目立たないが『普通』が好き

くすのきさくら

いつもの日常の中で――

ターミナル駅。 それは始発の駅。終点の駅どちらにでもなる大きな駅だ。

現在俺が居る駅は、4面5線のターミナル駅。

朝から晩までひっきりなしに電車が入ってきては、また旅立っていく。

この駅には短距離を走る電車から長距離を走る電車といろいろな電車がやってくる。

特に午前中には長距離列車が多く発車することもあり。休日となれば多くの人でにぎわう。


さらに今は、一日に一本だけのこの駅を出発する特別列車。観光列車の発車時間前なので、特急専用ホーム。主に四番、五番線なのだが。そこには多くの人が待っている。

カメラ。スマホを構えている人も多数いるし。待ち構えている子供たちの姿も多く見受けられる。


そうそう俺はというと1番線の隅に居る。

ちなみに俺の横には、発車を待つ各駅停車の電車が既に止まっている。朝のラッシュ時間が終わり。落ち着いた場とこちらはなっている。少し離れた特急専用ホームのような賑わいはない。子どもたちが集まって来ているということもない。


すると――この後隣のホームへと入ってくる中距離列車。急行に乗るのだろう。子ども連れの家族グループが歩いてきた。大きな荷物を持っているので――今からみんなで遊びに行くという感じだ。休日の午前中にはよく見る光景だ。


すると少しして――俺のところへとこんな会話が聞こえてきた。


――――。


「おいおい、やっべー。あっち見ろよ。テレビで言った電車入ってきたぞ。ほらほら」


一人の男の子がそんなことを観光列車の方を指差す。


「おっ、マジだ。ねえねえお父さん。写真撮りに行っていい?」


すると他の子も気が付いて、駅へと入線してくる観光列車を見つつ騒いでいる。


「ダメだダメだ。こっちの電車ももう入って来るからな」

「えー。ちょっとだけ」

「乗り遅れたら向こうで遊ぶ時間が短くなるぞ?」

「それは嫌だなー」

「おっ、すっげ。すげー、かっこいい。ここからでいいから写真とっとこ」

「あっ、俺も」

「僕この前あれ乗ったし」

「いいなー。お父さん。次はあれ乗ろうよ」

「機会があったらな。今は予約取るだけでも大変そうだからな」

「あっ。別の特急も入ってきた」


一人の男の子が言うと。先ほど到着した観光列車の手前のホームに、この鉄道では人気の車両の一つ。特急列車がホームへと入ってきた。スタイリッシュな先頭車両。ここからでは見えないが。車内も最近リニューアルしたことにより。人気がまた上昇中の特急車両だ。


「おお、俺あっちも好きだわ。うん。かっけー」

「えー、奥の電車の方がかっこいいだろ。色もいいしさ」

「いやいや、今入ってきた電車も色めっちゃ良いじゃん。俺あの色好きだし」

「他にも特急電車入ってこないのか?俺、白の電車見たいなー」

「あー、それも見たい見たい」

「おーい、みんな前の方に行くぞー」

「あー、もう少し」

「こっちの電車も入って来るぞー」


次々と特急列車が入って来るのもこの駅ならではだ。他の駅だと通過する駅が多く。なかなかゆっくり見るというのは難しいのでね。

まあ子どもたちが大騒ぎをすると、お父さんお母さんがちょっと大変そうだがね。


――――。


にしても、さすがは人気の車両だ。子どもたちの注目を一気に集めている。


実は――キミたちの後ろにも電車はずっと居るんだがね。俺はそんなことを思いつつ。


「――観光列車や特急には勝てないな。向こうはいつもお祭り騒ぎ。でもこっちはこっちで、長年故障することもなく。毎日多くの人を乗せて頑張ってるんだからな。うん。俺は毎日元気に走り続けているお前がすごいと思うぞ。かっこいいしな。それに俺がこの会社に入ったのもお前に乗りたくてだからな。俺が居る間は走り続けてくれよ。通勤車両さんよ」


俺は1人でつぶやきつつ。ポンポンと、この鉄道では主に各駅停車として長年走っている赤と白の車両に触れる。

先ほど子供たちが騒いでいた観光列車や特急列車と比べると――華やかさはないが。でもこの電車にはこの電車の良さがある。色は昔から変わらない伝統の色。そして落ち着いた雰囲気で、毎日朝から晩まで多くの人を乗せて行ったり来たりしている。それにこの電車が各駅でお客さんを乗せてきて――大きな駅で、急行電車。特急電車、観光列車へとお客さんを届けているので、この電車もすごいぞ。と、思うんだがね。

ちなみに俺は目立たないが、毎日頑張っているこの車両が昔から好きだ。などと思っていると――。


「—―こんなボロにありがとうございます。車掌さん」

「—―—―—―えっ?」


……今どこから声がした?うん?俺の周りにお客さんは――子供たちは――いつの間にか移動して行っているのでもう声が届く範囲にはいない……ってことは――えっ?えっ!?どこから?


「あっ。車掌さん。発車時間ですよ。時間時間」


また声が聞こえてきた――場所は……俺の真横から。

真横には――赤と白の電車のみだ。


「えっ……あっ―—――ああ……だな」


俺は誰に話しているかわからないまま慌てて車掌室へと入る。それと同時に駅の自動音声も流れ出して――


(一番線から各駅停車が発車します。黄色い線の――)


俺は戸惑いつつも車掌室へと入り窓から顔を出す。そして笛を口にする。


……突然電車の声が聞けるようになった俺の話というのは――また別の話だ。

これはとある日の駅の一コマだ。それだけだ。


ピィィィ――—―ピッ。



(おわり)

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