第72話 最強サウスポー

 直史は誰かの才能をうらやむことは滅多にない。

 その才能が足らなくても、人生は色々な脇道を歩きながら、最終的な目的にたどり着けばいいからだ。

 それでも一つだけ、明確にうらやましいと言うものがある。

 利き腕がサウスポーであるということだ。


 野球選手の中にはサウスポーの有利さを知って、幼少期に野球だけは左利きで始めて、そのまま左で投げるという選手もいる。

 だが直史がそれを始めるには、さすがにもう右での技術が卓越していた。

 それでもなんとか出来ないかと試行錯誤していた中で、練習の中でも左右の両方で投げることの効果を知った。

 かといってサウスポーには結局なれていない。

 そんな直史の持たなかった、極めて単純な才能を、武史は持っている。


 野球の世界ではピッチャーがサウスポーは有利というのは、半ば常識である。

 もちろんサウスポーを苦にしないバッターも多いが、強打者の左バッター相手には、サウスポーが有利であることが多い。

 スイングをする上でボールのリリースポイントが、より背中側であると、人体構造上打ちにくいとも言われている。

 そういったことを言わなくても、大介は細田の斜めのカーブや、真田のスライダーを苦手にしていた。

 

 武史にはサウスポーの有利をさらに増加させる変化球は、ナックルカーブがある。

 基本的には縦の変化が大きいが、これはかなり斜めに大きく変化する。

 前年の上杉の登場も、東海岸を震撼させた。

 だが武史はほぼ上杉と同じ球速に、サウスポー、そしてナックルカーブを持つ。

 坂本としては左打者相手であれば、まず打たれないリードが可能になっている。

 そう、こいつ以外は。

「オラわくわくしてきたぞ」

 紅白戦に分かれ、大介の打席。

 一度目は打ち取ったものの、しっかりとバットをボールに当ててきた。

 そしてこの二度目、坂本の直感は打たれると囁いている。


 リードに自信が持てない場合、キャッチャーはどうするべきか。

 リードに自信を持っているフリをして、ピッチャーに最高のボールを投げてもらうのだ。

 前年の最終戦、直史が大介を打ち取ったあのボール。

 まさか直史が力でねじ伏せにくるなど、坂本も予想外であった。

 その予想外であったからこそ、大介に勝つことが出来たのだろうが。


 ナックルカーブから始まる配球で、二球目までで追い込む。

 それから坂本が要求するのは、高めのストレート。

 去年の大介を打ち取った球であり、そして武史のストレートは、高めがよりホップする。

 これなら最悪外野フライで打ち取れる、と坂本は思っていた。

 だが大介のスイングは、確かにフライ性の打球を生み出しはした。

 そこからフェンス際で失速し、アウトになる。

 そう思い描いていた光景が霧散し、ボールはバックスクリーンに当たってそのままグラウンドまで跳ね返ってきた。

 誰もが認めるホームラン。

 心中でため息をついた坂本であった。




 上杉はシーズン途中のトレードであったため、大介との勝負をしていない。

 だが武史が、一般に左打者には有利なはずのサウスポーが、大介相手にはあっさりと打たれた。

 本拠地球場ではないので、そのトラッキングシステムは完全なものではない。

 それでも103マイル程度は出ていたと、後に坂本からの報告は受けた。


 ホップ成分の高いストレートも、ついにスタンドまで運ぶようになったか。

 だがライナー性ではなくフライ性の打球というところは、まだ完全にアジャストはしていないように思える。

 それでもホームランなら、もうそれでいいではないかという話になるが。

「シライシの方がサトーよりも上のわけか?」

「一打席で判断するのは早すぎるだろう」

 この日も武史は、五者連続三振などということをしていたりする。

 アウト三つを全て三振などということもあった。


 ただ事前に言われていた通り、立ち上がりのストレートはそれなりに打たれる。

 やはり先発で使うしかなく、そして序盤はストレートは見せ球にするべきだ。

 球速自体は一回のピッチングでも、それほど変わらないのだ。

 だが明らかに球威は途中から上がって行き、おそらくスピンレートも変化している。


