あとがき
それからどうなったか?
馬鹿かあんた。
ライトノベルじゃねえんだから、宇乃美とおれが結婚するオチなんてあるわけねーだろ。そんなの天文学的確率だぜ。
何にしろ人生にオチなんてねーんだよ。もしあるとしたらそれは死ぬ瞬間。大抵は、最後に都合よくまとめて、それっぽい言葉で補ったってだけだよ。ちなみに、おれとの会合を終えた宇乃美は笑顔のままどこかにいっちまったぜ。
最初の最初から、最後の最後まで気持ち悪い奴だった。
あーあ気持ち悪ぃ。
ひっどい読後感じゃねーか。
どこの小説だよ。舞城王太郎かよ。
しかも最後なんて、探偵がトリックについてつらつらと喋ってるワンシーンみてーだったし。もしこの状況を小説化したら、鍵括弧を上だけつけて、一人で喋ってる描写にするんだろうな。
ははは。だっせえ。
この話にこれからなんてのは、何度も言うけどない。とりあえずそういうことがあった、それでおしまい、死んだ人が生き返らないのと同じで、何を悩んでもこればっかりはどうしようもねー。
教訓? 知らねーよ。
全ての物語が寓話性を孕んでるわけじゃねーんだ。もしかしたら宇乃美が冗談を言ってたとか、或いは本当に宇宙の使者とかそういうものだったのかもしれない。からかって冷かしていたのかもしれない。
だがよ。結局あいつがいなくなった後に軽くそのDVDレンタル場あたりを散策してみたんだが、ほとんど全部の並び方が気味悪くなっててよ。
何をしたのかは知らねーが迷惑な奴だったんだよ。
宇乃美って。
気持ち悪くて、変人で、奇人で、他人に平気で迷惑をかける。
どう考えても最悪な奴って以外の評価は不可能っぽいな、あんたの顔をみてるとよ。こんなことで評価は覆るとは思えねーが、見つからなかった四巻だが、最初に宇乃美と会ったときにおれの左隣にあったんだぜ。
そんなラッキーがあるわけねーから、きっと宇乃美が仕組んだんだろうな。え?おれが宇乃美に惚れてるんじゃないかって?
馬鹿いうなよ。
いくら接吻されたとはいえ、その程度で揺れ動くハートはもってねえっての。
男のおれが唇奪われた程度で動揺してちゃ恥ずかしいからな。
いつだって、おれの宇乃美に対する評価は一つだけだ。
あんたも、もし宇乃美に会う機会があったら「気持ち悪い」って言ってやれよ。きっと喜ぶぜ、あいつ。
痙攣的に美しい、全てを呑み込んでしまう、あいつは、きっとどこかでまた、世界を変えているんだろうぜ。
自分が変わるだけでなく、世界に変わってもらおう。
なるほど、その意味不明な思考回路を、あいつが『痙攣的』って読んでたのは、何となく伝わった。こうしておれの話は終わる。
つまんねーってか。
ああ、別に面白くしようとしてるわけじゃねえんだから、当たり前だろ。
そしてこの話にはちょっとした続きがある――その日から、そのレンタルビデオショップでの奇妙な『痙攣美』はなくなった。
おれに目撃されたってのもあるだろうが、宇乃美がそこまで拘泥する理由もないだろう。そしてその後、どんどん客足が減り、果てはそのショップ、潰れちまったんだよ。この一件に対して、こういう見方もできるわけだ、あいつが世界を変えていたお陰で、あのショップは繁盛していたんじゃないか、ってな。
ま、あくまでしょうもない、小説みたいな展開を嫌うおれの、わずかながらの譲歩って奴だ。
そして――おれはレンタルしに行く際は、また別の店にいかなければならなくなった。少し遠いが、その分前の店よりも大きく、品ぞろえもいい。
さて、その店にはどんな世界が展開しているのか。
わくわくして痙攣して、眠れないぜ。
(了)
痙攣的な美 小狸 @segen_gen
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