第5話 だらしない身体とはおさらばだ
藍の魔法ってなぁに。
学巳
「藍の魔法ってのは心や精神、記憶を操る能力だな。俺は苦手だったけど」
ヘマタイト
「学巳。魔法全部苦手じゃないですか。青は基本的にテレパシーとして使われます。これだけでも学巳が使えてくれたら助かるのですが」
学巳
「全く使えないからなぁ」
ヘマタイト
「もういっそ藍の魔法で学巳を操って」
学巳
「不穏な単語が聞こえた気がするんだが」
ヘマタイト
「誰かに藍の魔法でも使われましたか?石ころと訓練するんですよね。私もついていきます」
学巳
「やめて欲しい(懇願)」
ヘマタイト
「石ころの彼女は喜んでくれているので行きます(絶対逃がしません)」
学巳
「脳内と現実で話すな。これだけで混乱するから、来ていいから!脳内に話しかけないでくれぇぇぇ」
ヘマタイト
「理解してくれたようで良かったです」
学巳
「お前のお陰で体重が驚くほどのスピードで落ちるよ」
ヘマタイト
「それは良かったです。ではもっと痩せてくださいね」
俺が記憶を取り戻し、ヘマタイトが鬼になって一ヶ月経過した。魔法は相変わらず使えず、武器の魔法すら出せなかった。ヘマタイトが言うには俺の輝きのデメリットで魔法が使えないらしい。
そして俺が深夜に部屋から逃げ出して訓練したことがバレて、ヘマタイトに監視される日々が続いていた。ただ、千都子との戦闘訓練はさせてくれていた。
そして遠征隊も楽しそうに通信を送って来た。『元気そうで安心した』と伝えると全員が啞然としていた。その一瞬でユーディアライトの姿が消えていた。
そして俺は……。
「すげぇ、あんなに肉の塊だったのに、筋肉ついてるよ」
身の丈ぐらいの大鏡で自分の上半身を見て惚れ惚れする。
「ですが皮の量が凄く、顔以外痩せたように見えませんでしたけど」
「あれは努力の結晶だから仕方ない」
今までの訓練を思い出す。 ヘマタイトに半殺しにされ、『千都子の爆発から逃げる』その繰り返し。なんて日常なのだろう。その時間が一番楽しいわけだが。
残った贅肉はヘマタイトが処分してくれたようで、少しだけ跡が残っている。
「学巳。今日私はあなたから離れて行動しますが、くれぐれも大事を起こさないでください」
「多分きっと大丈夫だ」
BWSとストアンさえ現れなければ大丈夫だろう。
「本当に心配で仕方がありません。それと今日はいつもより早めにご帰宅ください。相談したいことがあります」
改まって何かあったのだろうか。彼女は仕事に関して俺より優秀だから、口を出さず任せるとしよう。
「分かった、努力する。何かわからんけど、重要なことそうだな。頑張ってくれ」
「学巳は頑張りすぎないでください。あなたは命まで燃やしますから」
「命を燃やしてこそ頑張ったってことだろ」
俺の言葉を聞くとヘマタイトは頭を抱えて大きくため息をついた。
俺はコンクリートの床に寝転がる。
「だめだぁ。輝きのデメリットが酷すぎるな」
千都子の顔が視界に大きく映し出される。
「あれ、魔法が使えないのって、デメリットだったんですか」
「そういや、話してなかったか。嫌になるデメリットだ、ほんと。ほらどいて、おでこが当たるぞ」
体を起こし、あぐらをかく。千都子も立っていたが俺の隣に腰掛けた。
「ここに籠ってから殺気を感じるんだよなぁ」
「今もするんですか」
「いつ殺しに来てもおかしくないほどにな……」
殺すなら千都子がいない所で殺してほしいんだが。何故、襲ってこないかが不思議なぐらいだ。
殺意を出している二人は透明化して隠れていた。学巳たちのいる訓練場の隣にあるB訓練場の屋上で観察している。
「ぶった斬っていいかな」
「パパラチアちゃん。殺意バレバレだから隠そうね」
(良くあの二人に居場所がバレないな)とブラッドストーンは思った。
「私は全く感じません。学巳の輝きのバフってそんなに強力なんですか。習ったけど実感が湧かなくて」
千都子がそう尋ねてきた。答えやすい質問だ。
「魔法が使えない一般人でも、色付きレベルの輝きと互角に戦えるようになる」
「なんで宝石未満にはバフが禁止されているんですか」
