終章

エピローグ

第39話 純愛ジェノサイド

 ――数ヶ月後。


 MASKの支配していた兜都は変わった。


 というよりかは、街全体が変わらざるを得なくなった……と言うべきだろう。

 MASKに連なる腐敗した官僚達が軒並みいなくなり、更に次期当主である白面孝太郎が〈悪魔〉の実験を継続しなくなったことにより、組織としての力は大きく瓦解した。

 孝太郎たちは〈プエル・エテルヌス〉の呪いによって、今回の騒動における一切の釈明が行えないまま全ての責任を取らされ、本家への信頼は大きく失墜した。

 兵器開発に執心していた白面本家と〈ゼルプスト〉の二大部門が崩壊したことで、後継者として頭角を現したのは月影陽子が率いる製薬部門だった。

 静流の従姉である月影陽子女史の方針で兵器開発は縮小し、MASKは医療メーカーとして舵を切り始めた。

 古き態勢は失われ、今では外部との交流が盛んな一都市として兜都は発展を迎え入れつつあるようだ。


 そんな、変わりゆく兜都での一コマ……


「水月く~ん! 昨日はありがと~! あたし最ッ高に楽しかったよぉ~」


「私も~! ダーツなんて初めて教わっちゃった。すごいムードのあるクラブだったし、絶対また行こうねっ!」


「あっ、今度はカラオケも忘れないでくださいね……? この間の水月くん、すごく綺麗な声してたから……また行きたいです……」


 その日の朝、登校した先でクラスの女の子達から思い思いに遊びに行った時の感想を言われ、俺は苦笑いを浮かべながら手を振る。

 昨日は一日中彼女達に振り回されっぱなしだった。できればきょうくらいはゆっくりしたい。


 そう思っていると急にピリピリした気配を感じ、俺は恐る恐る背後を振り返った。


「な~~、つ~~、や~~?」


「や、やあ。おはよう……シズ姉ぇ」


「おはよう、じゃないでしょッ 何あれ!? 何なのアレ!? あなた、私というものがありながら、いったいどれだけ女の子と遊んでんのよ!?」


 ムキーッと怒りを露わにするシズ姉ぇ。

 ……しかし不満を言いたいのは、むしろ俺の方である。


「誘いを断っていたツケが溜まってたんじゃないか……の、さ。むしろシズ姉ぇこそ、どうして“埋め合わせデートリスト”なんてもの作ってたんだよっ おかげで身に覚えのない約束に俺は振り回されっぱなしだぞ」


「しょ、しょうがないでしょ!? あの時は学校で円滑に活動するためには、好感度をいっぱい稼いでおいた方がいいと思ってたんだもん!」


 どうやら彼女は、俺の知らないところで当時いろいろと手を回していたらしい。


「……で、シズ姉ぇが俺の代わりにそのフラグを作りまくってくれたせいで、清算するハメになってるんだが……?」


「な、なら断りなさいよっ。私という恋人がもういるんだから!」


「約束を破る男は最低だ。……そう言ってたのは自分だろ? シズ姉ぇ」


「ぐぬぬ……」


 もちろん俺にだってその気はない。俺が好きなのはシズ姉ぇだけだからだ。

 かと言って、外部からの新しい風を受けて積極的に変わろうとしている彼女達を無碍にするのも、それはそれで忍びない。


「で!? 夏也クンはきょうのお昼、いったいどこのご婦人とご一緒するのかしらぁ? ま~た美亜子さんじゃないでしょうね? あの子、絶ッ対に夏也のこと狙ってるわよ!」


「えーと……きょうのお昼はだれとも約束がないな」


 水月夏也……かつてのシズ姉ぇの作っていた手帳をパラパラとめくりながらスケジュールを確認する。


「じゃあきょうこそ私とお昼つきあいなさいっ! いいわね!? 屋上に集合! 返事はハイかイエスでいいわ!」


「は、はい……っ」

 

 数時間後の昼休み。

 屋上へと向かいながら、俺はふと、あの消え去って行った〈悪魔〉のことを思い出していた。

 ゼノサイド。向こう側の住人。異世界の主。悪魔。


 こちら側の住人とは次元違いの力を持ちながら、情報にしか受肉できない虚実の魔物。

 いったい奴らが何者だったのか……本当に願いを叶えてくれる神のごとき存在であったのか、今となっては詳しく知る術もない。

 偽静流として今回の騒動を引き起こしながら、結局は自ら幕を下ろした人外の存在。ヤツの興味は、人間の言動そのものだったのだろうか……?


