第104話 主役不在
七月、直史に義弟から、姪の誕生が伝えられた。
これで養子も含めて、直史の甥姪は八人になる。
うちももう一人ぐらい、と思わないではないが、育児の大部分を妻に任せてしまっている直史は、そのあたりの立場が弱い。
そもそも直史は第一子も第二子も、二人とも避妊に失敗して出来た子供なので、直史の計画性は家族計画においてだけは、全く上手く機能していないと言えよう。
「引退して一年ぐらいしてから、三人目はどうだろう?」
「う~ん……」
当たり前だが即決出来ない提案に、しばしの猶予を求める瑞希。
真琴は病気のため世話どころの騒ぎではなく入院したままで、明史はシッターなどを金に任せて雇っていた。
そちらの方が生産性で上なのだから仕方がないが、日本に帰ってからなら瑞希の実家も頼ることが出来る。
「前向きに検討させていただきます」
なお結局三人目も、避妊の失敗で生まれることになるのだが、幸せならばそれでいいのではなかろうか。
直史に封じられたミネソタは、確かに調子を落として次の二戦目も落とした。
だが三戦目はハイスコアゲームに持ち込み、アナハイムに一矢報いる。
今年の七試合に限れば、アナハイム相手に四勝三敗なので、むしろ勝ち越している。
ポストシーズンのダークホースと言うには、かなり対抗に近いところまで上がってくるのでは、と囁かれ始めていた。
オールスター前の直史の最後の登板は、テキサス相手の中五日。
ここもまた普通にマダックスを達成し、技巧派の神と称えられる。
今年はここまで17試合に先発し全勝。
しかしそのうちの15試合がマダックスなので、もう単純にミスターマダックスと呼ぶことも出来まい。
80球以内で完封した「サトー」と呼ばれ始めている指標も三度達成。
不思議なもので直史は、大学四年間の間には、三回しか「サトー」を達成していなかったりする。
舞台のレベルが上がれば上がるほど、逆に成績も向上していく。
不思議だなとは自分でも感じている。
だがもう一人、そういう選手を知っている。
日本にいた頃から、地方大会でも甲子園でも、その成績に変化はなかった。
そしてプロになってからも、レギュラーシーズンよりポストシーズンの方が成績は良かった。
MLBに来てからは、まだ三年目であるが、少なくとも二年目の成績は、NPB時代を超えている。
あまりにも超越した成績であるため、尋常ではない数のフォアボールが出現している。
それなのに大介は、年間に81本を打ったのだ。
なぜ舞台はよりレベルの高い場所に上がったと言われるのに、二人の成績は上がっていくのか。
直史は自分の場合は、MLBの野球との噛み合わせの良さではないかと思っている。
フィジカルを鍛えることを重要とMLBでは教えているが、その鍛え方にはまだ効率化されていない部分があるのではないか。
ただ出力が大きければいい。直史はそんなことは考えていない。
重要なのは制御だ。
コントロールという野球で使われる言葉を、そのまま使うと間違ったものになる。
直史がこれに気付いたのは、一つには中学時代のピッチングが関係している。
直史は確かに中学時代、未勝利であった。
ただそんな試合であっても、一点か二点ぐらいまでしか取られていなかったのだ。
球速にしても、そして変化球にしても抑えられていた。
そのコースにミットを置いておけば、そこに投げ込むからと直史が言っても、どうしてもボールを追いかけてパスボールをしてしまうキャッチャー。
そんな中で直史は、捕れる程度の変化球で、相手の打線を封じることをおぼえた。
そしてまた大介などとの対決の時も、あえて甘いボールを投げて、相手のミスショットを狙った。
これはプロ入り後の話である。
ここで必要なのは大出力ではない。
必要な分に押さえつける制御だ。
インハイの後にアウトローに投げられれば打ちにくい。
これは当たり前の常識である。
だがここに、大出力の要素があるだろうか。
必要なのはコントロールである。もちろん遅い球を投げては、それで打たれてしまうだろうが。
問題なのは意図した通りのボールを投げることなのだ。
チェンジアップでタイミングを狂わせる時に、ボールが速ければむしろ意味がないことを思えば分かりやすいだろうか。
遅いボールもしっかりと投げられること。
より遅いボールを投げるのには、速いボールを投げるのとは、別の肉体的要素がいる。
イリヤがなぜ、直史を特別だと思ったのか。
それは彼女が音楽家で、クラシックの素養がその根底にあるからこそ、直史を正しく理解できたと言える。
