7人の初期メンバー
「現在募集しているのは初期メンバーの7人になります」そこまで告げて、タカハシは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「残念ながら、その中に人気の武将はいないんです」
「人気…劉備とか、ですか?」ナオヤは反射的に名前を挙げたが、劉備が本当に人気があるのか即座に不安になっていた。昭和の小学校に劉備一択の雰囲気があったのは確かだが、あれから月日は流れている。なんといっても、あの頃には蒼天航路がなかったのだ。
「ええ、趙雲とか馬超とか、わたしみたいに大して詳しくない者でも、なんとなく人気がありそうに思うような、そういうキャラクターは今回、募集の対象になってなくてですね」タカハシは浮かない顔のままだ。
「募集しているのは7人…なんですよね」選べる立場にはないと思いつつも、自分が誰になるのか気にはなる。ナオヤは話の先を促した。
「その7人なんですけど…、あまり聞き覚えないかもしれません」タカハシはそう深刻そうに前置きしてから、ナオヤに凛と告げた。
「袁術、韓馥、孔伷、王匡、橋瑁、袁遺、鮑信。現在募集しているのは以上の7人になります」言いにくい内容を伝えた達成感がタカハシの表情に窺えた。
「なるほど…」タカハシの困り顔はナオヤに移っていた。「たしかに、あまり馴染みがないかもしれません」
しかし、逆に気楽といえば気楽か。さほど重要でないポジションだと、慣れない仕事の緊張感も軽減されるかもしれないと、ナオヤはポジティブに捉え直した。
「すみません、まだドラマを演じられる段階ではなくてですね。安定させるために、そこにいる感じなので…。面白みには欠けるかもしれないですが、ただ、最重要な業務になります」タカハシが董卓とは戦わない反董卓連合の重要性を説く。
「このメンバーだと、赤壁の戦いには参加しないんですよね?」簡単な仕事だが最重要。タカハシの説明に戸惑いながらも、ナオヤは会話の足場を確保していく。
「はい、皆さんその頃には亡くなってますので」
「では、わたしもそれまでに死ぬと」
「おそらく、そうなりますね」
「え…?」
「え?」
ふたりが顔を見合わせたその刹那、タカハシは否定した。
「あ、本当には死なないですよ」安堵の空気が部屋に流れた。
「ああ、なら良かったです」
「設定上、亡くなってからも安定させる業務は続きますので。反董卓連合の帷幕はなくなってても残っている形になります。その、大丈夫ですか?」一足飛びなのか、タカハシの問いは一般的には理解できるレベルなのだろうか。長く続いた試練は、ナオヤに自身の脳の機能にまで疑念を抱かせていた。
「よくわからないけど、死なないのはホッとしました」ナオヤは答えられることだけを答えた。わからないのだから仕方ない。やれるだけのことはやったという小さな達成感から、少し冷めたチャイに口をつける。先ほどより余裕を持って、ナオヤはカルダモンの香りを口内に迎えた。
「せっかくだからもう決めてしまいましょうか」著しく具体性を欠いた提案がタカハシからなされた。
「一体何を?」の疑問を秘めたたままナオヤは黙って次の句を待つ。「八艘跳びだな」と思いつつ。
今日一番の衝撃的な会話。
それは、その直後に交わされることとなる。
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