第130話 神話の終わる時
アレクにチェンジアップを狙い打たれたジュニアが、次に何を投げたいか。
それはやはり速いボールだとは分かっている。
基本的にはフォーシームとツーシームで押すパワーピッチャー。
ジュニアというピッチャーはそういう本格派だ。
コントロールもかなりいいこのピッチャーは、コマンドにしっかりと投げてくる。
(ボール球から入ってくる可能性もあるが、坂本のリードは基本的に攻撃的だ)
ストライク先行で投げたいというのは、ピッチャーの本能に近い。
相手が大介のような怪物なら、そうでもないのだが。
(三割オーバー、20本、足のあるキャッチャー。ただし速球への対応力はそこそこ)
樋口のデータはそうなっているはずだ。
樋口は高校野球、大学野球、NPBといわゆるエリートコースを歩いてきた。
その全てにおいて優勝を味わっている選手というのは、かなり少ないはずなのだ。
特に甲子園の優勝は。
上杉や真田といった超一流ピッチャーさえ、その経験はない。
また超高校級と呼ばれる選手は、高校からそのままプロに入っている。
プロ入りの予定はなく、別に大学野球でも結果など残さなくても、構わないとさえ思っていた樋口。
その客観的にすぎる視点からは、勝負するべき時とするべきでない時、またそれぞれの状況による戦い方の変化がしっかりと分かっている。
レギュラーシーズンの成績は、年俸を高くするために必要なものだ。
キャッチャーのポジションでほどほどに打っていれば、自然と年俸も高くなっていく。
打てるキャッチャーというのはNPBほどでなくても、MLBでも貴重なのだ。
レックスで樋口の控えだった岸和田は、今年はベストナインレベルの成績を残していた。
それだけ樋口の打撃力が、優れていることを示している。
スラッガーに近い樋口であるが、その根底にあるのはキャッチャーである自分の存在。
フィジカルのパワーで打つのではなく、読みによるテクニックで打つ。
ジュニアの投げてきたボールは、低めではあったがアウトローとまでは言えない。
(甘く見たな!)
必殺の一撃で、レフトスタンドに放り込んだ。
三点差。
直史が投げるアナハイム相手に、三点差というのはほぼ勝負は決まったようなものだ。
投げる本人としては、そんなに簡単なものではないのだが。
「続けよ。ここで叩き潰そう」
樋口はターナーに声をかける。
メトロズはFMがジュニアのところに歩いていくが、言葉をかわしてもまだ交代はしないらしい。
三点差と言うのはもう、試合の決まった点差だ。
ジュニアはメトロズのピッチャーの中では、ウィッツと並んで武史の次ぐらいには重要な先発だ。
負けと決まればここは、もう早々に交代させてしまった方がいいだろうに、何をもたついているのか。
「MLBは意外と、ピッチャーに精神論を求めてるのか?」
なんとなくポストシーズンから、戦い方が変わっていることには気付いていた。
だがレギュラーシーズンに比べれば、あまりにもその変化が大きい。
「精神論じゃないだろうな」
直史は、自分こそそういうものは持っていないが、同じピッチャーだけに分からないでもないのだ。
「プライドの問題だ」
「ああ」
樋口は納得するが、理解しているわけではない。
ピッチャーのプライドと言ってしまうと、そこはもう思考停止案件である。
ただそこでロマンを感じてしまうのが、昭和の野球人と言おうか。
極めて合理的なMLBであるが、それはあくまでレギュラーシーズンまで。
ポストシーズンもワールドシリーズまで進むと、そこにはもう虎の穴が待っている。
ここで無理をして、翌シーズン以降にパフォーマンスを落とすピッチャーは多い。
エースが酷使されるのは、紛れもない事実である。
ターナーの打った打球も、外野の頭を越えた。
ここでようやく、メトロズはピッチャーを交代させる。
グラブを叩きつけているジュニアが見えたが、もっと道具は大事にせいよ、と日本人バッテリーは思った。
大切に使った道具には、魂が宿るのであるから。
それに第一、見苦しい。
後続のリリーフによって、これ以上の失点は防いだメトロズ。
だがまだもう一度、アナハイムの上位打線は巡ってくるのだ。
「次は打たれること前提の組み立てが出来るな」
「いいのか?」
