第7話 最高で最悪な師匠
青の魔法ってなぁに。
学巳
「青の魔法は俺が一番使ってるんじゃないか」
ヘマタイト
「学巳は詳しく言うと魔法ではなく輝きなんですが。魔法の詳細を」
学巳
「バフの魔法だな。バフ扱いで言葉を脳内に送って報連相することも可能だ。バフだから基本的に報連相で使われているのはこっちだ」
ヘマタイト
「学巳を止める唯一の救いとなる魔法です。学巳は魔法が使えないので、返信はしてくれませんが。」
学巳
「輝きのデメリットだから仕方ないだろ。俺が魔法使えないのも、この魔法で」
ヘマタイト
「もしそれが事実だとして、周りの宝珠達が気付かないわけがないでしょう」
学巳
「いや、それも契約で魔法を見せなくしてるとかさ」
ヘマタイト
「ありえませんね」
学巳
「即答はやめてくれ。俺こうみえて心はガラスより脆いんだぞ」
ヘマタイト
「人を狂わせる映像を見せるBWSで狂わなかった人が、言っても説得力がありません」
学巳
「あれで狂う方がおかし……めちゃくちゃやる気出てきたんだけど」
ヘマタイト
「これがバフです。これで青の魔法の説明は終わりです」
学巳
「おい、これじゃあ眠れないぞ。就寝前だったのに……」
眼が自然と開く。目の先にあるのは見たことのない天井。
それで昨夜のことが全て夢ではない事を理解する。身体から痣もなくなっていた。つまり、あのストアンも幻像ではない。少しずつだが情報を纏めていく。
「起きたのね。早速だけど、ぶった斬っていい?」
目の前にはパパラチアがいた。彼女の瞳が宝石じゃないのに、邪悪な光で輝いているように見える。
「やっぱり、俺裏切られたのか」
「裏切られないと思ってるの?」
正論だ。ぐうの音も出ない。 俺が前世の記憶を取り戻す前のことを考えれば当たり前だ。その頃の俺は正しく暴君と呼ぶのに相応しい人物だったからだ
「母が見つけて、あんたを拾ったせいで……。あんな怪我で動いて、死にたいの?」
ごもっともだ。あの時、彼女が来てくれる事を考えれば動かないのが最善の選択だっただろう。俺の脳内は混乱して、考える余裕がなかった。
「生きるために必死に逃げたんだよ。責めないでくれ」
「言い方を変えるわ。私にぶった斬られて死にたいの?」
パパラチアが指差した先には、俺の足を枕にして寝ている千都子がいた。彼女が直接自分の家にワープさせなかった理由が理解できた。
あんな傷だらけの俺を見れば、彼女が本気で心配してしまうことを知っていたようだ。多分、傷跡を消してから……どうするつもりだったんだろうか。
そもそも仇を家に入れる事が間違っている。
「であんなにボロクソだったのに、怪我はどうやって治したの。あんた魔法使えないでしょ」
『寝ているし話しても大丈夫だろう』思い重い唇を動かした。
「人間ぐらいのペンギンが俺の体を治してくれた」
「真面目に話さないとぶった斬るわよ」
だよな。いくら魑魅魍魎の世界でも信用できない言葉だ。俺も初めて見た時目を疑った。
「真面目だ、ぶった斬るのは後にしてくれ。そいつは人語を話せて、ストアンだった」
「夢の内容を真面目に話されても困るんだけど」
まだ彼女は信用してくれていないようだった。気のせいか、俺の足が少し動いた気がする。
「それに、ストアンだとしたら、タイミングが最悪すぎるわね。私それ聞いたことが」
「気が付いたんですか!?なんで指名手配にされているんですか」
千都子が起き上がり、顔を勢い良く近づけてくる。その光景を見てパパラチアは険しい顔をしていた。
俺が指名手配されているのか……。それもそうか、命を奪えなかったからな。
「指名手配になってるんだったら、俺をかくまってるお前ら大丈夫なのか」
パパラチアはため息を吐き捨て、背から一枚の紙を取り出した。
「こんな豚とブサイクなんて見分けられるわけないじゃない」
