第94話 十字を切る
ミネソタ・ダブルズが今年のダークホースだとは、オフシーズンの補強においても言われていた。
若手の打線が成長してきて、特にマイナーのトリプルAで四割を打ったり三割を打ったり、OPSが0.9を超えたりして、それがメジャーに上がってきたからだ。
投手陣はまだ薄かったため、ベテランを中心にそこそこのローテを作った。
エースクラスのピッチャーは一人だけだが、そこで10個ほど星を稼げば、あとは打線の援護で試合に勝てる。
そう思われたチームが、まさにその通りの試合を展開し、今ではア・リーグ中地区のトップを走っている。
ほとんどがハイスコアゲームの殴り合いになる、このチームがスーパーエースクラスと対戦したらどうなのか。
ア・リーグは地区こそ違えど、サトーがいる。
悪魔的な支配的ピッチングで、打線の息の根を止める。
そんなピッチャーをどうやって攻略してくれるのか。
ベースボールは野球と違って、ピッチャーではなくバッターが主役のスポーツである。
毎試合投げられるわけではなく、そもそも三割も打てれば充分なバッターは、ピッチャーよりも不利。
だからこそホームランを打った時は称えられる。
ベーブ・ルースが四割よりもホームランを重視したのは、強がりではなく純粋に現実であったろう。
実際に人気を見ても、大介の方が直史よりも高い。
ニューヨークとアナハイムで、経済圏の規模が違うとか、大介は三年目で直史は二年目だとか、そういう理由もあるだろう。
だがやはり直史は、玄人向けの選手なのだ。
去年のボストンとメトロズで、上杉が登場する時の、スタンドの盛り上がりはたいしたものであった。
たしか奪三振率が18ほどもあったはずだ。
直史の投げるのは四連戦の二戦目。
初戦の先発は、復帰二戦目のヴィエラである。
まだまだ若いミネソタの打線を、ベテランのヴィエラがどう料理するか。
あるいは料理されてしまうことまで、直史は考えているが。
セイバーから送られてきた分析によると、ミネソタの打線の純粋な打力は、アナハイムを上回る。
対戦するチームがあまり被らないので、メトロズとの比較はあまり出来ない。
だがヴィエラはともかく直史なら、さほど相性は悪くないのでは、という私見も書かれてあった。
若手のバッターというのは、優れた身体能力に、ある程度の技術が積み重なって、そこで開花する。
そういうバッターが苦手なのは、本格派ではなく技巧派だ。
実戦経験をとにかく積み上げることによって、駆け引きなどは上手くなっていく。
その意味ではヴィエラも、相当のベテランではある。
フランチャイズで行われる四連戦、果たしてどれだけ勝てるだろうか。
アナハイムも得点力は向上しているし、ミネソタの投手陣は打線陣に比べて弱い。
殴り合いのハイスコアゲームでも勝てるかもしれないが、ロースコアに抑えてこちらはハイスコアで蹂躙するというのが、アナハイムの基本スタイルだ。
ワールドシリーズでメトロズと対戦することを考えると、ハイスコアゲームの接戦に慣れることも悪くはない。
だが今はその時期ではないと思う。メトロズとの勝率争いが激しいからだ。
それでもシーズンが半分を終わっていないこの時期に、色々なことを試すことは必要だろうが。
とにかくこの第一戦の展開は重要である。
ヴィエラのピッチングが、どの程度ミネソタの打線を封じ込めることが出来るのか。
ミネソタはこの四連戦、強いピッチャーは第四戦にしか置いていない。
先発陣の脆弱さが、今のミネソタの弱点だ。
だがそこそこマイナーとの入れ替えをしているし、トレード期限はまだ遠い。
既に台風の目となっているが、それは打線の爆発力によるもの。
火力の効果を安定させる投手陣が整備されれば、さらに強くなるかもしれない。
ポストシーズンで対戦する可能性に、レギュラーシーズンでもあと一カード対戦するのは決まっている。
それはおよそ一ヵ月後で、その時までにチームがどう変わっているかを確かめるために、このカードの対戦情報は重要となる。
ただ若いチームというのは、伸び代の多いチームでもある。
下手に今の情報だけを集めても、まだまだレギュラーシーズンは長い。
間違いなく言えるのは、ここでアナハイムが勝ったとしても、次に対戦する時はさらに強くなっている。
いや、そうとも限らないのが野球なのか。
主力が一人離脱しただけで、一気に弱くなることもある。
