第2話 軍需企業MASKの勃発


   ◇◇◇


 ――西暦二〇五〇年。

 未知の素粒子〈アニマ〉が日本で発明される。


 あらゆるエネルギーに代用できるこの粒子の発見は、化石燃料の枯渇こかつによって伸び悩んでいた人類に光明を見いだし、文明社会を大いに救った。


 更に〈アニマ〉発見の第一人者である空木うつろぎ博士は、〈アニマ〉を人体に注入すれば人間のあらゆる機能が向上することを発見。

 免疫力の活性化や自然治癒力の驚異的な向上を確認することとなった。

 それはエネルギーの革命だけではなく、人類の進化そのものに影響を与えた。

 増幅ぞうふくした精神感応波せいしんかんのうはにより、意志や思想、記憶の共有すら可能となり、この世から差別や争いがおきなくなることが提唱されはじめたからである。


 しかし〈アニマ〉の共同開発を行っていた白面しづら財閥ざいばつは、〈アニマ〉の力を独占。

 それを財閥が囲う私設武装組織の警備兵に実験的に投与しはじめた。


 記憶の共有化によって、ただの民間人が一夜にして歴戦の軍人へと変貌。

 同類の〈アニマ〉を投与された仲間とテレパシーのごとき意志疎通いしそつうで連携を図り、敵を撃滅する超人部隊を作り上げようと企んだのである。


 一人一人の視点を皆が共有することで、マクロ化された視界による空間把握くうかんはあく能力や、格闘技に射撃、剣術、戦闘機の操縦に到るまで被験者は即席でアビリティを得ることができた。


 いわゆる勘……経験則にのっとった状況判断や、兵士としての心構えは言うまでもなく、すべてがインスタントにまかなえるようになったのである。


 ――〈超我兵ちょうがへい


 個としての自分を超越ちょうえつし、戦士の仮面を与えられた強化人間たち。


 白面財閥は超我兵ちょうがへいを用いた民間軍事企業と、〈アニマ〉を用いた数々の超常兵器を作りだし世界に躍進。

 軍需産業ぐんじゅさんぎょうを主とした一大コングロマリット〈MASKマスクインダストリー〉を結成し、MASKの名は世界に轟くこととなった。


 そしてそのMASKの重臣じゅうしんであり、〈アニマ〉の共同開発者にして兵器開発の顧問責任者であった空木博士……僕の父は、ある日突然MASK相手に訴訟そしょうを起こした。


 世界の均衡きんこうが崩れることを懸念けねんとした、内部告発。


 しかし裁判は父が一方的に敗訴し、空木家は今まで築き上げてきた財のすべてを失った。

 結果、僕らは住処を追われ、あえなく引っ越しを余儀なくされてしまうこととなる。


 あの日、僕が雨の日の朝に聞いたのは、そんなできごとだった。

 

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