第19話 絶望・償い・希望
「……他人の、人生を……」
「…………」
眼鏡が落ち髪が
否、
〝好きだよ。むーくん〟
聞いてみたいとさえ、思ってしまった。
「私は『
「……親元を……!」
「肉体は人を
「!!」
親を知らぬという欠落。
友達が誰もいない、想像を絶する孤独。
その絶望を、その「歪み」の果てに行き着く〝破滅〟を――――夢生はよく知っていた。
「『紀澄』も、力を授けたのちは一切、私に関わろうとはしなかった。だから私は決めたの。『もう二度とこの力を使わない』って。人を殺す力を持った化け物じゃなく、普通の人間として、普通に友達を作ろうって。でもそれは間違ってた。
「…………!!!!」
「風はいじめられたんだよ、徹底的にな。過去の暴力を
「ッ、なんでそんなことが分かる――」
「分かるさ。そんなバカな女を唯一認めてやったのが――このオレだったんだから」
「――!」
すがるように風を見る夢生。
否定を求めた少年の目を、しかし少女は前髪の隙間からのぞく目でただ静かに見返しただけだった。
笠木が舌ピアスを見せて笑う。
「
「そう。あの頃の私は……
「回りくどいな、ハッキリ言ってやれよ? ごめんなむうくーん。こいつが最初に愛した男はオレ。
「――――」
それでも風は、再びまっすぐに夢生を見つめた。
「でも今はハッキリわかる。あの時、笠木がどれだけ私の
「…………!!!!」
「オレにあれだけ依存しといてよく言うよな。オレは、こいつがいじめが辛くてしょうがない、死んでしまいたいって言うから
最低な最高の笑顔を、笠木が夢生に向ける。
「このままいじめられっぱなしでいいのか? お前をいじめるようなやつらと、お前は本当に友達になりたいのか? 世の中人間はいくらでもいる、だから――――そんなバカ共には
「…………お、」
「そしたらこのバカマジで奴らを半殺しにしちまいやがった!!!!!!」
「お前じゃ、ないか……」
「せっかくだから近くで存分に見てやったぜ、このバカとバカ共が
「
「知らねえなあ!? オレはいじめっ子に負けんなって背中を押しただけェ! あんな行き過ぎた暴力、このバカが勝手にやっただけだからなぁああああ!――――はァ――――けどさすがにコワくなっちまってよぉ。
「……へ」
「この女がこんな化け物だと思わねえじゃん? んで、ヤバい現場を見ちまった以上――――
「………………は?」
底が抜けるような絶望と怒りが、夢生の神経をいじり潰す。
「だから送ってやったんだァ――――その暴力を撮った動画を警察と教育委員会に! そしたらこのクズ女あっという間に
「…………き、ッッさま……!!!――ッなんでそんなことができるんだよッッ!!!!」
「なんでオレにキレてんだ? 風の人生メチャクチャにしたからか? だったら当然風にもキレてるよなぁ!? 俺以上に大勢の他人の人生
「フザけ――」
「言ってやれよこのバケモン女にッ! 他人の人生壊しておいて平気な顔して地元に戻ってきてッ、過去消して大人しいフリして最底辺の学校でならやり直せると思ってやがる紀澄風っていう
〝むーくん〟
「…………!!!!」
今にも吐きそうな顔をして、夢生が顔を伏せる。
勝ち
自分と似た表情をしているであろう風の顔を見ることが、できなかった。
犯した罪は消えない。
〝むー〟
犯した罪は、消えない。
〝雛神〟
その言葉に、少年は、返せる言葉を持たなかったから。
だから、
「……そうして、私は『紀澄』本家との縁を切られて……
風がさして動揺をあらわにすることもなく話を再開したことに、少しポカンとしてしまった。
「……風ちゃん?」
「あ……?」
勝ち誇っていた笠木さえ眉をひそめる。
だが風は当然のように、淡々と話を続けていく。
「私は
「は……? 罪に?w 向き合うって何だ? 半殺しにしたやつらに会って謝って回りでもするつもりなのか?w 二度と会えるワケねーだろ!w」
「…………まさか、風ちゃん」
「うん」
「……あ?」
「私が
「……おい、お前ら、おい。何の話してんだ」
笠木を置き。
小さく顔を横に振りながら、夢生が風を見る。
「でも風ちゃん、そんなの――」
「私が与えたケガのせいで、人生を狂わされて――
「そんな――そんなの一生、終わらないかもしれないじゃないか! なのに――」
「それが私の罪。それが私の覚悟。たとえ一生かかっても……私は彼らに
「――――君は――――」
「何の話だっつってんだろッ! 義務?
「まったくだ」
『ッ!!?』
「!」
予想だにしない、第三の声。
紀澄風の背後、プールの出入り口から現れたのは――――夢生もよく知る人物。
「どれだけ痛めつけても、追い返しても謝罪で迫ってきやがって。ウザくてかなわなかったぜ」
「……
「でも、だからこそかも、って思うんだ、最近。腐ってた自分を自覚できたのは」
「
「俺はまだ許してねーしこれからも許す気はねー。ねーが……こいつの言葉が本物かどうか、確かめたいとは思うようになった。そんくれーしつこくて暑苦しかったってだけだがよ」
「
中学時代、紀澄風に人生を狂わされた者達。
そして紀澄風により「ハキダメ」を抜け――生徒会派から風紀委員のメンバーになった、男子達だった。
笠木が目に見えて動揺する。
「こいつらが、あの時のッ……!?」
「罪の意識から逃れたいがための偽善……あんたの言う通りかもしれない。でも……今はこうも思えるの。それは私が決めることじゃないのかもしれない、って」
「――ワケ――」
「私は
「――わかんねえ、ことをッッ……!!」
「…………」
夢生が地面に顔を伏せてうなだれる。
否、もはや涙さえにじませて――平伏する。
直視できなかった。
紀澄風の、あまりにも正々堂々としたまぶしさに。
「
「あんたはどうなの? 笠木」
「――あ?」
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