第90話 打たせる

 ※ 後編です




×××



 とてつもな試合になった。

 だがこんなぐらいだろうな、と武史は納得していた。

 兄との投げ合いで、あっさりと九回までに、勝負が決まるはずもない。

 まだまだ肩は軽いと言うか、ようやく完全に投げられるようになってきた。

 MLBで投げてきたこれまでの試合、やはりどこか緊張があったのだ。

 しかし対戦相手が見知った顔が多いと、気楽になると言うか、草野球感覚で投げられる。


 10回の表、アナハイムはシュタイナーから始まる。

 先ほども当てられて、内野フライになったバッターだ。

 だからといって、ムキになって三振を取りにいくことはない。

 まだまだこれから、球数は増えていくだろうからだ。

 内野ゴロを打たせて、まずはワンナウト。

 そしてそこからは、またツーストライクまで伸び伸びと投げていく。


 ここでもまた、二つの三振を奪った。

 延長に入っているので、もう参考記録にしかならないが、24個目の奪三振。

 どのみち去年、上杉が九回で、26奪三振を奪ったのには届かないのだ。

 なので気楽に、奪える時に三振を奪っていく。


 三振奪取能力は、ピッチャーの中でもかなり重要な指標だ。

 しかしフライを打たせることが多い場合は、やや一発の危険性はある。

 ホップするように見える球が、それよりもフライになりやすいのは、確かにそうなのだ。ボールの軌道を考えれば当たり前だ。

 そんな武史とは対照的に、直史も10回の裏を抑える。

 ここで二人の奪三振数は、武史がダブルスコアで直史をリードしている。

 だが打たれたヒットは二人とも変わらない。

 また四球は、直史が0なのに対して、武史は一つ出している。


 本当に優れたピッチャーの条件。

 それは直史も、ずっと勘違いしないようにと、昔から言い続けていたことだ。

 直史の基準からすれば、あの高校二年生夏の、大阪光陰との試合も、反省する点が多いのだ。

 なぜならあれで指を酷使して、決勝には投げられなくなったのだから。

 もっともあの状況からでは、直史にリリーフをさせるという選択肢はなかったはずだ。

 しかし選択肢を残して、試合を投げきらなければいけない。

 翌年には15回を投げて、翌日も完投して勝っているのだから、確かに成長している。




 11回の表が始まる。

 武史はまたも、三者三振で抑える。

 球数もわずか10球と、ほとんど粘ることさえ許さない。

 しかしその裏を、直史は九球で抑える。

 奪った三振は一つだ。


 対照的なピッチャー。

 その捉え方はある意味正しく、ある意味間違っている。

 直史は変化球投手だが、それでもゾーンに投げ込んでいく、技で相手を制圧するタイプだ。

 上手く勢いを殺して、なんとかアウトを積み重ねるタイプではない。

 そして武史は、完全にパワーピッチャー。

 それなのに直史よりは、投げる球数は多くなってくる。


 果たしてどちらが正しいのか。

 この試合はやがて、結果が出るだろう。

 だがその結果が出ても、正しさを証明するわけではない。

 試合の結果はチームの勝敗であり、そのチームの勝敗でさえ、チームの強弱に結びつくわけではない。

 そこには運が絡むからだ。


 結局、野球もまた、一試合だけで全てが決まるわけではない。

 殺し合いでもないし、今年が終われば来年が、また始まるものなのだ。

 勝って終わりでいいのなら、去年の時点で直史が勝っている。

 最後には自分自身との戦いとなり、そして引退するまでその戦いが続く。

