仮面レイヤー『ゼロ』

友坂 悠

ひみつのありあ。

 

「はいみんな注目ー」


 みどりせんせの声にみんな一斉に教壇の方に顔を向ける。


 ジリジリジリ


 と、同時くらいにホームルーム開始のベルが鳴った。


 それまでざわざわとしていた教室が静かになる。


「今日は転校生を紹介します」


 せんせの手が教室の入り口に向けられる。


 ガラガラと扉が開くと、そこからすっごく綺麗な男の子が入ってきた。

 途端に教室は大騒ぎ。


「一ノ瀬令です。よろしくお願いします」


 黒板に名前を書きその転校生は笑顔を振りまいた。


「しいずーかーに!」


 ああ、みどりせんせも困ってるだろうな。こんなにみんなが騒ぐのも久しぶり、だ。




 

「ねえねえありあちゃん。なんかすっごく可愛い子だね」


「うん。すごいね。男の子に見えないよね」


「ねー。あ、あたしちょっと話しかけてくる」


 あ、まりあちゃん待って。



 あたし、篠崎有亜。本名はしのざきゆうあ。だけどみんなにはありあで通してる。

 双子の姉さん麻理亜ちゃんと一緒に地元の情報誌なんかのモデルをしてたりするんだけど、実は他にもみんなには言えない秘密があって……。




 自己紹介が終わり授業が始まって、最初の休憩時間。

 令くんの周りは人だかりになっていた。


 大丈夫かな。

 そんなふうにも思うけど、彼ははにかみながらもちゃんと受け答えしてて、周りの好意をしっかり受け止めていた。

 うん。大丈夫そうだ。


 あたしだったらだめ、かな。あんなに上手く出来ないや。きっと。


 そう令君を眺めていた時、なんか目があった気がした。

 あたしを見る彼の目が、ちょっと他の子と、違ってた。



 ☆


 放課後。


 みんなが帰ったあとまりあちゃんは令くんを捕まえて一緒に帰ろうと誘って。

 ああ、あそこまで積極的なまりあちゃん、はじめてだ。

 令くんもまんざらでもない様子。なんか寂しいな。


 そんなこと考えてたら二人揃ってあたしの腕に絡みついてきた。


 にゃ!


 まりあちゃんはともかく令くん、も?


「ありあちゃん! あたしたち友達になっちゃった。ありあちゃんも一緒に仲良くしよね」


「ありあちゃん。よろしくね」


 令くん、なんだか女の子みたい。

 表情や仕草、雰囲気が完全に女の子、だ。

 負けてる? あたしひょっとして。

 目を白黒させてるあたしを尻目にふたりはきゃぁきゃぁ意気投合して帰りの準備をして。


「あは。令くん初対面からなんか仲良くできる気がしてさー」


「うんうん。わたしもだよー」


 令くんは自分の事をわたしって言う。声だってすごく可愛い。

 うん。こんな所も男性性を感じないや。

 こんな男の子、いるんだなぁ。

 なんかすごく新鮮だ。


「ねえ。ありあちゃん」


 ん?


 令くんが上目遣いであたしの顔を覗き込んでる。


「わたしがこういうふうなの、気になる?」


 ああ、顔に出てた?


「え、どうして……」


「なんか考え込んでたし。そんな顔に見えた」


 あうあう。そんなに顔にでてた、の?


「ありあちゃんはわかりやすいからね」


 あう、まりあちゃんまで。


「そんなにこだわるもんかな? 性別って」


 え? どういう意味?


 あたしの顔、ほんとびっくり目になってそう。


「わたしは今男子生徒な訳だけど、これはこれで楽しいよ?」


 令くん、唇に人差し指をあてて。

 すごくコケティッシュ。


「あのね、ここだけの話。

 わたしって前世の記憶があるんだ。

 ほら、今異世界転生って流行ってるでしょ?

 わたしが転生したのはそのままの時代そのままの世界だけど、

 信じてない?

 あはは。

 そりゃしんじられないよねー。

 でも、それはどっちでもいいんだ。

 わたしがわたしなのは変わらないからね。

 んで、わたしの前世っていうのが、

 おもいっきりアラサーで腐女子してたんだよー

 だから、いまの人生って、ほんと楽しい」


 ああ、なんか、頭の中が崩壊、する……。



 

「ありあちゃんおはよう」

「まりあちゃんおはよう早いね」

「今日はお仕事早いのよー。あたしパンだけでいいや。ありがとねー」


 ああ、目玉焼きもソーセージも余っちゃう。


「お弁当にして持っていけば?」


 そっか。うん。そうしよう。


「ありがとうまりあちゃん。そうするよ」


 うん。今日はお昼ご飯お弁当にしよう。どうせならサンドイッチがいいかな。食べやすいし。

 目玉焼きは硬めに焼いてソーセージを薄切りに。ベーコンも焼こうかな。ゆで卵も作ってマヨネーズ和えてタマゴサンド美味しいよね。

 レタスもあるし。うん。いいかも。


 お弁当の事考え出したら止まらなくなった。


「じゃぁ行ってくるね。ありあちゃんも頑張ってね」

 そういうとまりあちゃんは急いで出て行った。

 頑張ってねって……。


 今日は令くんと街へいく予定。案内するって言っても観光案内じゃないし、おすすめのお店とか、雑貨屋とか喫茶店とか、そういうとこ案内するだけ。お昼は猫公園でも行くかなぁ。そこでご飯にしようかなぁ。

