六章 メトロズの背中
第105話 中四日の練習
単純にMLBを楽しんでいるファンの目から見れば、直史の記録はさぞや面白いものだろう。
それも大介や武史のようなものとは違って、いささか玄人受けしそうなものだ。
直史自身は自分の記録には興味はないし、自分のファンだという人間に対して、なんらかのメッセージを発信したことはない。
基本的に誰も、思想や信条で批判しないということは、直史の基本的なスタンスになっている。
なお宗教は嫌っているが、それを表明したりはしない。特にキリスト教は嫌いだが、アメリカでそれを公言するのは命取りだと知っている。
中学時代に聖書などは一応は読んでいたりするが、内容は記憶から消し去るほど、彼の思想は実は偏っている。
クリスマスについても、佐藤家ではサンタの虚構を既に説明している。
だからといってプレゼントをしなかったり、ケーキを食べなかったりするなど、そこまで頑固なわけでもない。
自分が子供の頃、サンタクロースなど物心つく前から信じていなかったが、プレゼントについては嬉しかったので、さすがに柔軟に対応している。
直史は矛盾した存在のように見えるが、個人の中ではちゃんと整合性が取れているのだ。
そして己を客観視して、常に自己嫌悪と戦ったりしている。
彼の信じる家父長制の中では、父親は威厳のある存在でなくてはいけない。
そうは思っても真琴の場合、あのいつ死ぬか分からないという時期が長かったため、無意識に甘やかしていることに気付く。
長男の明史は、いずれ家を継ぐ者としては、しっかりと育てないといけないと思う。
だが大介や武史のところの赤ん坊と比べると、かなりおとなしいのが明史だ。
手間はかからないのだが、それもかえって不安になる。
メジャーリーガーとしては絶好調な成績を収めながら、家庭内では苦悩する父。
その苦悩の姿さえ、子供たちには見せたくないという見栄。
かなりめんどくさい夫を支える妻は、フィジカルではともかくメンタルは、間違いのない強者であろう。
そんな話はともかくとして、オールスター後の第一戦に、直史は投げる。
疲れを取るために休んだのだから、その休み明けにはしっかりとしたピッチングを見せなければいけない。
相手はタンパベイ。今年二度目の対決カードとなる。
前回は直史のローテに当たらず、屈辱を味わうことなく済んだチーム。
ア・リーグ東地区のチームは、去年の一度の対戦でも、マダックスやパーフェクトを食らっていない珍しいチームである。
直史はオールスターを欠場したが、それでも中四日。
おまけにオールスターの間は、練習も少なめにしているはずだ。
そういう憶測をもって、直史を測ってはいけない。
休みでノースローの日でも、必ずキャッチボールはする男だ。
バレリーナの理屈で言えば、一日休めば取り戻すのに一日丸々かかるといったところか。
問題は負荷の程度であり、その限界はしっかりと直史は弁えている。
あるいはそのリミッターを、故意に外すことも出来るのだと分かっている。
体力を使い切ってダウンでもしない限りは、ピッチャーは試合を投げた後、10球から20球ぐらいは、キャッチボールをした方がいいと思っている直史。
たとえば陸上などでも、アップだけではなくダウンもしっかりしているではないか。
野球でも練習は、疲れを取るためにもクールダウンはしているはずだ。
それがどうしてピッチングは、そういう意識が薄いのか。
直史はこの日、調整のためのピッチングと考えている。
あとはオールスターに出た感想を、樋口に聞いたりもした。
アレクは以前にも出ているし、ターナーも去年から出た。
「別に何も変わらんだろ」
樋口としてはMLBのトップクラスの実力を見ておこうというつもりであった。
そして結論として、直史ほどの技巧派、武史ほどの本格派、大介ほどのバッターはいないと判断した。
ただブリアンとは少し話した。
彼に関しては雑誌やネットでもある程度把握していたつもりであったが、やはり信仰をトリガーにゾーンに入るタイプのバッターだった。
ホームランダービーで結果が出せなかったのは、時間制限のある中でトリップするのを繰り返せなかったからだ。
そのあたりにも彼を攻略する鍵はあると思う。
さて改めて、一つのチームにおいてメジャー登録できるのは、40人までとなっている。
契約はメジャーであるが、ベンチ入りの26人以外はマイナーでプレイをしたり調整をしたりしている。