「最終的な勝利を優先すればいい」
「しかしここで相手を完封することも、それなりに重要だと思うが」
「タケから点を取れないなら、そういう方向も考えるが」
「……それはつまり、どうにか点を取れということだな」
直史が頷くのを待って、樋口は軽くため息をついた。
六回の裏、メトロズの打線は七番からの下位打線。
あっさりとしとめて、七回の表となる。
アナハイムの攻撃はここでもランナーが出ない。
八回の表はまたも、アレクからと打順調整が出来ている。
七回の裏、大介の三打席目。
ここを上手く打ち取れれば、今日はもう四打席目はないかもしれない。
直史にとって一番危険な、あるいは唯一危険なバッターが、大介である。
他にも何度か打たれたことはあるが、人間なのでたまには打たれるものだ。
だが打たれる確率を、極少にすることは出来る。
その中でいくら無数の球種からのコンビネーションを持っていても、打たれないという確信を持てない。
それが大介なのだ。
スコアは3-0で、ランナーはいない。
下手に大介がランナーにいると、むしろ引っ掻き回されてビッグイニングになる可能性すらある。
ここは打たれることも覚悟する。
覚悟の上で勝負し、敗北したとしても布石を打つ。
(ホームランを打たれても、あと一打席しか回ってこない)
そこでまた一本打たれたとしても、ソロならば追いつかれない。
つまり二度勝負することが出来る。
公平な勝負ではない。
大介にとってではなく、直史にとって不利な条件をつける。
しかしその条件の中では、最大限の力を尽くす。
この打席の勝負は、勝負ではない。
ただの布石だ。
ここからの逆転など、大介も考えていないであろう。
だが意味はある。
直史のコンビネーションは、それこそ無数。
ほとんどのバッターはそれに対応できないし、たとえ狙いが上手くはまっても、それが連打になる可能性は極めて低い。
ただ、大介ならば反射で打てる。
その本能をだますために、ここから組み立てていく必要がある。
来年のインターリーグでは、ア・リーグ西地区とナ・リーグ東地区は当たらない。
なので対戦するためには、ワールドシリーズまで勝ち上がる必要がある。
それぞれのリーグで圧勝した2チームであるが、今年のオフは戦力の入れ替えが多くなりそうなのだ。
その編成次第では、一気にチームが弱くなることもある。
むしろメトロズは三年連続、アナハイムも二年連続でワールドシリーズに進出していることが、戦力均衡システムのある現在では、異常なことなのである。
このワールドシリーズで全部出し切っても、来年までには時間がある。
一年をかけてまた組み立てを考えて、大介と勝負する。
なので直史がどこまで札を切るかは、重要なことである。
ほぼ打ち取れるコンビネーションと、通用しないコンビネーション。
それをちゃんと分類するのに、この状況は最適である。
去年と今年、さらにはNPB時代にまで遡る。
直史はポストシーズンで、失点したことがない。
だがそんな記録は、最終的な目的のためには無意味だ。
(野球はチームスポーツだからな)
直史の狙いを、大介はおそらく分かっていない。
初球は大きく変化する、スピードもあるカーブであった。
バットの届く範囲で、大介はそれを打ちにいく。
ミスショットして、打球は斜め後ろに飛んでいく。
(このカーブから入ってくるのか)
あまりこれまでには、見たことのないパターンだ。
初球でこのカーブの場合は、ボール球になることが多かったのだ。
見逃すべきであったか、とも思う。
前に打てなかったのだから、確かにそう言えるのかもしれない。
だが直史がこんなカーブを投げてくるのは、珍しいことなのだ。
いや、このパターンのカーブをと言うべきか。
打てると思った振ったのだから、それを後悔などしていられない。
ミスはミスとして、次にそなえる。
二球目はツーシームで、変化よりも速度のあるタイプ。
外角に外れていって、これで並行カウント。
外の次は内というのがセオリーだが、このバッテリーだと外の出し入れもありうる。
また遅いシンカーを投げて、アウトローに入れてくるか。
一番ありえそうで、そして分かっていても打てないのは、スルーチェンジだ。
スピードボールの後に投げられたら、チェンジアップと気付くのはかなりボールが手前にきてからだ。