「輝きが目覚めちまう可能性があるんだと、実例を挙げれば……」
『爆裂』という名前を言おうとした。。ストアンが大進行したとき、彼は真っ先にストアンに立ち向かった。それに伴い、大勢の勇敢な人間が立ち向かう。そして俺は輝きを使用して力を与えた。彼らは爆発した。危機は乗り越えたものの、自身が爆発して遺体すら残らなかった。その中には千都子やパパラチアの父もいた。
忘れていた。彼のおかげでストアンから平和を取り戻せたのだ。だが、あの時の俺は子虫を潰しているような感覚で笑って見ていた。
気が付けば土下座をしていた。
「なんで土下座してるんですか」
「俺には謝ることしかできないからだ。俺は自分の力に傲慢になって、君の父さんを殺してしまった。本当にごめんなさい」
あれは自分の輝きをコントロールできずに、起こった事件だ。自分の力に対して傲慢になっていたのだろう。
俺は額を地面にこすりつける。突如、鈍い金属音共に背中に衝撃が走る。
「いたぁぁぁ」
「いきなり土下座されても困ります」
見上げるとフライパンを持ち、仁王立ちしている千都子がいた。何で叩かれたか、一目瞭然だ。
「どう償えば……」
「償いですか。私に対しては『一緒に訓練して強くなる』で。お姉さんには機会があれば謝まろう。今のお姉さんは復讐鬼ですから」
ドゴンという轟音と共に、建物や地が揺れる。
『B訓練場が大爆発した!宝石は……サボってるからな。宝珠を呼んで来てくれ。ここは俺ら石ころで頑張るぞ』
外では大騒ぎのようだ。大爆発……。
「なんでこっち見るんですか!これ以上怒らせるなら本当にここ爆発させますよ」
「悪かった。そうだよな。なんで宝石呼ばないんだ」
「こんな冷静に話してる場合ですか」
そう言っている彼女も焦りが見られない。
「緊急事態なら、ヘマタイトが来るからな」
あいつが来たら相当やばい事態ばっかりだけど。
「はあ。宝石って中には石ころよりも実力のない人物が多いんです。しかも一番腐敗している部隊です」
「ボロクソに言うなぁ、つまり外れ枠ってことか。だから採用には少なくて、部隊所属には多かったのか」
書類を整理している際、気になっていたのはこの点だった。宝石部隊以上の部隊に就くと、貰える報酬が違う。そして何よりその肩書きが力になるのだ。
前日、千都子を馬鹿にして来た宝石も一応疑いのある人物だったので追いかけていた。糞みたいなBWSが出てきたせいで、吐かせることができなかったけど。
実力が伴ってなかったから、精神崩壊したのか。納得した。
『BWSは倒したみたいだ。中から宝珠が三人出てきた』
『大丈夫よ!私が出た瞬間に倒したから』
パパラチアの大きな宣言で、石ころ達の大きな歓声が上がる。パパラチアは石ころとはとても仲がよさそうだ。パパラチアの声が少し震えてるよな気がした。
「お姉さん何してるの……」
俺には彼女が呟いた独り言が聞こえなかった。
俺はお日様の下で、体を伸ばしながら散歩をしていた。
「書類との睨めっこは疲れるな。今日は比較的に魔法と輝きに目覚めた人が少なかったな」
魔法は比較的に目覚めやすいが、輝きは百万人に一人程度だ。そして、仕事で魔法を使うのに学巳の承諾が必要だったりする。そういう関係の書類ばかりだ。
「更新資料や魔力でエネルギー開発、それの安全かの鑑定書。そういうのは王様がやることだろ。『学巳」って一応王様扱いか……一番偉いもんな。親父は研究所、少しはやって欲しい」
だから、前世の記憶が戻るまではやりたい放題できたんだな。 自分で問いた答えに頷く。そしてため息をつく。
(なんでこんな暴君になってたんだ)
唸り声を出していると、石ころと宝石が揉めている場にいた。
「宝石、自分の仕事ぐらいは全うしてください」
「なんで石ころ程度の意見を聞かないといけないんだ」
明らかに先頭に必要のないメイクや飾りを施した『宝石』と武器以外何も身に着けていない『石ころ』が言い争っていた。
宝石は男……どっかで見たことあるぞ。もう一人は可愛らしい少女だ。どう仲裁すればいいか。
「はいはい、仲良くしてね。学巳だから両方の意見を聞くよ」
「騙されないからな」