また離脱していなくても、不調に陥ることはある。
ただそういった安定感すらも、この対戦カードから読み取らなければいけないだろう。
ホームのアナハイムは後攻で、早くもミネソタの打線の力を実感することになった。
先頭打者のアレンが、ヴィエラからフォアボールで出塁。
二番パットンはフルスイングをしながらも、内野ゴロ。ただしランナーのアレンは二塁への進塁は可能であった。
そして出てくるのが、ミネソタの打線の軸である、ペドロ・ブリアン。
この時点での打率は0.403でOPSは1.2を超えて、ホームランも18本。
一塁が空いているので、別に歩かせてもいい。そう考えて、樋口が配球を考える。
だが基本的にこの試合、ヴィエラは積極的に対決していこうと考えている。
自分の復帰に二戦目であるので、まだ調子を見たかったというのもあるだろう。
だがおっさんは若者を、上から目線で見たいものなのだ。
ヴィエラはそのあたり、かなりメンタルは安定しているピッチャーだが、それでも若造を甘く見ると言うか、痛い目を見せてやろうという観念と無縁ではない。
ただ直史であっても、同じ選択をしただろう。
四割打者相手に、さすがに安易な攻めはしたくない樋口。
基本的にはアウトローを使うつもりだが、初球からゾーンに入れるのは不安だ。
(むしろ初球は膝元へ)
ヴィエラのツーシームが、ブリアンの膝元へと変化していく。
そしてそのボールをブリアンは、初球から上手く合わせてきた。
レフト線のフェアグラウンドに入るヒットで、二塁ランナーのアレンはホームに滑り込む。
その間にブリアンも二塁まで進み、タイムリーツーベースヒット。
樋口は首を捻る。
(なんだ今のは?)
時々見かけることのある、ボールの方がバットに当たりにいったような感覚。
完全に読みを当てて、狙って打ったヒット。
樋口自身もそうやって打つだけに、分からないでもないのだ。
(だが完全に読みきってなかったか?)
まるでコースも球種も、分かっていたように。
かつてのサイン盗み事件の発覚から、現在のMLBではもう、サイン盗みは不可能となっている。
ただサインを盗むのではなく、キャッチャーの動きやピッチャーのクセなどで、堂々と読み切るのはもちろんルール違反ではない。
(配球を完全に読まれていた? それとも何かクセがあったのか?)
嫌な予感と言うよりはやや不機嫌になって、樋口はその次の打者を迎える。
ここでも一点追加点を入れて、ミネソタは好調なスタートを切ったのであった。
配球のパターンを読まれていたとは考えにくいし、ヴィエラのクセはすぐには分からない程度にささいなものだ。
むしろ自軍のピッチャーのクセなどについては、都度コーチなどからチェックが入る。
だがもしもミネソタが、対戦相手のピッチャーの分析を、高精度で行うことが出来ているなら。
ブリアンが特に目立つが、他にも大きく成績を伸ばしたバッターは多い。
それも若手が中心だ。
何か裏がありそうだなと思っても、一回の裏に樋口はツーランホームラン。
早くも追いついて、状況を五分に戻す。
二回の攻防では両軍得点なし。
その間に樋口は、FMには軽く自分の印象を報告したが、直史の隣にどっかりと座って、意見を求める。
「どう思う?」
「ヴィエラはベテランでデータも豊富、スタイルも去年と変わってないから、それなりに打たれることは打たれるか」
直史としても考えなくてはいけないものだ。
ミネソタは中核選手だけでなく、ほとんどのバッターが去年よりも成績を上げている。
その中で共通していることは、若ければ若いほど、その上昇が大きい。
若手の選手がベテランを上回るのは、伸び代という点から考えたら当たり前のことだ。
だがそれ以外にも原因があるとしたら。
樋口は対処療法的に考えるが、直史はその根源を考える余裕がある。
そして考えるならば、明日のピッチングのためにもそれが重要なのだと分かる。
若手が伸びているが、そもそも若手が伸びるのは、どんな分野でも同じことだろう。
ただ人間は若いうちの方が、反射神経や動体視力は優れていると言われている。
特に野球の場合だと、動体視力が40歳ごろには一気に落ちるため、往年の名選手であっても50歳までプレイした人間はいない。
動体視力のあまり関係ない、ピッチャーならばいるのだが。
純粋に全体の打力が伸びているのは、チームの分析班が優秀になったのか。