 いずれにせよ、ヤツの関与した歴史を改めて掘り返す気もないし、もはや俺にとってはどうでもいい相手だ。

 神や悪魔なんて呼ばれる連中なんて、結局はよく分からないのだろう。

 今はそんな不確かなものよりも、より確かなものを身近に感じたい。

 俺はそう考えながら、足早に階段を駆け抜けていった。


「遅いっ」


 既に屋上では、シズ姉ぇが待ちかまえていた。


「四時限目終了のチャイムが鳴って、ダッシュで来たんだけど」


「じゃあどうして私の方が先に付いてるのよ?」


「三年生は教室が三階だからだろ……」


 二年は二階なのだから、階段のせいでスピードが負けるのは当然だ。


「私は一分一秒も無駄にしたくないのっ クラスの子たちと違って、私は昼休みや放課後にしか会えないんだからっ」


 同時にそれは、学年の滞在期間も指している。

 彼女は偽静流……〈ゼノサイド〉の代わりに三年生の立場に急遽収まったのだから、残りの学生期間は一年にも満たない。


「あ~あっ、いっそのこと留年しちゃおうかしら」


「そうなったら、シズ姉ぇのことをあんまりお姉さん扱いしなくていいよね」


「じゃあダメ。あなたを尻に敷くのが私の生き甲斐なんだもの」


「……ひどいな。シズ姉ぇはいつからそんなSっ気に目覚めたんだ?」


「フフッ、知らなかったの夏也? 好きな男の子をいじめるのってね、とっても気持ちがいいんだから」


 愛らしく、だけど妖艶に笑う彼女の横顔を見て、俺は何とも恥ずかしい気持ちになる。


「そう言えば聞いた? 孝太郎のやつ、今度生徒会選挙で会長に立候補するみたいよ」


「へえ。ということは風紀委員は辞めるのか。……まあ、あいつほどの知名度があれば、組織票で当選は確実だろうけどな」


「さぁて、どうかしらね?」


 シズ姉ぇの意味深な笑みに、俺は首を傾げる。


「孝太郎が会長立候補で掲げたマニフェストってね、全校生徒の学費免除と、各部活の予算大幅増加なんですって」


「すごいな。MASKの嫡男だし、実際にやり遂げそうだ。当選確実なんじゃ……?」


「でも代わりに、学園内外での恋愛厳禁・性的な話題禁止・エッチな本もインターネットも全部規制するらしいわよ?」


「……なんだそれ」


「お金と権力はあっても、異性に反応できなくなった者のなれの果てって感じよねぇ。自分が全くときめきを忘れてしまったから、若い男女のロマンスが妬ましくてしょうがないんじゃないかしら」


「そんなんじゃ学生から総スカン喰らうんじゃないか? 学内での恋愛禁止だけじゃなく、外もだろ? しかもそういうのを所持したり閲覧することも禁止してるなんて……」


 カップルだけじゃなくて、独り身の人からもきらわれそうだな。

 おそらく孝太郎は十中八九、選挙を落ちるに違いない。


「もしラブコメ禁止条例なんか発令されちゃったらどうしようかしら?」


「……じゃあ、今のうちにもっとシズ姉ぇと仲良くなっておかないとな」


 そう言ってギュッと抱きしめると、シズ姉ぇも俺の背中に優しく両手を回してきてくれる。

 俺たちは互いのぬくもりを、そうやってひしひしと感じ取っていた。


「あのね、実は……きょう、お弁当つくってきたの。夏也に食べてもらいたくて」


「本当? 嬉しいよシズ姉ぇ!」


 屋上のベンチの上で、せっせとお弁当箱を用意するシズ姉ぇ。

 わきわきと楽しみに駆られる一方で、ふとポケットの携帯電話が鳴る。


「やれやれ……また孝太郎か」


 ピッ! とボタンを押し、通話する。


『おい夏也! キミってヤツは最近不純異性交遊をしまくってるらしいじゃないか! ええ 嘆かわしい……実に嘆かわしいよ。まさか学校の風紀を乱すヤツがこんなにも近くにいたなんてね!』