 錯覚ではあるのだが、ホップするように変化する球。

 フライを打たせるのには都合のいいボールだ。

 特に高めに投げると、ほとんどのバッターは空振りする。

 インハイいっぱいであると、振ることすら出来なかったりするが。


 そんなボールを打つ大介も大介である。

 恒例行事でマイナーから上がってきた者や、招待選手を簡単に打ってしまう。

 レギュラーシーズンであれば勝利のために、敬遠をするという選択肢はある。

 だがキャンプの紅白戦などで、逃げるという選択肢はない。

 実力を首脳陣が見たいからだ。

 それに大介を一打席でもしっかりと抑えられるなら、それはそれですごいということになる。


 大介以外は、シュミットはわずかに前に飛ばすことが出来たが、他はほとんど武史を打てない。

 当たらないどころか、ボールの軌道が消えるのだ。

「シュレンプの調子が上がらないな」

「年齢でしょうね」

 首脳陣としては、そんな会話もしたりする。

 シュレンプは今年でもう38歳になる。

 シーズン途中のトレードから、二年連続でワールドシリーズ進出への、立派な戦力となってくれてはいた。

 だがさすがに年々、わずかながら数字は落としている。

 そして今年は、キャンプ中から調子がなかなか上がらない。


 MLBの選手の選手生命は、おおよそ35歳が限界だと言われる。

 あとはそこからどれだけ、落とさずに維持するかだ。

 ここで薬物に手を出してしまう、ということも昔はあった。

 もっともピッチャーの技巧派は、もっと長い者がそれなりにいる。

 ただバッターは動体視力の衰えを、どうしてもカバーしきれない。

 そのため目の筋肉を強化するために薬物を使ったりするのだ。


 FAの招待選手の中から、契約を結ぶべきか。

 全盛期の選手はもちろん、もう既に契約を終えてしまっている選手が多い。

 ただ年齢、それに怪我などにより去年は活躍していないが、まだまだやれそうと思っていて、実際にやれそうな選手はいる。

 あとはどれだけの年俸を払うかという話だ。


 高年齢選手は単年契約が多くなる。

 35歳がラインというのも、そのあたりの話だ。

 ただ一部のスーパースターは、40歳ぐらいまでは一線級の能力を維持している。

 1000万ドルぐらいで雇えるなら、考慮の余地はあるのだ。




 大介、武史、坂本の日本人三人が、今年のメトロズの核となりそうである。

 三人とも名字がサ行から始まるので、3Sと言ってもいい。

 かつて白富東の佐藤と白石ということで、SSSなどとも言われたが、海を越えて違うメンバーで、SSSがまた結成されている。

 特に仲がいいわけでもないが、同じ日本人と共通項だけで、この三人は話すことがある。

「で、ピッチャーはどうなんだ?」

 大介としてはそこが気になる。

 武史という完投可能なピッチャーが一枚増えたのは大きいが、それでもリリーフ陣には不安が残る。

「まあクローザーはいいとして、また来年はどうするかちゅう話じゃが」

 メトロズの獲得したジェット・レノンは38歳のクローザーだ。

 年齢的に長期契約はなかなかなく、単年で契約を結ぶジャーニーマンとなっている。

 それでも去年は40セーブをしているので、立派な戦力と言えよう。

 坂本のキャッチャーとしての視点からも、アナハイムのピアースよりやや上か、という程度の力はある。


 坂本が思うに、メトロズが今年ポストシーズンに進める確率は、かなり高いと思われる。

 だがワールドシリーズまで進むなら、若手の爆発的成長を期待しないといけない。

 クローザーはレノンで充分としても、そこにつなぐセットアッパーが薄い。

 一番登板数の多いバニングは、去年リリーフであるのに、11勝もしてしまった。

 これはあまりいいことではない。

 ビハインドで投げるリリーフならいいことなのだが、バニングは主に勝ちパターンで投げる。

 それで勝利がついているのは、一度追いつかれてしまったりしているからだ。


 若手で去年一時期先発にも回ったワトソンが、おそらくリリーフとしては一番安定している。

 だが先発としても使ってみたいピッチャーではあるのだ。