故障者は負傷者リストで、これとは別のシステムがある。
この40人でまだポストシーズンを戦えないと思うなら、トレードなら3Aからの昇格なりといった方法がある。
ただそのためには、枠を空けるために、クビにしたりもするし、トレードで送り出したりする。
もっとも単にクビを切るのはもったいないので、だいたいトレードに使おうとはするが。
現在の制度だと弱小のチームは、ここいらで高年俸選手を手放す動きをしてくる。
選手の年俸が計算され、ぜいたく税の基準が決められるのが、九月であるからだ。
トレード期間が七月末までとなっているので、それまでに売れる選手は売ってしまいたい。
単年契約の選手など、他の長期契約の選手が今季絶望の怪我などをして、ポストシーズンに進めないと思えば、手放すのが正解なのだ。
選手の能力や人気とは関係がない。
ただNPBの習慣に慣れた選手であると、ショックを受けるかもしれない。
ホームでタンパベイのカード、三連戦の最初の試合。
先攻のタンパベイを相手に、内野ゴロ三つでまずは三者凡退。
そしてその裏、アレクが出塁して盗塁して、樋口の長打で一点。
この二人は日本時代は同じチームで戦うことなどほとんどなかったし、まして一番と二番を並んで打つこともなかった。
だがターナーまでを含めた三人での得点力は、極めて高い。
二回以降も直史は、アウトを積み重ねる。
二年目に成績が向上した理由には、やはりアメリカのグラウンドに慣れたというのもあるのだろう。
ほぼ全てのスタジアムが、天然芝のアメリカ。
打球がグラウンドを弾んでいく勢いは、人工芝の方が速い場合が多い。
アナハイムはそうではないが、スタジアムは新古典派と呼ばれる、鉄筋やレンガを使った外見が多い。
野球は空の下で行うものという、アメリカの手に入れた新しい文化が息づいている。
直史はホームでもアウェイでも、やることは変わらない。
ただやはりホームの方が、やりやすいと考えるのは確かだ。
そのメンタルのぶれないところから、やや不利と思われる敵地での登板が、先発の中では多い。
元々ヘイロースタジアムは、バッターに有利な数字が出ている球場だ。
だが直史のようなグラウンドボールピッチャーにはあまり関係なく、ノーヒットノーランもそれなりに記録されている。
もっともその記録にしても、直史が半分以上を達成しているのであるが。
タンパベイは去年、地区三位でポストシーズン進出はならなかった。
そして今年は、復活したボストンに押されて、四位にまで順位を落としている。
それでもまだポストシーズンに進出の望みがあるところが、幸いと言うべきか不幸と言うべきか。
最後までポストシーズン進出の可能性が残っているなら、それなりに観客が集まるということもある。
だがどうせならものすごく負けて、ドラフトの指名順位を高いものにしたい。
完全ウェーバー制であった過去は、最後には負けるために試合をやっていたりもした。
勝ったらダメというとんでもない状態であったのだ。
ドラフト全体一位指名確実という選手などがいると、それを獲得するために、わざとチームを補強しないということまであった。
ただそこまで極端ではないにしろ、毎年最下位のチームが、プロスペクトをそろえて強くなっているかどうか。
そういった感じで選手を集めて、一気に強くなっているのは、ミネソタがその例にあてはまるだろう。
去年が最下位で、今年が首位。
来年はさらに強くなりそうな気配で、直史の最後のプロ野球シーズンは、ここにもう一つの壁が現れてきそうなのだ。
今日の試合は、タンパベイは粘ってくるが、それでもランナーが塁に出ても、二塁ベースを踏むのがやっと。
無理にダブルプレイを取らずに、一つずつアウトを積み重ねていく。
球数は抑えられてはいるが、今日は単純な球数ではなく、負荷を軽めのピッチングにしている。
ストレートの最速が91マイルほどで、ムービング系もやや抑えて投げている。
単打は出ても、連打はない。
そういうピッチングをしていると、点は入らない。
タンパベイは粘るよりも、強振していった方が良かったかもしれない。
今日の直史のピッチングの特徴からすると、まぐれ当たりでもメジャーのスイングなら、ボールをスタンドに持っていけたかも。
ただゴロばかりを打たされていては、そう思うのには無理があったろう。
だが今年の直史の投げた試合の中では、最もたくさんのヒットを打ったことになる。
