第3話 委員長の苦労と二次元男の思い

 俺は、どうにか伊藤の心の闇を聞き出すために、四苦八苦していた。

 だが、俺は正直言ってこんなリアル女なんかのために、苦労はしたくなかったが。

 だけど、仕方ないんだ……。

 ブレイが、困っていたら助けてあげたいのは、オタクの性だからね。


「ガハハハ! 無駄だ! 勇者どもよ!」


「それを決めるのは、魔王じゃない! 平二だ!!」


 そうだ、俺がブレイを助けなちゃいけない。

 そう、自分に言い聞かせて心を奮い立たせる。

 俺は、足でどうにか重い体を支えながら立つ。


「何……だと!?」


 魔王の、動揺した声は廊下中に響き渡る。

 だけど、俺達の現状は相変わらず悪いままだ。

 それを察したのか、魔物もどうやら余裕そうに腕を振り回している。


「魔王様! 安心してください! 我が、この勇者どもをぶち殺し! 悲願の、この世界を闇に染めて、征服してみせますぞ!」


 冗談じゃない!

 こんなとこで死んでたまるか!

 俺は、そう思いながら必死に伊藤に声をかける。

 だが、伊藤は顔をうつむいていて、返事がなくそれどころか、意識がなくもうろうとしていた状態。

 俺は、そのような伊藤に声をかけ続ける。


「委員長!! 本当に、それでいいのかよ!」


「いいわけ、ないじゃない!! だけど、私は皆に頼られる人で居続けなきゃいけないの!

あなたに、そんな気持ちが分かる!?」


 俺は、考えもしなかった。

 まさか、伊藤がそんなふうに皆に頼りにされてることに、苦痛を感じていたなんて。

 そして、こんなになるまで気付きもしなかったみたいだ。

 俺は、今まで二次元にしか興味なかったから、他人の事情など全く知らなかったようだ。


「分かるわけないだろ!! そんなの!」


「平二!?」 


「大城くん!?」


 俺は、思わず叫んでしまった。

 そんな俺に、ブレイは困惑し伊藤までもが唖然としていた。


「そんなもん、分かりたくもない! 俺だったら、もっと自由に生きたいから! 本当は、委員長もそうなんだろ!!」


「……うぅ……」


 俺の発言は、伊藤の心にぐさりと刺さったみたいで、泣き始めた。

 大量の、涙を流し顔をくしゃくしゃにしている。

 そして、明らかに何時もの伊藤とは思えないくらい情けないように思える。

 だが、今まででに一番人間らしい……そんなふうに俺には見えた。


「しょうば、ないばないの! 皆も、私を頼りにしてるし……うぅ……弱音を言えなかったのよ……うぅ……それに! お父さんには言ったのよ! だけど……お父さんはそんな私を許してはくれなかった……それどころか!

エリートの家に産まれたのだから、ちゃんとしろだの! 私が、弱いから悪いってだの言ったのよ……うぅ……」


 その叫びは、伊藤の本当の気持ちを言ってるように俺には聞こえた。

 まるで、今までギチギチに鍵をかけられたものが、解放される……そんな感じだった。

 だけど、伊藤は皆の期待と父親のエリート思考に、プレッシャーを感じて押し潰され、何かを自分で言うことが出来なくなっていたんだ。

 たとえ、自分の心が限界に達していて、こんなにも泣き崩れることになったとしても。


「私は……何のために、今までこんな事をしていたのかな……分からなくて……どうしようもなくて……悲しくて……うぅ……」

 

「何を言ってんだ! 委員長!」


 俺がそう言うと、伊藤はうつ向いていた顔を上げて、こちらを驚いた顔で見る。


「そんな連中のためなんかに。自分の時間を使う、必要なんてないじゃないか! 俺だったら! 自分が、楽しいと思える物に使うよ! だからさ! そんな、どうでもいい連中の意見なんて。無視して、自由に生きようよ!」