もしそうだとしたら、既にデータの揃っているヴィエラは、かなり不利な状況で投げていることになる。
ただ二回は普通に抑えられたし、データの分析があっても、それを上手く活用できるバッターは限られているのか。
直史はタブレットを使って、ミネソタがこれまでに対戦してきたピッチャーの経歴を確認する。
データ分析が関係しているなら、ベテランのピッチャーほどより不利な結果が出ているかもしれない。
だが実際のところはマイナーから上がってきたばかりでデータが少ないピッチャーでも、それなりに打たれている。
しかしそれもマイナーから上がったばかりなら、壁に当たっていると考えてもおかしくはない。
実際のヴィエラとの対決の中で、直史が不自然と思ったのは、ブリアンの打席だけであった。
三回の表にはまた対決があるので、そこで樋口は色々と試してみるつもりだろう。
ただ直史が気になるのは、そういった疑いを持った上での、ブリアンの打撃データ。
三振の内、空振り三振が少なすぎる。
見逃し三振をしたコースの分布図を見ると、笑えないことにボール球をストライクと宣告されて、見逃し三振になった例がそれなりにある。
あとは落差の大きなカーブなどでストライクを取られた場合か。
(選球眼とバットコントロールは間違いない)
ただこれだけの打率とホームランがあるなら、打点ももっと伸びていてもいいのではないか。
そんなことを考えて、見つめていた第二打席。
難しいボールには手を出さず、カットボールをミートした。
しかし打球はセカンドライナーで、そのままアウト。
(第一打席と同じく、軽く合わせていっただけだな)
バットコントロールの技術は認めるが、今のところは長打のバッターとは思えない。
「何かおかしいことは確かだな」
「そうだろ?」
ベンチに戻ってきた樋口と話し合うが、それを確認するためのデータはここにはない。
アナハイムがやや優勢の内に、試合は進んでいった。
試合は最終回、九回の表に、ブリアンが逆転ツーランホームランを打って、その裏を封じられて、アナハイムは敗北した。
何気にクローザーのピアースは、今季初めてのセーブ失敗で、負け星がついた。
ピアースのインハイストレートを、綺麗に叩いてのホームラン。
それまで外角を中心に攻めていたので、内角を狙っていても、普通は体が反応しない。
読みきったと言うよりは、それ以上の確信があったかのようなスイング。
直史もやはり首を傾げるような内容であった。
試合後に樋口は直史の家を訪れ、セイバーから送られてきたデータに今日の試合のデータを、合わせて確認する。
そして結論としては、盗まれているか読まれているか、どちらかは分からないがブリアンは、完全に確信を持ってバッターボックスに入っているということだった。
「盗まれているのは考えづらいな」
樋口が残念そうに言うのは、今日の対戦の中で、わざとミットの位置をずらしたり、サインの取り消しをしたりして、その兆候を探ったからだ。
ブリアンだけではなく他に数名のバッターも試したが、サイン盗みではないと思う。
ならば配球を読まれたか、クセを見つけられているか。
クセであれば他のバッターも、もっとあからさまに狙ってこないだろうか。
「クセがあったとしても、かなりギリギリで見極めてるな」
直史がそう言うのは、たとえば外角の球などを、無理に踏み込んで打っていたりしないことだ。
今日のホームランもそうだがこれまでも、長打は内角の球を打っていることが多い。
ピッチャーのリリース直前か、リリース時点で球種やコースを読んでいる。
別にそれは、他のバッターでもしていることだ。それこそ樋口も、配球から読むが最終的にはリリース直後のボールで判断する。
「するとこのインタビューも信憑性があるのかも」
そう言って瑞希が出してくるのは、シーズン序盤でブリアンがインタビューに答えていたものだ。
それをざっと見て、二人の無神論者は呆れる。
「神に祈る、か」
「トランス状態にでもなって、ゾーンに入っていることかな?」
神は信じていなくても、神を信じる人間の精神や行動は理解する。
共感しない二人は、だからこそこれを冷静に分析する。
なのでこの言葉にはおかしなところがあるのが分かる。
バッターボックスに入るときに、ピッチャーとキャッチャーの間のラインが見えるのだという。
ならば追い込まれてから、かなり冷静にカットしているのはなぜだ?