必要な時には、コースだけではなくスピードもコントロールする。
わざと遅い球を、打ちやすいコースからほんの少し外す。
これは音楽に通じるのだ。
音楽の中でもクラシックは分かりやすく、強くかき鳴らせばいいというものではない。
クライマックスがあり、そこに至るまでの抑制が必要なのだ。
このあたりの理解力は、むしろ武史よりもツインズの方が上であろう。
彼女たちは音楽と運動が連結した、バレエという技術を学んでいたのだから。
激しいダンスも得意な彼女たちであるが、制止した状態をキープするという、動くよりもきついことも可能だ。
椿が足の麻痺がありながらも、ほとんど常人と変わらない生活を送れる理由。
それは絶対的なバランス感により、重心をコントロールしているからだ。
絶対的な出力が必要な、徒競走やジャンプは、確かに力を発揮するのは難しい。
だが体軸を中心に、体幹でバランスを取る。
それが可能なのが椿であり、バレリーナという人種だ。
スポーツ選手は体の使い方が雑すぎる。
解剖学的な見地などから、現在では肘の抜き方、梃子の使い方、歩幅、トップの位置など、チェックする項目は多くなっている。
だがそういったフォームのチェックなど、バレエの世界なら半世紀以上前からやっているのだ。
直史はバレエをやったわけではないが、バランスや体軸、体幹などのトレーニングは、ツインズから教わりつつ自然とやっていた。
これらのために必要なのが柔軟性で、おそらく全てのメジャーリーガーの中で一番、直史が柔軟性に優れている。
従来の野球とは、全く別のレベル、次元での野球。
これをかろうじて理解しているのが樋口であるが、実感まではいかない。
彼は別方向の、読み合いや駆け引きといった方向に、その労力を注いでいるからだ。
そしてそれも間違っているわけではない。
一流のプレイヤーに必要なこと。
それはパワーから生まれるスピード、状況を把握し相手の裏を書くインテリジェンス、タフな環境に耐えるパーソナリティ。
そしてテクニックだ。
この小手先のテクニックを無視して、フィジカルに頼っているのが、現在のMLBと言えるかもしれない。
確かにそこに、パワーとパワーの勝負はある。
だが競技における創造性というのは、あまり感じられない。
フィジカルを上手く身につけるのも、テクニックの一部なのかもしれない。
だがMLBの機器で計測したところ、直史の体格や筋量からは、あのさほど速くもないストレートさえ、生まれるのが不思議だと思われている。
力学的に最も正しいフォームというのは存在する。
骨格や筋肉、関節の駆動域から、もっともリリースの瞬間にパワーが伝わるフォームを作る。
逆に言えば少しだけそれをずらせば、力が伝わりきらない。
このあたりの理屈は別に直史だけでなく、立ち上がりの悪いピッチャーの理由でもある。
武史などは別だが、コントロールが序盤は定まらないピッチャーというのは、マウンドの固さや高さ、本の数cmでピッチングが狂う。
それにアジャストする能力も、テクニックの内である。
MLBという環境に慣れた、直史や大介の成績が、向上していくのは当たり前のことなのかもしれない。
オールスターに出ない直史には、四日間の休息が与えられた。
アナハイムから他に出ているのは、最終的にはアレク、樋口、ターナー、スターンバックの四人である。
ターナーはホームランダービーの方にも出場している。
まだFA権を持っていないターナーの年俸は、400万ドルに届かない。
充分に高いと思われるかもしれないが、ターナーよりも打っていないFA選手は普通に1000万ドルを超えている。
たとえばアレクがそうである。また移籍組の樋口もそれに近い。
そんなターナーにとっては、優勝賞金100万ドルのホームランダービーは、魅力的なものであったろう。
大介もいない今年は、優勝の可能性がある。
ブリアンが最大のライバルかと思ったが、意外とブリアンは数が伸びなかった。
それを見て直史は、テレビをそっちのけで思考の中に沈む。
ブリアンは現在、ア・リーグのホームラン王である。
だが打率の傑出度に比べれば、ホームランの本数はまだ常識的だ。
ここから考えると、彼の能力は正しいミート力が元だと思われる。
体格を見ても、それほどとんでもないマッチョというわけでもない。
走力や肩を見ても、平均よりは優れているかもしれないが、圧倒的というわけではない。
バッティング技術だけが、ブリアンの能力の中では突出している。
しかしそんな能力があるのに、このホームランダービーでは敗退している。
組んだピッチャーが悪かったのか。
