四転生目の正直と後悔詩

鉄井咲太

第1話 転生という呪い(1/2)

異世界転生、俺からすれば呪いの言葉。俺の話を聞いて同情してくれると嬉しい。

 まず一回目の死だ。

 日常が終わり空から化物が襲ってきた。それは動物を掛け合わせたキメラであり、邪悪に光る宝石が生えている。武装した人間でさえも、赤子の手をひねるかのように殺されていった。

そして俺は幼馴染を守るために、戦い代わりに化物に食われた。トラックの方が何倍もマシだっただろう。彼女まで行くほどの仲ではない。

 そして転生した。一回目の転生は、化物と戦う冒険者となった。

 RPGゲームで良くあるような世界。依頼を受けて魔物を倒す、現代で言えば狩人のような立ち位置の職業に就いた。一

 小説みたいに魔法を使え、剣を握り猛獣は難なく倒せた。愉快な仲間もできて順調に冒険を進めていった。

 俺は怒りに燃えていた。

 『これで前のような死に方はしない。ぶっ殺してやる』って。

 …………。

わかってるとは思うが、それは大きなフラグだった。また、あのキメラに喰われたんだ。ボロボロになった仲間を逃がして、俺が残り怒りと自分の力を信じて戦った。

ここで俺の心は、ガラスのように砕け散った。どんなに努力しても彼らには敵わないって。

そして、二度目の転生だ。

最初の世界よりは、技術の少し進んだ世界。例えば、車が完全に排気ガスを出さなくなっていた素敵な世界だった。餓死も争いもホームレスもない。

前世の記憶を思い出したのは、十五歳のころだった。きっかけは忘れたが、思い出して絶望した。泣いて自傷を繰り返した。心は割れたガラスのようにバラバラになっていた。

その時の家族は最高だった。支え合い協力して笑い合っていた。だからこそ自殺することを許してくれず何度も阻止された。

お決まりのように、あの化物が襲ってきた。父親が守ってくれたが、結局喰われてしまった。

その時の最後の光景は父親が泣きながら何かを叫んでいた。だが俺の耳には届かなかった。

三転生目、今だな。

化物が世界を侵略して、人類の人口が十分の一になってしまった世界。もちろん、あのキメラだ。それとは別の怪物もいるので、最悪な環境だ。

そんな世界で追い詰められた人間の前に一人の英雄が現れた。この世界の俺の父親だ。

生きる技術を与え、目に宝石を入れて新たな力を開花させた。

この世界で魔法が使え戦える者をジョヤと呼ぶ。それでも辛く、学巳という者を創り上げた。学巳はジョヤの力を引き出す。例えるならば、学巳は車のガソリンのようなものだ。

そうして化物を追い返し地上に拠点を築き上げるまでに至る。

ここまで聞いて察しただろけど、俺は学巳だ。

そして今に俺は死にかけている。

食われて?違う。情けない話だが、立場を悪用して女性のジョヤに手を出そうとした。

怒りを買い、下腹を剣に貫かれている状況だ。

少女はこちらに敵意を向けている。彼女はジョヤの中でも最上位である宝珠のパパラチアだ。