差し出した紙には俺のダイエット前……これは前世の記憶を取り戻す前の俺だ。玉座からジョヤたちを見下す俺の写真だった。
「本当だ。けど、肥えて力もないくせに威張り散らしてる糞の臭いでわからないか?」
「ふざけないでください」
真っ先に千都子が笑顔でそう言った。その笑顔はパパラチア以上に威圧を感じる物だった。
「いや事実だし」
「もう一回言いますか」
「はいごめんなさい」
彼女の威圧に負けた。とことん俺は彼女に弱い。
「それよりも気が付くことがあるんじゃないの」
「デブの時の写真を使ってること。でも、一ヶ月姿見せて無かったんだし普通じゃないか」
「察しが悪いわね。敵にヘマタイトがいるのによ」
そうか。彼女は俺のダイエット後の姿を知ってる。写真がないのはわかるが、俺がダイエットして瘦せている情報がない。
俺を襲ったり、今度は庇うような行動をしている。彼女は一体なにを狙っているんだろうか。
「あー。なんでだ、訳が分からない」
「私も知りたいわよ。でも、一つ言えるのは彼女の掌で踊らされてる事ぐらいね」
「そうなのか」
「お姉ちゃんの直感は、あまり信じない方がいいです……当たるときは悪い時ばかりですし」
最後の方は小さすぎて聞き取れなかった。でも、知らぬが仏と俺の中で囁かれているので聞かないことにした。
昨夜のヘマタイトとパパラチアが戦ったことは知っているようだ。
さて、俺はこれからどうしようか。きっとこの世界がストアンに襲われているのも俺のせいだ。ペンギンの言葉からそれを推理できた。じゃあ、俺がやる事は決まっている。それはー。
「考え事してる時に悪いけど、ストアンが襲ってきたなら命を懸けなさいよ」
「ああ、わかってる。命を懸けてやるさ」
千都子が何か言おうと、口を動かす。
「三人共朝食ができましたよ」
だがそれは、彼女の母によって妨害されてしまった。
俺は断ったが、千都子とその母親に押され一緒に朝食をとる事になった。
千都子の母は中学生で成長が止まってしまったのか、とても小さい人だ。
『いただきます』とその場にいる全員が声を合わせていった。ただ、パパラチアだけがタイミングを少しずらしていた。料理はご飯と漬物だなどだ。口にそれを入れる。
「美味しい」
とつい小声が出てしまう程に美味しい。俺の専用シェフ並みだ。
「よかったわ。口に合って、千都子も食べないと元気が出ないわよ」
隣に目をやると、眼を思い見開いてこちらを見ている千都子がいた。母の料理が美味しいと言われて嫉妬しているのだろう。
「千都子の料理も美味しいから、安心して」
「ありがとう……平気なんだ」
表情を変えずに彼女は料理に顔を向けて、ゆっくりと食べ始めた。
「ナテカさん。家が崩れちゃったようだけど、行く宛はあるの?」
優しく千都子の母は問いかけてくる。パパラチアは母にそういう説明をしてくれているのか。迷惑をかけるのも嫌なので、家を出よう。
「ナテカさん。しばらく、私の家に泊まりませんか」
「それは流石に悪いから。俺のことを知る奴に会いに行くよ」
「いや、大丈夫よ。こう見えて金には余裕があるし、部屋も空いてるわ」
パパラチアが俺のことを泊める。何が起こってるんだ。
(一人であのペンギンに会いに行ったら、ぶった切るわよ)
青の魔法で脳内に伝えてきた。宝珠だけある、勘が鋭い。仇は自分で討ちたいようだ。
「えーと千都子のお母さんは大丈夫ですか」
「歓迎よ。暮らすなら、手伝いはしてもらいます。娘達がとの恋――悪かったから、二人共睨めつけないで頂戴。お母さん泣いちゃうわよ」
俺も彼女がここまで般若の顔になったのは初めて見た。恋がこの二人には禁句なのか、覚えておこう。
「どう千都子おいしい」
「美味しいけど、今は具合が悪くてそこまで食べれないかも。うっ」
彼女は口を抑えてトイレに駆け込んで行った。忘れていたが、パパラチアの料理は化学兵器だ。だが、これはパパラチアの母の料理だ。
