第18話 眼光・怒り・背を押し
――
淡い水色の下着が、ゆっくりと透け見えていく。
「――――――――、」
――
「あの時は安モンの、何の
「…………」
「なあ。なあ風、なあ。勘違いすんなよ。誰がお前みたいな女を本当に好きになる?」
(――――黙れ、)
「…………」
「そうやって髪切りそろえて眼鏡かけて、優等生のフリして。友達は一人でもできたのかよ?」
(黙れよ――――
「一緒に遊ぶとか、学校でよく話すとか、そういう次元の話じゃねえぞ? 見てみろ――こんだけ俺に追い詰められてても、それでもお前を助けようなんてやつは一人もいねえじゃねえか。これがすべてだよ」
(僕がいなければ、波風立てなければ――――これ以上ことを荒立てずに済むかもしれないんだ。警察だって来るんだ。だから…………僕はただ黙っていればいいんだ)
「別の仕事で動いてる? 一人で大丈夫だと止めてきた? だから何だよ。その程度の理由でお前を見捨てられるやつしか、お前の周りにはいないってことなんだよ。いつまで
〝許せないよね〟
(黙ってれば――――)
「だからお前は『ハキダメ』にいるんだろうが。ゴミクズ女」
〝あんたは何も思わないのかって聞いてんの!〟
(黙って、いれば――――いい気になりやがってッッ!!!」
『!?』
迷いも、不安も、痛みも。
「好き」が少年から、あらゆるマイナスを吹き飛ばし――――ただその想いを、怒りを爆発させる。
「いい加減にしろよッッ、お前――――!!!」
「……聞き違いか? テメ今誰にモノ言った? チビ、コラ」
「昔だとかあの時だとかッ、お前はそうやって過去の――ァガッ!」
「!! むーくんもういい――」
「いいことないッッ!!!」
「――な――」
しかし少年は、止まらない。
「お前は過去の
「オイやめろ、ナイフはもう使うな! クソ――早く黙らせろ!」
「どれだけの人に
「チ、ガキが――ハッ、
「
「それ以上無理をするなむーくんっ!! 君の体がもたなくなるッ!!」
「イタいんだよチビガキが――チビはチビらしく大人しく縮こまっとけッ!!」
「ああぁぁああぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
「むーくんッッッ!!!」
夢生と風の叫びがプールサイドに響き渡った。
「ハァ――二回目の250万ボルトの味はどうだよッ! 」
「――――自分が、」
「ッ!?」
「むーくん――」
「痛いのなんか――僕は怖くないッ!!」
夢生の眼光が、笠木を捉え。
その目を見た笠木が、明らかに気圧された。
「僕は風ちゃんを守るッ、僕が風ちゃんを助けるッ!! だから――僕のことは気にせず戦ってッ、」
「黙りやがれこのクソ――」
「
「ガキがぁァッッ!!!」
笠木が夢生の顔面を爪先で蹴りつけ、蹴りつけ、蹴りつけ――――夢生の歯が宙を飛び、プールサイドに転がる音が響いて、
「笠木」
「――――ッ!!?」
――夢生でさえ寒気を感じるほどの殺気を込めた声が、笠木の攻撃を止めた。
「それ以上むーくんに手を出してみなさい――――死んだ方がマシだと思えるくらいの『痛み』を与えてやるわ」
眼鏡を通さない、容赦のない眼光が笠木を捉える。
それは彼が過去に見た、すべてを力でねじ伏せていた少女のそれで。
「…………は、はは。結局最後は『力』に訴えるってか――――いや? そもそも最初から、お前は暴力でしかコトを運んでなかったんだったな。風」
笠木が引きつった笑みを浮かべ、なおも風を
「生徒会派のやつを暴力で従わせといて『
「万事を尽くした後の実力行使を、私は否定しないわ。一般生徒を守るため、それが私にできることなら」
「出た、『マモルタメ』。暴力振るうのに最高の
「付き合いきれない」
「――あ?」
「目的を言ってくれる? 人質を取って、物々しく数まで集めて。結局あんたは私に何をさせたいの。何が狙いなの?」
「…………クソ、ガキが……!」
笠木は既に、風の心を折ろうとした自身の計画を半壊させられてしまっていた。
人質になるかどうかも怪しいと見くびっていた、ハキダメ最底辺の腰抜けチビの、言葉によって。
許せなかった。
ハキダメいちのヘタレパシリである少年と風が短期間で――これほどに、仲を深めていることが。
「…………ハ。ハハハ」
だから笠木は、それを壊してやろうと思った。
「……『今の風がどれだけ頑張ってるか』だと?」
「……?」
「今頑張ってりゃ昔の『罪』は消えんのか?」
「!」
〝むーくん〟
「……罪、なんて、」
「こいつに教えてやろうぜ風、なあ? お前の口から聞かせてやれよ――中学んとき、お前がその『力』で他人の人生をブチ壊しにした話を!」
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