 ……また始まった。


 最近の孝太郎は、ことあるごとに話しかけてきては、この手の話題を繰り返す。

 俺がただクラスの女の子と話しているだけでも突っかかってくるので、こいつの風紀委員としての仕事は、今やえらく歪んでしまったようだ。


「不純異性交遊とは心外だな。俺はただ、放課後に食事につきあっているだけだぞ?」


『そ・れ・がッ! 不埒な行為だと言っているんだよ! 嫁入り前の娘と食事を共にして、何を想起しているんだいキミは!? 分かったぞ! さてはその乙女の口腔に劣情を抱いているんだろう! けしからん! 実にけしからん男だなキミは!!」


 だめだこりゃ。孝太郎のヤツ、完全に頭の回路がおかしくなってしまっている。


「どうしたの夏也? 早く一緒に食べよ?」


「いや、ごめんシズ姉ぇ。なんか孝太郎のヤツがさっきから風紀風紀ってうるさくてさ」


「孝太郎が? ふぅん? ……へえ」


『聞いているのかい夏也!? 話の途中だよ 上の空で返事なんかしてさァ! 失礼だと思わないの!? というかそこにだれかいるのかい? どうせまた女の子と食事を……』


「貸して」


 シズ姉ぇは俺から携帯電話を取り上げると、深呼吸しそして急に身体を身悶えし始める。


「あっ、あぁん! いやっ、夏也……そこはダメぇぇっ、恥ずかしっ、やん、あは~ん♪」


 突如発せられる喘ぎ声。孝太郎の絶叫が外にまで響いて聞こえてくる。


『ほぉわああああットッ!? おい、おいィィッ!? ちょ、ちょっと!! 何やって、何ヤッてんだよ夏也ァ!? だれ!? そこにいるのはだれの声だぁあぁあッ!!』


「あんっ! 夏也のおっきい……っ ダメェ、身体が熱くなっちゃうぅっ!! ああん! もうだめ、切なぁいっ……我慢できないのぉっ、お願い夏也ぁ、私にちょうだ~い。欲しいのぉ……!」


『そ、その声は静流!? クソ、クッソォォ! 夏也テメェェッ! が、学校の中で静流とッ、静流といったいナニやってやがんだよおぉォオ!? ファァーーックッ!?』


「あんっ、あぁ! はぁんっ、夏也、夏也ぁっ。もっと……もっとぉ! 私にちょうだ……」


 俺は携帯電話をシズ姉ぇの手から奪い取ると、ブツッと電源を切った。


「…………」


「夏也ぁっ、好きっ好きなのぉっ、やあんッ……私熱くて止まらないのお……!」


「もう電話切れてるんだけど……シズ姉ぇ」


「――チッ。なぁんだつまらない」


「なんだ、じゃないよ……。ハァッ、電話貸せっていうから何するのかと思えば……」


「どう? どう? 私のエッチボイス。興奮した?」


「しないって」


「えええー それはショック……。せっかく年下をからかう魔性のお姉さんを演じてみたかったのに」


(魔性っていうか、既に快楽堕ちした牝奴隷のような声をあげていたんだが)