これ以外に様々な悪行がフラッシュバックする。パワハラ、セクハラなど多過ぎて一日あっても説明しきれないほどだ。

あの化物に喰われても文句が言えないレベルだ。

もう転生しないでくれ。……いや、まだ死にたくない。

これで死んだら、身勝手すぎる。せめて、この世界で犯した自分の悪行に対して償いたい。

消えゆく意識の中俺は願う、死にたくないと。



 目覚めると俺は病院にいた。薄青い患者衣に着換えされていることを確認し、自分が死んでないと悟る。

 それにしても…。

「動きずらい、太り過ぎたくっっそ」

 軽く百キロは超えているデブだ。脂肪が一つ一つの行動を邪魔して、ベッドの端まで行くのにでさえ息が上がる。

 不幸中の幸いは歩けるほどのデブだというのを知っていることだ。それでも五十メートルを歩くだけで、スタミナを全て使用してしまうが。

地面に足を着けて立ち上がろうとしたとき、少女に止められた。

「学巳。憤りは分かりますが、大人しくしてください。傷が開きます」

 その少女は可愛らしさと美しさをかけて割ったような顔をしている。のコードネームが『ヘマタイト』の少女であり、俺の側近である。

「止めるな」

「暴行すれば学巳が不利になります。これにサインした方がよろしいかと」

 それは長ったらしく文字が記載されているが、略せば『俺を殺そうとした少女を処分するか否かの二択』が書かれた用紙だった。

 もちろん俺の答えは決まっている。俺は強引に取り迷うことなく破り捨てた。

「……本当にそれでいいんですか」

「大丈夫だ。もし勝手に罰したら許さないからな。あと手紙を書く紙が欲しい」

 答えは否だ。そして紙を求めたのも、その少女たちに謝罪するためだ

 本当は俺が処分されるべきだ。彼女らが罰せられるのは間違っている。

『失礼します』という声が聞こえると、三人の少女が恐る恐る入ってきた。

「私たちがどうなってもいいんで、パパラチアさんだけは処分しないでください」

 その三人は頭を下てきた。彼女らを見て、俺の心臓は無数の針が刺さる痛みに襲われる。

 こんな少女に手を出そうとしたのかと思うと、情けなくて仕方がない。

 俺はベッドから、ゆっくりと降りる。ヘマタイトが制止を促すが声が聞こえるが、止めない。

 そして少女たちの前で、俺は地に額を付けて土下座をした。

「処分はしない。これは全て俺が悪いんだ。謝って許されないだろうけど、君たちに手を出そうとしてごめんなさい」

「だれも、処分しないんですか……」

 俺の言葉に一人の少女は戸惑いながらも問う。俺が頭を上げるなんて予想していなかったのか、他の二人も困惑している。

「ああ、もちろんだ。今、その処遇を決めたところだ」

「やったあああ」

「よかったああ」

「伝えに行こ!」

 俺なんていなかったかのように、少女達は飛び出していった。謝罪に対する答えを貰っていないが、喜んでいる彼女らを引き留められなかった。

 


