第16話 作戦会議【傲慢】

「作戦会議を始める」

「はい」

「はぁ……何で私の家でやるのよ」

 千都子の家で作戦会議が行うことになった。千都子と宝珠、俺を含めた六人だ。外には沢山のジョヤが待機している。

 ジョヤ達はパパラチアとラドスによって、納得させてまとめ上げてくれた。

そして、開始早々にパパラチアが手を挙げた。

 なんとなく彼女の言うことはわかるが、聞かなきゃぶった斬られるだろう。

「じゃあパパラチア」

「私が混孔羽以外のストアンをぶった斬るから、あなた達全員であいつを倒しなさい」

 うん、無視しよう。他の皆も同じように反応をしていた。

「えーとさ、混孔羽の『輝き』って武器なの?パパラチアちゃん」

「多分違うわね。でも、本気は出していたわよ。使ってはいるけど、私たちが気付いていないだけね。ヘマタイトはもうわかってるんでしょうけど」

 ヘマタイトは相変わらず、橙色の半透明な長方形に囚われている。無理矢理、箱をパパラチアが運んでくれた。家の扉は大破したが。

 彼女は出ることも、何か渡すこともできない。勿論、会話もできない。

 口を動かし『か・ら・だ』と伝えてくる。

「身体。もっと詳しく教えて欲しいけど、口パクじゃ限界があるからね。私たちが何としてでも、答えを出さないと駄目みたい」

 ラドスが橙の結界を軽く叩く。

「パパラチア、何か突っかかるところはないのか」

「あ、そうそう。なんで千都子はアレに傷をつけられたの」

「傷を付けたといっても、掠り傷です」

 周りが頭にはてなを浮かべている。パパラチアは小さくため息をした。ラドスが一番先に彼女の言っている本質に気がついた。

「そういうこと。パパラチアちゃんの攻撃を防げる相手が、千都子ちゃんの攻撃で傷が付くはずがないよね。聞いた話、私ぐらい硬いんでしょ」

「ラドスさんと同じぐらい硬いんですか。私、結構あのストアンにダメージ与えていましたよ。直ぐに治されちゃいますけど」

 確かに混孔羽はラドスと変わらないぐらい硬い。それに千都子が傷を付けれるはずがないのだ。

 しかし、それだけの情報では全く混孔羽の『輝き』はわからない。

「私の勘だけど、混孔羽の『輝き』は自分よりも強い又は同等の相手の攻撃を軽減する物ね。デメリットで自分よりも弱い相手からのダメージが増えるじゃないかしら」

「戦闘のことになると、パパラチアちゃんは頭が天才的に回るよね……。仕事も同じぐらいして欲しいよ」

 本当に戦闘になると彼女は天才レベルで頭が回る。

「本当です。お姉ちゃんは数字見るだけで資料を投げ捨てるから、それも片付けしないといけませんし。最近はヘマタイトさんが受け持ってくれるようになって」

「私は数字アレルギーなのよ!」

 ヘマタイトが受け持つ……。あの沢山の資料。水町。

「水町の貴族って、パパラチアだったのか。ずーと小学生みたいな文を書いて、俺がわざわざ新しい書類作って書き直してたあの町!」

「読めれば小学生みたいな文でも……」

「読めねーぞ」「読めません」「読めないよ」

 と三人同時に指摘して、パパラチアは壁の隅で蟻のように小さくなった。

「今パパラチアの仕事が杜撰なことを話しても意味がないから、それは後でにしよう」

「あなたも大概だけど、仕事はしっかりするからね。似た者同士」

 しっかりと自分に見合った武器を作ってくれるが、それが遅い。

「じゃあ、俺があいつと戦えばーー」

「『俺達』ですよね、ナテカさん」

 千都子の邪悪な笑みで押され、『ハイ』と答えた。

「問題は実力差がありすぎて、どうするかなんだ。二人が二人三脚で戦っても、相手の四肢を切断してギリギリ互角に行くかってところ」

 パパラチアなら頭だけで、俺たちに勝てるだろう。彼女が負けた相手だ、口だけでも俺達を殺せるだろう。

「俺が『片翼』で千都子にバフしても焼け石に水だよな。俺にも『片翼』を使えればな」

「使えた所で、学巳は魔法も輝きも使えないからね。バフできても、ストアンを素手で倒せるような化け物じゃないと無理だ」

 冷静に分析して翡翠が教えてくれる。パパラチアがため息をついて、頭をかきながら俺に話してくる。

「学巳、あんたには秤っていう武器があるでしょ」

 めんどくさそうに、そして教えたくなかったように話し始めた。

「これぇ?」

 自分の背からそれを取り出す。その秤を見つめる。

「はぁ……あんた、私に秤を命中させたとき違和感はなかったの?忘れているみたいだから一応言うけど、翡翠は必ず輝きを持った武器を創る狂人なのよ」

 俺は驚いて翡翠の方を見る。忘れていた、翡翠はパパラチアの料理並みに危ない宝珠の一人だった。

 翡翠は優しく笑って手を振っている。

「私が言わなかった理由は、その武器が不平等過ぎるからよ。それ相手に的中させると魔法や輝きをすべて無効化して、自分は魔法を使えるようになる武器ね」

