神待ちしてたら、邪神が来た

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

邪神(自称

 神待ちしていたら、自称・邪神という奴がヒットした。


「家に泊めてあげるので、崇めてくれ」

 とのこと。


 この際、ネカフェ以外ならどこでもいい。

 隣のやつがガンガンうるさいので、邪神でもなんでもいいから泊めてもらう。


 陰キャ貧乳のチビだから、誰からも買い手がつかないと思っていた。

 でも、神はどっかで見ているんだろうね。

 


 待ち合わせ場所の駅前に現れたのは、黒ジャージの男だった。

 おっさんくさいが、見た目はおじさんってほどでもない。

 援交とかパパ活とかとは、もっとも縁遠い人物に見えた。


 小綺麗だけど、金持ってなさそう。

 ジャージがブランド物っていうのが、うさんくさい。

「人に金をかけない予感」を、いっそう加速させた。


 ある程度不潔な人物に当たるのを覚悟していたから、まあいいか。


「こんばんは」

 

 その神は「あざーす」とか、「パクチーの神」とか名乗った。


 なんかおいしそう。

 生春巻き食べたくなってきた。

 

「家近いんで、ご一緒しましょう」

「その前にごはんを」

「いいですよ。なにがいい?」

「生春巻きと、寒いからフォーも欲しい」

「ベトナム料理ねー」


 自称神が、スマホでお店を調べ始めた。


「近いね。いきましょ」

「おー」

「ちなみに、エッチなことはするからね。未成年でも容赦なく」

「するんかい」


 まあ、仕方ない。

 お金がないなら、身体を捧げるしかないか。



 生春巻きとフォーを、おいしくいただく。

 神おっさんは、水餃子まで頼んでくれた。まじで神。


「ねえ、神様ってホント?」

「まあ、一応神で通ってるよー」

「なんで、JKを狙うの?」

「狙ってはいないかな。『神様待ってます』って言われたから来ただけ」


 どうもこのおっさんは、えらく気まぐれな神らしい。


「神様って、どんな感じなん? たとえば、奇跡を起こすとか」

「別に。人間とあんま変わらないかな。奇跡とか言われても、たいしたことはできんよ」


 この世界は神様に対してミーハーなやつは多いが、ガチで信仰心が高い人は少ないという。よって、力をまるで発揮できないらしい。

 なので、飢えないようにこうしてJKなどを釣って糧を得ているそうな。


 聞けば聞くほど、うさんくさいね。


 でも、神には違いないからいっか。

 

「神様の割には、羽振り悪そうだけど?」

「我々の中でも、人気の神は限られている」


 聞くと、あざーすの仲間に人気が集中しているらしい。

「ニャンニャンとホテル」みたいな名前の神様が、カリスマってるんだって。

 そのせいで、あざーすは一番強い神様なのに不人気なんだとか。


「あたしパクチー好きだから、あんた好きだよ」

「あざーす」


 激寒ギャグが飛んできた。


「ごちそうさまでした。ごめんね図々しくて」

「することするからよい」

「するんかい」


 やっぱりエッチするのかー。

 

「では、ウチへ案内する」

 


「きゃ!」


 神の家に向かう途中で、ひったくりに遭ってしまった。

 そいつは自転車で逃げていて、追いつけそうにない。


 大変だ。あの中にはスマホや着替えが入っている。


 あざーすが、指をパチンと鳴らした。


 ひったくりの自転車が、飴細工みたいに溶けた。


「熱っち、熱っち!」


 手や腰などをヤケドして、ひったくり犯はあたしのカバンを放り出して逃げていく。


「よかった。スマホなくしたら死ぬところだった」


 少々の電子マネーが入っている。

 これは、命綱だ。


「ありがと。あんた、やっぱ神なのかも」

「たいしたことではない。それより聞いていいか?」


 自販機でホットコーヒーを買い、あざーすはあたしにくれた。 

 

「キミはなんでネカフェで神待ちを?」

「ん? 親とケンカして家出中」


 あたしの親は、いわゆる毒親である。

 過度な期待を持ちつつ、できなければ無能と罵る親だった。


「我が消し去ってもいいんだぞ」


 ケロイドになった自転車を、おっさんは指差す。

 

「うーん」


 あたしはしばらく考えた後、結論を出した。


「いいや」

「なぜだ? お手軽だぞ?」

「なんかさ、違うんだよね。そういうことしたくないから、あたしの方が消えたんよ。きっと」


 自分なりに、自分を分析してみる。


「なるほどな。では、これからは我の側に仕えていなさい。遠慮しなくていいぞ。学校とかもこっちから通うてもよい」

「いいの。やった」

「いつまでも側にいるがいい。偶像程度にはなってやろう」

「偶像って?」

「ヒーロー像みたいなん?」

「なるほどね」


 どうやら、あたしを毒親から守るヒーローになってくれるらしい。


「あたし、今月で十八だから結婚できるけど」

「それもよいな。花嫁募集中だったのだ」



 なんだか、縁談までまとまってきたぞ。


「とはいっても、することはするが」

「するんかい」

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