第3話 契約の代償
「痛っ!?」
空中に現れた門がガバッと開くと、中から出てきたのは、先ほど、Fランクダンジョンでボス部屋の門に吸い込まれた少年の快人だった。
ぽーいと放り出され、快人は尻から地面へと落ちる。
「いて~。」
さすさすと快人は打った尻を撫でつつ、周りを確認して絶句した。
「なんだ、ここ・・・」
快人がいる場所、そこはまるで夜空の中にいるような場所だった。
黒い空間に星のようにキラキラと輝く何かが周りにちりばめられている。
360度、どの方向を見ても、似たような景色だが、どうやら足場自体はあるようだった。
「珍しいね。人間かな?」
「っ!?」
快人は声をした方向を振り向くが、そこには誰もいない。
幻聴だったのかと思って、首をかしげていると再び声がした。
「ごめんごめん。見えないことを忘れてたよ。すぐに見えるようにするから。」
そういうと、周りに散らばめられていた光が快人の目の前に集まると人型の姿をとり、光がふっと周りに拡散し、辺りを明るく照らす。
「・・・。」
「や。はじめましてでいいかな?」
光が集まっていた場所に現れたのは、絶世の美少女だ。
長い艶やかな黒髪に、何もかもを見透かすような金色の瞳、肌は白く、プロポーションも抜群で、日本人と外国人のハーフのような姿をしていた。
ただ、少女が人間でないことは快人にもすぐわかる。
なぜなら、少女は額の両端辺りから、黒い角を生やしていたからだった。
「あ、あんた誰だ?」
「ボク?ボクの名前は、ノアだよ。それで、君の名前は?」
「俺は・・・立川快人だ。」
「カイト・・・カイトかぁ・・・いい名前だね!」
にっこりとノアは快人に笑いかける。
快人はその笑みを見て、少し照れたような表情をした。
「カイトは・・・どうやってここに来たの?」
「分からない。さっきまでFランクダンジョンのボス部屋前にいたのに・・・」
「なるほどね・・・。」
「そうだ!ここから出る方法を知らないか!?」
この際、人であろうとなかろうと、会話はできるのだから、問題ないだろうと、快人は尋ねる。
決して、ノアが美少女だったからではない・・・はずだ。
「ん~、教えてあげてもいいよ?」
「本当か!?」
ずいっと快人はノアへと近寄る。
訳の分からない状況だが、助かる手段があることに快人はほっとしていた。
「ただし!ボクと契約してもらおうかな。」
「契約・・・?」
「ふふっ、君は契約士でしょ?甚だ遺憾だけど、ボクもモンスターみたいなものだからね。」
「いいのか・・・!?」
ノアのようなモンスターは人型種と呼ばれる。
基本的に同系統のモンスター、つまり亜人系なら亜人系、魔獣系なら魔獣系で比べる場合、人に近い姿をしており知性があるモンスター程強いのだ。
ノアは人間とほぼ変わらぬ姿、それに人間とほぼ変わらぬ知性を持つ存在、最低でもAランク、うまくいけばSランクにも匹敵するのではないか、と快人は考えていた。
「もちろん、いいよ。ただ、捧げてもらう代償は魂をお願いするね。」
「え・・・?いやいや、それは無理だ!」
契約士の常識なのだが、モンスターと契約する場合、一方的に契約できるわけではない。
契約する場合に、何かしらの自分の一部を代償としなければいけないのだ。
貴重な物を契約に使用して、代償を軽くすることはできるが、必ず体の一部を代償にささげなければいけないことには変わりない。
ただ、代償と言っても、契約と同時に喪失するわけではない。
代償が払われるのは、契約を解除するとき、あるいは、契約していたモンスターが死亡したときだ。
例えば、腕を代償としたとする。
もしも、戦っていて、契約していたモンスターが死亡した場合、腕がはじけ飛んでしまう。
ただ、腕とかならば、回復系統の魔法を使えるモンスターやアイテムを使えば、問題なく治る。
その場合、そうやって治した回数により腕の代償としての価値が下がるのだが、それは今はおいておくとして。
ノアが言った魂の代償はかなり例外的だ。
実際に物理的に存在しているものではないのだが、契約の代償としてはもっとも価値が高いものだ。
例外と言ったのは、魂の代償の場合、モンスター側から契約士にある程度影響力を持ってしまう。
つまり、モンスターに命令することが不可能になるという点だ。
元々、例えば、自殺しろといった滅茶苦茶な命令は拒否できるが、戦えといった命令に逆らうことはできない。
ただ、魂を代償とした場合は、契約士本人の命を守りさえすれば、命令を完全無視していいという状況になる。
「ん~、でもなぁ、魂じゃないと難しいと思うんだよね。」
「いやいや、でもなぁ・・・もしかして、ノアは悪魔なのか・・・?」
「失礼だね。あんなのと一緒にしないでほしいよ。」
快人は失言をしたと気づく。
ノアのことを悪魔だと疑った瞬間、ノアが冷たい眼差しで、快人のことを見た。
(体が・・・うごか・・・ない・・・)
「あぁ・・・ごめんよ。ただ、これだけは言っておくけど。ボクは悪魔じゃないから。」
ふっと視線が緩み、快人は体が動くようになり、大きく息を吐く。
快人はじっとりと冷や汗をかいていた。
ノアがどう考えても、A程度の存在ではないということが分かったからだ。
快人はなんちゃってではあるが、2年も契約士をやっている以上、ある程度、知り合いも多い。
その中にはAランクモンスターと契約している者もいた。
それに実際に見せてもらった経験もあるが、ノアほどの威圧感は一切なかった。
ノアは快人の様子を見て、安心させるかのようにほほ笑む。
「疑うなら、腕を代償にして、契約をしてみるといいよ。多分、ボクが言っている意味が分かるから。」
「分かった・・・【
「受けるよ。」
「『ここに契約は・・・っ!?」
契約の儀式が完了する前に快人の腕がまるで風船が割れるかのようにはじけ飛び、快人の全身にびしゃっと血が飛び散る。
快人は目の前の光景に呆然としていた。
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