第3話 似た者同士

「いやあ、依頼されるっていいことだね。相談できる人間で良かったよ」

 私、ブラッドストーンは今日だけで二つの依頼をされた。一人一つずつ。

 『お姉さんから学巳を守って』という友人の妹の依頼。その報酬は彼女のお手製爆弁当で手を打った。

「彼女の弁当美味しいから、受ける以外の選択肢はなかったね。うん。パパラチアもあんな妹居るなんて罪な女だよ」

 その代償なのか友人の料理は不味い。作る工程には一切問題は無かったのに、死んでしまうほど不味い。いや死ぬ。

 二つ目は『俺も武器持ちたいから協力してください』と、学巳という私よりも高い立場なのに土下座してまで依頼してきた。

 千都子ちゃんとの仲を聞きたかったが、焦らずにここはおちょくってみた。

 『セクハラ再開してくれたら、してあげる』と、言ったら引かれてしまった。もちろん冗談だ。代わりに『毎日、学巳室にくることの許可』を条件として引き受けた。彼は心底嫌そうな顔をしていた。

「ようやく学巳が変わったおかげで、他の宝珠達が安心して日常を送れるよ」

 そんなゆっくりしている私とは対照的な青年が駆け付けて話を始める。

「ブラッドストーンさん緊急招集です。ストアンではないBWSが現れました」

「そうもいかないみたいだね。今回はどんな化物でどんな攻撃をしてくるんだろう」

 そのアナウンスを聞いて、私は急いで学巳室へと向かった。



BWS。魔獣の一つ上を行く化物だ。ストアンもBWSだったり魔獣だったりする。

 BWSは私達の『輝き』を持っている化物だ。『輝き』とは己の魔力が混じり合ってできた異能力である。

 


 俺はBWSが現れた現場にブラッドストーンとヘマタイトとパパラチアとともに来ていた。

「よくこれで死者が出なかったね」

 ブラッドストーンの一言で、俺は周りを見渡す。建物や地面などが、玩具のブロックに変化していた。とてもじゃないが巻き込まれたら命の保証は無さそうだ。あと裸足で歩くと痛そう。

「まだこれからよ。ブラッドストーン」

「わかってるわかってる。BWSを倒して帰るまでが遠足だよね」

「ブラッドストーンさん、パパラチアさん、学巳もうすぐ接敵します。準備してください」

 俺は自分にしか見えないボロボロの白い翼を背から出す。羽根を三枚引きちぎり、一枚ずつ三人の背に投げつける。それは彼女らに突き刺さり、服を無視してゆっくりと体へ吸い込まれていく。俺が持っている唯一の能力だ。

「みなぎってきたああああ」

「ブラッドストーン。騒ぐと敵にバレるんだけど」

 あらゆる魔法や輝き(という名の異能)の能力を向上させる俺だけの輝きだ。俺がいるのはこのためであり、時間制限等の条件があるため、彼等と行動しなくてはならない。

「だって、私が呼んだ方がいいでしょ」

「奇襲するという考えはないのかしら」

「来ましたよ。二人共」

 現れたのはブロックでできた、巨大なカブトムシだった。色に統一性はなく乱雑なカラフルで、一軒家一つよりも大きいサイズ。それが空から飛んできて、着地した。その衝撃で砂埃が大きく舞う。

「幻覚等はなし。本体もこれで間違いありません」

 ヘマタイトの輝きは瞬時解析。相手のステータスがある程度、見えるという物だ。

「それだけわかれば、充分。簡単な話こいつ倒して終わりだね」

「ギエエエエエ」

 カブトムシは咆哮しこちらを威嚇してくる。角を突き出しブラッドストーンに突進をする。速度は軽く自動車を超えているだろう。

 彼女は軽々と角を掴み、そして受け止める。キャッチボールをしているかのように、あっさりとだ。

「流石、完全耐性耐久です。それにしても角で触った対象をブロックにするEIF、研究対象としてまた取っておけませんね」

 ブラッドストーンの輝きは完全耐性耐久というもの。あらゆる相手の輝きの影響を受け付けず、耐久力が上がる。

「思ったよりもかるいね。じゃあパパラチア行くよ。えいっ」

「ギッエ!?」

 ブラッドストーンはカブトムシを投げ捨てるかのように、軽々と空中に放り投げた。

「あいつ普通にアタッカーとしても強いな」

「盾役は変人しか志願しないせいか貴重なんです。彼女をアタッカーとして採用はできません」

「そっかぁ……。あれ本気だったのかな」

 自らセクハラを望んだのは……再開しろって……。忌まわしき自分に戻りたくないから断ったが。

「何を吹き込まれたんですか。全く……終わりますよ学巳」

「はぁっ」

 パパラチアは鞘から刀を抜く。すると桃色に光る水が刃になり、鞘を抜くごとに生成されていく。この動作を一秒も経過させずに行っている。そして地を蹴り、カブトムシのいる高さまでハイジャンプした後に、水の刀でカブトムシを斬り上げた。

