私だけのヒーロー~乙女心は命がけ~
菅田山鳩
第1話 乙女心は命がけ
「ぐぅわぁー。」
ボーン。
「チッ、とかげ男がやられたか。まぁ、よい、次はこうは行かないぞ。ヒーローども。」
不適な笑みを浮かべながら、女郎蜘蛛レディは姿を消した。
「待てっ、女郎蜘蛛レディ。」
「レッド、深追いは危険だ。とかげ男は倒したんだ。ひとまず帰ろう。」
冷静なブルー。
「そうだぜ。それに、腹減っちまったからな。」
食いしん坊のイエロー。
「お前はいつもそればっかりだな。けど、たしかに休息は必要だ。ひとまず基地へ戻ろう。」
リーダー気質のレッド。
突然現れた怪人たちから
この3人が世界を守っていた。
*
「スコーピオンデビル様、申し訳ございません。」
「女郎蜘蛛レディ、失敗は許さぬと言ったはずだピオン?」
「申し訳ございません。途中で邪魔が入りまして。」
「レッドとブルーのことかピオン?」
「そうです。イエローが一人でいるときを狙ったのですが、あいつらすぐに集まってきまして。」
「それで、手応えはどうピオン?」
「正直、なんとも。」
「そうか、ならば次はどの作戦で行くピオン?」
「それならば、すでに考えております。地獄のプレゼント作戦などどうでしょうか?」
「なるほど、あれを使うかピオン。あれならばイチコロだろうなピオン。」
「ふっふっふ、はっはっは。」
「ピッピッピ、ピッピッピ。」
「あのー、盛り上がってるところすみません。」
「なんだ?とかげ男。怪我はもう良いのかピオン?」
「はい。回復キットでだいぶ体は楽になりました。」
「すまなかったな、とかげ男、私がついておきながら。」
「いえ、私こそ女郎蜘蛛レディ様のお力になれず申し訳ございません。」
「謝ることはない。ただ、本当に申し訳ないが、次も手を貸してくれぬか?」
「ええ、もちろんです。ただ、失礼ながら、私からも作戦について一言よろしいでしょうか?」
「なんだ、言ってみろ。」
「地獄のプレゼントってなんですか?普通のプレゼントではダメなのですか?」
「な、なにを言っている?普通のプレゼント?そんなもので太刀打ちできるわけがないだろ。」
「そうだピオン。とかげ男。お前はまだ、地獄のプレゼントの恐ろしさを知らないから、そんなことが言えるんだピオン。」
「あのー、この際はっきり言わせてもらいますが、怒らないでくださいね。」
「あぁ、もちろんだ。なんでも言ってみろ。」
「そうだピオン。なんでも言うピオン。」
「では、お言葉に甘えて。」
一呼吸おいて、とかげ男は言った。
「あんたらはなにもわかってない。」
スコーピオンデビルと女郎蜘蛛レディは、顔を見合わせて目を丸くした。
とかげ男はかまわず、続ける。
「好きな男へのアプローチで、プレゼントは、まぁ、わかります。けど、地獄のプレゼントはない。あんな、グロテスクで気色の悪いものもらって誰が喜ぶねん。怪人の俺でもやだわ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あれは、グロテスクで気色が悪いのか?」
「いや、その認識もなかったんかい。それはヤバイで。ほんま。」
「とかげ男、少し口の聞き方に気をつけろピオン。」
「いや、こんな機会滅多にないんで、とことん言わせてもらいます。」
急に真剣な表情に変わったとかげ男の気迫に、
スコーピオンデビルはたじろぐ。
「な、なにを言うというんだピオン。ちょ、ちょっと待ってくれ。心の準備がまだピオン。」
「ピオン、ピオンうるさいねん。あと、笑い方変だからやめたほうがいいっすよ。」
「キ、キサマ、なにを言っているかわかっているのかピオ、ゴホンッ。」
「やっぱり、気にしてるじゃないですか。」
「キサマー。女郎蜘蛛レディ、こいつの口を聞けなくしてやれ。」
「私も昔から思っていました。」
「なっ、なにを言っておる?」
「ピオン、ピオンって、キャラ作りエグいな。必死だなって、昔から思っていました。申し訳ございません。」
スコーピオンデビルは、いかにも偉そうな椅子から降り、部屋の隅で体育座りしている。
「とかげ男、プレゼントの話だが、もう少し詳しく聞かせてくれるか?」
「ええ、もちろん。まず、確認ですが、女郎蜘蛛レディ様はイエローと付き合いたいんですよね?」
「え?いや、付き合いたいって言うか~、それはまだ早いって言うか~。」
「キャラ、崩壊してますよ。」
「え?あ、ゴホンッ。イエローを我が手中に収めてやろう。」
「あー、めんどくさいんで、付き合いたいってことで良いですね?」
「仕方ない。お前がそこまでいうなら、そういうことにしといてやろう。」
「付き合うためには、まず、相手と親密になる必要があります。」
「ふっふっふ。舐めるでないぞ。そんなことは私もわかっている。その点は問題ない。これまで、何度も顔を合わせ、触れあってきた。」
