最終話 プロローグ・的な・エピローグ!!!


◆     ◆


「おら斑鳩いかるが! さぼってねーで働け!」

「っせーな! やるよやりますよ! だーもうやる気でねえ、休みにしろよ」

「この年になって青空あおぞら教室きょうしつもないっすよね」

「風紀に入ったてめーを恨め! さあキリキリ動くぞ! この後終業式の段取だんどりもあんだからな!」



 桐山きりやまにあおられ、斑鳩いかるが田井中たいなかがキャスター付きの黒板を運んでいく。



 やっと全学年全クラス分の机といすを運び終えた雛神ひながみ夢生むうは、滝のように流れる汗をぬぐいながら疲れのにじむため息をいた。



「お疲れ様。雛神ひながみ君」

「あ、霧洩きりえ先輩。お疲れ様です」

となりいい? 私も少し、休憩きゅうけい

「あ、もちろんです」

塩飴しおあめ。いる?」

「わ、いいんですか? ありがとうございます」

「……終わるね。一学期」



 塩飴を口にしながらサクラ。

 夢生が更地さらちになった灰田愛はいだめ残骸ざんがいをぼんやりとながめる。



「……すごいですね。その。うら方々かたがた手際・・、というか」

「心配ないわ。彼らはもう、今回の件を地下の不発弾ふはつだん爆発ばくはつによる校舎こうしゃ全壊ぜんかいだと信じて疑わない・・・・・・・そういう・・・・仕事には、裏の人間はみんな手慣てなれてるから」

「(どうなってんだこの世界)……それにまさか、学期末の暑い時期を青空あおぞら教室きょうしつむかえるとも思いませんでした……」

新鮮しんせんだったんじゃない? 校舎こうしゃが無い学校生活以上に……紀澄きすみふうもレピア・ソプラノカラーもいない・・・学校って。今の君にとっては」

「そうですね。レピアがくる以前は、ずっと自分を押し殺しているばかりで。二人がいない灰田愛はいだめで、風紀委員のみんなや霧洩きりえ先輩と一緒に色々活動して……ホントに色んなことを、考えます」

「……『霧洩きりえ』の人達は、ひとまずもう灰田愛はいだめに『魔』は残っていない、って結論に達したみたい。もうしばらく、警戒けいかいは必要だと思うけど」

「……ありがとうございます。きっと先輩が、色々動いてくれたんですよね」

「――いつかも言ったけど。私はまだ、迷ってる。君をはらうべきかどうか」

「……僕の『力』は消えたわけじゃない。完全にコントロールできている自信もない。当然のことだと思います」

「……もし、私が君を見逃みのがし続けたとして。君はこれから、どうするつもりなの?」

「……風ちゃんを、真似まねてみようと思ってます」

「まねる?」

「僕にはまだ向き合えてすらいない、大きな『罪』があります。もし生かしてもらえるなら……今後この人生すべてをかけてでも『罪』をつぐなっていきたい。たとえ灰田愛をはなれることになっても」

「……過酷かこくだわ。誰も君の『力』を、苦悩を知らない、理解もできない。そしてひとたび『力』を証明・・すれば、今度は世界に散らばる退魔たいまの勢力が黙ってない。必ず君を『魔』として処理しょりしようとする。『裏』でも『表』でも、君に安息あんそくの場所は与えられない。その上で、相手のさじ加減かげんで命だって差し出さなきゃいけない『つぐない』なんてものを、君は今後の人生で一生続けていこうというの?」

「それが僕の『ばつ』、何だと思います」

「……そう」



 サクラはそれ以上、何も言わなかった。



 雛神ひながみ夢生むうが犯してきた罪。



 無自覚むじかくであったときならばいざ知らず、自分の「力」と「罪」を認識してしまった少年がそんな自分を肯定こうていすることなど――「ばつ」のない人生を求めることなど、できないのかもしれない。

