きだと言ったな……嫁の貰い手なかったら、責任とるんだよな!? そういうことだよな?」
「いや……それは、もしもの話で……」
「うわぁぁ! 酷いわね~あんた」
突然、そう言いながら現愛と伊藤が現れた、本当に何処で嗅ぎ付けたんだよ。
「それに、大城先輩は私の物なので。先生は、手を出さないでください!」
「あら~私の大切な、後輩を独占しないでね! 天音ちゃん!」
そして、瀬里崎と天音も合流して、更にことはあらだてられる。
それから、難破も来て尾張に自分も叱ってもらいたいと言っていたのだか、無視されて適当にあしらわれる。
「それと、大城! あんたは、先生のパシりだから。先生を、からかった罰としてね!」
「先生! それは、酷いんじゃないですか!? 」
「当たり前だ! 大人を本気にさせたということは、それなりの覚悟あるってことなんだからな」
俺は、正直言って冗談じゃない、こんなリアルの女なんかのために、犠牲になってたまるかと思って逃げようとしたら、尾張に肩を掴まれ逃げられなくなっていた。
「逃がさんからな……それに、大人を本気にさせたんだ……これから、私好みの大人の男になるよう。みっちり、しごいてやるからな」
「ひぃぃ!」
俺は、助けを求めるが女どもは、そんな姿の俺に怒っていたのか全く助けてはくれなかった。
それに、ブレイ達も笑っていて、頑張れよとしか言ってはくれなかった。
本当に、リアルの女はもう懲り懲りだ、全く関わると毎回酷い目にしか合わない。
俺は、中学の時を思い出した。
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