第6話 訳ありな者たち

「貴方の活躍を噂で聞いて。それで、すごい実力の持ち主だって!」

「私達も新人なの。それで新人の冒険者同士、きっと助け合えると思うの!」

「え、えーっと?」


 俺が疑問の表情を浮かべているのに気付いたのか、二人の少女たちが慌てた様子で誘った理由を答える。彼女たちの急な勢いに、疑問から戸惑いに変わる。


【突然のモテ期】

【さぁ早くパーティーを組もう】

【もういいじゃん】

【決めちゃえ】

【はやくはやく】


 コメント欄も盛り上がっているようだが、どうしようか。


 と言うか、俺の噂って商人を護衛した仕事についてだろうか。もう噂になっているなんて。ちょっと早すぎないか。まだ王都に来たばかりなのに。


 それから、同じ新人だということを強くアピールをしてくる彼女たち。どうしても仲間になりたい、という必死な感じで。


 先程、俺に聞こえないように小声で話していた内容については何も教えてくれないらしい。色々な疑問が頭に思い浮かんでくる。質問すれば、彼女たちは本当のことを答えてくれるだろうか。それは、分からない。


 何か隠している、訳ありな少女たちだ。


 普通の感覚ならば断っているだろう。なんだか怪しいし、受け入れるべきじゃないのは明らかだった。だが俺は配信者だった。面白そうな展開は、視聴者を楽しませるために必要だろう。


 可愛い女性を仲間にしておけば、配信を見に来てくれる視聴者の数も増えそうだ。俺は頷いた。


「わかった。その提案を受けよう。君たちの仲間になる」

「ほ、本当に?」

「そんなにあっさり決めて、いいの……?」


 仲間になると言うと、何故か彼女たちは困惑していた。まるで断られるだろうなと予想していたのに、俺が受け入れたのが意外だったみたいだ。


【やった! これから可愛い子たちが配信に登場するんですね!】

【ちょっと怪しくない?】

【これから常連になります】

【彼女たちの活躍が見たい】

【録画します】

【既に画像を保存済みです】

【やばいかも】

【嫌な予感がする】


 彼女たちと仲間になることを決めた結果、予想していた通りコメントが一気に盛り上がっていた。一部、俺と同じように不信感を抱いているようだけど。


 ただ、一度決めたんだから突っ走る。


「もちろん、本当だ」

「よ、よかった……」

「これで私達もッ……!」


 ものすごく喜ぶ彼女たち。まだ、パーティーを組むと決めただけなのに。やはり、何か隠しているのか。仲間になったから、本当のことを教えてくれる、なんてことはないだろうか。


 まぁ焦らずに、一緒に冒険者の活動をしていこう。必要になったら教えてくれると思って。たぶん。きっと。


「改めて、俺の名前はテオ。よろしくお願いします」

「あ、うん。私はマリーナ。それで、こっちが」

「モイラです。よろしくお願いします」


 元気そうな雰囲気の女の子がマリーナ。落ち着いた様子の少女がモイラという。


 俺が住んでいた村の少女たちと比べると、とても可愛い女の子たちだった。これは配信も盛り上がりそうだ。


【俺はマリーナちゃん派かな】

【元気な子が良いよね】

【色々と強そう】

【いやいやモイラちゃんでしょ】

【モイラちゃんの方が大きいもんね】

【柔らかそう】

【セクハラ禁止!】

【女の子は大人しい方が良いよ】

【元気な子のほうが一緒に居て楽しいだろ!】

【俺はどっちも好き】

【ズルっ!】

【そりゃどっちも選べるんなら両方選ぶでしょ】


 というか、既に盛り上がっていた。配信の情報画面を確認してみると、視聴者数が4,000千人を超えていた。過去最高の視聴者数を超えそうな数値。これは、配信結果のポイントが期待できそうだ。