 『それはないんじゃないか』と、言いそうになった。

 パパラチアが言うなら、その通りなのだろう。あまりにも不平等な武器で、秤とは思えない輝きだ。

「一気に希望が見えてきたね。じゃあそれを当てて」

「希望のない人が、いきなり武器を担いで来た。そしたら、あんたは警戒しないの」

 ごもっともである。簡単に言うが無理そうだ。

「空飛ぶ鮭を投げつけて隙を作れると思うよ。相手は魚好きなペンギンだし」

「人間を食べるペンギンなんだよなぁ」

 腕を組んで考え込んでいるところに、千都子が手を挙げた。

「学巳の案山子を作るというのはどうでしょうか?そういう道具ってないんですか。ほら、影武者とか作ったり」

 渡された魔道具の中にそのようなものは無い。あっても良さそうな物だが。

「ねえ翡翠、それ作れたりしないのかしら」

「僕は武器専門だから、人形や案山子なんて作れないよ」

 ケータイを武器として創る奴が言う台詞ではない。

「武器でもできそうじゃい?案山子っぽい槍とか」

「平常運転で無茶ぶりを言わないで。案山子と槍の共通点は長いぐらいだよ」

 翡翠は疲労し切った顔で、パパラチアの無茶ぶりに答えている。平常運転という事は、いつもあんな無茶を言っているのか。

 今度、どんな無茶ぶりされているか聞いてみよう。面白そうだ。

「俺から一つあるんだが、宝珠と千都子が戦っている最中に俺をワープさせてくれないか」

「その武器を私たち宝珠が持てばーー駄目そうだね」

 結界に閉じ込められているヘマタイトが、ラドスの提案に首を振っていた。

 ジェスチャーはできるようなので、言葉が通じなくとも何とかなりそうだ。

「とりあえず学巳の案しか手がないね。この話は後に回して……パパラチアちゃんどこ行ったの」

 ラドスの言葉によって、俺もいつの間にか彼女がいないことに気が付く。

「パパラチアなら『魔獣の気配がしたから倒しに行く』って、数秒前に出ていったよ」

「パパラチアちゃん、今魔法使えないんだよ。と言っても、片腕で魔獣の群れ駆逐できるからね……」

 パパラチアは本当に人間なのだろうか。今の彼女でも混孔羽といい勝負をしそうだ。

「お姉さんばっかり……。私にも少し力を分けてほしかったです」

「でも、ジョヤを引き連れて行ったよ」

「翡翠さ、慣れてるところ悪いがそれでもおかしいんだよ」

 戸惑いつつ俺達は数分休憩をすることにした。



 狭い道からパパラチアを一人の女性が口を開けて見ている。

「魔獣を素手でって……。混孔羽に封じられてるはずなのに。よかった、私が混孔羽の役やらなくて」

 パパラチアは拳で魔獣を次々に倒していく。ストアンではないようだ。

 返り血を浴びた彼女の姿は、さながら悪魔だ。その光景に魔獣すらも絶望しある者は逃げ出し、ある者はヤケクソになっている。

 全ては無意味であり、彼女に狙われた時から彼らの命は終わっているのだ。

「雑魚にでも慎重になったのは正解でした。これなら」

「誰かいるんでしょ。魔獣は倒したから、出てきて大丈夫よ」

 彼女が独り言を言っている内に、パパラチアは下の山を完成させていた。

 彼女の方向を見てパパラチアが言ったので、彼女は思わず固唾を飲む。

「楼逸ちゃん助かったよ。いつもありがとうね」

 男性が女性とは反対側の裏道から出てきた。

(助かった) 

 というのも彼女も魔獣を倒していたので見つかったらやばいのだ。戦えば必ず身体を検査されてしまうから。

「もう一人いると思ったけど、気のせいね。とりあえず水町が安全だから、そこに行きなさい。もう少し倒さないといけないみたい、」

  パパラチアはすぐに走り出した。その走りも人間とは思えぬ速さだった。三秒も経過しないうちに姿が見えなくなっていた。

「私の出番はないってこと。パパラチア、規格外過ぎる……こわかったよ」

 女性は闇の中へと消えていった。



 休憩していると、外で騒ぎが起きていた。

水町の住人達と電気街の豪華な服を着飾った貴族が言い争いをしていた。

人はざっと数えて三十人いるかいないかぐらいだ。何の事で揉めているかは、予想は着いていた。

「出てきたな。お前が生贄になれば、助かるのに何ぼさっとしている」

「あんたらが水を差すようなことじゃない。自分の椅子を磨いてろ」

 『俺を犠牲にしろ』ということだ。でも、水町の人が俺を庇っていることに驚いた。『憎くないのか』と聞くのは無粋だろう。

「お前ら、そいつが憎くないのか」

 代弁してくれてありがとうな、貴族さんよ。

「憎いさ、だがお前らに比べたら全然だ。彼は自分の罪と向き合い償おうとしている。だが、お前らはどうだ。人の命一つを軽く見て、価値があるかないかだけで見ている。今のお前らに彼の命をどうこうする資格はない」