 夢生むうが「魔」でなく、人間としてあり続ける限り。



 だからきっと必要なのだ。



 彼以外に、彼を肯定こうていしてくれる存在が。



「……監視かんし。していなくちゃね」

「え?」

「君が再び『魔』にまらないように。つぐないの道を、ちゃんと歩いていけるように」

「……霧洩きりえ先輩」

「それでなくても――君の周りには別の火種・・・・もあることだしね」

「え゛、」

「さっそく他の女口説くどいてんなしキーーーック!!!!」



 ばさぁ、と。



 夢生の前でスカートが広がり――――視界が真っ赤なT バック一色に、染まる。



 天使のキックが夢生の顔面に命中した。



「ほぼご?!?!?」

「ったく! ホントちょっとガッコ空けただけですーぐ内なるインキュバス出しやがるんだからこのむっつりスケベは!!」



 すっころんだ夢生。

 それを見下して――いやほとんど突き出した乳で見えてはいない――笑う、ウェーブのかかった金砂きんさの髪を揺らしてにやける少女。



 口のキャンディをカロリと鳴らし。

 少年の天使が、帰ってきた。



「――レピア!!?」

「……ただいま! ガッコ終わる時間だからいるかけだったけど。やっぱいたか、マジメ風紀委員」

「も、もう大丈夫なの!?」

「いや、大丈夫ってか、身体はどうもないっつってたでしょ。アタシが天下界げかいフケてたのは――」



 バキバキにネイルをいろどった指をわきわきさせながら、得意げなレピアが恥ずかしげもなくスカートの中に手をみ――太もものホルスターから、バチバチにデコられた白き双銃そうじゅうを取り出し、ガンマンのごとくクルクルとやってみせる。



愛機あいきふっかつーぅ!♡ や~んいつ見てもバイブスマジアゲぎゃんかわぴっぴ的な!? ねえ見てみてむーこれ今度ここさー」

「ッ!?!?」



ぐぐぐ、とどこか必要以上に体を寄せ、隣のサクラをはねのけるようにして夢生に近付くレピア。

女の子の香りが少年の鼻をくすぐり、あっという間に赤面させる。

悲しき男のサガである。



だけど今は、そんなことよりも。



「マウント入荷にゅうかするらしいからさ~、いっそここでもっとモリモリのアゲアゲにしちゃおうかなーって思ってたりするんだけど――ホラちゃんと見ろし!」

「よかった」

「あん??」



 られた顔を押さえながら――夢生がニカリと歯を見せて、笑う。



「戻ってきてくれて、よかった」

「ちょ――なにその満面の笑み。アタシのこと好きすぎか?」

「かも!!」

「ひぇっ??!?」

「おかえり、レピア!」

「ッ……ふいうちむーめ。――いなくなるわけないっしょ。アタシはあんたのキューピッドちゃんなんだから」

「……そうだね。そうだったね!」

銃刀法じゅうとうほう違反いはん。何度言われれば分かるのかしらね、ミス校則違反こうそくいはん

『!!』



 夢生がパッと顔を明るくして、レピアがゲッと顔をしかめて振り返る。



 そこにいたのは、レピアとは対照的にカッチリと制服を着こなす委員長スタイルの少女。



ふうちゃんっ!! ケガはもういいの!!?」

浮気うわき制裁せいさい

「みみとれるとれる!?!??!??!」

「ハ! 付き合ってもないくせに『浮気うわき』とかヒクわ~」

「おぼこ生娘きむすめエセ・・ギャルちゃんは知らないのね。こういう恋愛もアリ・・なのよ」

「なッ……?!」

「たいたいたい?!?!?」



 耳を引っ張りながら夢生の顔を引き寄せ、微笑ほほえんでみせる風。

 恋愛弱者れんあいじゃくしゃはむむむとニラんだ。



「ッむー、マジでやめといた方がいいわよコイツあんたと仲良くなりだしてドンドン性格ユガんでってるの気付いてる!?」

「だって初めてなんだもの、ちゃんと恋愛するのなんて。私も知らなかった私が色々見えてきて――あぁ、だから不意ふいにむーくんと不仲ふなかになっちゃうこともあるかも」

「お前ぜってードSだわ!!!」

「だからその時は、しっかり助けてくださいね。私の天使さん?」

「ッッッ!!!!………………ええ。むーがフラつかないよう、つきっきりで世話してやりますとも。あんたが踏み込めない場所・・・・・・・・でもね!」

「――――」

「ねえちょっと、久々に会ってそうそうケンカ――」



 こめかみに青筋あおすじを立てたレピアが、ゆっくりと銃口じゅうこうふうの額に当て。



 するどまゆをつり上げた風が、ゆっくりとレピアの口元のキャンディに手を伸ばし。



 二人の少女が恋に燃え、笑いながら火花を散らす。



 渦中かちゅうの少年は、それを見て思わず笑った。



『なんで笑うの』

「いや、なんというか……うれしくって。色々あるけど、僕は結局――――風ちゃんともレピアとも、一緒に居たかったから・・・・・・・・・・!」

『――――』

「あれ?」

(……それはさすがにアウト。雛神ひながみ君)



 銃口が、拳が同じ方向を向き。



 無自覚むじかくタラシなカンビオンは、二人の少女にしっかりブンなぐられるのであった。【完】



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