もげろ! ダメ魔王

 ■ 爆誕! えるふみみ少女 遼子ちゃん

 魅了の呪文は効果覿面であった。百畜を一口で平らげてしまうと恐れられる魔王が美少女エルフにかしずいているのだ。彼は鬼の形相を崩壊させ、鼻の下を長くするどころか、ほんのり頬を赤らめている始末。

 どうした魔王! 下等種族の小娘にへつらうなど魔族にあるまじき痴態。君の威厳はどこへ行ったのだ?

「デュフフフ、コポォ、女王陛下さまぁ〜〜。私めは貴方様の下僕にございますぅ。何なりとお申し付けをオウフ」

「何なんだよ。この気持ち悪いデカブツ野郎は?」

 生きるか死ぬかの瀬戸際から急転直下、魔王に見初められるという超展開ぶりに遼平はどう反応すればよいのか困り果ててしまう。

「あなたの【魅了】に魔王はコロリと参ってしまったのよ」

 アバター小町は自分の腕を遼平に絡ませて、頼もしい恋人を得たかのように寄りかかる。

「……で、どーすんだよ? これ」

 鼻濁音だか嗚咽だか判別不能な悶声をあげる魔王。処置に悩んだ遼平は取りあえずお引き取り願う事にした。

「あの……。もしもし?」

 澄みきった女の子らしい声色で話しかけてみる。

「ドヒャ&%$#☆!」

 魔王はヒキガエルを踏み潰したような奇声をあげる。

「ひゃん☆彡」

 彼の鼻息に煽られて遼平も尻もちをつく。「イテテテ。何だってんだよ」

「にゃ、何用で御座いましょうか? 女王閣下」

「それはこっちのセリフだよ。お前、曲がりなりにも魔王なんでしょ? ラノベの魔王だったら魔王らしく行動したらどうなんだよ?」

「……と、申されますと?」

 魔王は見当識喪失者のように自分のなすべき事が理解できないようす。

「使えない魔王ね。わたしたちの転生先を告げるなり、チートスキルをくれるなり、ステ振りさせるなり、さっさとテンプレに従えば?」

 うんざりした小町が助け舟をだす。

「……?? 女王様がたのおっしゃることは、私めにはサッパリ理解できかねますが……」

「じゃ、お前は何なんだよ?」

 遼平が魔王を問いただす。

「お言葉ですが先に名乗るのが礼儀でございましょう」

「……まぁ、そうだな」

 お互いに膝頭を突き合わせて改めて自己紹介から始める事にした。遼平とアバターは量子壕で出会って以降の顛末を手短に語った

 魔王の名はゲバルト三世という。地球に似た魔球という異次元惑星の出身で、文字どおり魔王だらけの世界では最底辺の家庭に生まれた。レベル1マジック以外はまともに習得できず、母親に家から追い出された所を、通りすがりの魔龍に踏み潰されて死んだという。

「……先ほどは失礼いたしました。とんだ勘違いを」

 彼が平身低頭するのも無理はない。ゲバルトは、遼平たちを転生神であると思い込んでいた。よほどのラノベ好きでない限り、自分の命を奪った相手が神であろうと殺意を抱くだろう。

「て、いうか、どーすんだよ、コイツ。魔王の中でもズンドコじゃん」

 あまりの体たらくに遼平は脱力感に苛まれる。

「ちなみにレベル1マジックって、何が出来るの?」

 見かねた小町が助け舟をだした。どうせ、【鑑定】か【座標】あたりの「あってもなくても困らない」魔法だろう。

「あっ、その眼……私めをバカになさっておいでですね? レベル1マジックは基本中の基本。見くびっては命取りでございますよ」

 魔王はアバターの心中を察して目を吊り上げた。

「見かけによらず負けず嫌いなのね。いいわ。貴方のスキルを存分に発揮してみせて」

 ゲバルトは我が意を得たりとばかりに微笑み、「むん!」と気合を入れた。

 微風が少女たちの髪を揺らす。魔王は額からダラダラと汗を垂らして歯を食いしばっているが、二人には何の変化も感じられない。

「一生懸命なのはわかるけどさ、どこでレベル1マジックが起きてるわけ?」

 小町は鬱陶しそうに乱れた前髪を振る。

「……ていうか、今のこれがそうなんじゃね?」

 遼平はお好み焼きの上で踊るカツオ節のごとく荒れ狂う髪の毛を指さした。

 気張ったゲバルトの表情がゆるんだ。さようでございます、と顔に書いてある。

「ふ、【浮揚】……」

 魔力点を使い切った男が大の字に倒れ込んだ。その上にずっこけた女の子が二人重なった。

「ぉきじゅhygtfrですぁq!」

 魔王の顔面に熟れた桃尻が二つ落下した。

 うらやまけしからん。けしからんぞ、魔王。もげろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る