第4話 痛み

「あぁぁぁっ!」


(痛い痛い痛いっ!)


 突然の現象に呆然としていた快人だが、マヒしていた感覚はすぐに戻り、腕を失った激痛を味わうことになる。

 あまりの痛みにのたうち回る快人。

 契約の代償による傷は通常よりも痛いとは聞いていたが、ここまでだとは快人も思っていなかった。

 その様子を見て、ノアは快人の傍に近寄り、快人を抑え込む。

 そして、ガリッとノアは自分の指を噛んで、血をタラッと快人の腕の傷口に垂らした。


「痛・・・くない?」


「大丈夫、すぐに生えるよ。」


 痛みが消え、快人はなくなった腕を見ていると、ズリュッとどこかのアニメの怪人にありそうな回復方法で腕が元に戻った。


「うわっ!?」


「これで分かったよね?ボクと契約するには腕だと代償が軽すぎるんだよ。最低でも体全部か魂。でも、他のモンスターとも契約したいでしょ?だから、魂を指定したんだよ。」


「そういうことだったのか・・・でも、魂はなぁ・・・。」


「まぁ、ボクがもしも死ぬような場所なら、君も即死してるけどね。だから、命の心配については気にしないでいいよ。ただ、命令に関してはやっぱりボクも君のことをあまり知らないからなぁ。ほら、ボクも犯されたくないし。」


「誰が犯すか!?」


 なんて不名誉なことを言いやがる!?と快人は叫ぶ。

 確かに、ノアは美少女ではあったが、命令で無理矢理犯そうとするほど、下半身直結な考え方はしていなかった。

 契約士の中には、そういった人もいるとは聞いたことはあったが。


「で、どうする?君のことは少しは気に入ったから、契約しなくてもここから出してあげるよ。」


「・・・なぁ。」


「何かな?」


「ノアは強いのか・・・?」


 そう聞くと、ノアはキョトンとした表情で快人のことを見る。

 しばらくそうしていると、いきなり笑い出した。


「ぷっ・・・あはははははっ!安心して、ボクは強いよ。ボクが勝てない相手がいるなら、そもそもカイトはすぐに死んじゃうよ。」


「そうか・・・なら、頼む。」


「うん、ボクもカイトのことを気に入ったよ。もしもこれで気に入らなかったら、契約を受けなかったんだけどね。」


「え?受けるって言ってたの嘘だったのか!?」


「気に入らない相手だったら一方的に破棄してたってだけだよ。」


「なにそれ・・・もっと怖いじゃん・・・。」


 快人は自身が契約する相手のやばさを再認識する。

 Sランク?

 否、SSですら足りない、下手すればSSSランクにも匹敵する存在だということに。


「ならいくぞ。【契約コントラクト】『甲、立川快人は、代償に魂をささげ、乙、ノアに主従契約を求む。』」


「今度こそ、受けるよ。」


「『ここに契約はなった。証として、双方の魂に印を刻む。』」


 ドクンッと、心臓ではない別のどこかに何かが刻まれたのを快人は感じた。

 これで契約は終了だ。


「これから、よろしく、ノア。」


「うん、よろしく、そして、バイバイ、カイト。」


「は?うっ・・・がぁぁぁぁぁっ!」


 ノアが別れを告げた瞬間、快人は突然、胸の付近に激痛を感じ出した。


「な、何を・・・ぐあぁぁぁぁっ!」


「何って・・・カイトを龍に変えるのさ。ボクの眷属のね。」


「あぁぁぁぁっ!!」


「安心してよ。カイトを守るためだよ。龍になれば寿命も延びるし、代償としての価値も上がる。それに何より強くなるから死ににくくなる。まぁ・・・人としての意識がなくなるとは思うけどね。」


(そんなの・・・死んだも・・・同然じゃないか!)


「うあぁぁぁぁっ!」


 文句を言おうにも、あまりの激痛に快人は叫ぶことしかできない。

 胸の付近が痛く、ただただかきむしる。

 胸に爪がめり込む、指がめり込む。

 だが、そんな痛みよりもはるかに何かが変わっていく痛みの方が強かった。


「がぁぁぁぁぁっ!」


「・・・なかなか、龍にならないね。」


「ぐぁぁぁっ!」


 激痛は5分以上続き、快人は龍になる気配がなかった。

 ノアは混乱していた。

 人が龍になるまでは、時間がかかればかかるほど、強力な龍になる。

 だが、5分以上経った今でもなお、龍の要素が表に出てきていない。

 どう考えても異常事態だった。


「どうなってるのかな・・・?」


 龍への変質が始まってから30分が経っても、快人は未だに龍の要素が表に出てきていない。

 ただ、一部分龍への変質といえるのか、快人が自身でかきむしって傷ついた部分がほぼ一瞬で治癒していた。

 そして、叫んでいた快人は何かが自分の中でパキッと割れる感覚がした。


「が・・・ぐががががががががががっ!」


 まるで壊れたラジカセのように悲鳴を上げると、快人の意識は暗転した。

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