 カブトムシは真っ二つに切断された。その切断面からカブトムシの体はみるみるうちに水に変化し、最後には大きな蓮の花を空中に咲かせた。

 これが彼女の輝きの『蓮』だ。

「またまたこれは綺麗な蓮の花火だね」

「死者が出てないだけあるわね。弱すぎるわ」

「パパラチアが強すぎるだよね」

 パパラチアは友人に褒められた事が嬉しかったのか、頬が少し赤くなっていた。怪物がブロックにした建物などが元に戻った。ブロックに変化した面影は夢だったかのように無くなっている。

 一件落着だと空を見上げると、一つの小さなブロックが落下してきていた。それは、空中で移動しパパラチアを狙っているようだった。嫌な予感がしてそれから目を離せない。

「敵反応消失してません」

 ヘマタイトの言葉と同時に俺は持ってきた拳銃をパパラチアに向かって撃った。その弾丸はパパラチアの肩を掠め、落下してきたブロックに命中した。

 あまりの出来事にに全員が固まってしまっている。

「パパラチア、とどめを」

「わかってるわよ」

 俺が命令を出すと、すぐさま刀でブロックに刺した。水となって溶けていく。

良かった。拳銃を持ってきていて。そして練習していて良かった。だが、それを良しとしない人物がいた。

「学巳?何故拳銃を所持しているんですか」

「結果おーらいじゃ駄目か」

「駄目です」

 間を開けることを許されない速度で即答された

 俺は何とか刑罰を軽くしてもらおうと言い訳をしてみたが、火に油を注ぐ結果となった。

 