「なんか私に失礼なこと考えていた?(ぶった斬るわよ)」
「き気のせいじゃないか。どんどん食っちまおう」
パパラチアは何故こんなに勘が鋭いのだろうか。少し俺に分けてほしいと思う。
それにしても、俺は食べて大丈夫なのだろうか。後から悶え苦しむような事がなければいいのだが。
神に祈りながら、一口一口味わいながら食べた。
「殺す気でかかって来なさい。死ぬ気でやってもあなたは掠り傷すら付けられないけどね」
「いや、宝珠直々に鍛えてもらえるのは嬉しいんだけどさ」
俺は広いグラウンドで、パパラチアと正面で向かい合う。
「楼逸お姉ちゃん、がんばれ!まけるなぁ」
「兄ちゃん。攻撃かすったら飯おごってやるよ」
「楼逸ちゃん終わったら、甘い果物あるからね」
芝生の坂で老若男女がパパラチア、いや楼逸を応援していた。俺たちが来る前に数人が楼逸のことを待っていた。
今は三十人を軽く越えている。
「武器出しなさいよ。出さないと一瞬で終わるわよ」
素手の相手に武器を出せるわけないだろ、と心の中で叫ぶ。
俺の苦笑いを見て、察してくれたようだ。
「盾や剣があっても、私との天と地ほどの差は埋まらないわよ。どんなものでも使いなさい」
大声で観客に聞こえるように彼女はそう言った。大の男が素手の少女に剣を向けるなんて、大人げないし恥ずかしい。
「せめて刀を持ってくれよ」
「折角手加減してやってるんだから、甘えなさいよ。ほら、先行はあげるから、あなたから動きなさいよ」
彼女が口角を上げると凄まじい威圧が俺を襲った。
その威圧は圧倒的な物。だが恐怖は感じず、勝てないとわかっていても戦いを挑める綺麗な威圧だ。波のような闘志に優しく流される。
「女の子を傷付けたくないんだがな」
「あんたの特技じゃない」
「あのさぁ。俺の立場が本当になくなるから行くぞ」
俺はまず愚直に殴りに行くが、紙のような動きで避けられる。
あの手この手で攻めるが掠りもしない。
「基礎はしっかりしてるのね。武器を出さないなら、出させてあげるわ」
彼女が拳を引いて、こちらを殴ろうと構える。
瞬時に本能的な何かが、その攻撃を受けたらやばいと忠告してくる。盾と剣を出現させ、身を守る。またはカウンターできるように身構える。
「カウンター準備してるのバレバレ」
彼女は躊躇せず盾を力一杯殴ってきた。俺は殴られた勢いで三メートルほど後退した。
勢いは殺しきれず、震えが手を襲う。
「は?え。魔法使わずにこれってどういうことだよ」
「だって魔法使ったら、あんた簡単に壊れると思うから」
彼女は全く魔法を使っていないのだ。これが普通の人間の実力でも桁違いだ。
盾を殴ってきた手も平然と動いている。
瞬きをすると彼女の姿は無かった。俺は周りを見渡さず、剣を自分の背後に横に振るう。
「いい動きだけど、少し甘いわね」
その言葉の後に俺は宙を待っていた。そのまま俺の体は背から地に着く。
「ゲホゲホっ、いでぇえ。あ……」
目を開けると、楼逸が拳を振りかざしていた。
今度こそ彼女は俺を殺そうとしている。ここからどう頑張っても間に合わない。俺は諦めた。
「なに諦めてんのよ。最後まであがきなさい」
気が付けば頬を叩かれていた。
「あんたねぇ…こんな場所で殺すはずないじゃない。何諦めてんのよ」
と言われ、叩かれてない方の頬を叩かれる。
状況が呑み込めず、俺だけが時間の中で停止していた。彼女はゆっくりと俺から遠ざかり笑いながら言った。
「自分の命に傲慢じゃない奴は戦闘中で邪魔でしかないわよ。例えるなら不発でいつ爆発するか分からない爆薬ってところ」
「あああ気を使った俺が馬鹿だった。最高レベルに到達するまで付き合ってもらうからな」
俺は雄叫びをあげながら、彼女に猪突猛進した。
結果はもちろん全敗。心も身体も完膚なきまで叩きのめされた。
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