第3話 3 お人形の「花恋先生」
3 お人形の「花恋先生」
初日,クラスに近づくと幼児の声が聞こえる。ドアを開けると,園児は一斉にシーンとなった,と花恋先生は日記に書きたいところだが,実際はイスから離れている園児やすわっていても楽しそうに話している園児達,ほとんどの園児は花恋先生を意識していない。時々,つぶらな瞳で花恋先生を見てくる。
「こんにちは,今日からみなさんの・・・・・・・・,はいは~い,すわって,すわって,あっ,そこ隣の子の洋服を引っ張らないで,静かに,静かに!・・・だから,教室の回りを走らないで,すわって!」
(お父ちゃん,私を先生として見てくれません)
花恋先生がいくら注意しても園児の楽しそうな自由な活動は続いている。むしろ,花恋先生がかまってくれているのを楽しんでいるようだ。
「先生,怒ってる,ははははは~~~~」
「先生,おもしろい,はははは~~」
花恋先生は走っている子を捕まえて席にすわらせ,話をしている園児の所に行って話をするのをやめるように注意した。しかし,せっかくすわっても他の子の所に行っている間に,また席を離れて教室の回りを走り出す。
「全員!席にすわって!!!」
「先生,全員って,何?わかんない,ははははは~~~」
花恋先生は思い出した。言葉で幼児をうごかすのではなく,動機付けをすることを。そこで,専門学校で作った指人形を取り出した。専門学校の先生が園児は言葉だけでなく,視覚に訴えて話すと良いことを思い出したのだ。
「じゃ~ん,はい,お友達がみんなに会いにきたよ」
かばんの中から,自分を真似た「花恋人形」を取り出した。
「はい,みんな~,先生の手にみんなのお友達が来ているよ,ほら,かわいいでしょ~」
後ろに隠してあった指人形を前にだした。そして,指人形を動かして人形が話しているような動作をした。
「星組の良い子のみなさん,こんにちは~」
「こんにちは~」
(お父ちゃん,子どもの心をつかみました)
園児達が挨拶に応え,全員の視線が集中した。走っていた子はその場で聞いている。
「今日から,このクラスの担任になった花恋先生です,みなさん,声をだして先生の名前,花恋先生って言ってみてね,はい!」
「花恋先生~~~」
「みんな偉いね,ちゃんと言えたね,さあ,クイズです,花恋先生を好きになってくれるかな」
「好き~~~」
「花恋先生も,みんなのことが大好きです~~~」
わああああ~~~~~~~~~~(笑顔)
(お父ちゃん,私,保育士になって良かった)
「みんは,花恋先生の言うことをちゃんと聞いていい子になろうね」
「は~~~~~い」
園児の何人かが返事をしながら手をあげたら,他の園児も手をあげた。
「みんな,また,会おうね,バイバイ~」
「バイバイ~~」
花恋先生は,後ろに「花恋人形をやって手からはずし,園児に気付かれないようにかばんにしまった。そして,園児の方を左から右まで園児の顔を見た。アイコンタクトである。
笑顔いっぱいで,園児達に話す。
「花恋,せ,ん,せ,いは,みんが,だあああい好きです」
わあああああ~~~~~~い・・・・・・・・・・
「席を離れている子,お席がなくなったら大変,すわろうね」
走っていた子が席について花恋先生の顔を見る。
「まず,健康観察をします。・・・・・・・・・・・・・」
「先生,また,花恋先生お人形に会いたい~~・・・」
園児達は,もう一人の花恋先生,「花恋人形」を気にいったようです。
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