おそらく本人も自分では気づいていないのかもしれない。
本当にボールの球筋が見えるなら、今日の第一打席にしても、わざわざボール球を打つのではなく、ゾーンに来る球を待ってから打てば良かったのだ。
結果論だけを言うなら、あの回はどのみり後続の打線もあり、二点は入っている。
だがその場その場だけを見るなら、ホームランを狙うなら、もう少し打ちやすい球が入ってから打ってもおかしくなかったはずだ。
打てるボールが来たので打った。
ブリアンのあの打席は、それだけのものだ。
さらに言うならあの場面では、ヒットで一点だけでも良かっただろう。
ただヒットももう少しラインから離れた打球であれば、二塁ランナーがホームに帰ることは出来なかった。
ブリアンのバッティングは予知的な神秘を備えたものではない。
自分自身でさえそう信じているかもしれないが、あれはゾーンに入った状態で打っているものだ。
さしあたっての分析は済んだ。
それに対するこちらからのアプローチも。
あとは実戦で試してみるだけである。
対ミネソタ二戦目。
もはや恒例の、直史の登板日の満員御礼。
そしてわずかにではあるが、今注目の若きスーパースターに、ザ・パーフェクトはどう対応するのか。
また今年の直史は、まだ失点をしていない。
それをどう打ってくるのか、ミネソタ打線とブリアンに期待する者もいるだろう。
スーパーヒーローにはピンチが必要なのだ。
ただ一方的な勝利というのも、アメリカではそれなりに受けるらしいが。
一回の表、ミネソタの攻撃。
今日も平常運転で、投球練習には力を入れていなかった直史だ。
一番のアレンは昨日の試合でも、粘り強さと選球眼が目立った。
だが初球から積極的に打ってくることもあるので、そこは注意が必要だ。
左バッターのアレンに対して、初球はアウトローいっぱいのツーシーム。
ストライクカウントから、この試合も始まる。
実際の直史を堪能する暇もなく、三球でアレンは内野ゴロアウト。
そして続く二番のパットンも、追い込んでから内野フライを打たせる。
迎えたのは三番の、ペドロ・ブリアン。
なお本人があちこちの国家の血が混じり合っているので、普通に名前はピーターだのペーターだのピョートルだのピエトロだのとも言われる。
ブリアンもブライアンと呼ばれたりするが、そのあたりはもう多民族国家アメリカなので仕方がない。
名前にしても父親と同じだったり、本来の略称が今では名前として使われていたり、海外の事情は面倒だ。
日本も日本で江戸時代までは、幼名や諱などがあって複雑であったので、そこは別に文句をつける場面でもないが。
十字を切ってからバッターボックスに入ったブリアンは、確かにこの時点でゾーンに入っている雰囲気がある。
なんだったら搦め手でこの集中を乱すことも出来るのだが、それはもっと重要な場面で使うべきだろう。
今は通常の手段で、どれだけ抑えられるかを考えないといけない。
そんなわけで初球はカーブ。
ピクリとも反応しなかったが、審判のコールはストライク。
想定通りの反応である。
直史のカーブをヒットにするのは難しい。
ヒットにしたとしても、長打にするのは難しいのだ。
もしもリリースした瞬間に球種やコースを読んでいたとしても、ここは振らないだろうと推測していた。
単打で出てもツーアウトからなら、ランナーとしてはそれほど怖くないのだ。
次に投げたのはスライダー。
ボールゾーンに逃げていく球を、当然のように振らない。
インローへのツーシームには反応したが、打球はファールグラウンドに逃げていった。
やはり読みで打てるにしても、確実にボールの変化まで分かっているわけではないらしい。
他のピッチャーが投げないジャイロボールが、おそらく効果的だ。
だが今はあえてそれを使わず、もう一つの手段を選ぶ。
スライダーをまた一つ外して、これで並行カウント。
三つ目のストライクを取るのは、このボールだ。
ストレートが外角からわずかに外れてキャッチされた。
しかしそこは樋口のフレーミング技術で、ボール半分ほどは移動させている。
さらに直史のコントロールがいいという先入観。
カウントからすればボールに判定して、より状況を盛り上げるというのもあるが、ここで審判は妥当なジャッジを下した。
ストライクでバッターアウト。
ブリアンは首を傾げながらも、審判には何も言わずにベンチに戻った。
確かにブリアンは目がよく、ボール球を判断するのも上手いのだろう。
だが審判の目がブリアンほど、いいものだとは限らない。
直史のコントロールがいいのは、MLB界隈の全てが知る事実。