 誰かとの対決というのは、表面的に見えていることだけ。

 その根幹の部分を、忘れてはいけない。


 ただそれでも、試合には勝敗が訪れる。

 12回の表、アナハイムの攻撃は一番のアレクから。

 そしてこの裏には、大介の五打席目が回ってくる。

 初回の見逃し三振は、お互いの探りあいとはいえ、直史の勝利と言っていいだろう。

 しかしそこからの三打席は、全てヒットかヒット性の当たりになっている。

 フェンス際の大飛球に、センターライナー。

 むしろそれに比べれば、バウンドして抜けていったヒットの方が、打ち取った当たりに近い。


 三振以外でピッチャーとバッターの勝敗を判断するのは難しい。

 そしてホームラン以外でも、やはりこの両者の勝敗を判断するのは難しい。

 フェンス際のフライをキャッチしたのは、守備陣の守備力の高さ。

 そして強烈なライナーは、まさに運によってアウトになった。


 打球がヒットになるかアウトになるかは、ホームラン以外は全て運。

 そんな極論さえもあるが、実のところこれは極論ではない。

 守備力をちゃんと測定した上で、どの程度の打球の速度に抑えるか、それがピッチャーとしての能力になるからだ。

 もちろんこの言葉をちゃんと見れば、打球にさえならない三振は、それこそピッチャーとしての能力を示している。

 直史も追い込めば、そこからは三振を狙っていく。

 だが今日の試合は、この展開になることは、ある程度予想できていたいのだ。


 11回の裏の時点で、既に今季最多の、118球を投げている直史。

 だが体感的には、まだまだ80球前後といったところだ。

 ピッチャーが本当に疲れるのは、単純な球数の問題ではない。

 本気の球をどれだけ投げるかが、その疲労度と消耗度の元になってくるのだ。


 そもそも体力的には、武史の方が体格などからも、優れている部分が多い。

 長距離走などをすれば直史の方が上だが、ダッシュ力では武史の方が上だ。

 ただ直史は、その長距離走につながる、スタミナを上手く一定に、最後まで使うことに長けている。

 武史の場合は、奪取の消耗から、素早く回復する力がある。

 どちらが一方的に有利というわけではないが、本来の野球のピッチャーに必要な能力からすれば、武史の方が向いているのは確かだ。




 粘りつつも最後は、球速に負けて三振。

 アレクは天を仰いで、それからベンチに戻ってくる。

「少し乱れてたよ」

 樋口もそれは、ネクストバッターサークルの中から確認していた。


 ほんのわずかだが、制球力が落ちている。

 しかし武史はそれを、パワーで無理やり抑えてしまった。

 おそらく球数も160球を突破したので、人間の肉体の限界に突入してきたのだ。

 これは一イニングあたりの球数にも関係するが、ピッチングの全力投球は、指先の毛細血管を破裂させる。

 血管を鍛えるなど野球のトレーニングにはないので、指先の感覚はどうしても、少しずつ痺れてくるのだ。

 直史がストレートを使いすぎないのは、これも理由にある。

 最後まで指先でボールを弾くフォーシームストレートは、これまた感覚が重要なスライダーと同じく、球威に影響を与える。


 握りだけで変化が決まる、ツーシームならばいい。

 だが武史の場合は、カットボールの方は、微妙に手の振りが変わっていたりする。

 正確に言えば、最後のリリースの瞬間の、ボールの切り方なのだが。

 そちらの方はもう、この試合には使えない。

