第2話 転生という呪い(2/2)

 俺は今、休憩時間の中で部屋の大掃除をしている。

前世たちの記憶が戻ってから、一週間という時間が流れた。化物達の襲撃はあったが、規模が小さく被害は無かった。そして順調に痩せていき、俺はデブからぽっちゃりに進化した。一週間という少ない時間でかなり痩せれただろう。

 宝珠達との関係は中々良くならず、警戒されている状況だ。関係の修復は不可能かもしれない。

「なんですか!この部屋は⁉︎」 

俺の部屋を入るなり、ヘマタイトは声をあげ目玉を飛び出していた。

「ブラッドストーンに頼んで全部売ってもらった」

 それもそのはず、金銀財宝だらけの部屋が白の絵具で塗り潰したのか如く空になっていたからだ。何もない空白で空虚な部屋だ。

 ヘマタイトの顔があっという間に青く変色する。

「よりにもよってラドスですか……。職務が滞る物は売却していませんよね?」

「私服は売ったけど職務に関するのは売ってない。流石にそこまではしないぞ」

「今の貴方では説得力が有りません。もうこの惨状を見ただけで三日分の疲労が襲ってきました」

 彼女はこめかみを掴んで頭を抱えていた。どうやら俺のことを信用していないようで、しっかりと確認を始めた。

 信用がないのも仕方ない、暴君だったのだから。

「丁度いいじゃないか。休暇取ったらどうだ」

「お言葉に甘えさせてもらいます。あれは持ってますよね?」

「いつ時も離さず持っております」

 ヘマタイトや貴族達が『学巳が宝珠に襲われたという事件』を隠してくれた。俺の要望通り、ただの事故として処理がされた。

 そして用意してくれたのが、この『ボタン型携帯転送装置』だ。正方形に赤く丸いボタンが透明なカバーに囲われている。もし命の危険があれば、このボタンを押すことで緊急医療室へとワープしてくれる品物だ。他にも姿や気配を消せる道具まで、種類が多くて把握するのに数時間を用いた。

 ヘマタイトは一通り確認が終わると、彼女の手には最初からあったように朝食がのせられたお盆を持っていた。

「ここに飲料水と朝食置いときます。では私は休ませてもらいます」

 朝食を仕事机に置いていくと、早足で部屋を去っていた。

「ゆっくり休んでくれ」

 俺がそういうと彼女は足音を一瞬止めた。何か引っかかる事でもあったのだろうか。

「あと一週間あれば完全にダイエット終わるな。そろそろ魔法も再挑戦してみるか」

 俺は自分の身は自分で守りたい。だから魔法を覚えたいのだ。朝食を急いで食して、グラウンドへと駆けていった。もちろん『いただきます、ごちそうさまでした』は忘れない。



「くそぉ……ヘマタイトがいないから無茶なトレーニングできると思ったのに」

 あいにくの大雨で霧も発生している。この中で運動すると確実に風邪をひく上に、滑って大怪我まであり得るだろう。

「流石に訓練に来てる人物もいないようだし」

 周りを見ても人影すらない。こんな大雨だ、予報も出ていたのだろう。

 だからヘマタイトは俺一人でいかせたのだろう。

「「はぁ…」」

 ため息をつくと、それは重なった。

「「あ」」

 言葉も重なり、目線もあう。

 声が重なった相手はグラウンド毎日一人で訓練していた少女だ。背が高く、俺と同じぐらいある。そして目も顔も優しい雰囲気を醸し出している。

 雨音で足音が聞こえなかった。話しかけるべきか否やと考える前に、少女が話しかけてくる。

「あ、あの一緒に修練場借りに行きませんか。あなたも石ころの人ですか」

 まるで獲物を狩る虎のように彼女は凄い剣幕で聞いてきた。

 修練場は様々な武器などがある為、宝石未満だと二人以上じゃないと借りる事ができない。まぁ、一応の安全のためなのだろう。

 必死になっている理由がわかる。真っ直ぐな瞳から『今すぐにでも訓練をしたい』という言葉が伝わってくる。

 俺は断ろうとしたが、その眼に俺は勝てず『ああ』と言ってしまった。

「私以外にも、石ころで朝方から特訓してる人がいたんですね」

 前のように派手な衣装じゃなくて運動着だから、学巳って気が付かないのか。もちろん俺は正体を明かそうとする。後で問題になっては、ヘマタイトをこまらせてしまうだろうから。