チェンジアップにしては速いのだが、減速するのも大きいため、比較すればやはり打ちにくい。
狙われているなら、完全に難しい球だが。
直史と樋口は事前に、ほとんどのパターンを想定している。
そしてここから投げる球も、ちゃんと考えているのだ。
ただし対決するバッターのレベルによって、選択肢には差が出てくる。
まだワンストライクのこの状況ならば、上手くゾーンのぎりぎりを攻めれば、見逃すバッターも多い。
ただ直史の場合は、基本的にゾーンで勝負をする。
相手が狙っているのが分かれば、ボールになる変化球で、バットを振らせることもあるが。
(さて、ここから罠を仕掛けていくぞ)
打たれても試合の勝敗には関係ない、ランナーなしというこの状況。
直史の投げた三球目は、左打者の懐に飛び込むスライダー。
大介のバットは届くが、見逃せばボールカウントが一つ増える。
(あ、ダメだな)
大介のスイングが始動していた。
体を開きながらも、しっかりとボールを待てている。
腰の回転だけで、バットにスピードを伝えていく。
そしてバットは間違いなく、スライダーを捉えていた。
ライト方向。ボールは高々と飛んでいく。
徐々に失速していくが、それでも飛距離は充分。
そしてポールを切れていくような回転もかかっていなければ、強い風も吹いていない。
中段にまで届く打球で、スタンド入りした。
高々とガッツポーズをしながら、大介がベースを一周する。
あまりガッツポーズを目だってすると、時々報復死球をくらうものだが、大介にとって打てる範囲にボールが投げられるのは、完全なご褒美だ。
それに最近は、嬉しさを全面に出すバッターも増えている。
飛び跳ねてはしゃぎでもしない限り、ぶつけられることはまずない。
「覚悟していても、腹が立つな」
「仕方がない」
マウンドに近寄っていた樋口は、審判から新しいボールをもらっていた。
それを渡しながら、小声で確認する。
スライダーを内角に入れていったのに、上手く体を開いてバットの芯に近いところで打たれた。
スイングが遅れて出てきたあたり、完全に見切られていた。
このレベルのコンビネーションでは、大介には通用しないことが確認された。
「次の打席も実験するのか?」
「予定通りにな」
腹が立つと言っておきながら、直史の表情は変わらない。
そのことについて樋口は、高い制御能力を感じる。
直史のコントロールは、ボールを投げることだけに特化しているわけではない。
自分のメンタルコントロールも、ピッチャーにとっては必要なことだ。
ノーヒットノーランを続けていた場面から、一本ヒットを打たれて、崩れてしまうピッチャーというのもいる。
だが直史の場合は、完全にそういったマイナスの感情を切り離してしまう。
ダメージを受けないとか、すぐさま立ち直るとかいうのとも違う。
ただ、切断してしまうのだ。
ホームランを打たれたショックは、ベンチに帰ってから、あるいは試合が終わってから、存分にかみ締めればいい。
点差は3-1と二点差になった。
そしてここからまだ、メトロズの強力打線が控えている。
大介のホームランは、しょせんはただの一点だ。
それをただの一点にするか、重要な一点にするかは、直史のここからのピッチングにかかっている。
「打てそうな組み合わせは、やっぱり通用しないな」
樋口の言葉に、冷静さを取り戻して頷く直史。
そう、今のコンビネーションは、通用しないことを覚悟の上で投げたものであったのだ。
直史のコンビネーションは無限といっても、その中に核となるボールは存在する。
カーブやスルーで三振や内野ゴロというのが、基本的な内容である。
鋭いツーシームと大きく曲がるスライダーは、本来右打者ように開発したコンビネーションだ。
腰が引けた右打者は、逃げていくスライダーを追いかけきれない。
左打者にしてもあれだけ懐に飛び込めば、普通はカットしていくはずなのだ。
普通でないことを、ちゃんと再確認できた。
「残り三人、しっかりと抑えよう」
樋口の言葉に頷いた直史は、あっさりと三人を打ち取ったのであった。
八回の表、アナハイムの攻撃。
大介の一発で火が付くはずが、あっさりと内野ゴロと三振で、スリーアウトを取ってしまった直史。