アナハイムの守備の方は、エラーで出したランナーはダブルプレイで消してしまって、直史も牽制で一つのアウトを取った。
もちろんだがフォアボールでランナーは出さない。
先日のミネソタ戦であった、ストライクゾーンの拡張。
今日は逆に、それが厳しく取られている気配がある。
しかしコースが厳しいなら、緩急を使うのが直史だ。
見逃しの三振が取れなくても、緩急を使えば打ち損じは増える。
終盤に入っても、チェンジアップとカーブで上手くカントを取るし、内野ゴロを打たせることが出来る。
内野の頭を越えるヒットがないという点では、直史のピッチングは絶好調であった。
そして三振の数もそれほど多くなく、球数だけはある程度制限できて、ヒットもそれなりに打たれるという、つまらない試合が終わる。
味方の九回の裏を必要としない試合。
4-0でアナハイムが勝利した。
九回30人に対して98球。被安打4の失策1と、これで文句を言われるのだから、直史の投げる試合には面白みがない。
三振を七つしか取っていないのは、直史としてもやや少な目とは言える。
だが今シーズンの開幕序盤は、奪三振の数は少なめであったのだ。
開幕当初の初心に帰る。
別に調子に乗っているわけでもなんでもないが。
それに球数も減っていないので、あまりいい試合とは言えなかったと見えているだろう。
本人としては随分と、肉体的な負荷は少なく勝ったのだが。
こういったことをする理由は、メトロズに勝率で追いつけないか、と考えているからだ。
中五日で投げている直史は、確実に全ての試合に勝っている。
ならば投げる間隔を短くすれば、より勝てる試合が増えていくのではないか。
もちろん他のピッチャーとの兼ね合いもあるので、無茶は出来ない。
だが自分の肉体の限界を理解し、出力を抑えてバッターを打ち取ることは、先発として重要なことだろう。
去年のワールドシリーズも、結局は直史が三勝して勝ったのだ。
今年は三勝に、二セーブぐらいをする覚悟で投げる。
勝つために必要ならやる。
その前段階の準備を、レギュラーシーズンの実戦の中でやっている。
実際この七月は、休養日の関係から、直史には中四日で投げる機会が二度ある。
そしてタンパベイ相手に、アナハイムは三連勝をする。
スターンバックにヴィエラという、アナハイムの中で強い三枚が先発したというのもある。
だがやはり直史に抑えられれば、呪いでもかかるのか。
タンパベイはこの三連戦で、わずか三点しか取れなかった。
直史から打てたヒットの数は多めだったため、不思議なものである。
次の対戦カードは、ホームでのワシントンとの二連戦。
ワシントンとはインターリーグでの対戦となるのだが、二連戦が二度という、ちょっと珍しいカードになっている。
これがメトロズとの連戦二回なら、直史が二度投げることもあったのか。
ただこのあたりのスケジュール調整で、直史は中四日となる。
14日から16日にタンパベイと試合をして、一日を休んでワシントンと18日と19日に試合をする。
そして20日がまた試合がなく、21日からボストンとの三連戦。
もしも中五日にしようとすれば、20日に試合がないので、中六日となる。
普通ならそれでいいのであろうが、とにかく疲労を残さないのが直史だ。
またオールスター前後を見ても、中四日で先発完投している。
中四日、中四日、中五日、中四日。
以前のMLBでは中四日が主流のチームもあり、現在でも少ない球数で中四日のチームはある。
ただ直史が感じる限りでは、中四日とか中五日とか、90球とか100球とか、そういう目安はあまりあてにならない。
別に連投して完投することだって、出来るのだ。
それはお前だけだ、と言われるかもしれないが。
かつてムービングファストボールが全盛となったのは、打ち損じを増やして早いカウントでアウトを取り、球数を抑えるのが目的であった。
それに対抗する手段として、選球眼をより重視し、フライボール革命で打ち損じでもフライを打つことを求められた。
ピッチャーはまた、カーブを使う頻度を上げ、そして禁物とされていた高めのストレートを投げるようになった。
このあたりのトレンドの変化は、MLBはとにかく早い。
そして勘違いしてトレンドに合わせようとして、己を見失った選手は、MLBから消えていった。
もっとも消えたように見えて、復活することもあったりするのがMLBだが。
中四日で、直史は投げる。
二連戦の二戦目で、一戦目はレナードが投げて勝利していた。
