第19話 ダンジョンオーバーと新たな仲間

 ピクシーの道案内により、快人達は順調にダンジョンを攻略していた。


「なぁ・・・これ、妖精の雫じゃね?」


「そうだよ。」


「アイテムのドロップってCランクダンジョンからじゃなかったっけ?」


「ドロップじゃなくて貰い物だからね。」


 ダンジョンではCランク以上からモンスターを倒したときに魔石以外のアイテムがドロップする現象が起きるようになる。

 妖精の雫はその1つであり、妖精系のモンスターを倒したときのレアドロップだ。

 これを飲むと、状態異常を1時間の間、無効するという状態異常の回復と予防の効果をもつアイテムなのだ。

 そんなレアドロップアイテムを快人は大量にピクシー達からもらっていた。


「自分達で使うしかないな・・・」


「そっちの方がピクシー達も喜ぶと思うよ。」


 こうやって穏やかに進んでいる快人とノアだが、一応、たびたびイービルが現れているのである。

 まぁ、見つけると即、ルーが倒しているので何の障害にもなっていないのだが。


「そもそもの疑問なんだけど・・・階段一度もおりてなくね?」


 たった2時間程でボス部屋前にたどり着いた快人がいったのはそんな言葉だった。

 本当なら、7層のダンジョンで、通常のダンジョンどおり、階段を下りて下に進んでいくタイプのはずだった。


「妖精の通り道っていうのかな。天然の転移魔法陣のようなものがあるんだよ。」


「まじかよ。」


 ノアと出会ってから、ギルドに教えられないような新情報をバンバン知っている快人。

 この情報を売ったらどうなるんだろう、と考える快人だが、なんで知ったのか説明するとなると面倒事の気配しかなさそうという結論にいたり、顔をしかめた。


「なんか納得いかないけど・・・じゃあ、ボスに挑も・・・っ!?」


 快人がボス部屋の門を開けようとした瞬間、グラッと大きくダンジョンが揺れる。


「これは!?」


「ダンジョンオーバーだね。」


 ダンジョン自体がぐにゃぐにゃとうごめく。

 まるで生き物の体内にいるみたいだ、とのんきに快人は考えていると、足場がぐにゃっとゆがんで、快人達を飲み込んだ。

 

