第5話  5 「か~し~て~」,「いいよ」

5 「か~し~て~」,「いいよ」


 日常の保育園活動の始まりだ。花恋先生は人の名前を覚えるのがとっても苦手だった。子ども達は,個人情報や安全性を考えて名札を付けていない。そして,先生方も首から名前の書いてあるカードを下げると子どもとの対応で危険とのことから,花恋先生は,花園園長先生,主任の百花先生,そして,布団の上げ下ろしで注意された保育補助に付いてくれる蜂上先生,入学式の時に分かった理事長ぐらいしか,はっきりとわからない。顔はわかっても名前が・・・・・・・・・・・・・。


 クラスでは弘君と太子君,苺ちゃんをすぐに覚えた。


 最初の出来事が起きた。弘君と太子君が積木で遊んでいると苺ちゃんが二人の遊んでいる所に入ってきて置いてあった積木を手に持った。


「苺ちゃん,だめ!」


 弘君が苺ちゃんが手に持っている積木を,だめ!と言われて呆然としている苺ちゃんの手からとった。苺ちゃんは,また,置いてある積木を両手に持って走って逃げたのだ。弘君と太子君は取り戻そうと考えて苺ちゃんを追いかける。


 蜂上先生が走り回っている二人を捕まえて注意している。


「走ったらだめでしょ!苺ちゃん,お友達の使っているものをとってはだめ!他にもあるんだから,それをつかいなさい!苺ちゃんは勝手にとったから,二人は走って追いかけて,あぶないでしょ,気をつけて遊びなさい,もう,少しぐらい二人は苺ちゃんに貸してあげなさい!!担任の花恋先生,ほら,この子達に注意してよ」


 3人とも仕方なく,納得しない様子でだまっていた。


 花恋先生は考えた。弘君も太子君も家庭では自由に使えるから積木は自分のものって考えたのかな,苺ちゃんは,積木がほしいわけではなく,一緒に遊びたかったじゃないかな・・・・。


 花恋先生は苺ちゃんの手をつないで,弘君と太子君の積木遊びの所へ行った。


 花恋先生が太子君に聞いた。


「太子君,積木貸~し~て」


 花恋先生は,太子君が応える前に自分で言ったのだ。


「いいよ」


 苺ちゃんに積木を渡した。


 花恋先生は,今度は弘君に同じように言ってみた。


「つみき貸して」


 弘君は,花恋先生が言う前に口を開いた。


「だめ! 今,使っているから」


 花恋先生はにっこり笑って弘君に答えた。


「じゃあ,弘君,終わったら貸してね」


 花恋先生は苺ちゃんと立って去りました。


「苺ちゃん,積木1個では遊べないかな,じゃあ,先生,見てるから弘君と太子君の所へ行って,だまってとるんじゃなくて,貸してって言おうね」


 花恋先生は,今度は苺ちゃんの後ろについて行った。


「つみき,貸~し~て~」


「いいよ」


 積木を貸してあげたのは,弘君だった。さっきは,だめ!って言っていたけど,今度は,最初に,「いいよ」が言えた。そこで,花恋先生は,弘君に笑顔で言った。


「弘君,やさしいね」


 そばにいた太子君もすぐに苺ちゃんに答えた。


「いいよ」


 苺ちゃんは,にっこりとして両手に積木をもった。


「太子君もやさしいね,二人で遊ぶよりも,苺ちゃんと3人で遊んだ方が楽しいかも」


 花恋先生は,強制的に言わずに,二人に考えさせたのだ。


最初に,答えたのは弘君だった。


「うん,苺ちゃん,一緒に積木やろうよ」


 弘君が言い終わる前に,太子君も賛同した。


「3人の方が楽しいよ,苺ちゃん,ここ,すわって,あそぼー」


 仲良く3人で積木遊びを始めたのを花恋先生は見守っていた。


見守っている花恋先生を廊下から花園園長先生が優しく見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る