第3話 好きという言葉には棘があるに違いない-3

 昼飯とは学生が最も楽しみにしているものだと言って過言ではない。あの苦痛の2限目3限目を超え、後一歩の4限を終えた後に来るご褒美こそが昼飯である。早弁派もいるが、食費が嵩むのはきついものがある。バイトの出来ない学校では皆が皆カツカツだから。


「おっす、今日なんか教室の雰囲気おかしくね?」


 突っ伏していた顔を上げると、畠中の姿があった。こいつの説明をするのは嫌なので、一言で言えばイケメンだ。これだけで分かるだろう?こいつは陰キャの敵だ。キラキラすんな、眩しいだろ。

 この畠中だが、何故かやたらと俺に絡んでくる。本来光と影は交わらないものだ。こいつがいるせいで俺が陰にいるのだからな。こいつがいなければきっと陰キャという概念も存在していないだろう。

 窓の縁に尻を乗せ、窓から入る風を欲張った畠中はそんな事を言い始めた。


「別に、何ともないだろ」


「そうかぁ?まぁ俺に関係ないならいいけど」


 こいつ……変な所で敏感だな。いや、気が付かない方がおかしいか。

 昨日の彼女、クラス委員長の桜という少女について簡単に話しておこう。

 桜のピンをつけた委員長は、委員長と役職から想起される人物像とは異なり、天真爛漫で人との関わりが非常に得意である。コミュニケーションに長けた彼女は人を頼ったり頼られたりして、大きな輪を形成する。はっきり言えば陽キャだ。ちなみにこの輪の中に俺はいない。勝手に思っているだけだがいないに違いない。

 そんな彼女の調子が悪い。ずっと塞ぎ込んでいるし、口数も少ない。というのはクラスメイトから盗み聞きした。目を瞑っていると声がよく聞こえるんだ。


「でもな……原因なんだか分かるか?」


「なんで俺が分かると思ったんだよ」


「さぁな、俺の勘だ」


 鋭い奴め。俺が分かるどころか、恐らく俺の所為だ。俺があの時答えを出せずまごまごしていたから、きっと彼女は不安なのだ。良い答えを貰えるか、その逆か。勿論これも演技だったら拍手喝采である。俺は二度と人を信じる事は出来ないだろう。

 俺があの時答えを出せていれば。きっと今日のこの空気はなかった。換気しても拭えない生ぬるい空気はきっと二度と漂わなかっただろう。

 今頃になって後悔が訪れる。あの時何故俺は言葉を出せなかった。なんで頭の中で現実から逃げる事に必死だった。俺よりずっと必死な彼女がいたというのに。

 ……これは悪い癖だ。やめよう。もう終わった事なのだから……いや、終わってない。

 確かに彼女はこう言った。俺の聞き覚えでなければ彼女はこう言ったのだ。「また」と。


「畠中、相談がある」


「なんだ珍しいな。俺でいいのか?」


「……お前じゃなくてもいいか」


「そこは『お前じゃないとダメなんだ!』だろ!」


 なんでこいつはこんなニコニコしてるんだ。

 まぁいいか。こいつでなければいけない理由はないが、適任ではある。

 彼女のまたという言葉。これはつまりもう一度、もう一度彼女からあの言葉を聞く事になる。その為に、俺は備えなければいけない。その時までに答えを出さなければいけないのだ。

 だからこいつを頼る。きっと経験豊富で取っ替え引っ替えな筈だ。偏見が混じったが、少なくとも俺よりは詳しい筈だ。


 告白の断り方を。

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