「嘘だろぉぉっ!?」


 ダンジョンで何かに吸い込まれたり飲み込まれたりするケース多いなと思いつつ、快人はダンジョンに飲み込まれていった。


――――――――――――――――――――


「いてて・・・ノア!ルー!」


「大丈夫だよ。」


「ルゥ♪」


 どうやらノアもルーも無事なようだったので、快人は安心する。


「つーか、暗いな・・・って、ルーなんか光ってない?」


「ルーはそもそも光ってるよ、明るいところだとほぼわかんないけどね。」


 今更、知ったルーの生態に快人は少し驚く。

 さっきまで明るく幻想的だったダンジョンが、暗い墓地のようなダンジョンへと変貌していた。


「ダンジョンオーバーってこんなに変わるものなのか?」


「イービルが出現するようになってたのはダンジョンオーバーの兆候だったのかもね。」


「というかインプみたいなのもいるな・・・」


 悪魔系Dランクモンスターのインプの姿を確認して、快人は顔をしかめる。

 これで確実にDランク以上になっていることは確定である。

 悪魔系Cランクモンスターの代表格デーモンがもし、ボス部屋以外にいた場合はC

ランクで確定である。


「これ大丈夫なのか・・・?」


「かなりまずいかもね。まぁ、快人にはボクがいるから大丈夫だけど。」


「ありがとう、いろいろ助かってるよ。」


「ふふん♪」


 危険地帯になったにもかかわらず、ご機嫌な様子のノアに快人は苦笑する。


「それで、デーモンはいないよな?」


「今のところ、見える範囲ではいないよ。」


「見えない範囲も感知できないか?」


「できるけど、どれも小さい反応であんまり分かんないかな。」


 どうやら、ノアにとってはどのモンスターもただの雑魚扱いのようだった。

 DとCって結構違うと思うんだけどな・・・と少し遠い目をする快人。

 だが、それだけ安全なのだ、とポジティブに考え、気を取り直した。


「とりあえず、行ってみるか・・・あ、そうだ!ピクシーは?」


「ルゥ・・・」


「ダンジョンオーバーと同時に消えたか・・・こんなことだったら契約しておけばよかったな。」


 ダンジョンオーバーの時は元のモンスターは全部消えることが多い。

 契約してしまえば、そのルールの対象外になるが、今回の場合は契約なんて考えてもいなかった。


「快人、気づいてないの?」


「え?」


「契約してるよ?いや、契約というより宿主みたいなものなのかもしれないけど。」


 ノアが指さしたところを見ると、快人の右手の人差し指に契約印がいつの間にか刻まれている。


「え?契約の儀式してないのに、契約してるのか?」


「仮契約みたいなものだろうけどね。」


「なら、出てこい!ピクシー!」


 快人が呼び出しを行うと、キラッと光り、ピクシーが現れた。


「おぉ・・・そうだ。きちんと契約しておかないとな。いいか?」


 こくっとピクシーがうなずく。


「【契約コントラクト】『甲、立川快人は、代償に右人差し指をささげ、乙、ピクシーに主従契約を求む。』」


 再び、こくっとピクシーがうなずく。


「『ここに契約はなった。証として、甲は右人差し指に、乙は魂に、印を刻む。』」


 キラッと先ほどまでうっすらとしか刻まれていなかった人差し指の刻印の光が濃くなる。

 ちゃんと契約できたという証だった。


「よろしくな、ピクシー。」


 ピクシーはうなずくと、快人の肩にのり、体を快人の頬に摺り寄せた。


「よし、行くか。」


「あ、ちょっと待って。」


「ん?」


 ノアは快人の肩に乗っているピクシーの頭に人差し指をくっつける。

 少しの間だけ、2人ともそのまま静かに止まっていた。


「・・・いろいろ分かったよ。ピクシーに教えてもらったから。」


「うん?」


「いつも快人とやってる念話の応用みたいなものだよ。それで意思疎通したんだけど・・・どうやら、妖精の通り道自体は残ってるみたいだね。」


「まじか!?」


 それがあるなら大幅に時間短縮できるぞ、と喜ぶ快人。

 だが、ノアの言葉にはまだ続きがあった。


「ただ、妖精の通り道の場所、モンスターの反応が大量にあるんだよね。」


「モンスターボックスか・・・」


「妖精の通り道がモンスターが湧くスポットなのかもね。」


「なるほどな・・・、危険そうだから、帰るか。これでクリアすると面倒なことに巻き込まれそうだ。」


「それもそうかもね。帰ろうか。」


「出口・・・というか入口の方向は?」


「多分、あっちじゃないかな。」


 ノアの案内を受けて、快人達は無事、ダンジョンから抜け出すことに成功する。

 この後、このダンジョンに調査団が入るのだが、悪魔系Bランクモンスターのガーゴイルが確認されたため、Bランクダンジョンに認定された。

 ただ、ダンジョンボスは不明である。

 なぜなら、ダンジョンボスに挑んだ調査団のメンバーがそのまま帰ってこず、死亡認定されたからだった。

 これに関しては極秘の情報である。

 そういった理由もあって、このダンジョンは悪魔系が出るという希少なダンジョンでありながらも、封鎖されることとなったのだった。


――――――――――――――――――――


快人「まさかダンジョンオーバーに巻き込まれるとはなぁ・・・」


作者「不運な巻き込まれ体質は主人公なら標準仕様!」


快人「お前のせいか!」


ノア「やっちゃう?」


作者「やめて!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る