 オットー、スタントン、ウィッツと去年の先発の柱はそろっているが、この三人はサイ・ヤング賞の候補にも上がらなかった。

 勝ち星だけは多いが、打線による援護が多かっただけだと思われているのだ。

 それよりはまだ、ジュニアの方が評価は高い。

 まだ若いし、馬力もあるピッチャーだからだ。


 今年のメトロズは先発ローテをどうするのか。

 ウィッツ、ジュニア、オットー、スタントン、そして武史といったところか。

 去年のローテであったマクレガーは、打線の援護があってなお10勝10敗。

 ゲーリックなどは2勝9敗と、先発としては明らかに失格だ。


 将来的なことも考えていかないといけない。

 大介との契約がある間、また武史との契約の期間、メトロズは投打に一つずつの核を持つことになる。

 あとはどれだけの金をかけて、これを強化していくかだ。

 主砲とエースの一人だけでは、試合に一つ勝つことは出来ても、優勝することは出来ない。

 毎年優勝を狙うのは、チームとしての建前ではある。

 だが実際のところは戦力を、そこまで集中して集めることは難しい。

 二年連続でワールドシリーズに進出した時点で、かなりの偉業ではあるのだ。

 それでもやはりもう一度優勝したいため、かなりの金をかけて補強をした。


 武史を取れたのは、セイバーの口利きによるところが大きい。

 元々本人がニューヨークかロスアンゼルスを希望していたというのはあるが、同じく日本人選手がいるラッキーズに取られなかったのは、武史の求めているものを正確に、セイバーが教えてくれたからだ。

 大介にしてもラッキーズではなくメトロズに。

 オーナー一人の権限が強いチームに、彼女は選手を売り込んでいるのだ。




 カーペンターがFA移籍したことにより、メトロズはリードオフマンを失った、と言えるのかもしれない。

 ただ俊足の打者というなら、大介を一番にすればいい。

 これだけ勝負を避けられてしまうと、打力ではなく走力の方を意識する。

 最初から避けられると分かっていれば、前にランナーがいない方が、大介としては動きやすい。

 

 また皮肉なことに、前にランナーがたまっていなければ、それなりに大介は勝負されやすい。

 一番バッター最強論というのが、大介に限っては成立しそうな勢いである。

 プロ入り11年で、日米通産730本塁打。

 そしておそらく今年、名球会入りの条件である、2000本安打も達成する。

 現時点で1917安打なのだ。

「おはん、日米通算なら、そろそろNPB記録色々と塗り替えるんじゃなかがか?」

 坂本に言われて調べてみると、確かに今年で更新しそうなものは色々とある。

 まず得点。現在の記録は王貞治の1967、大介は1871で去年一年で289。

 次に打点。現在の記録は王貞治の2170で、大介は1998、去年は223。

 他に今年は無理だが、来年あたりに更新しそうなのが、盗塁、四球、本塁打といったあたりか。

 選手生活13年で、過去の記録を超えていくのか。

 ものに動じない坂本でも、それなりに驚くことである。

「まあ日米通算っていうのが少し、ケチをつけられるかもしれないところだな」

 大介は端末をひょいひょいと操作していて、思わず笑ってしまった。

「ナオのやつシーズン四年目で、無四球試合の記録更新しそうだよ」

 大介でさえびっくりの記録と言うか、そもそもノーヒットノーランの達成数で、既に直史は上杉すらも超えているのだ。


 やっぱり化け物だなあ、とのんびり考えている武史。

 ただ彼は彼で、上杉に次ぐスピードで、奪三振の数を増やしている。

 ひょっとしたら今年、シーズン奪三振記録を更新するのではないか、とは直史や樋口が思っていたことだ。

 上杉が先発で投げたら、確実に更新できたかな、とも思っていたのだが。

「でもMLBの記録だと、日本時代の記録は入れられないんだよなあ」

 大介がもしも25歳ぐらいでMLBに来ていたら。

 MLBの打撃の記録も、多くは更新していたのではないか。

 ……いやまあ、シーズン記録を散々に更新した上、三冠王に盗塁王まで獲得しているのだから、この時点で既に将来の殿堂入りは確定的だとも思えるのだが。

 162試合全試合出塁って、なんぞそれというものである。

 