なのでギリギリのボールでも、判定はピッチャー有利になりやすい。
(審判を信じすぎるなよ)
そう思ってマウンドから降りる直史だが、ブリアンの冷静さにも気づいていた。
審判の判定に文句をつけない、ちゃんと後のことを考えた判断。
ただでさえMLBは、若手であればピッチャーにもキャッチャーにも厳しい判定を、審判は下しがちだ。
そのあたりまでも、ちゃんと計算に入れているのか。
対処法その一、審判の誤審を利用する。
バッテリーの考えた戦術は、上手くいっている。
ただこれには問題もある。
「次はまた違うのでやろうか」
「そうだな」
直史がげんなりとするのは、ボールを五球も投げなければいけなかったからだ。
相手に見切られることを承知の上でのボール球。
最後の一球をストライクに取ってもらうためとはいえ、本来の直史のスタイルとは違うものだ。
バッテリーが考えた対処法は、まだまだ存在する。
それがどの程度通用するのか、試していかないといけないだろう。
試合は圧倒的にアナハイム有利に進んだ。
先取点を取り、そして直史は三回までパーフェクトピッチング。
球数もさほど増えることなく、四回を迎える。
それも早くもツーアウトとなり、打席には二打席目のブリアン。
この打席では三球で打ち取ることも考える。
ただツーアウトというこの状況、あちらはホームランを狙ってくるかもしれない。
カーブから入って、ストライクを取るのは一打席目と同じ。
やろうと思えばそこから、打っていくことも出来たであろうに。
続く二球目は、インローへのツーシーム。
だが一打席目と違って、今度はストライクにはならない。
内角のボール球を、冷静に見送った。
カットしてくるかとも思ったが、これは明白にボールだと思ったのだろう。
二球で追い込むということは出来なかった。
あとは三球目を上手く打たせることが出来るかどうかということだが。
(贅沢は言わない)
ここまで充分に、球数は抑えてきている。
無理にゾーンだけで抑えるのは、むしろ不自然である。
スライダーを、アウトローいっぱいに。
見逃しを誘ってもいい。そんなボールだった。
これは見送ったとしても、ボール判定されるかもしれないボール。
しかし間違いなくゾーンを通っていた。
そんなアウトローの球に、ブリアンは簡単にバットを合わせていった。
ライト前へのヒットでパーフェクト打破。
そしてバッテリーは新しい情報を手に入れる。
今のスライダーは、完全に分かっていて合わせたものだった。
だが同時に、無理に長打にしようとも思っていなかった。
ブリアンは確かに、リリース前か直後に、そのコースを読めてしまっているのだろう。
ゾーンで三振を取るのは、大変なことに違いない。
だが今のままなら、まだまだそれほどの脅威ではない。
ヒット一本を打たれたものの、現時点での二冠王の分析を終えていく。
それにここでヒットを打たれても、ツーアウトからではもう遅い。
パーフェクトが続いているため、どうにかしないといけないと思ったのだろう。
だが直史や樋口が見るのは、もっと大きな視点である。
ヒットを打ってパーフェクトを防ぐことなどより、ここではホームランを狙っていくべきであった。
中途半端に器用であるので、間違ったケースバッティングをしている。
大介のように、ボール球でもホームランにしてしまうという、めちゃくちゃな気迫は感じられない。
試合もアナハイムがリードしているため、ヒット一本を打たれても問題はない。
点差があるため諦めているのかもしれないが、それでも爪跡を残すなら、ホームランを狙っていくべきだったのだ。
あるいはそれが、ベンチの指示だったのかもしれないが、ヒット一本は全く怖くない。
そもそも点を取られても、アナハイムが打線で圧倒しているため、その時点で有利なまま進むのは分かっていたのだ。
試合が始まる前、先発のピッチャーの差で、既に勝負は決まっていた。
(あれがヒットになるなら、どう攻略するべきかな)
この試合でブリアンの能力を丸裸にする。
昨日のヴィエラとピアースを見ても分かるように、直史一人が抑えていても、他のピッチャーが打たれてはダメなのだ。
ブリアンというバッターは、確かに才能は豊かであるのだろう。
またほとんど特殊能力めいた、ゾーンへの入り方も心得ている。
なのでここで、他のピッチャーでも打ち取れるように、解体しないといけない。
そう思いながらも続く四番打者を、簡単に三振に取る直史であった。
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