「あの俺石ころじゃ」

 急いで自分が学巳ということを伝えようとする。だが、俺の努力も虚しく気が付けば手を引かれ走らされていた。俺の告白は見事に引きちぎられた。

「善は急げですよ!」

 彼女の耳に俺の言葉は全く届いていないことに気付いた。彼女の頭の中にはもう『訓練』という文字しかないのだろう。

 俺は諦めて手首を掴まれながら走る。

 


「取ってきてくれてありがとう」

 なんとか『修練場で待ってくれ。俺がとってくる』という事を伝えられたのだ。

 その際にも『私も行きます』って言って全然譲ってくれなかった。『顔パスあるから』で、ようやくいうことを聞いてくれたのだ。彼女に振り回されて、訓練する元気が残っているかが心配だ。

「じゃあ開けるぞ」

「お願いします」

 俺は借りてきた鍵を入れ、鉄の扉を前に押す。自動的に照明が点灯して、順々と部屋を照らしていく。 

「授業以外で練習できるなんて、夢みたい」

「俺も初めてだな」

 来ること自体が。ヘマタイトが許可してくれなかったからだ。

 多種多様な武器や人型の的などがある。それを見て俺も心が躍る。 

そういや、武器すら触らせてくれなかったな。今日は……とりあえず魔法を練習しよう。武器は機会があれ……あるのだろうか。

「あ、言い忘れてた。私、石ころ所属の心藤千都子です。心藤って苗字の人は沢山いるので『ちとこ』って読んでください」

「ああ、今日はよろしく俺の名前はーー」

 この世界だと、ずーと『学巳』って呼ばれてたな。名前……あったけ。

 今ここで決めよう。やり直しの『な』。転生の『て』。学巳の『か』。『ナテカ』これで行こう。これからも名前は必要だから。

「どうしたんですか。考え込んで」

「ずーと役職名で呼ばれたから、ど忘れしててな。名前を思い出していたんだ、俺はナテカだ」

「ナテカさんですね。じゃあ私は的当てしますけど、どうします」

 トレーニングしようと思っていたが、いい機会だし何の魔法を使えるか試してみるか。

「俺は色んな魔法の練習をする。何かあった時の為に近くにいるから、俺のことは気にしないでくれ」

 彼女は笑顔で返してくれる。

「わかりました。何かあったら叫んでくださいね」

「大丈夫だ。俺は叫び慣れているからな」

 自分の断末魔で鼓膜を破ったこともあるから。

「慣れる物じゃないですよそれ」

 彼女は苦笑いして返答してくれた。



 魔法には七種類ある。赤、青、藍、橙、黄、紫、緑だ。

 今俺が持っている野球ボールサイズの水晶は、魔法の適正を見極めてくれる。

「二つ前と同じ青がいいな」

 そんな願望をいうと神様はお願いを聞いてくれたのか、青く光った。

「きたきたきた!」

 やっぱり魔法を使えないわけじゃな……。

「うっす……うっっす。これ白だろ。ほとんど白だよおぉぉ」

「どうしましたあああああ」

「千都子はなにがあったんだ……おい」

 少女の方を向くと野球ボールぐらいの火球が、こちらに向かってきていた。

壁に掛けてあった盾を急いで手に取り、防ごうとする。

「火球なら防げるだろ」

 緊急事態もあって魔法が使えている気がする。青の魔法はバフで、俺は硬さをバフした。これなら絶対に防げるだろう、爆発がしない限りは。

「避けてください。それ爆発します」

 もっと早く言ってくれと思う頃には、火球は盾に触れて爆発したのであった。

 俺の服は焼け焦げ、盾は消えていた。もし、黄で光って体で受け止めていたら……粉々になって死んでいただろう。

「盾……お前のことは忘れない」

 ありがとう盾。

「大丈夫ですか!?」

 千都子は急いでこちらに駆けてきた。


 