 一種類球種を減らした状態で、樋口とターナーをどう抑えるか。

 マウンドの上で武史は、かなり困ってきている。


 こんな時、恵美理がスタンドにいれば、負けないでコールであと一踏ん張り出来るのだろう。

 だがVIP席にいることが災いした。

 手を握り締めて試合を見守るも、何もそこからは伝わらない。

 武史はエスパーではないのだから。


 二番の樋口も、制球が落ちてきたことは分かる。

 だがボールの単純なスピードで、まだまだ勝負出来ている。

 ファールまでは打てるのだが、そこから先には至らない。

 去年の上杉と同レベルのボールを、樋口は打つことが出来ない。

 それでもわずかに粘ることは出来たが。


 ほんのわずかなコントロールの乱れを、球威でカバーしてしまえる。

 樋口の嫌いなタイプのピッチャーだが、コントロールは乱れているのだ。

 もう交代してもいいのではと思うが、それは打つ側から見た話。

 この裏に大介の打順が回ってくることを考えると、一点をやるわけにはいかないのだ。

 逆にこの裏、大介が点を取れなければ、ピッチャー交代は確定だろう。

 いや、まだ試合が続くと確定したら、それこそがまさに正しい選択なのだろうが。


 樋口に対しては、最後はチェンジアップで空振り三振。

 ワンバウンドのボールで、坂本が樋口にタッチしてアウト。

 だがこれは、もうターナーなら打てるのではないか。

「打ってくれ」

 樋口の囁きに、ターナーは無言で頷く。


 長打力ではアナハイムナンバーワンのターナー。

 ここで一発が出れば、それで試合は終わるだろう。

 だが今度は本格的に、ストライクが入らない。

「坂本か……」

 ベンチから見るに、坂本がおそらく、ターナーとの対決を避けている。

 ならば申告敬遠をすれば、それだけ球数も減るだろうに。


 ただ今の武史は、限界近くで投げている。

 下手に敬遠などをすると、集中力が切れてしまうかもしれない。

 なので自然と、フォアボールを出す。

 ターナーが一塁に歩いて、速球には強いシュタイナーに回る。


 しかしシュタイナーは左バッターだ。

 ナックルカーブを効果的に使えば、打ち取るのはこちらの方が簡単なのだろう。

 実際にここも、ナックルカーブでカウントを取って、チェンジアップを使って三振。

 前の打席ではストレートを、当てられていることを考えたのか。

 つまりこの回もアウト三つは、全て三振で取ったのだ。

 奪三振30個。

 延長に入ってから九つのアウトのうち、八つを三振で取っている。


 パワーピッチャーであるにしても、限度と言うものがあるだろう。

 スリーアウトでチェンジになったが、さすがにこれで球数は185球。

 ポストシーズンでピッチャーを酷使する試合でも、これはとても投げる球数ではない。

 この裏で勝負が決まらなくても、さすがにもう交代だろう。

 コントロールの乱れは、もうはっきりしているのだから。

 ここが今の武史の限界だ。




 武史が勝利投手になる可能性は、この12回の裏にしかない。

 メトロズが九番から始まる攻撃で、大介に回る、

 ヒットで出塁すれば、シュミットにも回る。

 だがマウンドに行く前に、直史は樋口と話し合っていた。

「三振30個って、参考記録だけど新記録だよな?」

「まあ九イニングで26奪三振した上杉さんとは、同じ評価は出来ないけどな」

 上杉に対する忠誠心が厚い樋口でも、武史の今日のピッチングには呆れていた。

 12回を無失点というのは、NPBならばこれで引き分けだ。

 

