第9話 ギルドマスターと違反

「来たぞ。さっさと見せろ。」


 少し不機嫌な様子で現れた男性。

 ここのギルドマスターだった。


「あ、はい。これです。」


 職員は快人の契約モンスターの情報が表示された端末をギルドマスターに渡す。

 ギルドマスターはそれをひったくるかのようにとると、すぐさま中身を確認した。


(ホワイトドラゴンに似た新種のドラゴンの幼体・・・ブレスの威力は3100ちょいでBランクで言えば、中の下くらいか。成長に時間がかかる代わりに、成体になると異様に強くなるドラゴン系で考えると、成体時はSランクも余裕でありえるな・・・)


 ギルドマスターは確かにこれは平職員の手には負えねぇな、と内心でうなずく。

 いくら契約に運が作用するとはいえ、まだガキにこれほどの力を持たせるのはよくねぇ、とも考えていた。


(契約を解除させて、誰か適合者を探すか?いや、ドラゴン系はプライドが高いと聞くから、厳しいか・・・だが、この強さのモンスターは捨てがたい・・・)


 そもそも快人が契約解除に応じるのかどうかすら考えずに、一方的な事情を押し付けようと考えているギルドマスター。


「あの~・・・」


「あぁ?なんだ?」


 声をかけてきた快人をギルドマスターは思考を邪魔された怒りから睨む。

 が、快人はノアの威圧を食らったことで、威圧に対する耐性がついたので、ギルドマスターの睨みなんて、大して怖くもなかった。


「で、俺はどうすればいいんですかね?」


「あー・・・お前の名前は?」


「立川快人ですけど。」


 ギルドマスターは今更、ドラゴンと契約した契約士の名前を知り、手元の端末で調べる。


(立川快人・・・あぁ、こいつかよ。契約ダンジョンでなぜか襲われる契約士ってことで、一時期騒がれてたな。あれはいい迷惑だった。)


 契約したやつがある意味有名ではあるが、出来損ないの部類であると知ったギルドマスターはにやりと笑った。


「あぁ・・・じゃあ、立川快人。そのモンスターをギルドに渡せ。」


「ちょっ!?ギルマス、それは・・・」


「は?」


 職員が驚き、快人が戸惑うのも無理もない。

 契約モンスターを渡せなど、マナー違反もいいところだ。

 確かに、モンスターを渡したり、交換したりするケースもないことはないが、それは、引退する契約士が後輩に継承させたり、相性が悪いにもかかわらず契約できてしまったがうまく扱うことができない場合に他の欲しがっている人と交換するというケースである。

 そもそも、契約には好感度のようなものもあるので、単純に渡す・交換するといかないものでもあった。


「あ、聞こえなかったのか?そのモンスターをギルドに渡せ。」


「嫌ですけど。」


 そりゃそうである。

 初めて(正確には初めてではないのだが)契約できたモンスターを誰が渡すだろうか。

 それも今後強くなることが確定であるにもかかわらず。

 だが、ギルドマスターは断られると思っていなかったので不機嫌になる。


「いいから、渡せって言ってんだよ。」


「嫌ですけど。そもそも違反ですよね、それ。」


「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ。どうせ、出来損ないの『なんちゃって契約士』なんだろ?お前がそんな強いモンスターと契約してても、無駄なんだよ。」


「は?ふざけてんのか、あんた。」


 快人はピキッとこめかみに青筋が立つ。

 『なんちゃって契約士』は蔑称であり、快人にとっても嫌な記憶しかない呼び方である。

 ただ、ギルドも契約できない契約士がそういった扱いをされていることを知られると契約士の適性を持っているにもかかわらず、契約士になろうとする人が減ってしまうため、表立っては『なんちゃって契約士』という二つ名は呼ばないようにしていたのだ。


「大人を舐めてんのか?いいから、渡せ。あぁ、タダで渡すのは嫌ってか?別のモンスター・・・はお前は無理なのか。じゃあ、金か?数千万でも渡せば十分か?」


「そういう話じゃないだろ!1億でも1兆でも持ってきたとしても誰が渡すか!」


 ギルドマスターは面倒そうに、金をやるから渡せというが、快人はそれにキレる。

 当たり前だ。

 最初に契約したモンスターを相棒とする人も多い。

 ゴブリンなどの弱いモンスターではなく、最初から強めのモンスターと契約できた人は、なるべく最初の契約モンスターを育てると言った感じだった。

 中にはゴブリンでも最初に契約したモンスターなのだからとゴブリンキング(Bランクモンスターでゴブリンの最上位固体)まで育てる人もいたほどだった。


「そうですよ、ギルマス!さすがにモンスターの強制譲渡はまずいですって!」


 その場にいた職員も雲行きが怪しくなったことを悟り、慌てて介入する。

 いくら新種かつ強力なモンスターといえど、それをギルドが強制的に奪おうとしたのがバレたら、大問題だ。

 それこそ、契約士ギルドに契約したモンスターを報告しなくなり、新種のモンスターの情報も入らなくなるし、誰がどんなモンスターを持っているか把握できなくなるので問題がいろいろと発生するようになってしまう。


(というか、私が対応した契約士なんだから、絶対私も巻き込まれる!モンスターの強制譲渡とかやばすぎだから!)


 ギルドのことよりも、わが身可愛さに職員は苦言を呈しているようだが。


「うるせぇ!いいから、渡せって言ってんだろうが!」


「誰が渡すか!俺は帰るぞ!」


 快人は埒が明かないと、ルーを契約印の中に戻し、出口に向かう。

 ギルドマスターはそれを見て、快人を捕まえようとした。


「あ!くそ、待て!」


「ギルマス!ストップ!」


「あ、こら!放せ!」


「だからダメですって!さすがにそれはまずいです!」


 だが、それは職員に阻止される。

 ギルドマスターは後ろから羽交い絞めにされ、振り払おうとするも、職員ががっしりと抱えているため、振りほどくことができない。


「くそ・・・このゴリラ女め!」


「あ!言いましたね!気にしてることを!」


 どうやら、女性職員は怪力のようである。

 まぁ、そんなこんなでバタバタしているギルドマスターと職員を放置して、快人は部屋から出ると、帰るためにギルドの出入り口の方へと向かった。


――――――――――――――――――――


女性職員「こら!暴れないでください!」


ギルマス「放せ!くそ、なんてパワーだ!」


女性職員「誰がスーパーゴリラウーマンですか!」


ギルマス「そこまで言ってねぇ!?」


女性職員「お仕置きです!えいや!」


ギルマス「うぐっ・・・(し、死ぬ!)」


女性職員「これならどうです!」


ギルマス「ベシベシ!(ギルマスの首をしめる女性職員の腕を叩く音)」


女性職員「痛っ!乙女の柔肌を叩くなんて!ふんっ!」


ギルマス「ぐぺ・・・ドサッ(ギルマスが気絶して倒れる音)」


女性職員「これでよし・・・あれやりすぎかも・・・?まぁ大丈夫ですよね?とりあえず、呼びにいかないと!」

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