刺さる雨

坂田一景

刺さる雨

今日は一人の帰り道だ。普段は友達がいる、けど今日は雨で部活がなくなったので一人だ。

ただ、いつもの友達といってもそんなに心からの仲ではない。彼らは簡単に人をのけ者にし、笑う。のくせに「いまいるメンバー」とだけは最高の仲間のふりをする。

僕もその中の一人だ。悔しい、申し訳ない、そんな気持ちはありつつも僕も最高の仲間のふりをしている。

のけ者にされた人間はというと、別のグループに流れそこでうまくやっている。それを見ると少し楽になる。

「雨になると、考えが暗くなるな…。」そうつぶやき、自分の罪をまるで雨のせいかのようにした。

こんな人間だが、いや、こんな人間だからこそ僕には隠してることがある。それは、家が貧乏なことだ。といっても、食に困ることはないし家もある、スマホもあるし、wi-fiもある。でもそれ以外はほとんどない。家にあるのは散らかった服と小さな机、その上にある無数の飲み終わったビールのゴミ。そんな家だ。そんな家であることを知られたくないのだ。

家に金がないのは知っている。だから大学にいく夢も諦めた。だから進路希望には「工業高校」としか書かなかった。だから親を憎んでしまった。そんな気持ちに気付いてしまった。

「雨っていうのはこんなにも悲しかったか…?」上ではなく傘より下から見える雨を見つめながらそう言った。

 どんどんと家に近づくにつれ、雨が強くなっている気がする。傘に当たる音が大きくなると、自分が今までしてきたことやしてやれなかったことなどに対し、大人数に責められている気がしてしまう。分かってる、責められて当然だ。自分はなにもしないのに周りが人を助けないとそれをおかしいと思ってしまう。自分はなにもできないのに稼ぎが少ないのに子供を三人も作った親を憎んでしまう。どれだけ自分が「責められても当然だ」と雨のそれを肯定しても、足元から冷やし芯まで凍らそうとする雨にはそんな上っ面だけの反省は通用しない。

「ああ、いっそこのまま死にたいな。」どうやって死ぬのかはわからない。でも漠然とそう思う。確かに昔から生きたい理由なんてものは無かった。死にたい理由なら山ほどあったのに。ただ、「いま死んだら誰かに迷惑をかける。」そのほんの少しの良心で「死ぬ」のをやめていた。

 でもなんだか今日はいける気がする。飛び込める気がする。友達も学校も親も兄弟も、みんな頭にはもうない。今あるのは来世への期待のみだ。

「よし!」そういうと傘をたたみ、ちょうど通りかかった大型のトラックに倒れこむかのように向かっていった。

「ドンッ!」鈍い音とともに僕の体ははね飛んだ。飛んだ勢いで体をだいぶ擦りむいたみたいだ。トラックは止まっている。反対車線の車はみな止まらない。

「ほらな、みんなそうだ。気付いてるはずなのに無視をして助けてくれない。

 僕もそうだったのにな…。」今更後悔の念なのかそんなことを思った。

擦りむき傷のついた体に降りかかるたくさんの雨が痛い。体中を刺されているようだ。きっとこの雨は自分のしたことに後悔を持った僕に対し雨が与えた最後の罰だ。

意識が遠くなる。そろそろ死ぬな。さっきからトラックの運転手が話しかけてきているが、しゃべれるわけないだろ。

もうほぼ意識がない。じゃあな、雨。ありがとう、死なせてくれて。


「んん、ここはどこだ?真っ白に変な模様の天井…。はっ、転生して赤ちゃんになったのか!やった!!」

「…うた!こうた!」

「え?」

「こうた!起きたのね!よかった、交通事故にあったって聞いて飛んできたのよ!?」

なるほど、生きてたらしい。落ち込んだが普段忙しい母さんに会えたし、なんとなく母さんの愛を再確認できた気がする。

聞いたところによると、雨のおかげで地面との摩擦が減り滑ったことでトラックにぶつかった衝撃以外でできた損傷は無く生きれたらしい。

 僕を殺そうとした雨に命を助けられた。これがいいことなのか悪いことなのかは全くわからない。でも死の間際に思ったことはすべてが本音。

「あんな後悔をする人間はまだ死ねないな。死ぬときはもっといい人間になってからだな。」そんな歪んだ目的を掲げた。


生きる理由なんてなんだっていい。

死にたくなったら一度死んでみろ。考えてみろ。

なにか目標や懺悔が見つかる。そしてそれをどうにかするまで、人は死ねない。


体中に突き刺さった雨の感覚、すなわち後悔と懺悔の感覚はまだ残っている。

病院のベッドから窓の外を眺めてみた、雨はまだ降り続けている。

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刺さる雨 坂田一景 @sakataikkei

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