 準備が終わると玄関を出る。


 青、だった。


 今日はとっても良い天気で空はほんと綺麗な青。


 でも、それよりもすごく青、の。彼。


 いや、青のストライプのワンピース、に、青いウイッグ。コスプレ用かとも思うけど、すごく自然。


 足元は白のサンダルで、綺麗なすらっとした足が見えている。もちろんムダ毛なんかまったく元からなかったかのように、無い。

 もともと綺麗な顔に薄っすらとした化粧。長い睫毛。そして、青い瞳。

 そして白のつばひろ帽子に青いリボンが巻かれてる。

 ほんと、見た目すごく綺麗なお嬢様なんだけど……。


「おはよーありあちゃん。待ったぁ?」


 ああ、そっか。令くん? というか、令ちゃんはほんと性別とか関係ないんだ。なんだか、すごく羨ましい。


「ううん。さっききたとこ。に、しても、かわいいね」


「あはは、ありがと。ありあちゃんもかわいいよ。けっこうお揃い? ピンクのワンピに帽子も一緒?」


 そう。実はあたしも令と似たようなコーデだ。色がピンク系なだけで。あはは。なんだか双子コーデみたい? 色違いだけど。


 もう、なんだかちょっとどうでもよくなった。

 彼、いや、令、は、令だ。


「じゃ、まず雑貨屋さん見に行こっか。けっこうかわいいの売っててお気に入りのお店があるんだー」

「うんうん。そこいこー」

「お昼はお弁当持ってきたからね。良い感じの公園あるからそこでたべよ」

「あ、わたしもおにぎり作ってきたよ。交換して食べよう」


 雑貨屋さんでお揃いの猫和柄のシュシュを買って。

 喫茶店でちょこっとお茶してケーキを食べた。

 あたしは紅茶のチーズスフレ。

 令はマスカットのタルト。

 一口づつ交換して。味わった。


 公園に着くと初夏の香り。今年はまだそんなに暑くはないから良かったなとかおもいつつ木陰のベンチに腰掛けた。


「あは。アリアちゃんのサンドイッチ美味しい」

「れいちゃんのおにぎりも美味しいよー」

 二人でお弁当を食べながらまったり。ここはあたしが勝手に猫公園って呼んでるお気にいりの場所で、其処此処に猫がいる。そんな猫を眺めながら食べるお弁当はほんと美味しいな。

「学校でれいちゃんって呼んでも気にしない?」

「うんうん。ぜんぜん気にしない。むしろ嬉しい」

 あは。うん。れいちゃんらしい。


 良い感じの風が吹いてきたのですごしやすく、なんとなく微睡んで。

 幸せだな。

 そう感じて。




「ねーありあちゃん。あそこの隅っこ、ちょっと変じゃない?」

 え?

 うん。ちょっと……、おかしい?

「なんか黒いモヤモヤ、が、ある?」


「あーしょうがないなぁ。せっかく楽しいデートなのに。ごめんねありあちゃん。やっぱりあれ、敵だ」


 れいちゃんが立ち上がり、一歩前に出て。

 右手を前に突き出し、左腕を腰につける。


「え? どうしたのれいちゃん!」


「うん。ありあちゃんはわたしが守るから」


 あ、なんか、きゅん、って、なった。


「変身!」


 まるで仮面ライダーみたいな掛け声?


 れいちゃんの右手の先に鏡みたいなのが浮き出た。

 その上の端をなぞるように人差し指を左から右にゆっくり動かし。

「レイヤー!」

 の掛け声と共に左手を顔の前に、右腕は腰まで引き寄せる。


 前面に浮き出た鏡が令ちゃんに向かって被さる。

 まるで仮面ライダーの変身のように、令ちゃんの姿が変わった。




 青いヘルメットにネコミミのようなツノ?

 全身、青を基調としたアーマー。

 なんか気持ちちょっと身長低くなってる?


 綺麗な青いネコミミアーマー。


「わたしのこの姿は仮面レイヤー『ゼロ』! ありあちゃん、危ないからベンチの裏に隠れてて!」


 いつのまにか目の前には夢奴。それも三体。

 狭間で見た時よりも、質感がゼリーみたい、か。


 夢奴から三本のムチが一斉に放たれた。令はそれを槍のようなもので叩き落とす。


 ああ、れいちゃん……。

 だめ。

 だめ。

 ここであたしが逃げちゃ、だめだ。


 バッグからコンパクトを取り出し、

「ねこねこまやこんねこねこまやこん、魔法少女になあれ」


 あたしの身体は光に包まれ変身する。魔法少女アリア。これがあたしの秘密の一つ目。


 あたしは令の左横に立ち、ステッキを握りしめ

 負けない。負けない。負けない!

 夢奴達は徐々に間合いを詰めながらムチを飛ばしてくる。

 令がそれを叩き落とす。左から飛んでくるムチだけ、あたしのステッキでなんとか払う。

「大丈夫? ありあちゃん」

「うん。がんばる」

 どうやって戦うんだっけ、とか、考えてる暇は無かった。

 ただただ身体が自然に動く。

 ムチを躱したり叩き落としたりしながらステッキに力を溜めて放つ。

 左の夢奴が消滅した。


「やった!」


 残り二体の夢奴は令がやっつけた。手から伸ばした大きな爪で切り裂いて。


「はは。まさかありあちゃんまで変身するとは思わなかった。君の中に魔法結晶があるのは感じてたけど」


 令がそう言ってこちらを見る。

 笑顔がなんだかすごく眩しい。

 秘密はまだまだ話せないこともいっぱいある。でも。

 性別とかもう関係ない。令はあたしにとってヒーローなのかも。そう思えた。


    end

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仮面レイヤー『ゼロ』 友坂 悠 @tomoneko299

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