「それは流石に苦しいと思います」
即答。俺、学巳なんだが。
「私の知る限り学巳は太っています」
「太っているレベルじゃない、風船だ。よくあれで死なないよな」
石ころは控えめに、宝石は大笑いしながらそう言った。そういえば、かなりの時間が経過してたな。
「そうだったな。じゃあ友人で仕事しなければ、石ころに格下げしてもらうように頼むわ」
「身分も力のないゴミが、あの学巳と友人のわけないだろ!腹がお留守だぜ」
俺は隙を突かれ、腹に拳が叩き込まれた。
「いたあああああああああ」
叫びをあげたのは、宝石だった。 アニメかのように、赤くそして大きく手が腫れていた。
思い出した、こいつ俺が追いかけてBWSに精神崩壊させられた奴だ。
「お前、BWS相手に失禁した奴だよな。もう精神は大丈夫なのか」
「失禁。え!?」
先ほどの穏やかな表情から一変、悪役のような顔付きで口角を上げていた。
あー流石に悪い奴とはいえ、女性前で失禁したことを話したのは間違いだったな。
「だだだ。大丈夫にきききまってるだだろろ」
小鹿のように足を震わせている。かなりのトラウマになっているようだ。
隣を見てみると更に少女の顔が悪くなっていた。
「このクソ石ころがぁ。許さない許さない許さないぃ」
いつの間にか、彼は激昂していた。
「石ころごときが、俺に逆らったらどうなるか教えてやる」
激昂した勢いで、魔法を込めた拳を放ってきた。
「いでええええええ」
「……本当に宝石なんですか。この人」
「ごめん。盾で防いじまった」
腫れすぎて、手の大きさが二倍程度になっている。『魔法攻撃されたら盾で防ぐ』と、女性二人にみっちりしごかれた成果だ。
「なあ、名前は知らんけどそんな実力で前線出ても死ぬぞ。石ころからやり直さないか、俺が教えてやるからさ」
彼は涙目になってこちらを睨んできている。石ころの少女に至っては、爆発したかのように笑っている。
「お前なんてパパに言えば、暮らせなくなるからな」
「そうかそうか。そうやって石ころを虐めてたんだな」
自分の地位で相手を脅してたのか。これは少し懲らしめた方がいい。俺は武器を消して、彼の胸ぐらをつかんだ。
「聞こえなかったのか。俺様のパパはこの世界を支えてー」
「脅しが俺には効かない。悔しかったら、お前の力だけでこの状況を何とかしてみろ」
宝石の言葉を遮り、重くそう言った。傲慢になればなるほど、人は死に近づく。
一転生目の俺は初めて魔法に触れて最強だと思っていた。ストアンに挑み敗れて、仲間を危機にさらした。彼にはそうなってほしくない、今からでも考え直してほしい。
俺は拳を振り下ろした、が。
「自称学巳さん。ストーーープ。彼、気絶してますよ」
「あ、やべ。気が付かなかった。花壇の隣に座らせておくか」
石ころの静止があるまで、全く気が付かなかった。泡を吹いて白めになっている。顔色も白くまるで屍のようだ。
拳を止めて、花壇の横に座らせる。
「学巳の友人さん」
「ナテカって呼んでくれ」
「じゃあナテカさん、ありがとうございました。お陰で弱みを握れました」
さらっと怖いことを言った。 まあ彼が今までして来たことを考えると妥当だろう。
「失禁以外にも石ころに負けた、とかどうだ」
「ナテカさんって意外と腹黒いんですか?もちろん皆に言いまわりますよ」
俺達は悪い顔をした。とてもいい笑顔で問題なさそうだ。
「あ、もうこんな時間アイドルのライブがあるので。お礼は今度会った時にでも」
と少女は足早に去っていた。
「俺、ライブの存在全く知らないぞ。お礼として、それを教えてもらうか」
この世界のアイドルかぁ。一体どんな姿をしているのだろうか。やっぱりカラフル制服とかだろうか。ぜひ見てみたい。
「さて帰るか。このペンと書類が俺を待っているのか」
そう思うとやる気が失せていく。ペンを見て、宝石を見た。
「眼鏡に鼻毛、額に中二病のマンジを書いて」
宝石の顔に落書きをした。
その後、仕事している最中に多種多様な笑い声が聞こえたのは言うまでもない。
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