「そのとき、イエローはどんな顔をしてましたか?」
「顔?熱い眼差しを向けていたと思うぞ。」
「なんか言ってましたか?」
「絶対に逃がさないって。もう~、なにを聞いてんのよ。」
「顔を赤くしている意味がわかりません。」
「ふっ、とかげ男もまだまだ経験が浅いな。絶対に逃がさない。つまり、一生一緒にいようってことだろ?これは、もう、言わせないでよ。告白ってやつでしょ。もう、バカッ。」
「あなたが上司でなければ、軽くビンタしてますよ。っていうか、なんでイエローなんですか?リーダーシップのあるレッドやクールなブルーならまだわかります。でも、イエロー、あいつはただの食いしん坊のデブですよ。」
「だ、だって、優しかったんだもん。」
「合格です。女郎蜘蛛レディ様が面食いでなくて安心しました。」
「さっきから、偉そうに言っているが、お前に何がわかるんだ?」
「わかります。はっきり言って、脈なしです。」
「脈なし?」
「付き合える可能性がゼロってことです。」
「ば、バカな。そんなはずはない。だって、絶対に逃がさないって。」
「珍しいケースですが、それは言葉そのままの意味です。」
「告白ではなかったと言うのか?」
「えぇ、間違いなく。」
「ど、どうすればいいのだ?頼む教えてくれ。」
「わかりました。私に任せてください。」
*
とかげ男、女郎蜘蛛レディは怪人ビルの4階、会議室へと移動した。
とかげ男がホワイトボードの前に立ち、女郎蜘蛛レディが席へと座る。
少し離れたところにスコーピオンデビルも座っている。
「えー、大事なことは3つです。」
そう言いながら、とかげ男はホワイトボードに
『男を落とすための3ポイント』
と書き込む。
「3つ?たった3つでいいのか?」
「そうです。この3つさえ押さえれば、イエローもイチコロです。」
「なるほど。詳しく聞かせてくれ。」
「わかりました。その3つとは、」
『①清潔感②ギャップ③気遣い』
「これです。」
ホワイトボードに書かれた3つのポイントを指差す。
「せいけつかん?ぎゃっぷ?きづかい?」
女郎蜘蛛レディはポカンとした顔をしている。
「大丈夫です。一つずつ説明します。まず、清潔感です。これは、主に見た目の話です。」
「見た目?それなら、問題ないだろう。この蜘蛛の顔を型どったマスク、蜘蛛の糸をイメージしたドレス。完璧ではないか。」
「0点です。清潔感の欠片もありません。清潔感とは真逆です。なんですか?そのほぼ裸体のコスチュームは?男はそういうのが好きですけど、付き合うってなったら話は別です。」
「そ、そういうものなのか。」
女郎蜘蛛レディは素早くメモを取る。
スコーピオンデビルもメモを取るのに必死だ。
「まず、肌の露出は最低限にしてください。上はラフなTシャツ、下はスカートがいいと思います。露出は押さえつつも、体のラインは少し出るくらいがちょうどいいです。」
「それでは、動きにくくて戦いにならないではないか。」
「まだそんなことを言っているんですか?はっきり言いますよ。戦いなんてもう、どうでもいいんです。女郎蜘蛛レディ様がイエローと付き合う。それさえ叶えば、世界征服なんてどうでもいいんです。」
「お前、そこまで私のことを。だ、だが、それでは、スコーピオンデビル様の野望が。」
「女郎蜘蛛レディよ、私のことは気にするな。自分の幸せだけを考えればよい。」
「わかりました。このご恩は決して忘れません。頑張ります。」
「では、次にキャップです。女郎蜘蛛レディ様の場合、強い女性というイメージを持たれていることでしょう。」
「当然だ。」
「そこで、ギャップを出すために、優しさを全面に出していきましょう。」
「この私がそんなこと出来るわけ…、いや、教えてくれ。」
「まず、強めの言葉はやめましょう。キサマ、お前、血祭り、この辺の言葉はNGです。」
「わ、わかった。努力する。」
「そして、ここで先程言ったプレゼントを使います。」
「プレゼントで優しさを?どうやって?」
「ハンカチです。」
「ハンカチ?」
「そうです。相手はヒーロー。怪我をすることも少なくないでしょう。そこで、傷の手当にと、ハンカチをプレゼントします。ハンカチは高価すぎず、重いと思われることもありません。しかも、日頃見るたびに女郎蜘蛛レディ様のことを思い出すことでしょう。」
「天才か。」
「さらには、次の気遣いのアピールにもなります。」
「神か。」
それからも、とかげ男による恋愛講座は
何日も続いた。
*
「最近、怪人たち全然現れないな。」
「油断するなよ、イエロー。」
「そうだぞ。奴ら、今頃どんな作戦を立てているかわからんぞ。」
私だけのヒーロー~乙女心は命がけ~ 菅田山鳩 @yamabato-suda
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