第33話 ダンジョンの便利屋カルガルー
「もちろん知ってますよぉ!このタイプの罠は一度踏んだら、踏みっぱなしにすれば罠が発動しません!出てきなさい、カルガルー3号!」
博士が初めて、自身のモンスターを呼ぶ。
呼び出したのは、魔獣系Dランクモンスターのカルガルー。
このモンスターの戦闘能力はそこまで高くはない。
パワーと逃げ足は同じランク帯のモンスターと比べると、上位の部類に入るが、しょせんはその程度だ。
だが、このモンスターの最上位固体、キングカルガルーは、上位グループのメンバーの誰かがほぼ必ず契約しているモンスターでもある。
通称『運び屋』、カンガルーを模しているこのモンスターは、ポケットの中が見た目よりも物が入るマジックバックのような能力を持っているのである。
そのため、食料や飲み物などをカルガルーに入れていたのだった。
快人も一応、念のため、食料や水をバックにいれてきたのだが、実を言うと、必要なかったのである。
キングカルガル―と比べると、収納量が少ないカルガル―ですら、優に1か月分くらいの食料や水を入れることができる。
キングともなると、その10倍以上は収納できるのである。
「何か重量のあるものを出しなさい!」
博士が指示を出すと、ペイッとカルガルーはポケットの中から、なぜか石を出した。
「は?石?」
快人はカルガルーが取り出したものを見て、目を疑う。
まごうことなき、ただの石である。
「ふふふ・・・こんなこともあろうかと、置石を用意しておいたのですよぉ。」
用意がいいと言えばいいのだろうか、それとも馬鹿と天才は紙一重だと言えばいいのだろうか。
快人は少し呆れる。
「いやいや!?というか食料は!?」
「安心してください。問題ないですよぉ。カルガルーはまだ3体いるのでぇ。」
「1号は食料、2号は機材、3号と4号はその他もろもろを収納していますよ」と博士は言う。
その他もろもろにどうやら、置石も入っていたらしかった。
(どうやったら、そうなる?いや、まぁ、ナイスプレイだけど。)
博士は素早く自身の足と石を置き換える。
確かに罠は発動しなかった。
「ふぅ・・・焦りましたよぉ。では、戻りなさい。」
石を出して、戻されるカルガルー。
なんだか、カルガルーが可哀想になってくる快人なのだった。
「さぁ!先に行きましょうか!」
「はい・・・」
どっと疲れた快人は、力のない返事をすると、先へと進む博士の後ろについていった。
――――――――――――――――――――
「もう30層ですね。」
25層にあった安全地帯でご飯を食べ、ひと眠りした後、再び攻略を開始しているのだが、約2日で2人はすでに30層に到達していた。
「やはり、随分と狭いダンジョンですねぇ。」
30層ともなれば、Cランクのモンスターが主体となってきている。
さすがのルーも対処しきれなくなっていたので、博士がようやく戦闘用のモンスターを呼び出していた。
「ケケケ!」
悪魔系Aランクモンスターのマッドピエロ。
サーカス出てくるようなピエロの格好をしたモンスターだが、さすがAランクだけあって強い。
ナイフを投げると、ナイフが何十本にも分裂して、敵モンスターに刺さる。
クラブ(ジャグリングに使う道具)を取り出して投げると、クラブが爆発する。
玉乗りをしだしかと思えば、そのまま敵モンスターに突撃して、モンスターを弾き飛ばす。
などなど、ふざけてるのかという戦い方をしながらも、倒している敵の数はルーよりも多い。
「いやぁ・・・その新種のドラゴン強いですねぇ・・・」
「いや、博士のマッドピエロの方が強くないですか?」
「いやいや、普通のBランクなら、マッドピエロが倒したモンスターの数の3分の1ほど倒せるかどうかくらいですよぉ?ですが、その新種は、2分の1よりも多い数を倒せてますねぇ。」
「敵の数が少なめで弱いからでは?」
「まぁ、それもあるでしょうけど、それにしても・・・ですねぇ。」
(そもそも、ドラゴンの奥の手であるブレスを基本技みたいに出しているのがおかしいんですよねぇ。)
徹と同じようなことを考えている博士。
普通の契約士からすれば、ルーはかなり規格外の存在だった。
(新種のドラゴンも調べたいですが・・・快人さんは研究対象としては格別ですねぇ。)
じゅるりとよだれをすする博士。
ルーと快人はぞわっと悪寒を感じていた。
――――――――――――――――――――
博士「ふふふ・・・」
快人「悪寒が・・・」
ルー「キュゥ・・・」
ノア(・・・悪意よりも質が悪いね、好奇心って。)
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