 俺は夜には退院することができた。魔法で簡単に傷が塞がったからだ。

そしてジョヤたちが鍛えるグラウンドにヘマタイトと共にいた。

「魔法全然使えない。クッソ体が悪いのか」

俺は二転生目で魔剣士となり、名を残す……事は出来なかったが依頼を頼まれるほどではあった。だからある程度は魔法の使い方を知っているが、うんともすんともしない。

前々世の記憶のついでに、この世界で犯した罪も思い出す。ここを守るためとはいえ、人を粉々に爆発させたのだ。それであのキメラを押しのけ、危機を乗り越えた。

死んでも償えないだろう。

「懺悔するぐらいか……」

 記憶が蘇る前の俺の悪行に対して、後悔が湧き上がってくる。まだまだ沢山ある。

 まずはそれから解決していかなければならない。

「自分を責めて自我を崩壊させるよりも、この国のためになおさないと」

今の俺がするべきことは行動だ。



「えウッソ!学巳が運動してる」

「しー。聞こえたら処分されるよ」

 ひそひそとジョヤ達が喋っていた。静かに会話しているが、どうしても耳に届く。

 俺はグラウンドの隅で走っていた。仕事をするにも、だらしない身体にムチを振り下ろさなければと思ったからだ。

 今は朝の五時頃だ。この時間でなければ、職務があるせいで運動ができないからだ。

 それと、ジョヤの朝練の時間でもある。

 この世界にはランクがあり、ソシャゲ風に説明すると宝珠が星五。

 星四は宝石、星三は貴石、星二は色付き、星一は石ころとなっている。ランクの見分けは、心臓の位置に付いている星の数でわかる。

「学巳。無理に運動しないでください」

 ヘマタイトは俺を追いかけて、制止してくる。

 今朝『ダイエットするから、食事も激減してくれ』とヘマタイトに言うと、目を点にして固まってしまった。『運動もする』と、追い打ちをかけると口を大きく開けた。

 彼女はすぐさま医療班を連れてきて、精神と身体の検査を早急に行った。

 わかったことは、肥満が凄いことだけだ。健康状態は最悪で、医師からの勧めが決定打となり運動をしている。

「じゃあ休むか」

「学巳。休憩で筋トレを開始しないでください」

 両腕を地面につけ体を浮かす筋トレを始める。脂肪が邪魔で腹筋できないからな。

 ふと目線を上げると、色付きの中に石ころがいることに気が付く。

「あれ石ころじゃないか?この時間帯に自主練とは頑張るな」

「注意してきますか?」

「いや少し目に留まっただけだ。っていうか、俺の側に常にいなくてもいいんだぞ、ヘマタイト」

「急に倒れたり、化物が襲ってくる事もあるかもしれません。学巳、あなたを護衛することが私の仕事です」

「でも、無理するなよ」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しします」

 ヘマタイトはそう言うと頭を抱えた。

 少女は広いグラウンドの端で的に向かって魔法を放ち特訓している。

 その頑張っている女性は、短髪で優しい顔立ちをしている。ちょっと身長が高いのが特徴的だ。俺よりも高いかもしれない。

 誰かに似ているような気がするが、わからん。それにしても、彼女にあの魔法は合っていない。

「デブが行ったら……警戒されちまうだろうなぁ」

「ええと、あなた学巳なんですよ」

「そうだな。あと少し痩せてから行くか」 

「もう私からは何も言いません」

 そのまま筋トレなどをして職務まで時間を潰した。



 朝食は俺の要望通り少なくなっていた。

 前は大食い選手のように食っていたが、今は成人男性一人分程度だ。

「いただきます」

 ここの料理は高級レストランに匹敵するほど美味しい。

 そして、ダイエットするという要望からそれに相応しい食材を使っているのも評価点だ。

 裏でシェフたちがざわついている。前の俺なら気付かなかっただろう。俺の予想が当たってるなら、余分に作っていると思われる。

「念のためにもっと作っているんだろう?それはお前らが食べてくれ。ごちそうさん。じゃあ昼と夜も頼むよ」

「嘘だろごちそうさまって」

「今、私達に食料を譲った……譲ったの」

「まて。俺たちが食ったところを咎めるつもりだ」

 疑心暗鬼になって埒が明かない。

 突然悪い奴が、百八十度変わったら俺もそうなるだろう。嫌だが、少しだけ悪者を演じておくか……。

「おい。それを残したら減給だ、あと常にこの量で頼む」

「「はい」」

 シェフ達は声を揃って返事をした。


 