「うん!」


 伊藤は、そう返事をしながら立ち上がる。

 その姿を見て、魔物は驚きを隠せなかったようだ。


「バカな! この女は、今まで自分の状況に絶望して落胆していたんだぞ! それが、何故にこのような状態に……」


「はあ!! そんなもん、決まってるじゃないか! 本当に、好きなもののために生きようと思った! ただ、それだけだ!」


 それから、伊藤の体の周りにまとわりついていた、黒い闇のオーラが消えていく。

 魔物は、唖然としながら伊藤の周りを見渡す。

 無理もない、これで体を回復することが出来なくなるので、このまま剣で斬られれば、死んでしまうからな。



 ふと気付くと、ブレイは魔物の前におり、剣を構えて今にも斬りかかりそうだった。


「待て! な?」


「ごめんだけど、平二。この魔物は、許せないんだ! だから、僕が斬る!!」


 そう、ブレイが言うとおもいっきり剣を横に振って魔物を斬る。

 そして、魔物の体の真ん中だけが綺麗に切れる。


「ば……バカなあああぁぁ!!」


「君は、勘違いしていたようだ。平二は、何も出来ないとね!」


 ブレイが、そう言うと徐々に魔物の体が消えていき、最後に顔も灰になって完全に消えていた。

 俺は、その姿を見て感動していたが、伊藤はそんな俺を見てキラキラした視線を送っていた。

 どうやら、面倒ごとになりそうな予感がする……。


「大城くん! 私! あなたと、付き合いたい! それに、本当は恋愛マンガが好きなの。こんな、気持ちになったのなんて。始めて……」


「断る!!」


「え?」


 伊藤は、そんな俺への告白の返事に困惑していた。

 どうやら、断られると思っていなかったようだ。

 まあ、無理もない。

 クラスの中で、伊藤と付き合いたい奴なんて、腐るほどいるしな。


「だけど! 恋愛マンガの話なら、のってやっていいぞ!」


「うん! お願いね!」


 俺は、伊藤に右手の親指を立てて、笑いながらそう答えた。

 伊藤は、また涙を流しながら、笑顔で嬉しそうにしていた。



 それから、暫く経った頃に……現愛、難波、マージン、マーシャと、続けてやって来る。


「どういうことよ!? これ!」


 現愛は、伊藤の方を見るやいなや、俺に対して怒り始める。


「あんた! なんかやったの!!」


「違いますよ……」


 伊藤は、俺との今までの出来事を現愛に話始める。

 だが、現愛はそれを聞いて呆れて、思わず呟く。


「全く……はあ~あんたは、なんでそんなことになるのよ」


「しょうがないだろ……やらなきゃ、ブレイも俺もやられてたし」


 そう、現愛と言い合っていると、難波が話を割ってナンパをし始める。


「委員長~そんな、二次元にしか恋出来ないオタクより。俺と付き合おうよ~。それと、現愛も~俺と付き合おうよ~なっ!」


「絶対に、嫌ですよ! あなたみたいな、軽い人とは!」


「嫌よ! あんたなんか! それに……私は、次いでかぁ!! 後、何で二人ともと付き合えると、思ってるわけ! あんたは!!」


 難波は、そんな女達の返答に押されて、顔をひきついてしまいナンパ行為が出来なくなる。

 当たり前だ!

 これは、流石に難波を擁護できない。

 それに、誰でもそう言うだろう。

 それから、ブレイが倒れそうになるも、マージンの肩を借りて、何とか立っていた。

 そして、マーシャというもう一人の、魔法使いの女の子と共に何処かに行ってしまった。

 この日は、これ以降何も目立つことはなかったが。

 翌日、伊藤は父親を納得させて、昨日読んだ恋愛マンガの話を俺にする。

 まあ、別にそんなに俺は恋愛マンガが好きではないのだが、何だかとても喜んでいたので、仕方なく話を聞く。

 だけど、現愛はそんな俺を見て嬉しそうだったと、戯言を吐いてきた。

 だから!

 俺は、二次元の女の子以外好きになることはないと言っているのにな……。

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