「本当にごめんなさい。応急処置はしましたけど、医療室に行った方がいいですよ」

「大丈夫だ。生前からの勘だが内部の損傷はない。それに折角貸し切りで、使えなくなるのは嫌だろ。皮膚が少し焼けただけさ」

 特に俺が使えなくなる。良かった、ヘマタイトが休暇を取ってて。

 まだ少女は心配の目をしている。それもそうか、ギャグマンガみたいに丸焦げになったからな。

「そ、そうですね。生前って前世の記憶があるんですか」

「おう。しかも三回分の記憶があるんだ。俺凄いレアだと思うぜ」

「三回!?別の世界ですか」

 彼女は目を輝かせている。話すなら一転生目の世界のことしかないな、と判断した。

「そうだな。一転生目の世界がゲームのような世界で楽しかった。魔物をどんどん狩りながら、金を稼ぐ冒険者をやってた。仲間もユーモア溢れる良い奴らだった」

「へぇどんな人がいたんですか」

「俺が魔剣士で回復役と盾、鉄拳士。一番面白かったのは、料理士を偽った魔術士だったなぁ。なんでも魔法ぶつけて、料理を作るから…ん大丈夫か」

 目を見開いき口を開け、千都子が固まっていた。なので目の前で手を振って見せる。すると目を動かした。

「あ、ちょっと面白そうな世界だなぁって入り過ぎちゃいました。その世界の仲間と出会ったら、どうします?」

 あと言って俺は考え込んでしまう。考えたこともなかった。今まで再会したことがなかったからな。いつも一人で世界を渡っていた。

「死ぬまで土下座する。俺が一人で暴走して迷惑をかけちまったからな。そして許してくれたなら、俺は死ぬほど語り合いたい。俺より絶対楽しい人生を歩んでそうだしな。まぁ今は少し顔を合わせづらいが」