だが見る限りにおいては、ほどほどのスピードのボールを、ほどほどのコントロールで投げていた。
「なるほど」
「どうしたの?」
瑞希の声に、我に帰る直史。
そして今年の残りのシーズン、またポストシーズンに関しての、己の課題を思いつく。
「いやl、ブリアンや他のバッターに、ホームランを打たれない方法が分かっただけだ」
それは別に、新たな発見というわけでもない。
直史はコンビネーションで、打てないように、う打たれてもゴロになるように投げている。
基本的にカーブで入ることが多いが、それでも割合が五割を超えることなどはない。
カーブばかりで入ると、狙われるからだ。
そして今までの失点を見れば、出会い頭の一発が多い。
(ゾーンばかりで勝負すると、そうなるよな)
ひどく単純な話ではあったのだ。
もしも本当にそんな手段があるなら、それはまさにピッチャーにとっての必殺技になるのではないか。
瑞希は珍しくも興奮して詰め寄り、別に直史も隠さなかった。
それは、当たり前の条件であった。
瑞希でさえも当たり前だと思い、しかしながら思い返した。
「大介には通じないけどな」
そう言われた瑞希は、過去のデータをパソコンの中から探し出す。
ブリアンと大介のバッティングは、本質が全く違う。
何より違うのは、ホームランに対する意識だと思う。
大介はホームランを打つにも、最上段やそれすらも越えて、場外弾を打つことがある。
とにかくそのパワーを、無駄に爆発させている。
しかしその無駄にも思えるパワーによって、普通なら平凡な外野フライになるボールが、スタンドに入っていったりもする。
メジャーリーガーのスラッガーには、そういうところがある。
ただ直史がこれまでに打たれたホームランを見れば、そういうタイプの打球は見られない。
サンプル数が少なすぎるかもしれないが。
今季のブリアンのホームランなどは、ネットを見てもまとめて見る事が出来たりする。
そしてそれを見て、もう半端な記者よりも見る目が出来ている瑞希は、直史の指摘が間違っていないと確信する。
いや、こんなものは当たり前のことで、他の人間なら何を当たり前のことを、と首を傾げるかもしれない。
しかしホームランダービーの結果を見て、ブリアン攻略法と言うか、ブリアンをある程度に抑える方法は分かったはずだ。
そんなピッチャーの中で直史だけは、とにかくブリアンを単打に抑えれば、確実に無失点に抑えることが出来る。
とてつもなく分かりやすい話であった。
ホームランダービーの翌日はオールスター。
ここにおいて、武史とブリアンの対決が実現した。
ただこの対決は、公式戦には全く影響しないであろうし、ポストシーズンでも全く違う戦い方が出来るだろうな、と直史は思うだけであった。
キャッチャーが坂本でなかったということも大きい。
武史にストレートを要求して、ブリアンがそれを打つ。
大きなフライはスタンドぎりぎりに入り、見事にホームラン。
だがこれは直史にとっては意外なことではない。
なぜなら武史は、まだアイドリング中であったからだ。
武史はおそらく現在のMLBのピッチャーの中でも屈指の、クローザーやリリーフとしての適性がないピッチャーだ。
特にピンチの場面で、いきなりマウンドを任されることに、全く向いていない。
直史などは逆に、万能型のピッチャーだ。
強いて言えばグラウンドボールピッチャーなので、ランナーがいる場面には弱い。
それでも球数を使っていいなら、三振なり内野フライを打たせていくだろうが。
クローザーとしても有名な記録を持っているが、イニングの頭から投げている。
一イニングだけならば、球威を必要とせずにスリーアウトを取ることが出来る。
ただブリアン攻略法を考えた後であっても、直史は大介を単打までに抑える絶対の方法などない。
大介はもちろんテクニックがあってこそだが、パワー型のスラッガーだ。
本質がスラッガーであって、それにプラスバットコントロールとミート力が重なって、打率も高くなっている。
大介にとってストライクゾーンというのは、あまり重要なものではない。
このあたりはアレクも似ているが、打てる範囲はゾーンよりも広いのだ。
特に外角であれば、遠心力が使える。
重心がバットの先のほうにあり、普通ならファールになる当たりを、ポール際に落とすことが出来る。
そして内角に関しては、腰の回転を使って打ってしまう。
大介にホームランを打たれない、もっとも適したコースは、アウトハイかインローだ。
アウトハイであれば、バットを上に持ち上げる力が必要となり、それがスイングスピードからわずかに引かれてしまう。
