私だけのヒーロー~乙女心は命がけ~

菅田山鳩

第1話 乙女心は命がけ

「ぐぅわぁー。」

ボーン。

「チッ、とかげ男がやられたか。まぁ、よい、次はこうは行かないぞ。ヒーローども。」

不適な笑みを浮かべながら、女郎蜘蛛レディは姿を消した。

「待てっ、女郎蜘蛛レディ。」

「レッド、深追いは危険だ。とかげ男は倒したんだ。ひとまず帰ろう。」

冷静なブルー。

「そうだぜ。それに、腹減っちまったからな。」

食いしん坊のイエロー。

「お前はいつもそればっかりだな。けど、たしかに休息は必要だ。ひとまず基地へ戻ろう。」

リーダー気質のレッド。

突然現れた怪人たちから

この3人が世界を守っていた。



「スコーピオンデビル様、申し訳ございません。」

「女郎蜘蛛レディ、失敗は許さぬと言ったはずだピオン?」

「申し訳ございません。途中で邪魔が入りまして。」

「レッドとブルーのことかピオン?」

「そうです。イエローが一人でいるときを狙ったのですが、あいつらすぐに集まってきまして。」

「それで、手応えはどうピオン?」

「正直、なんとも。」

「そうか、ならば次はどの作戦で行くピオン?」

「それならば、すでに考えております。地獄のプレゼント作戦などどうでしょうか?」

「なるほど、あれを使うかピオン。あれならばイチコロだろうなピオン。」

「ふっふっふ、はっはっは。」

「ピッピッピ、ピッピッピ。」

「あのー、盛り上がってるところすみません。」

「なんだ?とかげ男。怪我はもう良いのかピオン?」

「はい。回復キットでだいぶ体は楽になりました。」

「すまなかったな、とかげ男、私がついておきながら。」

「いえ、私こそ女郎蜘蛛レディ様のお力になれず申し訳ございません。」

「謝ることはない。ただ、本当に申し訳ないが、次も手を貸してくれぬか?」

「ええ、もちろんです。ただ、失礼ながら、私からも作戦について一言よろしいでしょうか?」

「なんだ、言ってみろ。」

「地獄のプレゼントってなんですか?普通のプレゼントではダメなのですか?」

「な、なにを言っている?普通のプレゼント?そんなもので太刀打ちできるわけがないだろ。」

「そうだピオン。とかげ男。お前はまだ、地獄のプレゼントの恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだピオン。」

「あのー、この際はっきり言わせてもらいますが、怒らないでくださいね。」

「あぁ、もちろんだ。なんでも言ってみろ。」

「そうだピオン。なんでも言うピオン。」

「では、お言葉に甘えて。」

一呼吸おいて、とかげ男は言った。

「あんたらはなにもわかってない。」

スコーピオンデビルと女郎蜘蛛レディは、顔を見合わせて目を丸くした。

とかげ男はかまわず、続ける。

「好きな男へのアプローチで、プレゼントは、まぁ、わかります。けど、地獄のプレゼントはない。あんな、グロテスクで気色の悪いものもらって誰が喜ぶねん。怪人の俺でもやだわ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あれは、グロテスクで気色が悪いのか?」

「いや、その認識もなかったんかい。それはヤバイで。ほんま。」

「とかげ男、少し口の聞き方に気をつけろピオン。」

「いや、こんな機会滅多にないんで、とことん言わせてもらいます。」

急に真剣な表情に変わったとかげ男の気迫に、

スコーピオンデビルはたじろぐ。

「な、なにを言うというんだピオン。ちょ、ちょっと待ってくれ。心の準備がまだピオン。」

「ピオン、ピオンうるさいねん。あと、笑い方変だからやめたほうがいいっすよ。」

「キ、キサマ、なにを言っているかわかっているのかピオ、ゴホンッ。」

「やっぱり、気にしてるじゃないですか。」

「キサマー。女郎蜘蛛レディ、こいつの口を聞けなくしてやれ。」

「私も昔から思っていました。」

「なっ、なにを言っておる?」

「ピオン、ピオンって、キャラ作りエグいな。必死だなって、昔から思っていました。申し訳ございません。」


スコーピオンデビルは、いかにも偉そうな椅子から降り、部屋の隅で体育座りしている。

「とかげ男、プレゼントの話だが、もう少し詳しく聞かせてくれるか?」

「ええ、もちろん。まず、確認ですが、女郎蜘蛛レディ様はイエローと付き合いたいんですよね?」

「え?いや、付き合いたいって言うか~、それはまだ早いって言うか~。」

「キャラ、崩壊してますよ。」

「え?あ、ゴホンッ。イエローを我が手中に収めてやろう。」

「あー、めんどくさいんで、付き合いたいってことで良いですね?」

「仕方ない。お前がそこまでいうなら、そういうことにしといてやろう。」

「付き合うためには、まず、相手と親密になる必要があります。」

「ふっふっふ。舐めるでないぞ。そんなことは私もわかっている。その点は問題ない。これまで、何度も顔を合わせ、触れあってきた。」

「そのとき、イエローはどんな顔をしてましたか?」

「顔?熱い眼差しを向けていたと思うぞ。」

「なんか言ってましたか?」

「絶対に逃がさないって。もう~、なにを聞いてんのよ。」

「顔を赤くしている意味がわかりません。」

「ふっ、とかげ男もまだまだ経験が浅いな。絶対に逃がさない。つまり、一生一緒にいようってことだろ?これは、もう、言わせないでよ。告白ってやつでしょ。もう、バカッ。」

