第36話 リディアとの再会

 快人はボス部屋の門を押し開けると、見覚えのある場所へと出た。

 そう、ノアと出会った、あの星空のような空間である。


「いらっしゃ・・・」


「・・・リディア?」


「・・・どうして、カイトとノアが!?」


 見覚えのある人物がそこにはいた。

 迷子の時に出会ったリディアである。

 リディアは混乱していた。

 ノアが人間ではなく、自分と同じ側の存在であることもそうだが、カイトが自分のもとへ来たことも。

 なんという運命のいたずらだろうか、とリディアは嘆いた。


「カイト!ノア!今すぐ、ここから逃げてちょうだい!」


「どういうことだ!?どうして、ここにリディアが!?」


 快人も突然の事態に戸惑う。

 人間だと思っていた相手が、高難易度のダンジョンの最奥のボス部屋にいたのだから、当たり前である。


「カイト・・・リディアはボクと同じってことだよ。」


「そう・・・だったのか?」


「だますつもりはなかったのよ・・・だけど・・・」


(私が知っているリディアとは違う・・・?)


 真祖リディア。

 原初のヴァンパイアにして、性格は残虐・無慈悲で、実力は自分を上回る。

 1つの大陸をたった3日で滅亡へと追いやったという逸話は有名な話だった。

 それがノアが知っているリディアという存在だ。

 だが、今のリディアは実力も性格もはるかに弱弱しい。


(違う・・・何かに封印されている!?)


 ノアはじっくりとリディアのことを見てみて、気づく。

 自分よりも上位の存在であるはずのリディアが非常に厳重な封印を施され、自分以下の強さになっていることに。

 そして、驚く。

 リディア程の強者を封印できる実力の持ち主がいるということに。


『何をしているのですか、リディア。早く、殺しなさい。』


「嫌よ!誰が・・きゃぁぁぁぁっ!!」


 バチバチバチッ!とリディアが断ると同時に、黒い稲妻がリディアの全身を駆け巡る。


「ぅ・・・」


『リディア・・・仕方ありませんね。【命令】です。殺しなさい。』


「いや・・・」


(どうしてなの?・・・私が昔、人を殺したからかしら?せっかく、運命の人を見つけたのに・・・)


 リディアは男たちから助けてもらった時、快人に運命を感じていた。

 自分は男に守られるほど弱くはない。

 だが、あの時は例外だった。

 男たちに手出しをすることが許されておらず、何も抵抗できない状況。

 リディアにとって、ほぼ初めての危機だった。


(助けてもらえたのに・・・)


 そんな中、助けてくれたのは救いだと、運命だとリディアは思った。

 すでにその隣に人がいようとも、リディアは構わない。

 2人目であろうとも、たとえ、100人目であろうとも、「この人となら・・・」とリディアは思えたのだ。

 何千年も生きてきて、初めての恋。

 だが、運命のいたずらなのか、リディアはその運命の相手、快人の敵なのだった。


「体が・・・っ!」


 リディアは必死に抵抗するが、首に刻まれた隷属印がリディアの体を無理矢理動かす。

 リディアは快人が視認できない速度で快人の傍に移動すると、腕を快人の胸に向かって突き出した。


「させない!」


 だが、それはノアによって止められる。

 本来の実力ならば、ノアはリディアには勝てないだろう。

 だが、今の実力ならば、ノアはリディアを上回っている・・・はずだった。


『さぁ、早く殺しなさい。』


(いったいどこからこの声は聞こえてきてるんだ?)


 快人は姿が見えぬ相手の声に戸惑う。

 リディアが襲ってきている原因は確実に声の主にあるのだ。

 そいつさえ、倒せば、リディアは襲ってこなくなるはず、と快人は考えていた。

 実を言うと、快人の考えは間違っていない。

 が、ノアがリディアにかかりっきりな以上、何もしようがないのである。


(リディアさえ、抑え込めれば・・・)


 快人はリディアをどうにかして無力化する方法を考え始めた。


―――――――――――――――――――


(強い!)


 ノアは戦慄する。

 どう考えても自分よりも弱いはずなのだ。

 にもかかわらず、なぜか自分が押されている。

 年季が技術が、リディアはノアよりもはるかに高みにいるのだ。

 リディアが隷属に抵抗していなければ、ノアはすでに負けていた可能性があった。


(切り札を切るべき?いや、あれは時間制限があるから、ダメだよね。まだ、リディアを操っている人が残ってる。だけど、このままだと・・・)


「くぅっ!?」


 ノアはリディアにより弾き飛ばされる。

 ノアは気づいていない。

 リディアはそもそも本気さえ出していないのだ。

 リディアは原初のヴァンパイアで、ヴァンパイアとも言えば、血の操作である。

 リディアが3日で大陸を滅ぼした逸話には、濁流のような血が大陸中を覆ったというものも存在する。

 それは事実であり、それほどまでの血の操作ができるリディアは、現在、肉弾戦以外行っていない。

 それに対して、ノアはもちろん、遠距離攻撃はあるが、近距離の肉弾戦の方がはるかに得意である。

 にもかかわらず、現状ノアよりも身体能力などが低いリディアが、優勢なのか。

 それはノアは生まれてから、自分より強い者と戦った経験がほぼないからだ。

 逆に、リディアは自分と同等あるいはそれ以上と戦った経験がかなりあった。

 その差はやはり大きいのである。


「だから、させない!」


 リディアが快人を襲おうとしたのを見て、今度はノアがリディアを弾き飛ばす。


(ピンチかも・・・)


 すぐさま体勢を立て直して、リディアがノアを攻撃する。

 ノアはリディアの攻撃を捌くので精いっぱいだった。

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