インローは変化球を上手く投げれば、掬い上げて打ってしまうことになる。
アウトローは外れていても、最初の踏み込みと腰の回転で、バットのヘッドを走らせることが出来る。
なので打たれてしまう。
大介と武史が対決したらどうなるか。
それはこのブリアンとの対決と同じく、試合の序盤ならば簡単にホームランを打ってしまうだろう。
ただナックルカーブを上手く使えば、ミスショットも狙える。
そして中盤以降にアイドリングが終われば、パワーとパワーの勝負になる。
上杉と大介の対決が、どちらの勝ちか判断するのが難しかったように、武史との対決もそうなるであろう。
直史と違って、勝敗の判断基準は明確ではない。
今年のオールスターは盛り上がらなかった。
オールスターだけではなく、ホームランダービーも微妙であったが。
大介が不在であるなら、本命であろうと思われたブリアンが、ほどほどのところで敗退したという結果、観衆の期待値は一気に落ちたのだろう。
ただオールスターの方は、武史が103マイルをホームランにされたので、少しは盛り上がったか。
だがMLBのキャッチャーでは、武史の性能は半分も引き出せていない。
それでも三振を奪っていったので、ある程度は盛り上がったかもしれない。
坂本もスタメンでは使われなかったが、樋口もスタメンでは使われなかった。
ただ樋口の場合、本人としてはオールスターに選出されてさえいれば、出番があってもなくても良かったのではないかと思われる。
アレクは珍しくもレフトなどを守ったりしたが、確かに織田やブリアンがいるなら、他の外野でもいいだろうという話にはなる。
試合は結局ア・リーグの勝利に終わったが、勝敗自体はどうでもいいのだ。
一番盛り上がったのが、武史とブリアンの対決のシーンであったという。
それでも去年ほどの視聴率が取れなかったのは、間違いなく投打の主役が出場していなかったからだ。
大介は出産さえなければ、出場するつもりではいたのだ。
たとえ直史が出場していなくても、大人気なく圧倒的にホームランダービーで勝ちにいっただろう。
だが直史は本当に、もうオールスターなどどうでもいい。
一年目は控えめに見せていたが、そろそろプロ野球に対しての、本質的な軽蔑が頭をもたげてくる。
NPBよりもさらに日程の厳しいMLBでは、このオールスターは丁度いいタイミングの休養となった。
家族サービスもたっぷりと受けたりした。
シーズン中はなかなか子供と満足に遊ぶことも出来ないという、メジャーリーガーというのは酷な商売である。
年間の休日を考えれば、ポストシーズンに出なければ10月から1月までは、完全に休みとはなるのだが。
シーズン中は休みがあっても、そのほとんどは移動日になっている。
そろそろ上の子は対話の可能な年齢なので、色々と話すことも多い。
真琴はかなり、活発な子供である。
あの生まれた時の、いつまで生きていられるか、という話が嘘のような元気さだ。
腕白でもいい。たくましく育ってほしい。
だが母親が主に面倒を見る佐藤家においては、瑞希がヘロヘロに疲れることが多い。
なのでシッターを雇うのだ。資本主義最高である。
オールスター後の二日間は、ゆっくりと過ごした。
直史は本来、この時期には全く休みが取れない。
NPB時代はまだしも、月曜日がおおよそ休みであり、それなりに時間を使うことが出来た。
在京球団万歳である。
たださすがに休みばかりを取っているわけではなく、今後のスケジュールも見ている。
七月の直史は、残り四試合に登板することになっている。
アナハイムの対戦カード全体を考えるなら、その中で多少は注意したほうがいいのは、ボストンであろうか。
去年は上杉をメトロズにトレードすることで、プロスペクトを獲得したボストン。
故障者が復帰したこともあって、ア・リーグ東地区では熾烈な競争が発生している。
ラッキーズを抑えて、今は勝率のトップに立っているのだ。
前回のカードでは、直史は投げていない。
そして今回も対戦するローテに入っていない。
これはもう仕方のないことなのだ。
先発のローテの運用は、首脳陣にとって重要なタスク。
疲労を蓄積しないよう、間隔をしっかりと保たなければいけない。
NPBはまだしも、序盤の球数が少ない段階でKOなどされたら、次の登板が早くなったりする。
MLBはそういうことはなく、ローテは守られるものなのだ。
もっとも直史の場合、序盤で崩れたことがないため、果たしてそれが当てはまるのかは分からない。
