私だけのヒーローは君……ボクッ娘になった千佳という女の子なの。
大創 淳
第八回 お題は「私だけのヒーロー」
――止まらない『書くと読む』
とある小説サイト。僕はその舞台で日々『ウメチカ』という名のエッセイを、執筆させて頂いている。駆け抜ける
僕と言いながらも、その昔は私……
知らず知らずに埋め尽くしていた、一人称が私だった頃の記憶……このKACで初めて紐を解いた。
そのことの一部始終を、
執った筆が駆け抜けた後の、静かなる水色の夜が明ける頃、
スマホに着信……『会いませんか?』との、SNSの表示。怪しくも、それをも上回る衝撃。胸が熱く鼓動が高まる最中、僕は見る、その着信元の人物となるお名前を……
結城凛。――漢字で書かれたその三文字を。
荒い息遣いは呼吸を乱したけど、少し……少し落ち着きをみせた頃は、そこから一時間も先の話。息は整った……そして周りを、周囲を見る心のゆとりも……すると、
お家を出る……
梨花はついてきてくれたの、僕に。何も訊かずに、聞かなくても……
水色の朝の風景。その中を歩く中、僕はスマホに表示されている文字に目を通した。漸くなの。綴られている文字が、目を通して脳内へと吸収されていく感覚。その内容は、待ち合わせの場所について。とある知り合いから僕の、アドレスを知ったという。驚かせてごめんね……とも綴られていた。結城凛と名乗る少女は、とある小説サイトの『書くと読む』で僕のこと、僕としてではなく『ウメチカ』というペンネームの子と会いたいというのだ。もう少し先へと、朝一番の最寄りの駅……冷えた静けさの、その改札口で。
すると、いたの。
黄色の帽子を被った、髪の長い女の子。桃色のカーディガンから覗く、水色のワンピース。茶色のブーツ。しっかりと目に焼き付く程にまで。その女の子は言う……
「あれれ? どちらが『ウメチカ』ちゃん?」と。
思えば僕らは双子。それも瓜二つといっても過言ではない程で、そんなわけで……
恐る恐ると手を上げる僕。そして、梨花が頷くのを見てから、
「凛ちゃん、だね?」と、僕は訪ねる。ほぼ確信にも近い声で。
次の瞬間、飛び込んでくる。涙の雫が宙を舞い、僕の体と密着する……その女の子はギュッと抱きしめる。「凛だよ。やっぱり千佳ちゃんだ。……会いたかったんだよ、会いたかったの。ごめんね、あの日、酷いこと言ってごめんなさい」
その女の子は、紛れもなく結城凛……
正真正銘の凛ちゃんだった。そこで発覚したの。……その、とある知り合いの正体。その人物とは、何ととても身近……梨花だった。梨花が東の都にいた頃、同じクラスになったことがあったそうなの。そこから、とある知り合い……離れてもね、文通仲間。
梨花は僕の知らない所で、凛ちゃんと交流があった。
喧嘩して事故に遭った日から、僕と凛ちゃんが会っていないその長い間に……僕が執筆している『ウメチカ』のことも、実は梨花から聞いたという。
――凛ちゃんは言うの。
「ボクッ娘になった千佳ちゃんは、凛のヒーローだよ」って。凛ちゃんは、梨花が『りかのじかん』というエッセイを始めた時に読専となったの、『書くと読む』の……
語らなかったけど、凛ちゃんは杖を……それに脚が。と、無意識に見ていると、
「ああ、これ? バチ当たっちゃっただけだから。千佳ちゃんの優しさを知らなくて、一人で勝手に拗ねちゃったから。凛って、ホント我儘だから。だから気にしたらメッ! だよ。ボクッ娘の千佳ちゃんは、凛だけのヒーローなんだから。何回……ううん、何百回以上も励まされてきたんだから、千佳ちゃんのエッセイで。凛なんかよりも闘ってきたんだから、シャンと胸張って。これからはずっと一緒なんだから、千佳ちゃんとずっと……」
「じゃあ、凛ちゃんは僕らと同じ……」
「ジャ、ジャーン! そうだよ、私立
その面影は充分。あの頃と同じ凛ちゃんだ。
「じゃあ、しっかり仲直りだね、凛ちゃんも千佳も」と、梨花は爽やかな風と共に言う。
桜の満開の下よりも少しばかり早めだったけれど、僕らはまた会うことができたのだ。
私だけのヒーローは君……ボクッ娘になった千佳という女の子なの。 大創 淳 @jun-0824
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