第29話 迷子
「暑い・・・」
みーんみーんと蝉が鳴く、7月。
快人達が通っている高校は夏休みへと突入していた。
「ふふーん♪」
「ノアは元気だなぁ・・・」
「だってボクは基本的に、環境の影響を受けないからね。」
服とか身に着けている物さえ大丈夫なら、マグマの中でも吹雪の中とかでも全然大丈夫だよ、とノアは言う。
どうやら、ノアは環境デバフ常時レジストのようである。
「いいなぁ・・・」
「それなら、えいっ!」
「あつ・・・はぁ~。」
ノアは快人の腕に抱き着く。
暑いと言おうとした快人だったが、ノアからひんやりとした冷気が流れてきて気持ちよかった。
しかめっ面から顔が少し緩む。
傍から見ていれば、ノアに抱き着かれたことで頬を緩めているようにしか見えなかった。
「ふふん♪これぐらいならバレないよね♪」
「まずい気もするけど・・・正直、マジ助かる。」
暑い中、涼しく過ごすことができるという誘惑に、快人は敗北した。
快人は1人暮らし・・・今はノアがいるので2人暮らしだが、元々は1人だったので、家事は快人がやっていた。
だが、ノアが来てからは家事、特に料理はノアがやってくれている。
快人も積極的に家事をやってくれているノアに感謝していた。
それで快人は何かやってほしいことはないか?と聞いたのだが、ノアはデートがしたい!と返してきた。
(俺にとってもご褒美みたいになりそうだけどなぁ・・・)
何度も言っているが、ノアはそんじゃそこらにはいない絶世の美少女である。
今もノアはいろんな人からちらちらと見られていた。
そんなノアに抱き着かれている快人は、男から嫉妬の感情を向けられていた。
(視線がひしひしと・・・というかさっきから、すれ違いざまに舌打ちするやつ多いな!?)
すれ違いざまにちっ!と舌打ちしていく男が先程から大量発生している。
もしも、自分が相手側だったら、自分でもやりそうだな、という考えに行きついた快人は、とりあえず、甘んじて受け入れることにした。
もちろん、何か攻撃されれば、全力で返す(具体的にはルーを呼び出してブレスを発射、相手はほぼ死ぬ)くらいのことはしようと、考えていたが。
快人は、『なんちゃって契約士』と呼ばれていた頃のいろんな出来事や一部龍になってしまったこともあって、自分を害してくる人に容赦がないのである。
まぁ、そんなことする前に、ノアがこっそりと対処していたのだが。
快人はそれには気づいていなかった。
「うぇ~ん!お母さん!どこ~!」
そうやって、買い物に行くために歩いていると、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。
どうやら迷子のようである。
「迷子か?」
「行く?」
「まぁ、一応、見に行っておくか。近くにいれば、今ので母親も来るだろ。」
快人とノアは、子供の泣き声がした方に行くと、すでに誰かが子供としゃべっているのが見えた。
「うわ・・・暑くないのか、あれ。」
「本当だね。」
子供としゃべっているのは、ゴスロリチックな黒いドレスに黒い日傘をさした金髪の少女。
周りの人も気になるのか少女のことをちらちらと見ている。
子供の方も、そんな彼女の服装を見て、驚いているのか、泣き止んで「暑くないの?」と聞いていた。
「暑くないわ。優しい子ね。お名前を教えてくれる?」
少女は優しい表情をするぐすぐすとまだ鼻をすすっている子供の頭をなでる。
そして、ハンカチを取り出すと、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を拭いてあげていた。
「みかん・・・」
「みかんちゃんね。お母さんがどこにいるかわかるかしら?」
「お母さんとお買い物行くところだったの。」
「そう・・・商店街かショッピングモールかしら?」
「大きいところに連れてってくれるって言ってた!」
「なら・・・ショッピングモールかしら?」
大きいところ、という子供の言葉からショッピングモールだと予想する少女。
そうやって、子供とやりとりをしていると、男2人がこっそりと近づいてきていた。
「ショッピングモールなら、俺らがつれてってやろうか?」
「そうそう!俺ら、ここらに詳しいからさ。」
「・・・あいつら。」
「カイトを襲ってきた奴らだね。」
そう、少女と子供に声をかけたのは、根木に言われて快人を襲ってきた2人組だったのである。
契約士の資格を取り上げられ、契約していたモンスターも根木が手を回して手に入れてたものだったため、それも取り上げられ、一応、そそのかされたということもあって、罪は軽くなったと風の噂(武田)から聞いていた快人は、再び、そんな奴らを見かけて驚いていた。
(思っていたより軽く済んだんだな・・・)
あれから2か月ほどしか経っていないにもかかわらず、すでに自由にできているのは予想外だった。
もしかしたら、罰金を払うことで済んだのかもしれないな、と快人は考える。
実際、その通りで、男達の片方の親がまぁまぁ権力を持っている人ということもあり、罰金のみで済んでいたのだった。
「結構よ。私も道は分かるから。」
「そんなつれないこと言わないでさー。」
「危ないよ~。君みたいなかわいい子ちゃんが1人でいるなんて。」
「そうそう、俺達が守ってあげるって。」
「っ!」
子供は少女の後ろに隠れておびえている。
周りの人達はその様子を知らんぷりで見ていた。
「日本人ってこういう時、色々と回避するよな。」
「まぁ、それも本能だと思うよ?」
弱い人なりの防衛行動じゃないかな?と結構辛辣な物言いをするノア。
俺もそういうタイプなんだけどな、と快人は苦笑する。
「なんとかできそうなら、そのまま放置だったけど、まずそうだな。」
「とか言いつつ、元から行く気だったんでしょ?そういうカイト、ボクは好きだよ。」
「お、おう・・・」
ノアの素直な好意に快人は顔を赤らめる。
暑いからだ、とノアにより涼しいにもかかわらず、言い訳をすると、男たちと少女の間に割り込みに向かった。
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