 今年の優勝争いも、やはりアナハイムが最有力となるのか、という話にもなる。

 確かに同地区の二番手アトランタには、そこそこの差をつけた。

 またナ・リーグにおいてはトローリーズやサンフランシスコも、そこまではっきりとした補強は出来ていない。

 だがア・リーグの方は少しきになる動きがあるらしい。

 根本的な部分で日本人の大介と武史は、基本的にアメリカのアマチュア事情には興味がない。

 しかしこちらで這い上がってきた坂本は、それなりに情報が回ってくるのだ。

「ア・リーグならナオと樋口のバッテリーに勝てないだろ」

 大介としてはそう思うのだが坂本としては首を振る。

「何も化け物が生まれるのは、日本だけとは限らんぜよ」

 そこまで言うのは、ちゃんとそのバッターを見てきたからでもある。


 所属チームはミネソタ。

「去年中地区最下位じゃねえか」

「まあその前も最下位じゃったが、こいつを取るためにわざと負けたっちゅう話もあるぐらいじゃが」

 二人の会話に入らずに、武史はパクパクと肉を食っている。


 ミネソタは数年前に連続してポストシーズンにまで進出していたが、この数年は低迷期であった。

 だが今年のオフには積極的に補強に動いて、一気にチームを強くしている動きらしい。

 確かに選手名を見てみると、FAになった有力選手を、一気に数名集めている。

 これにマイナーで育成した有力選手を加え、一気にア・リーグ中地区のコンテンダーになっているのだ。

「ランドルフもいるのか」

 二年前、メトロズがワールドチャンピオンに輝いた時、途中から移籍してきて最終的にはクローザーを務めたランドルフ。

 去年も他のチームで働いていたので、侮れない存在だ。

「中地区でならうちとも対戦はあるわけか……」

「何を言うちゅうがか。今年は対戦はないぞ?」

「へ?」

 MLBの別リーグのどのチームと対戦するかは、年によって変わる。

 今年などはしっかり、という言い方も変かもしれないが、アナハイムとの対戦もレギュラーシーズンで入っている。

「……MLB分かんねえ……」

 大介は思わず呟いたが、だがアナハイムと対戦があるのか。

「一カードじゃがな」

 五月に三試合、アナハイムとの対戦がある。

 場所はメトロズ側のフランチャイズとなっている。

 これは絶対に勝ち越しておきたい案件だ。


 てっきりワールドシリーズまで勝ち進まなければ、アナハイムとの対戦はないと思い込んでいた大介。

 なんでそんなことを知らないんだ、と呆れる坂本。

 そして全てを気にせず肉を食う武史。

 メトロズは今年もマイペースであるらしい。




 坂本が正捕手として固定され、武史がやや長いイニングを投げる。

 そして大介は少しだけ容赦してホームランを打つ。

 こんなどうでもいいところで全開で打っていれば、レギュラーシーズンで勝負されないことになる。

 今さら、と言ってはいけない。


 そしてやはり武史は、イニングが長くなるほうが、そのピッチングのパフォーマンスが上がることが分かってきた。

 坂本としても序盤のストレートは、時折スタンドに持っていかれることを経験した。

 ただキャッチャーであるから分かるのだが、打者一巡したあたりから、明らかに球威が増してくる。

 そしてそのストレートは、バッターはボールの下を空振りする。

「なあタケ、今の契約が切れたら他のチームに行って、もっと俺と勝負しようぜ」

「成績悪くなりそうだからいやだなあ」

 武史は勝負にこだわらないし、最初から大介を自分の上に置いている。

 なので大介としても、武史を相手にしては、あまりそれほど燃え上がるものはない。


 ただスプリングトレーニングの間には色々な情報が入ってくる。

 105マイルはさすがにないが、104マイルを投げたピッチャーがいるなど、それはほとんど武史と変わらないではないか。

 ただ先発ではなく、リリーフであるらしいが。

 まだ二十歳ぐらいのピッチャーで、空振りを取り巻くって喜んでいるらしい。

 MLBには大介ほどではなくても、速いだけなた打つバッターはいるので、すぐにおとなしくなるだろうが。