 武史の体の頑丈さは、二人ともよく知っている。

 しかしいくらなんでも、この球数はないだろうと思うのだ。

 これでまた、中五日で回したら鬼である。

「お前が15回パーフェクトした時って、どんだけ投げてたっけ?」

「あの時は真田の方が無茶だったんだよ。190球ぐらい投げてただろ。俺は150ちょいだ」

「けど次の日も合わせて240球ぐらい投げてたよな?」

「まあ、再試合の方は、力を入れずに投げてたからな」

 散々に、投げさせすぎで壊れた、とマスコミに言われたものだ。

 国体でしっかり健在なところを見せて、妖怪変化の類と言われたものだが。


 現時点で直史も、118球を投げている。

 だがこれぐらいであれば、まだまだ直史の限界には遠い。

 ただ大介と勝負することだけが、ひどく憂鬱なのである。


 単に勝負するだけなら、別に構わないのだ。

 だがこれは、レギュラーシーズンの中の一試合。

 どこかが壊れるぐらいの覚悟で投げた、去年の最終戦とは違う。

「あれ、使ってみるか」

「あれか」

 直史としては、隠し球にしておきたかった。

 だが考えようによっては、使っても対処法が練られるとは思わない。

 大介ならば対応してきそうで、それで渋っていたのだが。

 何より舞台があちらさんのスタジアムなので、直史のボールの全ては、しっかりと記録が取られているだろう。


 だがまだ、ワールドシリーズははるかに遠い。

 今はまだ五月で、四ヶ月も工夫の余地があるのだ。

「何より、負けたくないだろ?」

「そうは言ってもな」

 痛いところを突く。


 直史の最大の目的は、試合に勝つことである。

 チームの優勝というのは、今ではあまり重要視していない。

 地元の期待がかかった甲子園や、準地元となった神宮球場で戦うのとは違うのだ。

 自分が、大介に勝つこと。それが最大の目的。

 そして自分の投げた試合で、チームを敗北させない。

 それが二番目の目的だ。


 アナハイムはいい街で、全く愛着が出ていないというわけではない。

 しかし三年でいなくなるチームに、愛着を持つのは難しい。

 チームメイトとの関係も、アレクや樋口はともかく、他はどうしても感覚が違う。

 そもそも選手というのは自分のパフォーマンスを最大に発揮するのが仕事で、試合に勝って優勝を目指すのは、監督やGMの仕事とも言える。

 負けたくないというのは、直史が中学時代から高校時代にこじらせた、意地っ張りな性格による。

「じゃあ、あれを使うからな」

「仕方がないか」

 使えば使ったで、逆にその幻影を利用することも出来る。

 とりあえずは目先の、九番打者を抑えなければいけないが。




 このイニングに点を取れなければ、さすがにメトロズは武史を降ろすだろう。

 既にブルペンは動いているので、それは間違いない。

 11回が終わった時点では、武史は162球、直史は118球を投げていた。

 直史の118球というのも、本来レギュラーシーズンに投げるにしては、充分に多い球数だ。

 むしろ九イニングが終わった時点で、メトロズは武史を降ろすべきだったのだ。

 だが連続三振が、その判断を曇らせた。

 そして武史もその期待に応えてしまった。


 弟が故障で引退することなど、直史は望んでいない。

 だがあちらのFMは武史の肩を叩いて声をかけていたし、さすがにもう交代のはずだ。

 ここで大介を抑えれば、メトロズの得点力は次のイニング、確実に低い打線となる。

 そして武史を降ろしたあと、誰が投げるにしても、確実に制圧力は劣る。

 直史はこのイニングと、そしてもう一イニング、投げられるかどうか。


 九番打者をしっかりと三振に抑えて、大介との勝負に入る。

 直史がここで使う隠し球は、特に珍しいものではない。

 だが使い方はかなり、特殊なものになる。

(大介相手なら、むしろ通用しやすい)

 問題は、どう組み立てて使うかだ。


 一撃でしとめたい。

 二回以上使ってしまえば、そこからカットされる可能性がある。

 無駄にカット戦法を使わない大介だが、必要と思えば使う。

 そして大介ならば、直史のボールの秘密には、すぐに気がつくはずだ。

(必要なのは、タイミング)

 まずは外角、アウトローにストレートを外した。

 大介は見送る。伸びのあるストレートは、打てなくもなかったとは思うが。

 決定的な決着は、誰の目に見ても、分かるようでなければいけない。

 そしてこの思考の違いが、直史と大介の差である。


 二球目は、内角へスルーを投げる。

 この二球目が、直史は一番怖かった。

 MLBではボール球だが、NPBならストライクと判定されてもおかしくないゾーン。

 MLBでも審判によってはストライクかもしれないが、ここでは大介の選球眼が支持された。

 ツーボール。

 ここからはストライクがほしいと、誰もが思っているだろう。

(これで)

 直史の投げたスローカーブは、かなりの落差がある。

 ゾーンを一応通ってはいるが、どう判定されるか。

「ボッ」

 これでスリーボールだ。


 まさか歩かせるのか、と観戦している人間は思ったかもしれない。

 大介はそうは思わなかったが、三球目はストライクを取ってほしかったのではなかろうか、とは思う。

 だが直史も樋口も、これでいいと考えている。

 この勝負には、ストライクはいらない。


 四球目のボールは、アウトローいっぱい。

(ストレート!)