流れを止めると言うよりは、流れを凍らせてしまう。
勢いづいたメトロズ打線は、強固な城壁にぶち当たって、かえって自分たちが傷ついてしまったらしい。
ネクストバッターズサークルで、樋口は考えていた。
おそらくこのままでも、この試合は勝てるだろう。
だがワールドシリーズでは、目の前の試合だけを見ていてはいけない。
この試合の勢いは、少なくとも次の試合までは続くと思っておいた方がいい。
その後には移動があるので、一度リセットされるかもしれない。
アレクはボールを選んで、フォアボールで出塁した。
今日はこれで四打席で三打数二安打。
三出塁というのは、一番バッターとして出来すぎである。
続く樋口としても、今日はホームランを含む二安打。
これ以上は下手に目立ちだくもない。
ホームランの前打席を警戒し、深く守っている内野陣。
樋口はベンチを確認しながら、アレクにもサインを送った。
メトロズはこの試合、二点差になったとはいえ、まだ勝算が薄いのは分かっている。
大介がせっかく打ったのに、そのあとがあっさりと凡退してしまったからだ。
このままなら九回に、ツーアウトで大介の四打席目が回ってくる。
だがそこでホームランを打っても、まだ一点負けている。
ツーアウトからさらに直史から、一点を取る。
それはとてつもなく難しいことだろう。
直史と事前に話し合っていた、この試合における大介への対処法。
完全にまだ練習段階と言うか、あまりアテにならない新球も考えている。
四打席目には、あれを使ってみる予定だ。
実戦で試すのに、大介以上の相手はいないであろう。
二点リードしているこの場面、ランナーは俊足のアレク。
樋口に求められるのは、最低でも進塁打だ。
深く守っている守備なので、ダブルプレイは取りにくいだろう。
なので樋口が選択したのは、送りバントである。
完全に意表を突かれたサードは、アレクはもう絶対に間に合わないのを確認する。
ファーストは充分に間に合うな、と思って投げたら、その間にアレクは二塁も蹴っていた。
送りバントで、一気に三塁へ。
サードは送球してからの動きが緩慢で、戻っても間に合わない。
大介はカバーに入ろうとしているが、タイミング的には微妙だ。
ファーストも慌てていて、投げたボールは悪送球で、かろうじて大介は飛びついてキャッチする。
だがアレクはその間に、三塁ベースへと滑り込んで、ワンナウト三塁という場面を作っていた。
バント一つで一気に三塁まで。
スモールベースボールの根強い日本人だからこそ、やってのけるプレイである。
ワンナウト三塁は、極めて得点が入りやすい。
一三塁であるとかえって、ホームに帰ってもダブルプレイに出来ることがある。
しかし三塁ランナーだけなら、三塁で止めるかホームで殺さないと、一点が入ってしまう。
またここで、ランナーがターナーなのだ。
内野ゴロよりもむしろ、外野フライを注意した方がいいだろう。
大介のホームランで一点を取ったものの、そのすぐ後に追加点を取られれば、メトロズの流れは完全に止まったことになる。
しかしターナーを確実に打ち取るのは、メトロズのリリーフ陣には難しい。
あるいはクローザーのレノンを投入という選択もあるのだろうが、負ける可能性の高い試合で、レノンを使ってしまうのか。
そもそも準備が出来ていないので、それは無理というものだ。
敬遠してしまって、シュタイナーと対決した方がいいのか。
走力を考えると、それもありかなと判断しやすい。
だがここではどうにか、ターナーを抑えてほしい。
次の試合のためにも、またその後に続くワールドシリーズのためにも。
直史を打つことも重要だが、ターナーを抑えるのも重要なのだ。
勝負される雰囲気をしっかり感じ取っていたターナーは、狙い球を絞っていた。
ここはヒットを打つのではなく、出来るだけ遠くに外野フライを打てばいい場面。
アレクの足であれば、まずタッチアップは通用する。
そしてそのためには、低めのボールを上手く掬い上げる。
四球目の落ちてきたボールを、まさにそうやって掬い上げた。
センターは後退してキャッチし、そこからホームに送球される。
だがそれでも深い位置からのバックホームより、アレクの足の方が早い。
キャッチャーの後ろを通り抜けてベースにタッチし、四点目が入った。