実はレナードもここで中四日の登板がある。
休ませてやればいいのにとも思うが、本人としてもイニング数や登板数が増えれば、また違った軸で評価してもらえるチャンスなのだ。
六回を投げたレナードは、90球で余裕を残して交代。
得点差があったため、余裕でアナハイムは勝利した。
そして直史が投げる第二戦。
ワシントンとはもう一度、およそ一ヶ月後に二連戦がある。
さほど今年は強くないワシントンを、痛めつける必要はない。
メトロズと同じ地区のワシントンには、出来るだけメトロズに対抗し、どうにか一つでも勝ち星を増やしてほしいのだ。
ちなみにメトロズが同じ地区のチームで、一番対戦成績が悪いのは、実はマイアミであったりする。
ワシントンも今年は弱いが、それでもマイアミは最下位。
そんなマイアミにメトロズがそこそこ負けているのは、先発のローテの弱いところが当たっているということもあろうが、大介を敬遠しても仕方がないと思われるからか。
打率は平均と変わらないが、大介を歩かせている数は多く、ホームランを打たれた数は少ない。
こう考えるとやはり、大介は敬遠したほうがいいように思えるが、マイアミが弱くて油断したり、というのもあると思う。
アナハイムはインターリーグでマイアミと対戦し、リリーフデーも含めて三戦全勝。
不思議なものだな、とは考えてしまう。
ワシントンを相手に、直史は投げる。
中四日のピッチングで、前回は直史としては多めの、98球を投げている。
大丈夫だろうか、と考えるFMのブライアンは、直史への信仰が足りていない。
もっとキラキラした目で、そう、オリバーのような目で、直史のピッチングを見守るべきだろう。
首脳陣が訓練されたナオフミスト一色にならないうちは、アナハイムは強さを維持できると思う。
中四日の調整というのは、事前に分かっていれば難しくはない。
特に今回の場合はホームゲームが続くため、遠征における移動の時間というのがないからだ。
その点では七月末のトロントとの試合の方が、直史としてはしんどいかもしれない。
それでも移動直後の試合というわけではないので、上手く調整は出来るだろう。
一回の表を終えた直史の視線の先で、しっかりとアナハイムの打線が先取点を取ってくれる。
ワシントンはそこそこのピッチャーを出してきているが、いっそのことこの試合は、完全に捨ててかかって実験でもすれば良かったのだ。
そういった大胆な戦略を、FMは必要とされる。
ましてやもうすぐ、トレードデッドラインが近づいているのだから。
アナハイムはこの時期に、まだ大きく戦力を補強していない。
他のチームとしてはポストシーズンが見込めなくて、高年俸の選手を手放したがっているケースもあるだろう。
だがそれとトレードするには、金銭だけではおそらく足りない。
単年、あるいは今年で契約の切れる選手を補強し、プロスペクトを放出しては、長い目で見ればアナハイムの王朝は続かない。
去年の覇者であるアナハイムは、連覇の権利を持つ唯一のチーム。
単年や今年で契約の切れる選手をトレード補強して、連覇を狙うというのは悪い戦略ではないと思う。
しかしその野望がさらに大きく、三連覇までを狙っているとすれば。
高年俸の選手を補強したら、年俸の総額はぜいたく税に大きく引っかかる。
スターンバックとヴィエラを来年以降もとどめるつもりなら、資金は上手く回す必要があるのかもしれない。
このあたりの経営的なものは、さすがに選手である直史や樋口なども、はっきりとは分からない。
おそらく身近でこういうものが全て把握出来る人間は、セイバーぐらいだろう。
ツインズもたいがい経営面の勉強はしていたはずだが、それでも彼女たちの能力は金融面の方が大きい。
アナハイムのオーナーの金銭感覚は、狂ってはいない。
ワールドチャンピオンになるためなら何をしてもいい、とまでは思っていないのだ。
それに去年の優勝で、ある程度の名誉欲は満たされただろう。
あるいは今の戦力でも、充分に連覇を狙えると考えているのか。
たとえばあと二年契約が残っている、確かに戦力にはなるがやや衰えたベテランの選手など、アナハイムが獲得すれば来年の戦力構想に不備をきたす。
トレードの場合はほとんど、その契約も引き継ぐ形になるからだ。
大型契約の選手が、一年目や二年目で不良債権になると、特に資本力の小さなチームは悲惨である。
その選手の年俸のせいで、補強も出来ない。
