第6話 母性のような先輩と俺は静かに暮らしたいオタク

 俺と、伊藤はあれからも天音の勉強を見ていた。

 相変わらず、成績はそんなに高くはなってはいなかったが、どうにか赤点を免れるまではけた。


「はあ~……伊藤先輩は、本当に厳しいですね。後、全然人の気持ちを分かってなくて良くないですよ~」


「何を言ってるんですか、天音さん! そもそも、あなたが物覚え悪かったり、全く人の話を聞いてないからでしょ! それと、教えたところ。また、間違ってましたよ!」


 天音は、机に顎をつけながら、そう言っている。

 それと対象に、仁王立ちをしながら指を差して、伊藤は天音に注意をしている。

 本当に、コイツら仲悪いな……。

 そう思いながら、教室の時計を見てみると、午後六時くらいになっていた。

 もう、こんなにも時間が過ぎていたのか、最近はそう感じる場合が多い、嫌なことをやるとやはり異様に疲れる。

 特に、リアル女の世話なんてやりたくない、俺はそんなことよりブレイ達と一緒にいたい。

 後、積みゲーも溜まってきてるし、こんなどうでもいいリアルイベントなんかに、費やす時間がもったいない。

 それに、俺は正直帰りたかった。

 だけど、自分からあんなことを言ってしまった為に、責任を取ってこの女の面倒を見るしかない。

 


 そして、最終下校時間ギリギリ30分前くらいなると、天音の前にれいの執事が現れて、そのまま一緒に帰っていた。

 伊藤は、話が終わってなかったためか、引き止めようと必死になるも、嫌ですよ~と下を出して挑発する天音、それを見て伊藤は眉間にシワを寄せながら、『あなたって人わぁぁ!』と叫ぶが全く通じていなかったため、不機嫌になりながらも俺と現愛と一緒に下校する。


「あと、気になったんですけど? 何で、現愛さんと一緒に大城くんは帰ってるんですか? それに、私と帰るのですから。もう、現愛さんは一人で帰っていいですよ?」


「はあ~!? 何で、あんたにそんなことを決められなきゃ、いけないわけ? それに、たまたまいつも平二とは一緒なだけだし! 委員長だからって、人の行動までも決められると思ってんの!?」


