第37話 大ピンチ

(何か・・・何か方法は・・・)


 快人は頭をフル回転させて、どうにかリディアを抑え込む方法を考える。


(今の状況はリディアの意思に反している・・・だけど、無理矢理操作されている?なら、俺が契約したらどうなるんだ?支配権は上書きされる?)


 嫌がっていたリディアの様子を見て、現在の状況を整理する快人。


(真祖ってヴァンパイアだよな?ヴァンパイアとの契約は・・・確か、血と心臓が最も適しているはず。)


 モンスターの種類によって、契約時の代償の価値が特定部位のみ高くなるケースが存在する。

 その最たる例がヴァンパイアの時の、血と心臓である。

 代償の価値は、指(足)<指(手)<足<腕<臓器<肺<血<心臓=脳<魂となっている(大雑把に表すと)。

 だが、特定のモンスターの場合、今回で言えば、吸血鬼の場合は、魂<血<心臓というように、特定部位の代償価値が上昇するのである。


(魂は・・・ノアに使った。なら、俺がささげられるのは血と心臓のどちらか・・・いや、ノアが押されるレベルの強さである以上は、両方ともささげるのが一番か。)


 そこまで考えたはいいが、肝心の契約をしようにも、リディアが強すぎる。

 なにせ、相手にきちんとうなずいてもらわないといけないのだ。

 何かしら、リディアを落ち着かせなければいけない。


「ノア!」


「ちょっとごめん!今は無理だよ!」


「ちっ・・・厳しいか。」


 ノアに押さえてもらうという方法しか、快人は思い浮かばない。

 だが、儀式自体をもう1人、潜んでいる相手がいる妨害されてはかなわない。

 ノアの手はできるなら、あけておきたかった。

 どうする・・・と考えても、頭は空回りする一方だった。


「ルー!出てきてくれ!」


 快人は再びルーを呼び出す。


「ノアの援護できるか?」


「キュゥ・・・」


 ルーは申し訳なさそうな雰囲気を出して、落ち込む。


「さすがに無理か・・・」


「きゃあ!?」


「ノア!?」


 快人はノアの悲鳴が聞こえた方向を見ると、ノアが赤い鎖によって拘束されていた。


「カイト!逃げてぇぇ!」


「あ?」


 グチュッ!と何かが快人の腹を貫く。

 快人は下を見ると、いつの間にか、懐に移動していたリディアの腕が快人の腹を貫通していた。


――――――――――――――――――――


「くぅ!このぉ!」


 ノアとリディアが激しくぶつかり合う。

 最初は押されていたノアだったが、初の格上との戦闘により、徐々に技術を吸収・昇華していったのだ。

 だんだんとリアとリディアの実力差がなくなっていく。


「・・・っ!」


『・・・何をしているのですか。早く、操血術を使ってください。』


「っ!」


 リディアは命令に塗りつぶされそうになる意識を必死につなぎとめる。


(チャンス!)


 ノアは、リディアの動きが悪くなったのを見て、そのまま心臓に向かって突きをぶち込んだ。

 リディア程ともなれば、心臓を潰されようとも死なないだろう。

 だが、回復に専念するために、弱体化するに違いなかった。

 それを狙っての攻撃だったのだが、リディアにノアの抜き手が当たりそうになった瞬間、ノアの腕に鎖が巻き付き、ノアの手がぴたりと止まった。


(鎖!?)


 いったいどこから!?とノアは混乱するが、鎖が血でできていることに気づく。

 リディアの瞳から先程までうっすらとだけは存在していた意識が消え失せ、物言わぬ人形のようになっていた。

 声の主がリディアを掌握してしまったということである。


「きゃあ!?」


 ノアに次々と血でできた鎖が巻き付き、拘束していく。

 ノアはできうる限り、壊していくが、巻き付いてくる量の方が多かった。


「ノア!?」


 ノアは快人の方を見て、顔を青くした。

 快人は気づいていないが、快人の懐にリディアの姿があったのである。


「カイト!逃げてぇぇ!」


 グシュッと快人の腹をリディアが貫く。

 ノアはそれを見ていることしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る