残りの年俸を払ってでも、切ってしまうという方法もあるだろうか。
だが過去にMLBを見てみれば、そうやってチームのお荷物となり、長期低迷の原因になった選手はいるのだ。
ワシントンも不良債権ではないが、チームの強さに釣り合っていない選手はいたりする。
リリーフ陣にいいピッチャーがいるので、それこそトレードすればいいのでは、と思ったりする。
だがそれはあくまで、戦力としてだけを見た選手目線。
フロントの目線で見るならば、その選手があと何年、いくらで使えるかを考えないといけない。
メトロズなどは今年、割り切って一年契約で、高額になるレノンをクローザーとして獲得した。
今年でもう38歳になるレノンだが、確実にメトロズでは仕事をしている。
打線で圧倒する試合が多いので、セーブ数はそれほど多くないが、セーブ失敗の数も少ない。
去年の上杉ほどの絶対感はないが、それはもう仕方がないことである。
そしてアナハイムは、直史がセットアッパーもクローザーも必要としないピッチングを披露する。
九回まで投げて完封し、球数が珍しくも100球を超える。
だがこれは球数ではなく、現実の疲労度を計算に入れたピッチング。
その証拠に、なんだかんだ言いながら一番負担の大きい、全力のストレートを投げていない。
変化球をほどよく変化させ、コースと緩急で打ち取る。
前回登板のタンパベイ戦に比べれば、ゾーンの広さは平均的に戻っている。
より審判が判定しやすいように、速い球は投げなかった。
そして遅い変化球がゾーンをしっかり通っていれば、ストライクとコールしやすい環境を作ってしまう。
落差のあるカーブで、内野フライを量産した。
これで直史は19勝目。
まだ七月の中旬であるのに、既に19勝目である。
MLBにも過去、海外から移籍してきたり、マイナーから上がったメジャー一年目で、MVPクラスの実績を残した選手がいないではない。
だが一年目で怪物的実績を残し、二年目にさらにそれを上回った選手というのは、さすがに見当たらない。
そういう意味で日本から移籍する選手は、4Aクラスのリーグからの化け物、とも呼べなくなってきている。
NPB時代よりもMLB時代の方が、成績はいい。
それは大介と直史だけではなく、武史もそうなのだ。
本来のポジションではなく、たった一年だったということを除けば、上杉もその怪物の範疇になるだろう。
オールスター後のアナハイムは、これで五連勝。
それでもまだ追いつけないのが、メトロズの背中である。
ただ選手たちに無理をさせることなく、安定して勝っているのが好材料だ。
この戦力のまま、またもワールドシリーズへ進み、ワールドチャンピオンになれるのか。
野球はチームで戦う団体競技だが、コアとなる選手は間違いなくいる。
特に短期決戦は、先発ピッチャーの役割が最も大きい。
クローザーの実力は、どちらのチームもほぼ同じぐらいだろう。
そしてエースの実力も、実際には相当の差があるが、チームの打力を比較してから計算すれば、ほぼ同じだけの影響力があるのではないか。
ワシントン戦を二つとも勝ち、そしてまた一日の休養がある。
移動日にあてられることがなく、またもホームで行われるのは、ボストンとの試合だ。
幸いと言っていいのか、ここのところのスケジュールは、アナハイムにとって楽なものになっている。
そしてレギュラーシーズンの試合を全て見てみれば、アナハイムはミネソタとのカードを終えていたり、トローリーズとのハイウェイシリーズを終えているので、やや対戦相手は楽になっている。
メトロズはそれに比べると、やや対戦相手が強いというのもあるが、雨天で延期になった試合が、後半の中でも終盤にあったりする。
ダブルヘッダーで消化するその試合、疲労の回復をどうするか。
そのあたりに両チームが、勝率を最終的にどう終えるかの、答えがあるのかもしれない。
今回のボストンとのカードに、直史の登板予定はない。
だがポストシーズンまで進めば、また対戦することはあるかもしれない。
七月のこの時期に比べれば、チームの内容がかなり変わっている可能性もある。
だがそれは、他のチームにも同じことが言える。
ここでブルペンに行ったりしたら、相手はどういう反応をするのだろうか。
そんな悪魔的な思考をしながらも、おとなしく試合を見物している直史であった。
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