第6話

「やっと、思い出してくれた」





ミラが頬を濡らしながら微笑む。いつもと何も変わらず。その笑顔が僕は好きだ。日に照らされて輝く白い肌が好きだ。透けるような黒い髪が好きだ。こんな時になってもそれが言葉にならない臆病な僕を君は笑ってくれるだろうか。そんなことを考えていると、列車が止まった。僕は溢れる涙を拭って、再びミラの顔を見た。彼女の顔も涙でぐしゃぐしゃになっていた。そんな顔も愛おしい。ミラは立ち上がって僕の手を引いた。





「おい!」



僕の静止も聞き入れず、力ずよく僕の腕を引く。向かった先はドアの前。





「ミラ!ごめんな!俺が映画なんか誘わなきゃ良かったんだよな。ごめん。俺のせいで、俺だけ生きてて、」






「ハウト!やめてよ。私も行きたかったんだから。ハウトは何も悪くないでしょ。ハウトのせいじゃないよ、事故なんてしょうがないでしょ?」





「でも、」




「私、楽しかったよ。映画デートなんかよりずーっと素敵な場所に2人で来れたから。」






ボクは、そんなことどうでもいいんだよ。宇宙旅行なんかじゃなくて、君とふたりで生きていれば、生きてさえいればそれで良かったんだよ。






「そんな顔しないでよ、ハウト。大丈夫。絶対また会えるよ。」




「約束してくれるか?また2人でこの列車に乗るんだ。絶対だからな。」






「もちろん。絶対迎えに来るからね!」







その時列車のドアが開いた。自分で降りる決心がつかない僕の両肩をミラは掴み、思い切り押した。涙で滲んでいたが、僕の視線の先には僕の宇宙一大好きな笑顔があった。





僕の記憶はここまでだ。病院のベッドで僕は目が覚めた。2週間ほど意識を失っていたらしい。これは夢だったのかと思ったが肩を押された時の感覚、それと、列車の発車ベルの音が妙にリアルに僕の頭にずっと響いているようだった。別れの言葉を言わなかったのは、ミラがまた僕を迎えに来てくれると約束したからだ。僕は彼女を信じている。彼女はできない約束をするような人ではないと僕は知っているからだ。言えなかった言葉たちはその時のために大事にしまっておこう。いつか素直に僕がこの想いを君に伝えられる日まで。








それから毎年。ミラの命日にボクたちは彗星列車で旅をする。

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年に一度の宇宙旅行 流花 @Rina_integral

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