 そしてアナハイムのオープン戦の様子も伝わってくる。

 一試合を丸々投げた直史が、また容赦なくノーヒットノーランをしたらしい。

 一試合を完封して投げた球数が78球。

 自身が持つレコードには及ばないが、それでも圧倒的な省エネピッチングである。


 武史もまた、一試合を丸々投げさせてもらったりもした。

 序盤にヒットを打たれたが、三回以降は九連続三振など、とんでもないピッチングをしたりする。

 完投しなくても、二桁奪三振は当たり前。

 去年の上杉を見ているメトロズファンは、この奪三振ショーに興奮した。

 九回まで投げて22奪三振。

 上杉の記録した26奪三振にはさすがに及ばないが、オープン戦とはいえこれはたいしたものである。


 もっとも上杉と違って、武史はそこそこ点は取られる。

 それでも防御率は1を切るぐらいで、メトロズ打線の援護を考えれば、負ける気がしない。

 その左腕から投げられるストレートは、最終回の最後の打者に、普通に105マイルを投げてくる。

 150球にさえ達しなければ、これぐらいは平気だと言われるものだ。


 武史の運用法は、実際にレギュラーシーズンで使ってみないと分からない。

 本人も言っているし、NPB時代の記録からも分かるのだが、立ち上がりに肩の暖まるのに時間がかかる。

 そして日本では中六日で、およそ130球を投げていた。

 だがMLBのメトロズのローテでは、中五日で投げてもらわないといけない。


 試合の前に念入りに肩を作っておいても、どうしても序盤の立ち上がりはフルパワーが出ない。

 ある程度球数を投げておくと、20球あたりから球質が変わると坂本は報告しているのだが。

 ただ肩を作るために、あまりに投げすぎると本末転倒なのかもしれない。

 武史の耐久力がどれぐらいなのか、メトロズは判断がつかないのだ。


 これに関しては樋口であれば、よく知っていた。

 自分と直史がいなくなった後、早稲谷のエースは武史であったのだ。

 土曜日に投げて、日曜日に淳が投げればごくまれに負ける。

 すると中一日で月曜日に投げることになり、少し機嫌を悪くしながらも、あっさりと完封はしてしまうのだ。

 NPB時代を調べているスカウトも、大学の成績まではあまり重視していない。

 なので武史の耐久力は、とりあえず判断保留となっている。

 直史のように、あっさりと100球以内で、完封をしてくれるのなら判断は簡単なのだが。


 それでも開幕戦の先発は、武史を試そうという意見が首脳陣の中でなされた。

 武史は一応ルーキーであるが、NPBのプロリーグで何度も開幕戦を経験している。

 そしてMLBのバッター相手でも、別に恐れることなく投げ込んでいく。

 参考までに大介にまで、意見を聞きにきたりもした。


 大介としても武史に関しては、はっきり言って理解できないことが多い。

 ただ試合の勝敗にこだわらないというか、個人成績にもあまり興味はないというか、自分の能力を活用するために野球をしているのは確かだ。

 直史のようなメンタルの超越性はなく、上杉のようなカリスマもなく、大介のような単なる野球バカでもない。

 だがその能力は、三者に匹敵するものがある。

「まあ嫁さんの前ではいいかっこしたい男ですから、そのへんを参考にすればいいと思いますよ」

 大介は事実を言ったのだが、これは本当だとは思われなかったようである。


 キャンプ各地から、今年の他のチームの様子が聞こえてくる。

 やはり注目されているのは、去年の優勝チームアナハイム。

 だがそのアナハイムの正捕手を奪ったメトロズも、強大な対抗馬ではある。

 実際にスーパーエースは一人確保したので、去年よりも決定力は高いはずだ。

(レギュラーシーズンもこれぐらい勝負してくれたらなあ)

 そう思いつつも、ホームランは一試合に一本までと、己に制約をかけている大介であった。

 なおこのオープン戦中の打率は六割を超えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る