 大介のスイングが始動するが、わずかな違和感。

 ほんのわずかであるが、ボールが来ない。

 空振りするほどではないが、ほんのわずかに違う。

 その正体を途中で見抜きながらも、大介のバットは振られた。

 打球は見事に、一二塁間を抜けていく。

 外角のストレートなのに、大介は引っ張ったのだ。


 ライト前へのクリーンヒット。

 塁上の大介は釈然としない。

(チームの勝利を優先したのか)

 直史の投げたのは、チェンジアップであった。

 しかし本来球速差で勝負するチェンジアップと違い、直史のボールは球速差も、そしてそれによって生じる落差も、ほとんどなかった。

 そのほんのわずかな違いが、タイミングを崩させた。

 またわずかな落差が、ボールを上に飛ばさせなかった。

 ヒットまでにどうにか抑えるというためのボール。

 直史は、チームの勝利を優先しているし、そして大介からも逃げなかった。

 ただ少し、引っ掛けただけであった。




 ワンナウト一塁で、まだ試合は決まっていない。

 俊足の大介が一塁にいるのだから、そしてシュミットが打席に立つのだから、まだ何が起こるか分からない。

 そう思っているのが、いったいどれだけいるだろうか。

 試合の空気自体は、完全に正念場を過ぎてしまった。


 見ている人間からすれば、スリーボールからアウトローに投げたストレートなど、普段の大介ならホームランにしているものだと思ったかもしれない。

 実際に大介は、あのコースならホームランに出来る。

 チェンジアップをあそこまで微妙な感じに調整した。

 もしもあれが遅いチェンジアップであったら。

(そうか、だから直前にスローカーブか)

 あのスローカーブの後であったからこそ、わずかな違いに気づかなかった。

 これが駆け引きだ。

(感覚だけに頼ってると、だまされるのか?)

 いや、それは違うだろう。

 わずかに大介によぎった、歩かせるのかという疑念。

 すぐに打ち消したつもりだが、あれが雑念となった。


 完全に集中していれば、打てたはずだ。

 ボール球を三つ続けて、そんな心理までも手玉に取ったのか。

(やっぱすげえよ)

 打席の結果だけを見れば、大介がヒットを打ったので勝ちに見えるかもしれない。

 だがこの後の試合展開がどうなるのか、もう大介には分かっている。


 次のシュミットもいい打者で、長打力も充分にある。

 ホームのスタジアムは、彼に打つことを期待している。

 だが、決定的な何かが、もう消えてしまっていた。

(四番はこういう時に打たないといけないんだな)

 NPB時代からずっと三番を打ち、MLBでは二番か一番を打つ。

 それによって失われてしまった、四番としての役割。

 MLBからはもう、失われてしまったのか。


 空気がもう、点が入らない空気になってしまっている。

 これを覆すには、どうしたらいいのか。

 大介に出来ることと言えば、盗塁ぐらいか。

 だが直史のクイックから、そして樋口の肩から走ることは、球種が限定されないと、かなりリスキーだ。


 そう思っていたところに、直史の素早い牽制が投げられた。

 慌てても足から戻るのが、大介の反射神経である。

 やはりホームに癖がないため、盗塁はしづらい。

 メトロズのベンチからも、盗塁のサインは全くでない。

 一応大介は、好きな時に走っていいとは言われている。

 だがここで盗塁しても、シュミットのカウントを悪くするだけではないのか。


 迷いが生まれていた。

 そしてこういった迷いが生まれていれば、勝負はそれで決まってしまう。

 大介の敗因は、あそこで疑ったこと。

 直史が歩かせたなら歩かせたで、それで自分の勝ちだと認められなかったことだ。

 実際にフォアボールで塁に出ていれば、フォアボールを出さない直史にとっては、敗北を認めたも同然。

(そこが差か)

 勝敗の判断を、どこに置くのか。

 大介はまだ、自分のバッティングに、重きを置きすぎているのであった。

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