地味に見えるかもしれないが、これでアレクは今日、三得点となる。
初回にもタッチアップ、そしてここでもタッチアップ。
二度目は樋口がホームランを打ったので、その足を使う必要はなかったが。
一番と二番がチャンスを作り、三番と四番でそれを得点にする。
この回などはアレクのヒットのみで、あとは犠打で一点を追加した。
大味なMLBの野球は、レギュラーシーズンまで。
ポストシーズンも終盤、ワールドシリーズであれば、塁に出た野手にも負担はかかってくる。
センターを守るアレクは、攻撃においても本日、最も走ったプレイヤーであった。
4-1と再び三点差。
試合は結局のところ一回の表から、アナハイムにコントロールされていたということか。
大介のホームランでさえ、アナハイムには全く動揺を与えなかった。
アナハイムと言うよりは、あのバッテリーにはということだろうが。
ランナーがいなくなって、シュミットは自由に打っていってレフトフライ。
残り2イニング、直史が投げるなら二点差はセーフゾーンだ。
ただ八回の裏は、メトロズは五番の坂本から。
パワーだけなら樋口よりもある、ホームランの打ちそこないがヒットになるバッターである。
自分がここで、打ったとする。
ホームランはさすがに難しいな、と前の打席までを見ていて、坂本は思っている。
直史のピッチングは去年と比較して、精度が上がっている。
おそらく本人の成長ではなく、キャッチャーの存在が大きいのだ。
メトロズ打線の中で、直史相手に勝負になるのは、大介の次にはむしろこの坂本であろう。
去年は直史を相手に、バッテリーを組んでいたのだから。
直史対策のために、坂本をほしがった球団は多かった。
だが直史というピッチャーは、知れば知るほど逆に打てなくなるピッチャーなのだ。
直史は坂本のサインにも、めったに首を振らなかった。
坂本が期待していたよりも、ずっと鋭いボールを投げてきていた。
自分自身の読みとは違う提案をされても、その通りに投げてアウトを取る。
それが直史のピッチングであったのだ。
ここでホームランを打っても、それでもまだ二点差。
次の打席に、また大介がホームランを打っても、まだ一点差。
(こりゃあ、あかんぜよ)
そうは思うが直史のコンビネーションを、しっかりと見ておくのは重要だ。
カーブを二球続けて、しかもこれがストライク。
待ち構えていた坂本としては、拍子抜けの組み立てだ。
だが坂本の性格を考えれば、狙い球を絞って打ってくることも予想していたのだろう。
そして最後には、スルーを打ってピッチャーゴロ。
直史が難なく処理して、ワンナウトである。
やはり、メトロズが優勝するためには、直史をどうにかしないといけない。
かつては直史からホームランも打った坂本だが、今はもう純粋に、球速は上がって変化球も鋭くなっている。
ベンチに戻って、もうさっさとプロテクターを着けてしまう。
今日の試合は負けだ。自分に出来るのは、アナハイム打線の爆発を防ぐこと。
下手に勢いをつけられて、次の第二戦も落としてはまずい。
勝敗の行方は、果たしてどうなるか分からない。
坂本は、直史のピッチングを見続ける。
二度と勝負をしないのだな、と思っていた。
だがアメリカで、味方として共に戦うとは思っていなかった。
そしてMLBでは珍しくないが、去年の友が今年の敵。
ちなみにMLBにおいては試合中にトレードが決まって、試合の始まりと終わりで、座るベンチが反対になっていた選手というのもいたりする。
この先はおそらく、共に戦うことはなく、敵として対戦することが多いだろう。
よほど狙いを定めれば、またホームランを打つことも不可能ではないはずだ。
八回の裏が終わって、九回の表に入る。
いよいよワールドシリーズ第一戦も、最終回となるわけだ。
だがツーアウトからの逆転がある野球というスポーツであっても、ここからの逆転は全く道筋が見えない。
マスクを被って坂本は、アナハイムの打線と対峙する。
九回の裏には、大介の四打席目が回ってくる。
試合を左右はしないだろうが、今日の最後の見せ所なるはずだ。
NL編130話に続く
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