「まあ冗談はさておき。ご飯食べましょ? ふざけてたら時間なくなっちゃった」


 相変わらずマイペースでケロリと態度を変えると、シズ姉ぇは弁当箱を差し出してくる。


「ああ……。って、あれ? シズ姉ぇ、お箸が一膳しかないんだけど」


「私が食べさせてあげる! はいっ 夏也、ア~ン……」


「て、照れるね……」


 シズ姉ぇが笑顔で添えてくれた卵焼きに、俺は口を開けようとする。

 しかしその時……


「ちょぉぉおっと待てやぁぁあゴルァァァアアアッ!!」


 屋上の扉が開かれ、孝太郎がその場に乱入してきた。


「夏也ぁぁあッ、風紀を乱す元凶めぇぇっ! テメェ即刻停学処ぶ……あ、あれ?」


「……残念ながら、お前の期待してたようなことは何もないぞ孝太郎」


 ポカーンとしている孝太郎には一切反応せず、シズ姉ぇはニコニコとしながら卵焼きを構えている。


「夏也~♪ ほら、早く食べてよ~? ア~~ン」


「あ、あぁ。ごめんシズ姉ぇ。……パクッ」


「おいし?」


「うん。甘くて美味しいよ……シズ姉ぇの卵焼き」


「ほんと? 良かったぁ。はいっ、もう一つど~ぞ。夏也、あ~~~ん♪」


 ニコニコと優しい笑顔を終始浮かべるシズ姉ぇ。

 それに対し、真横で立ちつくしている孝太郎は、まるで苦虫を大量に噛みつぶしたかのような表情を浮かべている。


「グッ……。は、ハンッ! やぁれやれ! さもしいったらありゃしないよねえ、庶民の食事はさァ! 静流もバカだよなぁ、白面家と縁切りするなんてさ~あ! ねえ?」


「夏也ぁ、もう一個食べてよ~」


「う、うん……。あむっ。……ン、おいしいよ……シズ姉ぇ」


「わ~い! やっぱりそう言ってもらえると、手料理を作った甲斐があるわよねぇ」


 嬉しそうに微笑むシズ姉ぇ。

 その態度は、相変わらず孝太郎など眼中にないといった有様である。


「ケーッ! なぁにが手作りの卵焼きだよ!? 全然うらやましくない! ぜんっっっぜん!! うらやましくないもんね僕はッ!!」


 ……と、俺はシズ姉ぇが指に絆創膏を巻いていたことに、今はじめて気が付く。


「あっ、シズ姉ぇ……この指の絆創膏って?」


「……ばれちゃったか。実は、今朝お弁当作る時に、ちょっと包丁で切っちゃってさ……あは。慣れないことしたからかな」


「俺のために……だよね? 嬉しいよ、シズ姉ぇ」


「えへへ、何だか恥ずかしいよ」


 彼女の温かい気持ちを感じ、俺はその絆創膏に撒かれた指を愛おしむように撫でる。


「プッククク! 指切るとか! これだからド素人は困るんだよなぁ!! 僕なんかね、きょうの昼食なんだと思う!? ステーキだよステーキ!! いいだろ~? ホテルの一流シェフが用意してくれた、最高級のサーロイン食べちゃったんだよねえ! あ~~美味しかったなぁ! 最っ高に美味しかったな~~~ッ!!」


 隣で孝太郎が必死にわめいているが、そんなものはまるで耳に入らない。

 俺は次に、お弁当箱の中にあるおむすびを手に取り、じっくりと味わうように食べる。


「あっ、それはちょっと形が崩れちゃってるから恥ずかしいんだけど……。ごめんね、私あまり綺麗に握れないでさ……お塩の加減も間違えちゃったかも」


「ううん。シズ姉ぇの愛情が込められてるのがわかるよ。今まで食べたどんなものよりも美味しい。世界一おいしいよ!」


「夏也ぁっ」


「ぐっギィィ……ッ!! うっぜええええ!! ぜ、ぜ~~~~んッぜん! 全く持ってうらやましくないもんね!! 本当の世界一の美食を知らない貧乏人がさァ、よく言うよ!」