「しかも、ヘマタイトさんから聞いたよ。あんたらも関わってたそうじゃない。何をぬけぬけとナテカだけを悪者にしようとしてるんだい」

「自分の立場より低い者には強気で、自分よりも強い化け物には頭をへこへこ下げる。昔から変わらないな、お前らは」

 水町の人達の貴族に対する不満が爆発している。

 もっと言わせてやりたいところだが、俺からも言いたいことがある。その場にいる全員に聞こえるように手を叩く。

 だが言い争いは終わらない。俺が大きな声を出しても、彼らの声量には届かない。

「静かにいいいいい」

千都子がそれを超える声を出して沈黙が訪れる。俺が話せるようになった。

「なんで気がつかないんだ。はぁお前らがよくやってきたことだろう、いや俺たちか」

 頭をかきながら、貴族たちの前へ出る。その言葉に貴族達がしかめっ面になる。

 他人の揚げ足が取れる情報を手に入れる速度だけは本当に早い。だが、それ故に穴がある。

「確かに人類を救うとか、人を救うとは記載していた。でもな、『人を殺さない』とは書いてないんだよ」

 貴族達の罵倒が少なくなっていき、ざわめき始める。これだけでも悪知恵袋の彼らも理解できたようだ。

「俺も前が見えず、すっかり信じ込んだよ『人を救う』って言葉に。俺の時と同じで靴を舐めてご機嫌をうかがうのか?」

「言い方が下品なこと。従順になるだけよ」

 その声に貴族達が『そうだ』と同調する。水町の人々は貴族たちにナイフより鋭い視線を送っていた。

「あれは、お前らと俺とは違う。気に入る物しか残さない。パパラチアを気に入っているところから見ると、強い人しか残さないだろうな」

 大きくざわめき始め、所々から口喧嘩が始まる。

「口喧嘩するなら、自分の家で椅子でも磨いてろ。お前らが何と言おうと、俺はこの国を命以外の全てを使って守る」

「綺麗ごとで救えると思うな」

「綺麗ごとじゃなくて、やるんだよ。綺麗ごとが好きなのはお前たちだろ」

「クソ学巳があああああぁぁぁぁ」

 一人の大きな断末魔と共に彼らは消滅した。振り返ると、拳ぐらいのたんこぶが付いているラドスがいた。

「椅子のある所に戻したよ。」

「なんで、たんこぶ付けてんだラドス」

「そりゃ学巳が一人で出ていくから、千都子ちゃんに怒られたんだ」

「火に油を注ごうとしていたからです。札束でビンタしようとしていたんですよ」

 一切の同情はない、怒られて当然だ。

 部屋に戻ろうとすると、人ごみの中から矢域が俺の手を掴んできた。

「俺達には何ができる。出来ることがあったら、何でも言ってくれ」

 水町の人々が、その声に同調し始める。ジョヤも同じ様に決意を決めているようだ。人々の目には曇りがなく輝いている。

 無限に出てくるストアンをどう対処するか。正直、ジョヤではない人たちの手を借りなければ間に合わないだろう。

「一緒に戦ってほしい。雑魚ストアンを楼逸と一緒に蹴散らしてほしい」

 頼みに水町の人々は、間髪入れず『おう』と答えた。

「ナテカさん。思い付いたんです、ピンクの雨を降らせませんか」

 俺の知る限り、そんな現象はこの世界では起きていない。

 いきなり何をーー。

「雨はお姉ちゃんの特製ドリンクで代用しましょう。弱ってるストアンなら、皆さんでも余裕のはずです」

「名案だね。早くパパラチアちゃんに作らせよう」

 ラドスの肯定に水町の人々も『うんうん』と頷いている。

 名案なのか……。俺は普通に彼女の料理を食べれたのだが。ラドスが賛同しているのだから、大丈夫なのだろう。

「ようやく出てこられました。では私も少しの時間ですが作戦会議に参加します」

 聞こえるはずのない身体が覚えるほど聞いた女性の声。

「一時的に解除しただけです。すぐに結界が張られますので、単刀直入に言います」

 振り向くとヘマタイトがいた。そして次の言葉は思いがけないものだった。

「千都子さん、学巳を食べてください」

「やっぱり、あんたはぶった斬らないと駄目みたいね」

 タイミング悪くパパラチアが血まみれで帰ってきていた。そんな状況でもヘマタイトは無表情だった。

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