 俺は暗い雰囲気を出さないように、口角を上げて笑って見せた。ぽっちゃりの笑顔って誰得なんだろうか。

 彼女は小さく笑い出した。笑ってくれたようで良かった。

「そんな姿で再開したら笑われちゃいますよ」

「痛い所突くな!気にしてるんだから。ほら痩せようと今必死に頑張ってるんだ。言わないでくれよ」

 まだまだ先は長いが……。

「再開しても気づかれませんよ。ダイエット私も付き合いますよ」

「いやそこまで迷惑かけられない」

「お手伝いします」

 強い口調で千都子はそう言った。これはいくら言っても聞かない人のタイプだ。

「わかった。でも無理しないでくれよ」

「自身の心配をした方がいいですよ」

 まるで悪役のように悪そうな顔で笑った。やっぱり間違いだったかもしれない。拒否すれば良かった。



 必然的に彼女の魔法を見ることにした。なので見守ることにした。彼女に何かあったら使えなくなってしまう。それだけは避けたいからだ。

「私は爆発を操れるんですけど、上手く操作ができないんです」

 赤の魔法で属性を操る能力だ。掌の上にバスケットボール程の赤い弾が浮いている

「だから俺が半焼きになったわけだ」

「じっくり焼いてほしかったですか」

「喰われたくないからやめてくれ。一番簡単な球状でもあれか」

 しょんぼりと千都子は頷いた。丸形は操作も生成するのも一番簡単な形なのだ。

「青の魔法は試したか?」

 青の魔法。魔法を武器や人などに付与する能力だ。

「試してないです。お姉さんに『あなたは赤の魔法が一番使える素質を持ってる』って言われたので」

 胸を張って彼女はそう言った。自分の姉を誇りに思っているのが伝わってくる。

「千都子の姉は凄い人なんだな」

「そうです、私のお姉さん宝珠ですよ。宝珠の助言ですよ!」

「張ってる胸を下げろ。とりあえず武器を持て」

「女性に武器を持てっていうんですか」

「じゃあいい、フライパンでも握っておけ」

「フライパンそれいいですね。丁度持ってるんです」

「当たり前のように、バックからフライパンを取り出すな」

 少女は持っているのが当たり前のように、腰バックからフライパンを取り出した。

 このバックはRPGゲームのように、何でも収容できる物になっている。バックに青の魔法で橙の魔法を付与したものだ。橙の魔法。結界、空間を作り出す能力だ。

「いつも持ってるわけじゃないですよ。今日はなんか入ってたんです」

「なんか入ってたのか。そうかそうかーーって言うわけないだろ。なんか入ってるだけでもおかしいのに、いつもはなんで持ってきてるんだよ」

「フライパンだから、もちろん料理を作るためですよ」

「厨房を借りてるのか」

 彼女が厨房で料理している姿を脳裏に浮かばす。

「借りてません。爆発させれば料理は出来るので」

「????」

 何言ってるんだこいつ。それしか言葉が出なかった。

「それで作ったのがこれです」

 腰バックから弁当箱を開き見せてくる。唐揚げなど色とりどりで、栄養が偏っていない素晴らしい弁当だ。益々脳が追いつけなくなる。

 俺がおかしいのか?爆発は全てを解決するのか。

「ナテカさん。どうしたんですか」

「すまん。取り乱していた。結局剣を選んだのか」

 装飾品などが一切ない鉄製の剣だ。黄の魔法がかかっている。

「料理でフライパンは爆発の次に大切なものですから」

 もう爆発のことを聞いてると常識を上から塗りつぶされそうだ。ツッコまないようにしよう。

「じゃあ、剣の先を自分の体の一部だと考えて、案山子に攻撃してみてくれ」

 人型の的を指差す。

「やってみます。吹き飛んで!」

 千都子が思いっ切り剣を振った。だが、彼女の手からすっぽ抜けてしまう。

 剣は明後日の方向に飛んでいき、天井にぶつかり大きく爆発した。半径五メートルほどの爆発だ。

「ごめん。あれ案山子に当たってたら、千都子大怪我だったな」

 黄の魔法が掛かっている剣が跡形もない。威力は申し分ない。

「大丈夫です。私が武器扱うとああなるので」

「え?」

「武器使うとああやってすっぽ抜けちゃうんです」

 こいつの姉それで千都子に『赤の魔法が適正』って言ったのか。妹の身の安全にも気を使っていたということだ。

「続けましょう。私の手ごろな武器が欲しいので。アドバイスお願いします」

 『やめよう』と言おうとしたが、あの人のことを聞かない目になっていた。

「わ、わかったけど。巻き込まないでくれよ」

「巻き込みません」

「信用できない。いい笑顔なのに信用できない」

 その後千都子が夢中になってしまい、爆風で飛んだ物を整理している間に時間が過ぎた。

 


 そして時間になり廊下で別れるときになって、彼女の姉のことが気になった。だから、振り向きこう質問した。

「あのさ千都子の姉の宝珠って?」

「ナテカさんはどこ部隊ですか?」

 同じタイミングだった。声は重なったがしっかりと聞き取ることはできた。ようやく、自分の正体を言える。

「学巳だ」

「パパラチアです」

 お互いに目が点になった。

 おいおい嘘だろ。やばいな。あんなことあったばっかりだぞ。

「「えええええええええええええ」」

 お互いに驚き、声が全体に響き渡った。





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