変身の儀

 この猫の地下には儀式の間が存在している。儀式の間の床には大きな魔法陣が用意されている。一度目の変身ではこの魔法陣を使わなければ変身することができないらしい。二度目からは空中に自分で魔法陣を自分の魔力で書くことで変身することができるそうだ。


 僕は小さい頃城に入りたいという理由からかってに魔法陣を書いて変身しようとしたらしい。魔法陣の描き方がわからなかった僕は父様にどのように描くのか教えを乞うた際にこの事実が発覚したため僕が一族の規約違反を犯す事態にはならなかった。


 その時に知ったのだがかつてかってに変身してしまった小さな子が死んでしまう事故が起きたそうだ。その当時は変身の儀の前に変身の魔法陣の描き方を教わることができた。しかし、この事故が起きてからは変身の儀の後に変身の魔法陣の描き方をならうようになった。僕もこの決まりに命を救われた一人だ。

「ガルス様、準備が整いました。儀式の間へとおいでください。」


 扉越しから声がかけられた。「すぐに行く」と返事をし最後に身なりの確認だけ済ませ部屋を出た。そして今から行く儀式の間はどのような部屋なのだろうかと思いをはせる。儀式の間とはその名の通り儀式のときに使用される部屋のことなので普段は入ることを固く禁じられている。国王までもだ。


 だから当然僕は儀式の間がどのような部屋なのか知らないということになる。儀式の間へと心をはせているといつのまにか地下へと続く階段まで来たようだった。ここからはこれまで行ったことのない空間のため鼓動が速くなる。人がぎりぎり一人通れるほどの階段を降りると立派な扉が立ちはだかっていた。側近の方に扉を開けていただき中に入ると中央がぼんやりと必要最低限に明かりがともった部屋になっていた。近づくと中央の明かりは国王様らの手に持たれたろうそくの火だった。側近に促されるままに移動すると魔法陣の真上に僕が立つ形となった。


「これより変身の儀を執り行う。」国王様の声が部屋に響き渡る。周りの話し声が静かになった。

「ではガルス様、魔法陣に魔力をお注ぎください。」と声がかかったため魔力を慎重に注いでいった。すると突然魔法陣が強い光を放ち僕の体が変化を始めた。体から力がみなぎってくる。

 

 ここで周りの空気がおかしいことに気が付く。どうしてか皆、顔をこわばらせている。そういえば景色がさっきまでと同じだ。もし猫になったのだったら視線が下がる分景色も変わるはず。変身に失敗した……僕はそう確信した。

「呪いの子よ」「変な血が混ざったのかしら」「こいつの母親を連れてこい」


 皆が叫んでいるのが聞こえる。何が起きたのかわからない。僕は神に恨まれるようなことをしただろうか。僕はなにか悪いことをしたのだろうか。そんなことを考えているうちに僕は意識を手放した。魔力切れだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る