 孝太郎の嫉妬がもはや心地良い。


「そうだ夏也、今度公園にいかない? その時はまた、私お料理頑張って作ってくるよっ」


「いいね。騒がしくないところで、俺もシズ姉ぇと二人きりになりたいと思ってたんだ」


「オイオイオイオイ!? 人気のないところでキミ達はナニしようってんだよ!? っていうかサ、公園って発想がまず貧困だよなぁ。キミらにとって自然の憩いの場ってのは所詮その程度なんだろ? チッチッチ! 僕ならプリンスエドワード島に行くね! あそこは実に綺麗な所だよ。世界一空気がうまいし、何よりも空の青さがスゴイんだ!『赤毛のアン』の作者の生家としても有名で、世界一美しい場所だからねえッ!」


「そんなに綺麗なところなの?」


 孝太郎のいやみったらしい弁舌に、シズ姉ぇがいきなり質問を投げかける。


「え? あ、お、おおッ! そ、そうさ!! まさにこの世の楽園だね。南国の島もいいけど、ああいったファンタジーロマン溢れる場所というのも実に乙なもんだよ!!」


「素敵……。ねえ夏也、今度旅行で行ってみましょ! 二人だけでっ!」


「なっ、ンがァ……ッ!?」


 シズ姉ぇはキラキラと目を輝かせながら言う。


「でも、ちょっと遠くないかな……? 海外だし、日帰りは無理だよ?」


「当然っ、お泊まりに決まってるじゃないっ!」


「えっと……と、泊まるのか……」


「う、うん。夏也……その、お泊まりの意味って……伝わる、よね?」


「あ、あぁ」


「私……本当の意味であなたの女になりたいの……。だ、だから……い、いいよ? 私の……初めて、全部あなたにあげる……奪って欲しいの」


「し、シズ姉ぇ」


「だって孝太郎が言うには、すごく素敵なところなんでしょう? そこで私たち、夕暮れ時にロマンティックに結ばれるの……。きっと、一生の思い出になるわ」


「ちょぉぉっと待てやゴルァァァアア!? やっぱり、プリンスエドワード島なんてクソだよっ、クソ! あんなド田舎に行く奴なんて、心が寂しい奴だけさっ! ありえないね!!」


「今はまだ分からないけど、結婚したら是非ハネムーンで行ってみましょ? フフッ……もしかしたら、その時に夏也の赤ちゃんできちゃうかもねっ」


 頬を染めて僕に潤んだ視線を投げかけるシズ姉ぇ。

 正直、このまま彼女を押し倒したい衝動に駆られる。

 完全に二人の世界ができ上がっている中、隣では未だに孝太郎が発狂し続けていた。


「うぉおおおおアアアア!! クソ、クソがァッ!! なめるのもいい加減にしろよな二人ともォ!! 僕がその気になりゃ、キミ達なんざなぁ……」


「あ、孝太郎……」


 絶叫を上げる孝太郎。

 そんな相手にシズ姉ぇは、何気なく声を掛ける。

 しかしその瞳はまるで、ゴミ虫でも見るかのように……冷たく蔑んだ視線となって孝太郎を貫いていた。


「――あなた、まだいたの?」


「……○×△□ッ」


 単純で、最も残酷な一声。

 完全に空気の一部と化した孝太郎は、口をパクパクとさせ言葉を失う。

 そして哀れにも、ショックによって髪の毛が一気に白くなり、更にヒューッと吹き込んだ風によってその頭髪はサラサラと流れていってしまった。


「えへへっ好き……っ! 私、夏也のこと大好き……愛してるっ!」


「俺もだよシズ姉ぇ。いや、静流ッ! だれよりも愛してるッ!」


「夏也ぁっ、夏也ぁ……!」


 ――ちゅっ、ちゅっ。

 昼休み終了のチャイムが鳴る中、俺達はもつれるように互いを抱きしめ合う。

 五限目の授業開始のチャイムが響く中、

 俺と静流は人気のない屋上で、いつまでも熱いキスを交わし続けていた。


「――……しくしく」


 その間、なにか存在感の薄い奴が隣で泣いていた気がするが……きっと気のせいだろう。


                                     【ネトラレジェノサイド・完】

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ネトラレジェノサイド 久遠童子 @UST13

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