 どうやら、伊藤と現愛はあれからも、仲は良くないようで会えばこの通り、口喧嘩ばかりしている。

 それに、お互いを睨み付けていて、一歩も引かないといった徹底ぷり。

 まさに、西の虎、東の龍と言うライバル関係らしい、非常に厄介な間柄。

 それからも、ずっと喧嘩は止まらずにしていて、何でここまでして仲が最近悪くなったのか……。


「何で、君らはこんなにも仲が悪いんだよ。

何が、原因でそんなに争ってんだ?」


 そう俺が言ったら、二人ともコンクリートの地面がずっと続く道で歩いてる足を止めて、思いっきり俺の方を睨み付ける。


「あんたが、原因だろうがぁぁ!!」


「あなたのせいですよ!!」


 俺は、その二人の気迫にビビって、思わず謝ってしまったのだが、どうやらそれでもまだ気が収まらなかったらしい。



 あれから、1ヶ月ぐらい経つが全然お互い一歩もひかずに、暴言を吐いている。

 それどころか、よりデッドヒートして悪化してるといった方が正しい。

 たとえ、授業中だろうがお互いを意識して、相手より上に思われたいのか、手を上げてひたすら先生の出された問題を解いた数で、競争をしている。

 本当に、迷惑きわまりない連中だと、俺はついため息をするが奴らはそんな俺を見て、各々で罵声を浴びせてくる。



 それから、放課後になっても天音の勉強を教えてるのが、どちらが上手いかで争っている始末。


「天音さん! 私が、クラスで一番頭がいいんですから、教えるのは上手いですよね?」


「はあ~!? あんたは、独りよがりの思いやりもない女なんだから、私の方が上手いに決まってるじゃない!! 当然、私の方を選ぶわ!」


 天音は、珍しく勉強を真面目にやっていて、すらすらと問題を解いている。

 だが、いよいよそのうるささに限界がきたのか、怒ってついデカイ声を出してしまう。


「いい加減にして!! はぁ……はぁ……何をしにきてるのか、分かってるの!? 私は、残って勉強をしてるんだよ! 邪魔をするなら、二人とも帰って!!」


 二人は、天音に鬼の形相で睨まれて、漸く冷静になったのか言い合いを止めた。

 そのまま、天音に押されて教室へと追い出された、だけどまた二人になると、すぐに喧嘩をしてる声が学校中に響き渡ったが。



 その後、何故か教室のドアが開いて、そこには3年の先輩である瀬里崎叶せりざわかねえがいた。

 更に、椅子に座ってそのまま天音をひざ枕してもらって寝ていた、頭をなでなれがら。


「よし、よ~し。天音ちゃん……いい子だね~」


 天音は、気持ち良さそうに目を閉じていて、ぐうぐうといびきもかく。

 俺は、明らかに子供扱いされてる天音を見て、つい一言こぼしてしまった。


「本当に、それでいいのか……お前、さっきまで邪魔されて怒ってたよな……」


 そんな、俺の愚痴は全く天音には届かない。

 それはそうだ、瀬里崎と言う女の母性には誰もが逆らえないからな。

 たとえ、どんなにヤバい男でもその包み込む心で、無力化してしまう。

 しかも、学校中の生徒や先生が瀬里崎の雰囲気にやられて、皆脱力的になったために、学校生活が成り立たなくなったと言う、伝説を持つ最強の女。

 本当に、末恐ろしいよ……。

 大人にでもなったらと思うと、どんな人物でもその母性で洗脳して言うことを聞かせられるそう感じたら。


「瀬里崎先輩……天音を、甘やかすの止めて貰えます?」


「あら~……ごめんなさい。つい、癖でやってしまうのよ~」


「と言うか、3年生なんだから。もう、あまり学校来なくていいのでは?」


 瀬里崎は、俺の発言に賑やかな笑顔で優しく叱るように返答した。


「そうことを、言っちゃだめよ~大城くん~」


「はあ……」


 瀬里崎は、俺を母性で包み込もうとするも、俺には全く効かなかった。

 大抵の男は、それをやれば癒されて彼女のペースに押されて、ろうらくして終わるだろうが。

 俺は、生粋の二次元オタク。

 しかも、二次元コンプレックスを患っているし、リアル女嫌い病までにもおかされた。

 そんな、俺には彼女の攻撃は効くはずがない。

 

「じゃあ~これで、どうだ!」


 俺は、いつの間にか体を後ろから抱かれて、ドキドキしていた。

 瀬里崎、好きでもない男にこんなことをするなよ、俺じゃなければ誤解しか生まんぞ。

 そう思ったが、瀬里崎は俺を落とそうと躍起になっていて、そんな俺の思いなど知ろうともしない。

 そうしていると、天音はその光景を見て必死に止めていた、しかもかなり怒っていた。


「瀬里崎先輩! 私の、大好きな人を取ろうとするのを止めてくださいよ!」


「ごめんなさい……私、つい熱くなってしまって。大城くんみたいな、私の雰囲気にやられない人がいると、燃えちゃうのよね~」


 その、癒し系の声からはとてもじゃないが、出ないであろう言葉がでて、天音は先程の落ち着いた姿とうってかわって、焦ってどぎまぎしていた。


「だから! 止めてくださいよ!」


「も~う、怒っちゃだめよ」


 自分の、ペースに引きずり込むのが上手い天音も、瀬里崎には勝てないのだなと実感する。

 


 この日は、瀬里崎の母性によって時間が遅く感じていたのか、いつの間にかにチャイムが鳴って、下校時刻となっていた。

 そのまま、天音と違う道をいくまでは一緒にいたが、別れたあとはずっと一人で歩く。

 別に、一人でも何一つ問題はなかったが、何だか違和感というか変に思えた。

 


 そして、翌日の放課後。

 天音は、今日は勉強をやる必要はなかったみたいで、現愛と伊藤と一緒に家へと帰っていた。

 俺も、帰ってゲームでもやろうかと教室のドアを開けたとき……そこには、瀬里崎が顔をうつ向けながら立っていた。

 何だか、容姿が可笑しいと思ったので、俺はとりあえず教室へと入れて、話を聞いてみる。


「どうしたんですか? 瀬里崎先輩?」


「大城くん……私……」


 とてもじゃないが、普段の瀬里崎と思えないぐらいの面持ち。

 また、俺は厄介なことに巻き込まれたなと、この時始めて気付くがもう遅いと思って諦める。


「誰からも、頼られなくなったの……」


「え?」


 俺が、思っていたより大したことなかった悩み、思わず声が出てしまう。

 何時ものように、面倒なことを押し付けられるとばかり……。


「そんなことですか? 瀬里崎先輩?」


「そんなことって何よ! 私は、誰かを助けてあげないと落ち着かないの」


 どんだけ、周りのイメージを押し付けられてるか、それがひしひしと感じ取れた。

 瀬里崎は、無理してもそうしないといけないのかと。


「どうやら、彼女も魔王の闇に染まってしまったようだね……」


 ブレイが、いつの間にか剣を構って、そこに立っていた。

 俺も続けて、剣をイメージしたら手のひらが光輝き、そこから剣が表れた。

 もう、俺はこの力を扱えるようになっていたみたいだ。

 剣を構えて、瀬里崎の方を見てみると、黒いオーラのような物から、魔物が生成されていたので、やるしかないと決心する。


「いくよ! 平二!!」


「ああ!!」


 俺は、しょうがないと内心思いながら、魔物の方へと突っ込んいく。

 正直、こんな出来事はもうこりごりだよ……。

 全くな……。

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