 さて、これからどうするのか。パーティーを組んだということは、一緒に行動するのかな。そんなことを考えていると、マリーナが口を開いた。


「実は私達、この後に用事があって……。申し訳ないんだけれど、一旦ここで別行動ということで」

「あ、うん。俺も拠点にする宿を探すつもりだから。活動するのは明日から?」

「うーん、それでいいと思う」


【いきなり別行動か】

【俺も帰ります】

【今日は宿を探さないと】

【彼女たちが案内してくれないかな?】

【警戒されてる?】

【テオはまぁ色々と準備しないと】

【流石にね】


 ということで、仲間になってすぐに別行動するとこが決まった。出会ったばかりの男と、急にずっと一緒に過ごすなんてことは無いか。


 俺も、宿を探すために一人で行動したほうが気楽だった。彼女たちが街を案内してくれるのなら助かるけれど、用事があるのなら仕方ない。別行動を受け入れる。


 これで一旦、お別れか。と思ったら、まだ少し話があるらしい。再び、マリーナが口を開いた。


「それで、一つお願いがあって」

「なんだい?」


【お願い!】

【怪しい】

【叶えてあげよう】

【仲間なんだから!】

【いや危ないでしょ】


 お願い、という言葉で申し訳無さそうな表情を浮かべるマリーナ。やっぱり、何か裏があるというのか。まだ気を抜くべきじゃない。気を引き締めて、彼女たちの話は聞いてみるけれど。


「これ、受け取って」

「ん?」


【いきなり積極的!】

【プレゼント?】

【仲間になった記念?】

【薄汚い袋だけど】

【汚いとか言わない!】


 鼠色の袋を押し付けられた。なんだろうかと受け取り、中身を確認する。その袋の中には、そこそこの金が入っていた。いきなり出会ったばかりの男に預けるなんて、彼女たちは正気だろうか。


「え? お金!?」

「そうこれを仲間の君に預けるから、食料を調達しておいてほしいの」

「食料? どういうこと?」

「出来るだけ、そのお金で買い込んでおいて。遠出できるように」

「いきなり遠出?」

「もしかしたら、そういう依頼を受けるかもしれないから。準備しておきたいの」


【金?】

【資金?】

【どういうこと?】

【危ないぞ少女たち】

【テオが持ち逃げするぞ】

【持ち逃げしたらワンチャン炎上しそう】

【視聴者が見てるぞ! 悪いことはするな】

【かなり信頼されてるね】

【いやいや怪しいよ】

【試されてる?】


 どんどん怪しさが増していく。買い出しなら自分たちで行えばいいのに。こんな、お金を預けて行かせるなんて。持ち逃げされたら、終わりだろうに。


「お願い。預けたお金は全部使っていいから! 食料調達、任せたからッ!」

「よろしくお願いします」

「え、ちょっと待って二人とも。詳しい話を……って」


【足早】

【おつかいクエストが始まった】

【止まるつもりがなかったな】

【まるで何かから逃げるように】

【やばいお金?】

【運び屋にされたのかも】

【ということは彼女たちは犯罪者?】

【憶測で言うなよ】

【まだ確定していないから具体的に言わないほうが良い】


「うーん」


 呼び止めようとするが、無視して彼女たちは行ってしまった。明日の朝、また合流するつもりらしいけれど。


 しかし、妙なお願いだったな。仲間になると決めたからって、大切なお金を預けるなんて。普通ならありえない事態だろう。彼女たちの事情が分からない。


 コメントに書かれている通り、犯罪的な何かに巻き込まれている可能性もあるな。そうだった場合、逃げないと。


 もしかすると、これは俺を試そうとしているのか。この預けたお金を俺が持ち逃げしないかどうか、確認しようとしているのか。仲間にしても大丈夫かどうか見極めるために。


 色々と予想はあるけれど、事実は分からない。とりあえず、宿と食料の買い出しをしておくか。そして明日の朝、また事情を聞けば良い。彼女たちが本当のことを俺に話してくれるかどうか分からないけれど、少しは進展してくれれば良いな。

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