「あなたが上司でなければ、軽くビンタしてますよ。っていうか、なんでイエローなんですか?リーダーシップのあるレッドやクールなブルーならまだわかります。でも、イエロー、あいつはただの食いしん坊のデブですよ。」

「だ、だって、優しかったんだもん。」

「合格です。女郎蜘蛛レディ様が面食いでなくて安心しました。」

「さっきから、偉そうに言っているが、お前に何がわかるんだ?」

「わかります。はっきり言って、脈なしです。」

「脈なし?」

「付き合える可能性がゼロってことです。」

「ば、バカな。そんなはずはない。だって、絶対に逃がさないって。」

「珍しいケースですが、それは言葉そのままの意味です。」

「告白ではなかったと言うのか?」

「えぇ、間違いなく。」

「ど、どうすればいいのだ?頼む教えてくれ。」

「わかりました。私に任せてください。」



とかげ男、女郎蜘蛛レディは怪人ビルの4階、会議室へと移動した。

とかげ男がホワイトボードの前に立ち、女郎蜘蛛レディが席へと座る。

少し離れたところにスコーピオンデビルも座っている。

「えー、大事なことは3つです。」

そう言いながら、とかげ男はホワイトボードに

『男を落とすための3ポイント』

と書き込む。

「3つ?たった3つでいいのか?」

「そうです。この3つさえ押さえれば、イエローもイチコロです。」

「なるほど。詳しく聞かせてくれ。」

「わかりました。その3つとは、」

『①清潔感②ギャップ③気遣い』

「これです。」

ホワイトボードに書かれた3つのポイントを指差す。

「せいけつかん?ぎゃっぷ?きづかい?」

女郎蜘蛛レディはポカンとした顔をしている。

「大丈夫です。一つずつ説明します。まず、清潔感です。これは、主に見た目の話です。」

「見た目?それなら、問題ないだろう。この蜘蛛の顔を型どったマスク、蜘蛛の糸をイメージしたドレス。完璧ではないか。」

「0点です。清潔感の欠片もありません。清潔感とは真逆です。なんですか?そのほぼ裸体のコスチュームは?男はそういうのが好きですけど、付き合うってなったら話は別です。」

「そ、そういうものなのか。」

女郎蜘蛛レディは素早くメモを取る。

スコーピオンデビルもメモを取るのに必死だ。

「まず、肌の露出は最低限にしてください。上はラフなTシャツ、下はスカートがいいと思います。露出は押さえつつも、体のラインは少し出るくらいがちょうどいいです。」

「それでは、動きにくくて戦いにならないではないか。」

「まだそんなことを言っているんですか?はっきり言いますよ。戦いなんてもう、どうでもいいんです。女郎蜘蛛レディ様がイエローと付き合う。それさえ叶えば、世界征服なんてどうでもいいんです。」

「お前、そこまで私のことを。だ、だが、それでは、スコーピオンデビル様の野望が。」

「女郎蜘蛛レディよ、私のことは気にするな。自分の幸せだけを考えればよい。」

「わかりました。このご恩は決して忘れません。頑張ります。」

「では、次にキャップです。女郎蜘蛛レディ様の場合、強い女性というイメージを持たれていることでしょう。」

「当然だ。」

「そこで、ギャップを出すために、優しさを全面に出していきましょう。」

「この私がそんなこと出来るわけ…、いや、教えてくれ。」

「まず、強めの言葉はやめましょう。キサマ、お前、血祭り、この辺の言葉はNGです。」

「わ、わかった。努力する。」

「そして、ここで先程言ったプレゼントを使います。」

「プレゼントで優しさを?どうやって?」

「ハンカチです。」

「ハンカチ?」

「そうです。相手はヒーロー。怪我をすることも少なくないでしょう。そこで、傷の手当にと、ハンカチをプレゼントします。ハンカチは高価すぎず、重いと思われることもありません。しかも、日頃見るたびに女郎蜘蛛レディ様のことを思い出すことでしょう。」

「天才か。」

「さらには、次の気遣いのアピールにもなります。」

「神か。」

それからも、とかげ男による恋愛講座は

何日も続いた。



「最近、怪人たち全然現れないな。」

「油断するなよ、イエロー。」

「そうだぞ。奴ら、今頃どんな作戦を立てているかわからんぞ。」

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私だけのヒーロー~乙女心は命がけ~ 菅田山鳩 @yamabato-suda

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