「親友としてお願いがるんだけ」

「図々しいよ。私は依頼でしか聞かないからね~」

「うう……」

 私(ブラッドストーン)はパパラチアと飲食店に来ている。

 この飲食店はラーメン屋であり、店内は中華料理店らしくなっている。幼稚園児が描いたような怖い人形さえぶら下がっていなければ……とても雰囲気は良いのに。

「ここのご飯おごるから」

「ご飯枠は埋まってるから、いつものあれでいいよ」

「誰よぉ。絶対許さない」

 あなたの妹ちゃんだよ。

「私の手料r――」

「やめて。それは化学兵器だから」

 彼女の手料理だけは作らさせてはいけない。臭いだけで食堂にいた人を病院送りにした。

 食べた時を考えるだけでも恐ろしい。事件以降彼女が料理を作ったという情報を(妹ちゃん経由で)貰った時、必ず化学処理班が動くマニュアルができたほどだ。

「それで何を依頼したいの?それによって期間変わるから」

「お願いだから。学巳を尾行したいの。私だけだと暴走しそうだから」

「じゃあ永遠に『ちゃん』呼び許してね。あと身長上げる靴も禁止、あとラドスって呼んでね」

 パパラチアは身長が低いのを靴で隠している。私は背の低い可愛いパパラチアが好きなのだ。

「永遠……お願い一週間にして」

「やだね。それよりヘマタイトが来るよ」

 テーブルの前にある何もない空間に、紫色の結晶が集まるようにして人型に集まっていく。紫の魔法だ、近くに人がいてもわかるようなサインを出している。

 紫の魔法は瞬間移動だ。とても便利だが、色々な問題点を抱えている。

「ぜぇぜぇ……ブラッドストーン学巳見ませんでしたか」

 そこから現れたのは疲れ切ったヘマタイトだった。息が上がり、心臓の鼓動も速い。

「焦り過ぎだよ。青の魔法で聞けばよかったじゃん。来てないよ、グラウンドでダイエットしてるんじゃない?」

「ありがとうございます。では私はここで」

 ヘマタイトは一礼して、すぐにその場から紙一つ残さず消えた。

「生まれ変わった学巳は新しいトラブルを引き起こしそうで楽しみだよ」

「本当にあなたアレが生まれ変わるとおも……」

 パパラチアちゃんが睨んできたところで、何かが通り過ぎた。

「てめぇ頑張ってる女の子に役職で罵倒すんのかぁ!懺悔させてやる!!」

「ひぃいいいいい。なんで怯まずに魔法に向かってくるんだ」

「私は大丈夫ですから、それ以上身体を傷めないでください。また怒られますよ」

 明らかに学巳の声だ。そしてパパラチアの妹もいた。パパラチアちゃんは口を塞ぎ、下を俯いてしまう。

 口パクしてるところを見ると、ヘマタイトに学巳の居場所を教えてるようだった。すると先ほどと同じ所からヘマタイトが現れ、駆け足で走り去っていった。

「私は絶対に彼が変わると思ってないから。変わったフリして、騙してるのよ。あの銃だって私を殺すためだったはず」

 彼女の眼は憎しみで染まっていた。何も見えていない状況だろう。

「感情的になり過ぎだよ。魔道具じゃない銃で戦闘モードの私達は殺せないよ」

「だから戦闘終わった瞬間を狙ったんでしょ」

「人の話を最後まで聞いてよ。怒っちゃうぞ」

「わかったから、怒らないで。私が悪かった聞くから」

 さっきの威圧が噓のように小動物みたいに身を小さくしていた。私から見れば、小動物なんだけど。

「もし本当に命を狙っているなら、バフが切れたタイミングで攻撃するよ。それにバフが切れるタイミングを一番知ってるのは、当の本人。そんな凡ミスするかな?」

 彼女は完全に言い返せなくなって、『でも、でも』と小さな声で繰り返していた。

「はい、の話は終わり。どっちも気分悪くなるからね」

『逃げろーおお。向こうで人が倒れてるぞ』

 学巳がさっきの男性を倒して、ヘマタイトから逃げているのだろう。

「ラドス。治癒魔法得意でしょ行ってあげたら?」

「ヘマタイトが行ってるし大丈夫なはず。折角の休憩時間を無駄にしたくないからね」

 学巳の言ってたことが本当なら、治して上げても感謝してくれなそうだしね。

『BWSだああああうわああああ』

『早く学巳を呼べ。俺様たちがああああ』

『ジョヤはどこだ。このために税金を払ってるんだぞ、クソが』

 民衆の汚い言葉が右往左往する。

「次から次へと。助けてもらうのにあの態度何なの」

「怒らない怒らない。このお店を助けると思っていこ。あと依頼は」

「いいわよ。好きにして……」

 彼女の燃える怒りが強すぎたので弱めたが、鎮火してしまったようだ。

「戦う気力は残ってるよね」

「下げた本人が何言ってんのよ。行くわよ」

 パパラチアちゃんがそう言うと店の前から走る人影が見えた。

「ん?ちょっと待って」

「良かった。ここにいてくれて……ぜぇぜぇ」

 凄まじい勢いでヘマタイトが店に走って入ってきた。両手を膝にのせて息を整えている。

「どんなBWSなの」

「細い人型をしていて見ると恐怖を与えるようです」

 なんとも、まぁ厄介だ。これは被害が広がる前に倒さないと。

「ってか私の妹。あなた学巳だけ守って妹置いて行ってないでしょうね」

「……そのことなんですか。もうパパラチアさんの妹と学巳が」

 ヘマタイトが息を飲んで続けて言った。

「倒してました。あとは処理だけです」

 これには私も驚いた。

「「ええ……」」

 私達の声が必然的に重なった。



「お願いです。ヘマタイトさま。反省してますので足を崩させてください」

「お姉ちゃん。私も同じくお願いします」

「ダメですよ」

「パパラチアと同じです」

「「そんなぁ……」」

 二人組はかなり離れたところで同じようなことをしていた。凸凹した地面の下でかれこれ一時間正座をさせられていた。

「もう一回聞きます。何であんな無茶をしたんですか」

 ヘマタイトは笑っているが目に輝きがない。

「なんとなく。おい無言で手錠をかけるな縄を繋ぐな。そこは首輪だろ」

「確かにあのBWSは体力や防御力、攻撃力は低かったですが、輝きでこの街を滅ぼせる実力はありました。首輪を選ばなかったのは慈悲だと思ってください」

「首輪が良かった」

「学巳って首輪という趣味あったんだ」

 学巳たちは手錠をかけられ、逃げられないように拘束されている。

「手錠だと逃げても厄介な物になるだろ」

 と口を動かしていたのが見えた。それヘマタイトにもバレてるよ。

「それでこの白いモヤシみたいな物のBWSはなんだったわけよ」

「見たらこうなります」

「具ぎゃたなあら田畑ならぁーぱっーぱ」

 私たちの軍人服に不必要な貴金属を身につけた青年が、横になりながらくねくねと虫のように手足を動かした。

「今わかったわ。とりあえず需要はないわね」

 パパラチアは手足の生えた白い棒を流れるように斬った。それは真っ二つになり、水に変化して地に吸収された。

「精神崩壊させる系なのはわかったけど、条件は視認かな」

「その通りです」

「じゃあ二人は目を瞑って気配だけでーー」

「「ばっちり見てましたよ(ね)。こいつも(学巳さん)」」

 二人はお互いに指をさし、他人の燃え盛る海にガソリンを突っ込んだ。

「女の子を売るってどういうことですか?学巳さん」

「そっちこそ俺のこと売ってるんだ。爆発少女さんよ」

「「どういうこと(ですか)」」

「「ヒッ」」

 彼女らの背を見ているだけでもわかる。本気で怒ってる。

「色々頼まれると思って待ってたけど、これは私でも無理だ。さぁてと帰ろ」

 背後から少年少女の叫び声と助けを求める声がした。だが、巻き込まれるのが面倒なので無視した。

 後から聞くと彼女達は、日が暮れるまで説教を受けていたらしい。

 






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