第5話 冒険者登録

「ここが冒険者ギルドの建物か」


 さすが王都だけあって、とても大きな街だった。冒険者ギルドの建物にたどり着くまでに少し時間が掛かったけれど、ようやく辿り着いた。


【立派な建物だ】

【冒険者を働かせて儲けてるんだろうな】

【ブラックかホワイトか】

【正義か悪か】

【見極めよう】


 いつものように配信中なので、冒険者ギルドの建物にカメラを向けて映してみた。コメント欄が盛り上がる。


 両開きの大きな扉を押して開き、一人で建物の中に入る。中には武装した者たちが居た。


 筋骨隆々の男に、魔法使いだとわかるような老人。それから、若い女性などなど。彼らは冒険者なのだろう。何人かチラッと、俺の姿を確認するような視線を感じる。何も反応しないでいると、すぐに視線は逸らされた。


【お決まりのように絡んでくる冒険者は居ないか?】

【揉めてほしい】

【そして勝ってほしいよ】


 コメント欄が勝手なことを言っている。当然、揉め事を起こすつもりなんて無い。向こうから絡んできたら、対応するけれど。配信的にも面白い展開。


 とりあえず、本日の目的である冒険者登録を済ませよう。この後、宿も探さないといけないから早く終わらせたいな。


 頭の中で今後の予定について考えながら、まっすぐに受付らしき場所へ向かった。美人の女性が座って待機していたので、そこが受付だろうと予想して。


「本日は、どういったご要件でしょうか?」

「冒険者登録しに来ました」

「かしこまりました。こちらの書類に氏名を記入して下さい」


 近づくと、向こうから話しかけてきた。カウンターを間に挟む位置で返事すると、慣れた様子で対応された。スムーズに会話が進んでいく。彼女の指示に従って、紙に名前を記入する。


【テスト?】

【まず名前を書けるかどうか】

【他に何かテストするのか】

【ギルドマスターが出てきて戦闘するのか】

【新人向けの任務を受けて試されるのかも】


 冒険者になるために必要な試験について、コメント欄が盛り上がっている。だが、登録するだけなら難しい試験は無いらしい。


 試験するのは、冒険者のグレードを上げたりする時だそうだ。


「登録料は、お持ちですか?」

「あります。ここに」


 旅の間に稼いだお金を取り出し、受付嬢に渡す。およそ1ヶ月分の食事代ぐらいの金額だ。なかなかの高額である。


【お金か】

【旅の間に稼いでたもんね】

【しかし高いな登録料】

【それでテストは?】

【もしかして登録は終わり?】

【えっ】

【もうテオは冒険者なのか?】


「はい。では、こちらのギルドカードをお受け取り下さい。失くした場合、再発行に手数料がかかりますのでご注意下さい」

「わかりました」


 それから簡単な注意事項を説明される。ちゃんと彼女の話を聞いて、覚えておく。10分ほどで冒険者の登録は完了した。予想していたよりも早く終わったな。これで俺も冒険者になれたらしい。簡単だったな。


 そんな感想を抱きながら、俺は冒険者ギルドの建物から出た。出てくる直前、また背中に視線を感じた。少し気になったが、それよりも先に俺は活動拠点にする宿屋を見つけ出さないと。この大きな街なら、それなりに満足できる宿屋があるはず。


【今日の泊まる宿は?】

【また野宿か】

【良さそうな宿を見つけてほしい】


「そうなんだよね。この街で冒険者の活動をして、ちゃんと経験を積みたいけど」


 しばらく王都に滞在して、冒険者活動する予定だった。なので、良さそうな宿屋を見つけたいんだけど。コメント欄と会話しながら、宿家探しを始めようとした。


 その時。


「あ、あのッ!」

「ん?」


 冒険者ギルドの建物から少し離れた場所で、背後から女の子の声が聞こえてきた。


 立ち止まって振り返ると、俺よりも少し年上ぐらいの少女が二人、俺の顔をジッと見てくる。


 一人は元気そうな少女。もう一人は、物静かそうな雰囲気の少女。


 見知らぬ少女たちだった。なんだか二人とも必死そうな顔をしている。何かワケがありそうだった。そして、俺を呼び止めたのは何故なのか。気になるな。


「さっき、冒険者登録していましたね?」

「え。あ……、うーん」


 元気そうな少女に、いきなり質問された。先程のやり取りを見られていたらしい。なにやら視線を感じると思ったら、彼女たちだったのかな。そして、冒険者登録した場面もバッチリ見られていたようだ。


 いきなり出会ったばかりの彼女たちに、答える義理はない。だが、見られていたのなら今更隠す必要もないかな。彼女たちは既に、俺が新人冒険者であることを知っているようだし。


 それに、配信的にも答えたほうが良さそうだと思った。面白いことが起きそうな、そんな予感があった。


「そうだけど。君たちは? 俺になんの用なの?」

「「……」」


 彼女たちの質問に答えて、俺からも聞いてみた。一体、どんな用があって俺を呼び止めたのか。


 俺の質問を聞いて、二人の少女は顔を見合わせる。それから小声で、二人は何かを話していた。俺には聞かれたくない内緒話のようだけど、わずかに聞こえてくる声。


……少しでも仲間は多いほうが……

……でも、新人だよ。巻き込んじゃ……

……私達、もう頼れる人が他には居ない……

……騙しちゃ悪いわ。正直に全て話してから……

……でも事情を聞いたら、逃げちゃうかも……


 二人は揉めている。まだ何の用事なのか聞いてもいないのにな。彼女たちの方から聞こえてくる話の内容から、俺を冒険者パーティーに誘おうとしているのだろうか。


 その予想は当たっていた。




「よかったら私達とパーティーを組んでくださいッ!」

「お願いします!」

「うん?」


 二人の内緒話が終わると、俺の方を向いた。そして少女たちは、俺に向かって頭を下げてお願いしてきた。


【仲間になろう!】

【当然だッ!】

【テオ、今度は選択肢を間違えるなよ】

【美少女の仲間キターーー!】

【絶対に逃すな】

【断るなよ! 絶対だぞ!】

【その提案を受けよう】

【新しい仲間ッ!】

【いいね!】

【裏がありそうだけど関係ないねッ!】

【仲間になるべき】

【もちろん!】


 美少女二人にパーティーを組んでくれと申し込まれる。コメントの書き込みが一気に増えて、視聴者の盛り上がりを感じる。今までにないくらい激しい盛り上がりを。

どうやら俺に、彼女たちの誘いを断るという選択肢は無いようだ。


 しかし、なんで新人冒険者である俺なのか?

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