直史が投げる相手の中では、一番注意すべきはトロントだろうか。
去年もポストシーズンで対決し、直史は完封勝ちした相手。
戦力の入れ替えで、やや弱くはなっているが、ア・リーグ東地区としては三位。
ここから上手く補強をしていけば、まだポストシーズン進出は狙っていけるだろう。
ただアナハイムと、トレードデッドライン直前の七月末に対戦する。
今の予定のままなら、七月30日の試合で、直史は投げることになるのだ。
もしもそこで完膚なきまでに抑えられてしまえば、一気に連敗街道を進むことも考えられる。
ア・リーグ東地区は、ボストン、ラッキーズ、トロントという並び。
ただ四位のタンパベイも、まだ充分にポストシーズン進出の可能性を残している。
この地区でチーム解体を行ったのは、ボルチモア。
おかげで四強一弱という、ひどい状態になっている。
肝心のアナハイムはどうなのかと言うと、現時点で70勝22敗。
勝率は76%と極めて高い。
それよりもメトロズの勝率は高いのだが、問題はシーズンの序盤にあった、悪天候などによる試合延期だ。
ダブルヘッダーなども含めて、タイトなスケジュールになっている。
そこに敗因があって、アナハイムが追いつけるかどうか。
インターリーグで対戦する中には、メトロズと同地区のマイアミ、フィラデルフィア、ワシントンとの対戦が残っている。
だがメトロズの属するナ・リーグ東地区は、メトロズは圧倒的な一強で、アトランタが引き離されながらも続き、そして残りの三つはさらに離れている。
アトランタ戦は終えている以上、この三つのチームとの対戦で、今のアナハイムの実力を、メトロズと比較することが出来るのではないか。
以前の対戦では、接戦勝ち、接戦負け、普通の負けという三つの結果があった。
ただ先発ではスターンバックとヴィエラの出番ではなく、直史だけは武史と投げ合ったが。
九月に入ればセプテンバーコールアップで、登録人数が増える。
その中で新たな戦力を見つけられるかが、アナハイムの、そしてメトロズも、ワールドシリーズへの最後のピースを手に入れるチャンスになるかもしれない。
ただ若手の中からの強さというのであれば、アナハイムにとってはやはり、ミネソタが危険である。
勝率は60%を超えていて、中地区の首位。
70%超えなどというおかしなチームが二つもあるせいで目立たないが、普通にシーズン100勝はするペースである。
そしてこのぐらいの戦力差なら、一発勝負のトーナメントでは、普通にひっくり返ることがある。
ポストシーズンはトーナメントではないが、五試合か七試合の短期決戦なら、レギュラーシーズンの成績を逆転する余地はあるのだ。
ミネソタがトレードで、今季中にどれだけの補強をするかが、ポストシーズンの行方を左右するかもしれない。
アナハイムもまた、補強を考えてはいるはずだ。
ただこれはアナハイムに限らずメトロズにも言えるのだが、トレードで放出する選手を選ぶのが、ひどく難しい。
ベテランの戦力も多い両チームは、次の主力となる若手を、確かに抱えてはいる。
しかし他のチームの現状の即戦力に比べれば、なかなか取引するのは難しいのだ。
あるいはチームが決まらず、契約していないベテランを今更契約するか。
しかしそれをするには、40人枠の中から、一人を外す必要がある。
この場合は他のチームが、マイナー落ちする選手を掻っ攫っていく可能性がある。
MLBは選手の流動性が高いため、GMの戦力確保の手腕が問われる。
もっともアナハイムのオーナーは、これ以上の戦力の補強は、金をかけるタイプでは消極的である。
アレクと樋口は、超大型契約というわけではないが、かなりの高い買い物だったのだ。
来年以降のことを考えると、サラリーの総額は抑えておきたい。
ただヴィエラとスターンバックの二人を諦めるなら、色々な選択肢がある。
目下のアナハイムの最大の契約は、直史をどうするかというものだ。
三年3000万ドルの契約は、直史の残した数字からすると安すぎる。
毎試合出られる野手を重視するコールであるが、それでも直史の残したものは傑出しすぎている。
あまり年俸にはこだわらない直史であるし、どのみち来年でMLBとはおさらばだ。
だがそれを知った場合、オーナーやGMがどう判断するのか。
来年の話は、まだまだする必要がない。
しかしオーナーやGMレベルでは、脳裏の端に浮かんできている案件であった。
第五章 了 第六章「メトロズの背中」へ続く
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