第3話 居候爆誕
「流石に疲れた。」そう言いながらトボトボと家路を辿る。都電に乗り、列車に揺られる。
しかし昼飯食ってから三十分程柴田を叱って、やっと仕事できると思ったら、今度は課長達の四重奏付きお説教。しかも柴田まで呼ばれて「この娘はどうだ?」と四人にお見合い写真を見せられながら迫られて、まさに疲労困憊。
お見合い写真に写る女性達は何と言ったら良いか、桜花に合わなさそうな女性達だった、申し訳ないが。
てか一気に二人合わせて百人のお見合い相手の写真を一気に持ってくる上司もまあ頭狂っている様な気がするが。
都電を降りて団地に入っていく。自分が一応居を構えている建物に向かう。
ドアを開けると、
「お帰りなさい、あ•な•た。」
天使がいた。
満面の笑みを桜花に向けている。桜花には見覚えのない人だが、天使は長年探していた人に会えたかのような、どこか過去に懐かしみを帯びた表情が端々に現れているのが桜花は気にはなった。
「ああ、すいません。間違えました。」そう言ってドアを閉める。
部屋の番号を見ると確かに「101」と書いてある。
ー間違いない、自分の部屋だ。ー
そう思い、意を決してもう一度ドアを開ける。
また天使がいた。
「……………」暫く沈黙が流れる。グツグツと鍋が鳴っている。
この瞬間に桜花は天使を観察した。
まず目に付いたには流れる様に美しい銀髪。とても色白で頬は桃色、唇は紅色。鼻は高くてスラリとしており、目は垂れ目で大きくパッチリしている。瞳は深みがかった金色。
その美しい顔立ちから、彼女は外国の血が混ざっていることが容易に想像できた。
「……Who are you?」と思わず英語が出た。いや、コレは致し方ない。
すると天使はゆっくりと微笑み、真っ直ぐ桜花の眼を見ながら「お邪魔しております、
「は……………………?」
多分この時の桜花は宇宙誕生以来最も馬鹿馬鹿しいマヌケ顔をしていたに違いない。
この小娘はあっけらかんと何を抜かしているのだろうか。
頭の中に広がるハテナの宇宙を持て余しながら、呆然と立ちすくむ。そしてゆっくりとドアを閉めて共用部分の廊下に座り込む。
ーとうとう幻覚を見る程に俺もとち狂ったか……ー
桜花は頭を抱える。実際桜花は気丈に振る舞っているものの、諸々諸般の事情で自殺しようとする程精神的に追い詰められている。だから幻覚を見ないとも限らない事を自覚していた。
「海軍病院に行かなあかんなあ。」思わず関西弁で出てしまった。
するとドアが開いて「桜花さん、どうされたんですか?あと、私は幻覚じゃないですよ。」とアリアがムゥっと頬っぺたを膨らませながら桜花の顔を覗き込む。
正直言ってメチャメチャ可愛い。だからか桜花の心臓は無駄に跳ねる。
桜花の気付かないうちに口元がほんのり緩んでいた。
「ひゃあ!」そうアリアが叫んだ時には桜花の手がアリアの頭を撫でていた。何故か昔の弟や妹に接した様にすれば良い、と思ったからだ。
てか本当にいきなり妹ができたように錯覚する。
そんな馬鹿な事を考えながらアリアの頭を撫で続けると、どんどんアリアの表情がへにゃ〜と蕩けていく。
と言ってもずっと廊下で頭を撫でているわけにもいかない。部屋に入り直して、改めて話を聞く事にした。
「改めて申し上げます。私、貴方武田桜花の許嫁の三条アリアと申します。不束者ですがどうかよろしくお願いします。」と言って改めて深々と頭を下げる。その所作は洗練されていて美しかった。如何にもお嬢様、育ちの良さが窺える。
「ところで、確か武田様のお父様に電報を一本打っていただく手筈でしたが、何もご存知ありませんでしたか?許嫁が住み込みでやってくるって。」
「いや、何も……」
思い出した。一昨日確かに親父からの電報が一本届いた。が、「数日中に居候あり。準備されたし。」とだけしか書いてなかった。
親父は時々「ヒヨコが空を飛んだ。見に帰ってこい。」などなど変な電報を打ってくる癖(親父曰く和み電報らしい。まあまあ貧しい我が家にしたらしょっちゅうやられると手痛い出費だ!)があるから、今回もそう言う類だろうと思い、大した準備すらしなかった。
「そうでしたか。電報は届いておりませんでしたか。」
それ以降沈黙が流れる。尤もだ。初対面の男女がいきなり一つ屋根の下で暮らすのだから。
沈黙に耐えかねたのか、アリアが口を開く。「ところで、何で先程、あの、わ、私の、あ、あ、頭を……」茹で蛸の様に顔を真っ赤にして、モジモジしながら訊いてくる。やかんが沸騰した時の音が聞こえてきそうだった。
「ああ、頭撫でた事か。」「そーですッ!それですッ!何でいきなり私の頭を撫でたのですか⁉︎」「いや、よく妹にこうしてやったなあと。」「つ、つまり私の事を妻として見れないと⁈」「そうだ、そもそも俺は一生涯嫁を娶る気も無い。」「な、な、な……」
アリアはこの世の終わりのような顔をしている。流石に可哀想になってきた。
ーと、思ったのは束の間、すぐに「じゃあ私を妻として、いや女として意識させてあげましょう!私だって本気出せばどんな男だってイチコロですっ!」と変に自信満々な顔をしてきて迫ってきた。
ここで一つの疑問が頭をよぎる、何故わざわざ桜花と結婚したいのか、という疑問が。だがコレを訊くのは無粋だと思い、その質問を仕舞い込んだ。
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