 書類の山。いやエベレストだな。

「ではそこから、一枚だけ選んで抜いてください」

 ため息を大きくする。これは全て魔法が使える人材の履歴書のようなものだ。

 それを俺はガチャのようにランダムに引き抜き、ジョヤに採用していた。書類に目を通すのが面倒臭いそれだけの理由でだ。

「いつまでに決めればいい」

「できれば今週中でお願いします」

 その間に少しずつ資料を整理しよう。ガチャは嫌いだ。

「宝珠ブラッドストーン、午前の見回り終わったから、報告しに来たよ」

 扉の先で元気な女性の声が聞こえる。

 気が付けばヘマタイトが姿を消していた。何をしているのだろうか。

「お疲れさん。午後もよろしく頼む」

「ねぇ学巳入っていい?聞きたいことがあるんだけど」

「別にいいが、お前の休憩時間が減るぞ」

「問題ないよ。私食べるの早いから」

 扉がゆっくりと開く。可愛さが七、可憐さが三というバランスの少女だ。

 俺という人間に対しても笑顔を見せてくれる。その笑顔はまるで太陽のように眩しい。

 彼女はコミュニケーション能力も高く、他のジョヤたちに信頼されている。

「ねぇ。食事制限したって、ほんと?」

 困惑させたくはないので、口を悪くしておこう。

「お前らが頼りないから、痩せることにしたんだよ」

「ふぅーん。でも、学巳は宝珠のように強くなれないよ」

「そんなにストレートに言うか。厳罰するぞ」

「いいよ。どんな厳罰?」

 逆にこちらが困惑してしまった。厳罰させようとは思っていないからだ。

「いつもなら、下品なお願いを例えば『ぴ』――」

「あはははははははははははははっはは」

 流石に聞きたくないので笑って誤魔化す。

 『ぴちぴちの桃ちゃん』とか、酔ったおじさんが言いそうな台詞をいっていたからだ。

 思い返すだけで恥ずかしい、死にたい。

「ねぇ学巳。なんで殺そうとしたパパラチアちゃんを処罰しなかったの?」

「宝珠を処罰はしない」

「ふぅん、流石に命を狙った人をあっさりと赦すんだ。でもさ、なんで色付きたちに謝ったの?」

 見透かされてるようで気持ちが悪い。他人の中に土足でガツガツと侵入してくる。

 もう正直に言ってしまおう。

「はぁ……悪いと思ったからだよ」

「意外と早く折れたね。本当に変わったんだぁ」

 ここぞとばかりに顔と身体を動かしながら、ゆっくりこちらをじろじろと見てくる。

「なんで俺にかまうんだよ」

「学巳がひとりぼっちだから」

 嘲笑して彼女はそう言った。彼女といると仕事が進まないので、こちらから問う。

「で、目的は」

「つれないなぁ。アドバイスしに来たんだよ。『謙虚になりすぎるな』。これだけ」

「謙虚か。俺には無関係な言葉だな」

「そんな事ないよ。またからかいに来るから、お茶用意しといてね」

「自分で持ってこい。ってか来るな」

「ふふ。あと今日ストアンが異常に少なかったよ、報告終わり。これじゃあ午後も暇そうだなぁ」

 いいことだ。ならば、負傷者もいないだろう。しばらく仕事とダイエットに集中できる。

 ブラッドストーンを出禁にしようか。悩んでいるとヘマタイトが帰って来た。



 ストアン

 ずーと転生する先々で現れる、様々な動物を掛け合わせたキメラの化物だ。

もう一つ特徴があるとすれば、体に宝石が生えているのが特徴的だ。

 脅威なのは数や力、知識を持っていること。要するに全てだ。

 それ以外のことは全くわからない。謎の多い化物だ。

 どこから発生したかもだ。

 だが、俺は戦わないといけない。その化物達と……。



「職務終了のお時間です学巳」

「もうそんな時間か。もう帰っていいぞ」

「いえ、これからまたトレーニングするのでしょう?」

「バレバレか」

「バレバレですよ」

「まあ、付き合ってくれるのか」

「それが秘書の仕事ですから」

「その前にお願いがあるんだ」

 俺はヘマタイトにとあるものを作ってほしいと頼んだ。



 廊下の窓から、街を見る。夕焼けはどの世界でも綺麗だ。国は結界に守られて様々な建物がある。

 工場や牧場など生活に必要な建物は全てある。この国は結界に守られているが、壊されるので物理的な壁も設置している。

 文明レベルは高く魔法の概念も存在する世界だ。

 ふと視線を下にあるグランドに向けると、朝見た少女が同じ様に特訓をしていた。

「彼女以外誰もいないな。こんな姿で話しかけられたくないし、夕方だけは別の場所で特訓するか。自分の部屋にしよう。これ以上ヘマタイトに迷惑かけたくないしな」

 一生懸命に頑張る彼女の姿を見て、俺も頑張ろうと改めて思った。

 彼女を見ていると、不思議と冒険者だった頃の自分を思い出す。

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